TBS系ドラマ「日曜劇場」(2017年)
陸王
『陸王』とは
『小説すばる』(集英社)に2013年7月号から2015年4月号まで連載され、2016年7月に集英社から単行本が刊行された。
テレビドラマ『陸王』
2017年10月からTBS系「日曜劇場」枠において、役所広司氏の主演で放送された。
日曜劇場での池井戸原作作品は、『半沢直樹』(2013年)、『ルーズヴェルト・ゲーム』(2014年)、『下町ロケット』(2015年)に次いで4作目で、前3作と共通したスタッフで制作された。
撮影は2017年元日のニューイヤー駅伝のロケから始まり、毎回のマラソン大会シーンやそれ以外のシーンにも多数のエキストラが参加。
連続ドラマとしては異例の長期間に及ぶ撮影と規模だと報道された。
また劇中のこはぜ屋の「陸王」とアトランティス社の「RII」はミズノが製造し、こはぜ屋のはんてんは羽生市の小島染織工業が製作したほか、行田市内の6社は公式の関連商品を手掛けた。
あらすじ
埼玉県行田市にある足袋製造会社「こはぜ屋」は創業から100年の歴史をもつ老舗だが、近年は業績が低迷し資金繰りに悩んでいる。
そんなある日、四代目社長の宮沢紘一はこれまでの足袋製造の技術力を生かし、「裸足感覚」を取り入れたランニングシューズの開発を思いつき、社内にプロジェクトチームを立ち上げる。
会社の存続をかけて異業種に参入した「こはぜ屋」だったが、資金難、人材不足、大手スポーツメーカーの嫌がらせや思わぬトラブルなど様々な試練に直面する。
宮沢たちは坂本や飯山の協力や有村や村野の助言を受けて、試行錯誤を続けながらランニングシューズの開発に邁進するのだった。
あの名曲を Little Glee Monster がカバー
劇中、一番の見せ所で流れてくるのが Little Glee Monster『Jupiter』だ。
平原綾香さんの名曲『Jupiter』のカバーだ。
※原曲です。
原曲はもちろんだが、このカバーがまた素晴らしい。
Little Glee Monster とは、2012年7月に結成された女性ボーカルグループである。
世界に通用する女性ボーカリストの発掘を目的として「最強歌少女オーディション」を実施。
合格者を中心に集められた女生徒により、当グループが結成され、「研ぎ澄ました歌声で人々の心に爪痕を残す」をテーマに活動している。
とにかく歌がむちゃくちゃ上手い。
その Little Glee Monster が、ほぼアカペラで名曲『Jupiter』を歌う。
元々平原綾香さんの『Jupiter』とは、イギリスの作曲家ホルストの管弦楽組曲『惑星』(全7楽章)の第4楽章「木星」の中間部Andante maestosoの旋律(「木星」の第4主題)に、吉元由美さんが歌詞を付けたものである。
要するに、元々はオーケストラで演奏される厳かなクラシック音楽が原曲になる。
それをポップにアレンジしたのが、平原綾香さんの『Jupiter』だが、ゴスペル風にアレンジし直したのが Little Glee Monster『Jupiter』なのだ。
Little Glee Monster の歌い出しの美しいハーモニーを聴いただけで、本来クラシック音楽『Jupiter』の持つ、荘厳かつ壮大な世界観をより忠実に伝えてくれているようだ。
これがここぞというシーンで流れてくるのだから、泣かないほうがどうかしている。
劇中では、中島みゆきさんの超名曲『糸』も Little Glee Monster がカバーしている。
一番の泣かせどころの挿入歌として使用されているのだが、こちらも『Jupiter』同様、素晴らしいクオリティーに仕上がっている。
規格外のロケシーン
放送当時も驚かされたものだが、今観てもあまりに規格外すぎるそのロケシーンには度肝を抜かれる。
毎回のマラソンシーンにはとんでもない数のエキストラが参加していて、2022年現在のドラマ事情ではとても考えられない大規模なものである。
特に長距離に渡り沿道を埋め尽くす観衆のシーンはまさに圧巻。
とにかく金の掛け方が半端ない。
これも池井戸潤作品の人気によるものなのか。
絶妙なバランスのキャスティング
また、絶妙なバランスでキャスティングされた俳優陣にも注目だ。
ドラマや映画のキャスティングというのは、野球のバッティング・オーダーのようなもので、4番バッターばかりを集めればいいというものではない。
決して目立たなくとも、何気ない場面でさり気なくいい味を出す役者も絶対に必要なのである。
その点で、『陸王』のキャスティング・バランスは非常に素晴らしい。
有名無名俳優の配置バランスが最高だ。
主演は役所広司氏。
ヒロイン的な存在として上白石萌音さんと、ここまでは普通のドラマと変わりない。
だが脇を固める俳優陣が実に素晴らしい。
この二人は本当に悪い顔をする。
そして苦境の主役を救う重要な役どころに寺尾聰氏と市川右團次氏。
この二人は悪そうに見えて実はいい人役にピッタリ。
だが個人的ベスト・キャスティングは、竹内涼真氏演じる茂木裕人が所属するマラソンチームの監督役を演じた音尾琢真氏しかいない。
音尾琢真。
聞き馴染みがない俳優かもしれない。
所属事務所は CREATIVE OFFICE CUE 。
…といってもわからないか。
では、演劇ユニット・TEAM NACS に所属しているといったらどうだろう。
TEAM NACS とは、大泉洋氏や安田顕氏を擁する今大人気の演劇ユニット。
音尾琢真氏自身も数回だけだが『水曜どうでしょう』に出演している。
強面だがとてもいい味を出す素晴らしい役者さんで、『陸王』でもその魅力を存分に魅せてくれている。
各回の随所に泣きどころアリ
本当に悪い奴なんてそうそういないものだ
池井戸潤作品の特徴といえば、心底憎たらしい悪役の存在だ。
『半沢直樹』でも『下町ロケット』でも、主人公たちがそいつらに反撃することで物語は盛り上がった。
もちろん『陸王』にも憎たらしい敵役が存在するが、最終的には本当に悪い敵役なんてそうそういるものではなかった。
なんだかんだ言っても人は、一生懸命やっている人間に惹かれるらしい。
憎たらしい相手に清々しく反撃という姿も観ていてスカッとするものだが、人間の憎しみ合う姿より尊重し尊敬し合う姿を観ている方が何百倍も気持ちいい。
『陸王』で描かれた人の一生懸命な姿は、その都度涙を誘った。
こんなに毎回毎回泣かされたドラマというのは、探してもなかなか見つからないものだ。
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