宮崎駿監督作品
ルパン三世 カリオストロの城
「ルパン三世 カリオストロの城」とは
宮崎駿監督が初めて劇場用作品の監督を手がけた、1979年12月15日に公開されたモンキー・パンチ原作のアニメ「ルパン三世」の劇場映画第2弾。
残念ながら興行的には前作に及ばなかった。
しかし後のテレビ放送や上映会等が繰り返された事もあって人気が高まっていく。
「カリオストロの城」での宮崎駿監督の演出やレイアウト手法は、その後のアニメ業界に多大な影響を与えることとなった。
構想や製作の期間は僅か半年という短さであり、宮崎駿監督自身『この作品で初めて自分の体力の限界を知った』と語っている。
途中で製作期間内に終わらないと考えた宮崎は、下水道でのシーンの絵コンテを書き直しており不満を語っている。
最終的に、製作は予定された期間より1か月延びている。
あらすじ
世界的な怪盗ルパン三世一味はモナコの国営カジノの大金庫から大金を盗み出す。
しかしそれが真券同然の精巧さで知られる幻のニセ札「ゴート札」であることに気づく。
「ニセ物に手を出すなかれ」のルパン家の家訓に従い札束を撒き散らすように投げ捨てたルパンと次元。
ゴート札を次の標的としてその出処と疑われているヨーロッパのカリオストロ公国に向かう。
ヨーロッパの小国カリオストロ公国。
ニセ札の噂が絶えないこの国へやって来たルパンは、悪漢に追われるひとりの少女クラリスを助けるが、彼女は再び連れ去られてしまうのだが…
「カリオストロの城」がなぜ名作となったのか
構成の凄さ
何と言っても構成の凄さが際立つ。
驚くべきは開始20〜30分ほどで物語の概要が、あらかた説明し終わっていることだ。
ターゲットのニセ札は一番小さな国連加盟国・カリオストロ公国で製造されていること。
公国制だが大公家は衰退し、今は摂政の伯爵家が治めていること。
大公家にはお姫様がいるが、何らかの理由で伯爵に追われていること。
この辺りまでが過不足なく短時間で説明されている。
ならばここまで駆け足なのかといえば、そんなことはまったくない。
娯楽映画としても完全に成立している。
例えば、大公家のお姫様・クラリスとはじめて出会うシーンがある。
悪漢に追われるクラリスをルパンが救うシーンであるが、構成・展開・音楽のどれをとっても完璧だ。
おまけに娯楽要素として、視聴者の心理に繰り返し緊張と緩和を与える。
いわゆるハラハラドキドキの連続だ。
この効果は絶大で、短時間のうちに視聴者は物語へと引き込まれる。
宮崎駿作品の美学
また宮崎駿監督作品では人が死ぬシーンが明確には描かれないのも特徴のひとつだ。
あくまで死んだのかはわからない描写ではあるが、ルパン三世というハードボイルド作品でこれをやってのけるのは難しい。
いや、やれることはやれるのだろうが迫力に欠け物足りなくなる恐れがある。
何せ仲間がガンマンと侍だ。
ドンパチや斬り合いは日常的に行われる。
それでも宮崎駿監督は、撃ち殺したり斬り殺すシーンを一切描いていない。
あるのは自爆のようなシーンだけだ。
では結果的に迫力がなくなって物足りないかといえば、そんなこともまったくない。
自身のポリシーを守りつつも視聴者を満足させる演出法は、以後の宮崎駿監督作品のスタンダードとなってゆく。
魅力的な登場人物たち
登場人物も非常に魅力的だ。
「カリオストロ城」はルパンの出番がほとんどを占める。
だから脇役にはなかなかスポットが当たらない。
だが次元や五ェ門はもちろん、不二子ちゃんや銭形のとっつぁんにも少ない出番の中で見せ場がひとつ、キッチリ用意されている。
庭師のおじいさんの最後のセリフに『なんと気持ちのいい連中だろう。』というのがあるが、まさにそのセリフ通りの印象を視聴者も受ける。
悪役である伯爵も知性と品格を兼ね備えた親玉感が非常に魅力的だ。
知的に描かれているから、狂気がより際立つキャラクターに仕上がっている。
ヒロインであるクラリスに関しては言わずもがな、別れのシーンのルパンの態度がすべてを物語っている。
独特かつ印象的なセリフ
宮崎駿監督 × 山田康夫氏の独特かつ印象的なセリフ回しも非常に素晴らしい。
ルパンの『12時間もあればジェット機だって直らぁ‼︎』というセリフはあまりに独特な表現だが実に印象深い。
たしかにジェット機直るな、とつい思ってします。
また『俺のポケットには大きすぎらぁ』という名セリフは、今やルパンの代名詞のように扱われこの後の作品にもオマージュとして時々用いられる。
名セリフといえば忘れてならないのは、クラリスに銭形のとっつぁんが放ったひと言だろう。
ルパンを追いかけてきた銭形にクラリスは『あの方は何も盗んでいませんわ。』と伝える。
しかし銭形は『奴はとんでもないものを盗んでいきました。…あなたの心です。』と返す。
なんとも粋なことを言う。
格好良すぎる銭形。
「カリオストロの城」は銭形のとっつぁんの最後のこのセリフが、すべてをさらってゆく。
銭形のとっつぁんこそとんだ大泥棒だった。
このセリフはもはや伝説となっている。
ルパンが無敵ではない
宮崎駿監督作品には驚異的な身体能力をみせる主人公が登場する。
同監督作品「未来少年コナン」がその起原と思われるが…
劇中で主人公たちは現実では不可能と思われることを、こともなげにこなしてしまう。
本作品でもルパンは驚異的な身体能力をみせるが、そのシーンは少しコミカルに描かれている。
だから視聴者には火事場のクソ力のように見える。
それでも十分超人的ではあるのだが、当たり前のようにはこなしていないので、なんとかなる感が強い。
だからシリアスな展開の中でも笑いがおきる。
これも宮崎駿監督の視聴者を常に飽きさせないための仕掛けといえるだろう。
しかし特筆すべきはそこではない。
あえてルパンの超人的な部分を描くことが、逆にルパンを普通の人間に見せる効果に繋がっていることが凄いのだ。
その効果は劇中でルパンが撃たれるシーンで最大限に発揮される。
あれほど超人的だったルパンが撃たれたという衝撃。
いや、あのルパンが撃たれるわけがない。
どうせ撃たれたフリなんだろう。
動揺が視聴者の中を駆け巡る。
しかし流れてくる血が現実を物語る。
その時ハッと我にかえる。
まるでスーパーマンのように見えていたルパンは決して無敵で不死身なんかではなく、我々と同じ普通の人間なんだと否が応でも思い知らされる瞬間だ。
このシーンの効果はアニメ業界でも衝撃的だったのか、この後のルパンは幾度となく撃たれ生死の境を彷徨うことになる。
卓越した心情描写
ところで前述したクラリスとの別れのシーン。
ここでのルパンの行動は、すべてのルパン作品の中でも群を抜いて秀逸な描写である。
これぞルパン、これぞハードボイルド、だからルパンは格好良いと感じざるを得ない、屈指の名シーンといえるだろう。
詳細は割愛するので是非ご自分の目で確かめてもらいたい。
テーマ曲のセレクト
「カリオストロの城」のテーマ曲は今やアニメ・ルパン三世の代名詞とも呼べる名曲「炎のたからもの」だ。
およそ子供には向かない曲だが、何故か子供の耳にも残る不思議な魅力がある。
何より宮崎駿監督が好きそうな曲である。
少しアレンジしてこっそり「紅の豚」あたりで流されても気づかないかもしれない。
まさに宮崎駿監督の趣味が全開の選曲だ。
しかしその趣味のおかげで、ルパン三世の世界観を的確に表現できる唯一無二の名曲「炎のたからもの」は多くの人の耳に届くことになった。
※動画はカバーです。オリジナルアーティストのものではありません。
あとがき
「カリオストロの城」がそうであるように、青緑ジャケットを着ているルパン作品の方が個人的には面白く感じられる。
何故かはわからない。
ちなみにTVスペシャルはほとんどが赤ジャケットで、TVシリーズのPART4〜5は青緑ジャケット。
以前記事に書いたが、著者はTVスペシャルはイマイチだしTVシリーズは大好きだ。
PART6のPVでも青緑ジャケットを着ている。
そんな法則なんて存在しないとは思うが、ルパンが青緑ジャケットを着ていたらその作品はチェックする価値があると思うぞ。
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