リリー・フランキー主演映画
その日、カレーライスができるまで
『その日、カレーライスができるまで』とは
『その日、カレーライスができるまで』は、2021年9月3日公開の日本映画。
妻の誕生日祝いに作るカレーライスと好んで聴くラジオ番組を通して、とある一人の男が何気ない日常に想いを馳せる姿を描く。
主演は『凶悪』(13)、『そして父になる』(13)、『万引き家族』(18)など、 独特の存在感を放ち数々の映画賞を受賞しているリリー・フランキー氏。
本作で初めてほぼワンシチュエーションでの一人芝居に挑戦。
息子を病気で亡くし、妻にも去られてしまった孤独な男・健一の悲喜交々を細やかに表現する。
また齊藤工監督『blank13』(18)に続きリリー氏の妻役を演じるのは『37セカンズ』(18)の神野三鈴さん。
声のみの出演ながら、不器用だけれど心優しい夫と交わす言葉ひとつひとつをたおやかに紡ぐ。
監督は『MANRIKI』(19)や密室スリラーのリメイク映画『CUBE』(21)で注目の清水康彦監督。
リリー氏とは脚本・演出を務めたフジテレビ系列ドラマ 『ペンション・恋は桃色』チームでの再タッグとなる。
脚本はTBS系列ドラマ『半沢直樹』の脚本で話題の金沢知樹氏。
本作は19年に野添義弘還暦記念公演のために金沢氏が演出家・いちかわニャー氏とともに創作した一人芝居が原案となっている。
企画・プロデュースはマルチに活躍する齊藤工氏。
クリエイター活動10周年の節目に「映画は不要不急なのか」「混沌とした現代にどんな作品が生まれるべきなのか」 という映画人としての思いを、信頼するチームへ託した。
なお、本作の撮影は3日間で行われた。
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あらすじ
どしゃ降りの雨の中、ひと気のない薄暗い部屋に帰ってきた、くたびれた男。
健一(リリー・フランキー)は、幼い息子・映吉(中村羽叶)を心臓病で亡くし、そのことが原因で妻(神野三鈴)も去ってしまった。
後悔の念から同じ病に苦しむ少年のため治療費の募金活動を始めたが、目標額まではまだ程遠い。
そんな健一にとって今日は、年に一度のごちそうを作る大切な日だ。
手際良く丁寧に調理を進め、愛聴するラジオ番組に耳を傾けながら一服していると、リスナーの「マル秘テクニック」を募集している。
健一はふとガラケーを手に取ると、コンロでぐつぐつと音をたてる、とっておきの手料理についてメールを綴り始める。
「今年も妻の誕生日にカレーを作っています。三日後が、誕生日です」
「妻は三日目のカレーが好きで」
「ただ、色々あって今年はひとりです」
その横では、映吉の笑顔の写真が父の様子を見守っている。
そして、ラジオから聴こえるメール投稿をきっかけに、健一の周りでちいさな奇跡が起こり始める……
主題歌
安部勇磨(Thaian Records)
中年の男がただカレーを作るだけ
リリー・フランキー氏が演じる中年の男がただカレーを作るだけ。
本作は、ただそれだけの作品である。
そこには一応ちゃんとした事情があるのだけど、だからといって何か事件が起こるわけでもない。
実に邦画らしい、何も起こらない作品である。
しかしそこはリリー氏のファンである著者。
リリー氏が出演、ましてや主演を張っているともなれば、その作品は面白いか面白くないかではなく "良い作品" だと思っている。
だから本作も御多分に洩れず良い作品だと思うのだが、一般的にはさほど面白くはない作品なのだろう。
主要サイトの評価は軒並み芳しくない。
ただ、リリー氏どうこうは置いておいて、本作の魅力は物語の善し悪しではなく空気感だ。
リリー氏演じる中年の男が醸し出す哀愁こそ、本作最大の魅力だと著者は思う。
暗がりの部屋で耳をすませてラジオを聴き、雨の音やカレーライスを作る音に耳を傾ける。
停電の中、テーブルにひとり座る男を照らす電球から感じる孤独さ。
それでもひとりじゃないと感じるのは、ラジオから聴こえてくるパーソナリティの声。
寂寥感を感じながら、気がつけばのめり込んでいる自分がいる。
のめり込む理由は他にもある。
繰り返しになるが、本作は中年の男がただカレーを作るだけの作品である。
そこにあるのは、ちょっとした人間模様が生み出した中年男の哀愁だけだ。
しかし物語序盤、「あれ、これ、もしかしてホラーなのかな?」と感じさせる演出が続く。
序盤のこのミスリードさせていく演出が、後々絶妙に生きてくる。
まずは音。
本作は音の使い方が非常に巧い。
ホラーだと思っているから、いつもより聞き耳を立てて観ることになる。
雨の音やカレーライスを作る音、ラジオから聴こえてくるパーソナリティの声。
音に集中することで、自然と物語にも集中していく。
作品の魅せ方には、こんな方法もあったのか。
この演出は、すごくいいなと感じた。
本作はワンシチュエーションのひとり芝居だ。
だから、ともすればすごく飽きやすい題材にもなりかねない。
そこで、上手い具合にミスリードすることで、新鮮さが保たれていく。
実に巧妙な仕掛けだ。
演劇関係者ならずとも、映画好きには是非観ていただきたい演出である。
しかしなんといっても一番の見所は、リリー・フランキー氏のひとり芝居だろう。
時折り、アドリブを感じるリリー氏のひとり語りは、台本の存在を忘れるほどに普通の中年男だった。
キーアイテムにラジオのチョイスも最高だ。
リリー氏がラジオに投稿する姿は、普段彼のラジオを聴いている身としては、とても新鮮な姿に見える。
投稿初採用を喜ぶリリー氏の姿なんて、想像することすらなかったのだから。
本作は52分と、非常に短い作品である。
仮に面白さを期待せずとも、何とか観れる時間ではある。
気になった人は是非。
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