其の十二
美しき日本語の世界。
粋で乙な日本語が織りなす究極の話芸「落語」
落語は、江戸時代の日本で成立し、現在まで伝承されている伝統的な話芸の一種である。
都市に人口が集積することによって市民・大衆のための芸能として成立した。
成立当時はさまざまな人が演じたが、現在はそれを職業とする落語家によって演じられることが多い。
能楽や歌舞伎など他の伝統芸能と異なり、衣装や道具、音曲に頼ることは比較的少なく、ひとりで何役も演じ、語りのほかは身振り・手振りのみで物語を進め、また扇子や手拭を使ってあらゆるものを表現する。
最後に「落ち(サゲ)」がつくことをひとつの特徴としてきた経緯があり、「落としばなし」略して「はなし」ともいう。
「はなし」は「話」または「噺」とも表記する。
想像力で無限に広がる落語の世界
「先生、右足が痛いんですが診ていただけますか?」
「はい、レントゲンの結果からは関節炎や痛風じゃありません。あなたの右足は、大丈夫ですよ、おじいさん」
「じゃ、何ですこの痛みは?」
「まぁ、お歳のせいでしょう」
「先生、いい加減な診断しないで下さい」
「どうしてです?」
「歳のせいって、左足も同い歳だよ」
このおじいさんの言っていることには一理ある。
屁理屈のようにも聞こえるが、間違いではない。
医者は確かに優秀な頭脳と判断力を持ってはいるだろう。
しかし、常識や科学で割り切れないものが世の中にはあるのだよと、このおじいさんは言っている。
これが落語である。
世界に誇るべき文化「落語」
最近の社会の変化は目まぐるしく、数年で街の表情がガラリと変わってしまう。
そのなかでは、「侘び」とか「寂び」といった俳句にも繋がる噺や、江戸や明治の町の様子を想像することさえ難しい時代だ。
時々テレビで放送されている2〜30年前の映画ですら、我々は「古いな」と感じてしまう。
だが、例えば20年前に録画された噺家の口演は少しも古いと感じない。
落語は、そのほとんどが100年以上前に作られた噺であるのにも関わらず、今聴いても全く古さを感じさせない。
これが古典落語の素晴らしさであり、落語の話芸としても凄さである。
「落語」は想像力を鍛える最適なトレーニング
落語に「時そば」という噺がある。
勘定の最中にそば屋の主人に時(時間)を聞いて、上手いこと会計をちょろまかすという有名な噺だ。
「時そば」では、閉じた扇子を箸に見立て、左手に持ったつもりのどんぶりから、そばをすする仕草は、実際に箸とどんぶりを見せられた時よりも、遥かにイメージの広がりを観客にもたらす。
目の前の実物の箸とどんぶりは、我々の視線をそこに引き付けることはあっても、想像力に働きかけることはなく、かえってその働きを阻害する邪魔物になるからである。
さらには、演者の「おめェんとこじゃ、いいどんぶり使ってるじゃねえか!」「いい出汁使ってるな、鰹節おごったろ!」などのセリフによって、実在しないどんぶりの中のそばと、鰹節の効いた汁のいい香りまでが、観客の脳裏に鮮やかに広がるのである。
まさに、演者の話術と観客の想像力のコラボレーションが作り上げた見事な仮構の世界である。
初心者でも安心の『超入門!落語 THE MOVIE』
落語家が一人で登場人物の全てを演じるため、聴衆の側に聞くためのスキルを要する落語。
想像力が乏しいと意味がわからないことが多々ある。
それでは落語の面白さは伝わらない。
しかし想像力というのは、一朝一夕で身につくものでもない。
そこでおすすめなのが『超入門!落語 THE MOVIE』。
『超入門!落語 THE MOVIE』は、落語家の噺に役者の演じる映像を合わせることで、入門編として初心者にわかりやすく伝えることを狙った番組である。
現代の名噺家3選(独断と偏見)
ここで選んだ3名は、完全な独断と偏見である。
上方落語は聴き取りづらいため、個人的には好まない。
故にキビキビと話し、聴き取りやすい関東の噺家さんを好む。
落語は好きだが、所詮は落語素人。
詳しいことは、さっぱりわからない。
だから巧い下手を論じるのではなく、好みだけで選んでいる。
春風亭 一之輔
200を超える持ちネタがあり、滑稽噺から人情噺まで広く古典落語を演じる落語家。
独自のくすぐりや現代的なギャグを盛り込むなど、随所に創意工夫を織り込んだ独創的な高座が特徴。
また熊さん八つぁんや隠居など、古典落語の登場人物のキャラクター設定を今風に変えるなど、現代の人にもとっつきやすい落語を演じることで知られる。
当代きっての人気を誇り年間900席もの高座をこなすなど、寄席、ホール落語問わず精力的に活動している。
柳家喬太郎
実力と幅広さを兼ね備えた個性的な噺家である。
古典落語は、エンターテイメント性に富む語り口ながら、古典の味わいをそこなうことなく、円熟した落語を聴かせる。
滑稽噺はもとより、師のさん喬ゆずりの人情噺、さらには「死神」「蛇含草」などといったダークな噺でも、迫真の語り口で聴衆を圧倒する。
「擬宝珠」や「綿医者」「にゅう」といった、演者の絶えた珍しい古典演目の蘇演も手がけており、また、後半の内容が陰惨なため前半で切り上げられることの多い「宮戸川」を通しで演ずる数少ない噺家でもある。
桃月庵白酒
古典落語の笑いの少ない噺を爆笑落語に変えてしまうことのできる、落語界きってのセンスの持ち主。
オリジナルのギャグと言葉遊び満載で、軽味のある楽しい落語に仕上げて聴かせてくれる。
もちろん、落語会や寄席でも屈指の人気者。
その現場ではマクラで吐く毒でも観客を笑わせるという。
落語といえば『笑点』だと思っている人も多いかもしれないが、それは大きな間違いで、世間で広く認知されている『笑点』の大喜利は噺家の言葉遊びのひとつで、あくまでゲームの一環でしかない。
落語とはまったく別物である。
『笑点』の大喜利で、唯一落語らしいところといえば冒頭の挨拶くらいか。
かの桂歌丸師匠の伝説の挨拶は、史上最短の小噺と呼べるかもしれない。
おまけに最高傑作でもある。
「一度でいいからみてみたい、女房がヘソクリ隠すとこ」
『笑点』でのイメージが強い桂歌丸師匠だが、その高座は惚れ惚れするほど素晴らしいものだった。
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