アニメーション映画
HELLO WORLD
『HELLO WORLD』とは
『HELLO WORLD』は、2019年9月20日公開のアニメーション映画。
2027年の京都市に住む主人公が、10年後の2037年から来たという自分自身から、自分の住む世界がシミュレーター内に再現された過去の世界であると聞かされ、まもなく出会うことになる交際相手へと降りかかる死の運命を回避するよう懇願されるというストーリー。
ただし序盤で提示される物語の構図にはどんでん返しの布石となる、ミスリードを誘う内容や伏せられた秘密が含まれており、映画の予告にも「この物語(セカイ)は、ラスト1秒でひっくり返る――」というキャッチコピーが銘打たれている。
さらにこのキャッチコピー自体も、結末まで観た後で読み返すと印象が変わるような含みが持たされている。
監督は『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』の伊藤智彦氏。
脚本は小説家の野﨑まど先生が執筆、キャラクターデザインにはアニメ版『らき☆すた』や『けいおん!』を手掛けた堀口悠紀子さんが参加している。
制作は3DCGを用いた作画を得意とするグラフィニカが手がけており、3DCGの利点と2Dアニメに寄せたキャラクター作画を融合させることが試みられている。
主演は本作品が声優初挑戦となる北村匠海氏。
収録は、声優の演技を先に収録して後から画を合わせるプレスコ方式が採用された。
舞台となる京都市の景観として、伏見稲荷大社、出町柳の鴨川デルタ、上賀茂神社などの京都を代表する史跡や名所も登場する。
映画のプロモーションの一環として、劇中に登場する舞台のモデルを巡る聖地巡礼イベントや、映画クライマックスの舞台となっている京都駅・京都タワー周辺に隣接する東本願寺での試写会イベントなども行われた。
また本作品はDOLBY ATMOSが採用されている。邦画アニメ作品では『ガールズ&パンツァー最終章第2話』に次いで5例目であり、東宝配給の邦画作品では実写含め初のDOLBY ATMOS採用作品となった。
映画の公開に先駆けて、脚本を担当した野﨑先生の作品を含む複数の小説や、漫画、Webアニメなどの媒体でも、本編や外伝の内容がメディアミックス展開された。
公開4日間の時点で動員15万6000人、興収2億1200万円の成績。
あらすじ
いつも自分の決断に自信が持てず、主体性がないことがコンプレックスの堅書直実は、2027年の京都に住む凡庸な高校生であったが、ある日不思議な三本足のカラスを追いかけた先で、10年後の2037年から来た未来の自分自身だと名乗る青年、「先生」(カタガキナオミ)と遭遇する。
「先生」の語るところによれば、いま直実が認識している世界は現実ではなく、歴史の保存を目的としてアルタラと呼ばれるシミュレーターの中に仮想世界として再現された過去の京都であり、このままシミュレーションが史実通りに進行した場合、直実は3か月後の夏、それまであまり面識のなかった同級生の一行瑠璃と恋人同士になるものの、初めてのデートの最中だった2027年7月3日、天災によって彼女と死別する運命を辿るという。
「先生」は、彼女と恋人らしい思い出を十分に作れなかった悔恨から、現実ではない仮想世界のシミュレーションであっても、死の運命を回避した瑠璃が幸せになれる歴史を見たいのだと言い、シミュレーターの中に再現された過去の直実に、運命を変えるための助力を請う。
直実は「先生」から、これから起こる出来事を記したノートと、限定的ながらも仮想世界の事象を魔法のように操る力を授かり、運命の日である7月3日に備えて状況を変えるための特訓を積む一方、攻略本を使ってゲームを進めるような方法で、近づきがたい印象の異性だった瑠璃と急速に親密になっていく。
その過程で直実自身もまた、当初は敬遠していた瑠璃の人柄に惹かれていくが、予定されたイベントを起こすためには一時的に瑠璃を悲しませることも仕方がないという「先生」の態度を見た直実は、主体性を持たない自分の行動に疑問を持ち、彼女を単に危機から救うだけではなく、幸せにしたいのだという自らの願いに気がつく。
直実は特訓で身につけた能力を行使し、本来なら無残な失敗に終わるはずだったチャリティー古本市のイベントを成功させて瑠璃と相思相愛になるが、そうした直実と「先生」の行動は、歴史を保存するというシミュレーションの目的には反しており、次第にアルタラの自動修復システム「狐面」から監視されるようになっていく。
瑠璃が死ぬ運命の日とされた7月3日、直実は「先生」と共闘して、現実の記録との辻褄を合わせるために瑠璃を殺害しようとする自動修復システムをはね除けて運命を変える。
しかし「先生」は直実に対して本当の目的を隠していた。
「先生」の目的は、2037年の世界では脳死状態にある瑠璃(イチギョウルリ)の肉体に2027年の瑠璃の精神を上書きして蘇生させることにあり、そのために当時の状況を再現した上で2027年の世界から瑠璃を連れ去る必要があった。
信頼していた「先生」に裏切られて瑠璃と引き離された直実は、自動修復システムの暴走によって崩壊していく2027年の世界に取り残される。
2037年の世界で瑠璃を蘇生させることに成功した「先生」は、直実を騙していたことに罪悪感を感じつつも、「10年間の昏睡状態から奇跡的に回復した」という嘘に違和感を抱く瑠璃を言いくるめ、暴走するアルタラへの不正アクセスの証拠隠滅に乗り出す。
しかし瑠璃を殺害するために追ってきた自動修復システムの狐面がアルタラの中から2037年の世界へとあふれ出すのを見て、自分が現実として認識していたこの世界もまた、未来にあるアルタラの中に構築されたシミュレーション上の仮想世界であり、自分の世界が入れ子構造の内側にあることを悟る。
瑠璃と「先生」は狐面に襲われ絶体絶命に陥るが、カラスの協力を得て2037年の世界へと現れた直実によって窮地を救われる。
直実に殴られた「先生」は改心して本来の願いに立ち返り、2037年の京都市を巻き込んで暴走を繰り広げる自動修復システムを相手に直実と共闘し、困難の末に瑠璃を2027年の世界へと送り帰す。
また自動修復システムを強制停止し意図的にアルタラを暴走させることによって2027年の世界は歴史保存という役割から解放され、パラレルワールドとして存続することになるが、その過程で「先生」は犠牲となり、瑠璃ともう一人の自分である直実が見知らぬ新世界で幸せを掴むことを願いながら命を落とす。
「先生」が目を覚ますと、そこは2037年の仮想世界をアルタラ上でシミュレートしていた2047年の現実世界だった。
現実世界においては、20年前に命を落としたのは堅書直実で、直実を援助していたカラスの正体は、アルタラを使って彼を脳死状態から蘇生させようとしていた一行瑠璃であった。
「先生」の願いは叶い、物語は幕を下ろす。
主要登場人物
基本的には主人公である堅書直実とその未来の姿である先生(カタガキナオミ)、ヒロインである一行瑠璃という、限られた人間関係の中で物語が動く構成となっている。
直実と先生は同一人物であるため、特に前半部分は実質的には主人公とヒロインの2人きりの関係性の中で物語が進展していくが、ヒロインはマクガフィン※に過ぎず、後半に向けて劇的に変化していく直実と先生の関係性こそ主軸であると解釈することもできる。
なお、劇中には登場人物の年齢や誕生日への具体的な言及や、それを類推できる描写が幾つかあるものの、資料によって統一されていない。
マクガフィン(英: MacGuffin, McGuffin)とは、小説や映画などのフィクション作品におけるプロット・デバイスのひとつであり、登場人物への動機付けや話を進めるために用いられる作劇上の概念のこと。
堅書 直実
声 - 北村匠海
主人公。
2027年の京都(アルタラの中に再現された過去の世界)に住む高校1年生の男子。
臆病で優柔不断で主体性がない性格だが、そんな自分を変えたいと思っている。
読書好きでいつも本を読んでいるため、高校入学早々に図書委員を押しつけられるが、自分で立候補して決めたわけではないことに不満を感じていた。
一方、未来の自分自身だと名乗る「先生」(ナオミ)から突拍子もない世界の真実を聞かされても、「グレッグ・イーガンのSF小説のよう」という感想を抱いてあっさりと受け入れるなど、高い順応性も見せている。
好きな小説のジャンルはSFで、自分が物語の登場人物になれるような世界が現実の科学技術の延長線上に広がっていることにロマンを感じている。
自分が小説のような状況に遭遇することに憧れているが、いざ遭遇すると恐怖して逃げ出す臆病さも持っており、「現実の自分は主人公ではなくエキストラ」と自嘲する。
当初は等身大の人物として描かれ、2000年代に流行したセカイ系作品の主人公にみられる内向的な人物像を踏襲するが、自己啓発によって己を変革し決断力を身につけ、やがて瑠璃にとってのヒーローとして描かれるようになっていく。
本作品のキャラクターデザインを担当した堀口さんはこうした展開を踏まえ、初見では冴えなく見えるが映画を見終えるころには格好良く見えてくるような、垂れ目で太眉気味といった少し癖のある顔つきを意図したという。
カタガキ ナオミ / 先生
声 - 松坂桃李、北村匠海(『ANOTHER WORLD』高校生時代)、松岡禎丞(『ANOTHER WORLD』大学生時代)
2037年の未来(アルタラを創造した「現実世界」)から来た堅書直実を名乗る青年。
立体映像のような存在であり触れることはできず、直実以外には姿が見えない。
2027年の世界の直実と区別するため、映画のクレジットや小説版では名前がカタカナ表記される。
仮想世界アルタラの中に再現された10年前の自分に会い、現実の未来で死亡した一行瑠璃が生存する仮想の歴史を作るため、「現実世界」から不正にアクセスしてきたと語る。
「現実世界」ではアルタラのシステム管轄メインディレクターという肩書きを持っており、10年間の血の滲むような努力の末、アルタラに侵入する計画を実行可能とする役職と権限を手に入れた。
彼自身は直実以外のアルタラの事物に干渉することができないため、アルタラの住人である直実の助力を必要としている。
直実からは「先生」と呼ばれる。
直実からは当初、自分と正反対の身勝手でがさつな、なりたくないタイプの大人という悪印象を持たれていたが、行動を共にするうち、次第に直実とは兄弟のように想い合う関係となっていく。
その裏で直実に対して重大な隠し事をしており、本来の目的を伏せているが、彼もまた自分が「現実世界」と信じる2037年の京都が仮想世界であるという真相を知らされないまま行動している。
主人公の直実とは対照的な、普通とは異質な過去を背負った人物として描かれる。
瑠璃を挟んで劇的に変化していく直実との関係性は物語の軸となっており、当初は直実の師匠のような存在として、中盤では直実と敵対する悪役のようにも描かれるが、結末のどんでん返しを観終えた上で最初から見直すと、彼が主人公のように見えるような描き方がされている。
本作品の脚本を担当した野﨑先生は彼について、執筆していて感情移入しやすい登場人物であり、主人公になりすぎないよう抑えて描くことを心がけたとしている。
一行 瑠璃
声 - 浜辺美波
ヒロイン。
直実の同級生で、同じく読書好きで図書委員を務める。長い黒髪と左目の下の泣きぼくろが外見上の特徴。
「やってやりましょう」が口癖。
高校の売店では不人気メニューとされているねじりパンが好物。
真面目で意志が強く、直実が怖じ気づいて敬遠する同級生や上級生に対しての注意勧告も淡々とこなす。
直実からは当初、容姿の整った美人だが自分の好みではなく、無愛想で冷徹そうな異性という印象を持たれていた。
その一方でデジタル機器の扱いが不得手、極度の高所恐怖症で80センチの高さで失神する、などの弱点を併せ持つギャップも見せており、先生(ナオミ)からは「可愛い系」だと力説されている。
好きな小説のジャンルは冒険小説で、困難に進んで立ち向かう不屈の主人公に人生の理想を重ねている。
その一方、内心では現実の自分は主人公ではないし窮地を助けてくれるヒーローも存在しない、という諦観を抱いているが、直実が非日常の世界に足を踏み込み不思議な力で自分を助けていることに気がつき、彼こそが実は本物のヒーローなのではないかという思いを抱くようになる。
先生(ナオミ)の語る「現実世界」の歴史通りに物事が進めば、物語開始から3か月後に直実と恋人同士になるが、初デートのために訪れた2027年7月3日の宇治川花火大会の最中、朝霧橋の橋上で突然の落雷によって命を落とす運命にあるとされ、その運命を回避することが物語中盤までの目標となる。
ただし、その真相には二重のどんでん返しが仕込まれており、物語が核心に近づくにつれて二転三転する。
カラス
声 - 釘宮理恵
先生(ナオミ)から直実へと授けられたツールで、仮想世界であるアルタラのデータに干渉し、ごく限定的ながらも接触した物質の性質や働いている物理法則を変化させることができる権限を直実に付与する。
普段は太った八咫烏(日本の神話に登場する3本足のカラス)の姿をしているが、直実が能力を行使する際には「神の手」(グッドデザイン)と呼ばれる手袋の形態を取る。
直実にしか使いこなせず、先生(ナオミ)では幻影を出すことしかできない。
直実は当初、弱い力しか扱えず制御もままならなかったものの、運命の日に備えて習熟を重ねることにより、次第に武器や道具を無から生み出し天変地異を操る魔法のような力を行使できるようになっていく。
普段は野太い声で鳴き、言葉を喋れないかのように装っているが、実は自分の意思や独自の目的を持っており、直実の行動を傍から黙って見守っている。
その真の正体は先生(ナオミ)が「現実世界」と誤認している2037年の仮想世界をアルタラII上でシミュレートしている2047年の世界の一行瑠璃なのだが、そのことは先生(ナオミ)にも知らされていなかった。
デザインワークスは浅野直之氏が担当した。
豪華な主題歌・劇伴
通常のアニメ映画では、絵コンテが完成してから劇伴作家に曲を発注し、場面に合わせた注文通りの曲を作ってもらうという過程で劇伴が作られるが、それでは綺麗にまとまりすぎてしまうという考えや、作画と劇伴の制作を平行して進めることで互いの作業が刺激し合えるのではないかという思惑もあり、本作品では劇伴の専門家ではない複数のアーティストたちに場面ごとの曲を競作してもらうという形が取られた。
本作品のエンディングテーマを担当しているOKAMOTO'Sを中心として人脈伝いに集まったメンバーで「2027Sound」というグループが作られ、劇伴や主題歌が作られた。
- 「新世界」
OKAMOTO'Sによる主題歌。
作詞はオカモトショウ氏、作曲はオカモトショウ氏とオカモトコウキ氏、編曲はOKAMOTO'Sと小林武史氏による。
映画のエンディングテーマとして流れる。
主題歌の中では早い段階で作られた曲で、メンバーのオカモトショウ氏によれば、最初に脚本を読んだ直後の第一印象で作り、その後の作業が進み他の候補も作られる中で、監督の伊藤氏から「やはり最後に流れるのはこの曲がいい」と指名され、エンディングテーマに決まったとされる。
- 「オープニングテーマ feat.AAAMYYY」
AAAMYYYが歌うオープニングテーマ。
作曲はオカモトショウ氏とオカモトコウキ氏による。
映画冒頭の日常描写の中で流れるスキャット曲。
- 「イエスタデイ」
Official髭男dismによる主題歌。
作詞・作曲は藤原聡氏、編曲は蔦谷好位置氏による。
映画前半の、主人公の直実が先生(ナオミ)の指示で、ヒロインの瑠璃と少しずつ仲を深めていく場面で流れる。
作詞と作曲を担当した藤原聡氏によれば、疾走感を重視し、恋が始まって想いが加速していくイメージを表現したという。
劇中で流れるのは3番サビの部分で、映画で使われている部分では主人公の直実の心境に沿った内容となっているが、曲全体では映画全体の登場人物たちの心の機微を表現しているとされる。
- 「Lost Game」
Nulbarichによる主題歌。
作詞はJeremy QuartusとRyan Octaviano、作曲・編曲はJeremy Quartusによる。
映画クライマックス、直実と先生(ナオミ)の別れの場面で描かれる。
作詞作曲に携わりボーカルも担当しているJeremy Quartusによれば、作品の全体像がほぼ完成していて他の場面で使う曲が決まっており、曲の盛り上がりが来る場面のタイムコードまで決まっている段階で依頼を受けたといい、主人公の感情に寄り添うために打ち合わせを重ねて作ったという。
盛り込まれた多彩な要素
XR(クロスリアリティ)世界
本作の舞台となるのは、 "アルタラ" と呼ばれるシミュレーターの中に仮想世界として再現された過去の京都。
例えるなら、映画『マトリックス』でネオが目覚める前の、トーマス・アンダーソンだった世界を想像してもらえればわかりやすい。
『マトリックス』以外にも仮想世界を舞台とし名作と謳われる作品は数多存在するが、その設定や描写の秀逸さは本作が他を圧倒する。
世界観は最先端の「XR(クロスリアリティ)」。
「XR(クロスリアリティ)」または「Extended Reality(エクステンデッドリアリティ)」とは、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)・SR(代替現実)など、現実世界と仮想世界を融合して、新しい体験を作り出す技術の総称である。
VRとARを組み合わせたゲームや、ARとMRとの間にあるようなコンテンツなど、各技術が融合しているサービスも「XR」と呼ぶことができる。
ただ仮想世界とは銘打つものの、本作を観ていると現実との境界線がまったくわからなくなる。
すべてが仮想であるという確証が持てなくなる。
高度なXR(クロスリアリティ)世界では現実との境界線が曖昧になるらしいが、本作がまさにそれに当たる。
パラレルワールド
「パラレルワールド(Parallel universe, Parallel world)」とは、ある世界(時空)から分岐し、それに並行して存在する別の世界(時空)を指す。
並行世界、並行宇宙、並行時空とも言われている。
そして、「異世界(異界)」、「魔界」、「四次元世界」などとは違い、パラレルワールドは我々の宇宙と同一の次元を持つ。
SFの世界の中だけに存在するのではなく、理論物理学の世界でもその存在の可能性について語られている概念である。
簡単にいえば「この現実とは別に存在するもうひとつの現実」である。
本作が素晴らしい点は、仮想世界を舞台にしていながら同時にパラレルワールドをも描いていることにある。
前述した通り、本作主人公・直実と先生は同一時系列上別時代の同一人物。
通常であるならばそれは並行世界とは呼ばないが、ラスト5分で描かれる衝撃のラストでは、第三の世界が登場しパラレルワールドが完成する。
これには衝撃を覚えると共に、そのシナリオのあまりの優秀さに感動すら覚える。
青春期の恋愛要素
散々説明してきたせいで、仮想世界やパラレルワールドが本作のメインテーマだと思われた人も多いだろうが、実は本作物語の軸となっているのは青春期の恋愛要素である。
しかも種類こそ違えどそれは、あの名作『君の名は。』に匹敵するほどの秀逸さを誇っている。
本作に恋愛要素があるからこそ、盛り込まれたあらゆる要素が生きてくる。
恋愛要素がなければ、ラストの衝撃と感動は生まれない。
仮想世界やパラレルワールド要素は、あくまでも舞台装置にすぎないのだ。
1時間37分の傑作!
衝撃のラストは想像を超える!!
XR(クロスリアリティ)世界を通して多彩な要素をまとめ上げた優秀すぎる名シナリオ
本作の多彩な要素を含んだ作品である。
パラレルワールドや恋愛要素をXR(クロスリアリティ)世界へ落とし込んで、ひとつの物語を形成している。
これだけ聞けば、風呂敷を広げすぎたようにも思われるだろう。
しかしそれは杞憂である。
むしろ短い上映時間の中で、これほどのシナリオをよくぞまとめ上げたとただただ感心するばかりである。
その素晴らしさを象徴しているのが衝撃のラスト。
現実世界の人間だとばかり思われていた先生も、実は仮想世界の住人にすぎなかった。
主人公・直実と先生の接触と行動が歪みを生み、その歪みはどちらかが消えなくては解消できないほど大きなもの(バグ)になってしまう。
結果的には自らが消えることを選んだ先生だが、その先に驚愕の事実が待っていた。
そもそも本作物語は先生の願いに端を発している。
しかしその先生もデータにすぎなかった。
凡作ならば消えた先生のことはさておいて、残された直実が新しい世界を歩み出すことで物語を完結させてしまうだろう。
だが本作はそこからさらに踏み込んだ。
それは現実世界の存在の証明である。
詳細については是非ご自分の目で確かめてほしい。
これほど多彩な要素をわずか1時間37分で見事に描き切った本作の評価は、秀作や傑作という言葉ですら物足りない。
ただただ素晴らしいのひと言である。
一行さんの最後の「やってやりました」というセリフが今も耳に残る。
……
………
…………
本作への評価は、実はここで終わりではない。
本作の本当に特筆すべき点は、衝撃のラストのその後にある。
ラストを迎え概要を理解すると、本作の主人公は直実ではなく、実は先生だったのではないかという疑念が生まれる。
事実、観返してみると先生が主人公のような描き方がされている。
こちらについても、是非ご自分の目で確かめてほしい。
本作は紛れもなく、日本アニメ界を牽引する偉大な監督作品に匹敵する作品であると確信する。
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