声優・田中敦子追悼特別編
心に沁みる名言
今日を精一杯生きるために…
明日ではなく今日。
今、この時を精一杯生きるあなたのために素敵な言葉を綴ろう。
草薙素子(アニメーション映画「イノセンス」より)
草薙素子とは、士郎正宗先生の漫画及びそれを原作とするアニメ『攻殻機動隊』シリーズの主人公。
全身サイボーグの女性。
登場作品によって性格や容姿が異なる。
脳と脊髄の一部を除く全身を義体化したサイボーグの女性で、総理直属の公安警察機関「公安9課」の実質的なリーダー。
世界屈指の義体使いであり、事件解決のためなら非合法な手段を使うことも躊躇せず、必要とあらば同僚にもゴーストハックを仕掛けたり、枝(電脳への侵入経路)を付けたりする(ちなみに作中世界において、公にはゴーストハックは極刑モノの重犯罪として扱われている)。
冷静沈着で、戦闘から捜査まで突出した才能を発揮する他、ウィザード級の高度なハッキングスキルも兼ね備えることから、荒巻には「エスパーよりも貴重な才能」と評されている。
直感による判断を「ゴーストの囁き」と称しており、これはシリーズ作品全てに共通する彼女を象徴する言葉となっている。
2032年、日本。
世の中は、人とサイボーグ(機械化人間)、そしてロボット(人形)の共存が進んでいた。
同時に、テロが各地で続発。
そんな犯罪を取り締まる政府直属の機関・公安9課の刑事バトーは、その体全てが造り物のサイボーグでありながら、純粋な部分としてわずかな脳と「素子」の記憶だけを残していた。
そんなある日、暴走した少女型のロクス・ソルス社製愛玩用ロボットが所有者を惨殺する事件が発生。
さっそく相棒トグサと共に捜査に乗り出すバトーだったが、その過程で彼の脳を攻撃する謎のハッカーの妨害に見舞われる。
バトー 忘れないで
あなたがネットにアクセスするとき
私は必ずあなたのそばにいる
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2023年11月23日。
東京・新宿ピカデリーで、士郎正宗先生原作によるアニメ『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』の初日舞台挨拶が開催された。
このイベントには草薙素子役の田中敦子さん、バトー役の大塚明夫氏、トグサ役の山寺宏一氏、江崎プリン役の潘めぐみさんが登壇。
MCは吉田尚記アナウンサーが務めた。
『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』はNetflixで独占配信の『攻殻機動隊 SAC_2045』シーズン2を再構成したもの。
田中敦子さんはシリーズの配信開始から劇場版公開までの約3年半を振り返り、2本目となる劇場版を公開できる喜びを語った。
また自身が演じる草薙素子という役の印象を聞かれると、
1995年に公開された『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』で草薙素子は私を選んでくれて、そこから28年。
最初は手の届かない孤高の存在だったのが、回を重ねるごとにお互いに寄りかかれるようになっていきました。
としみじみ振り返り、
30年以上声優という仕事をしてきている中でかけがえのない存在ですし、彼女がいなければ今ここにいないと思えるくらい大切なバディです。
と語っている。
最後は登壇者全員から締めの挨拶が行われたが、この時田中敦子さんは、
ここに立っていられるだけで心から幸せです。
皆さん、攻殻機動隊は『最後の人間』で一旦結末を迎えるのかもしれません。
でも、どうか忘れないでください。
皆さんがネットにアクセスするとき、『攻殻機動隊』にアクセスするとき、私たちは、私は、いつでも皆さんの側にいます。
どうか忘れないでください。
と涙ぐみながら話し、会場からは温かな拍手が送られた。
そのあまりにも早すぎる訃報に、衝撃が日本中を駆け巡る…。
2024年8月20日。
声優の田中光氏がX(旧Twitter)にて、この日田中敦子さんが逝去したことを報告。
この時に二人が実の親子であることを合わせて公表した。
本人の意向により具体的な病名は伏せられているが、活動の中で、約1年にわたる闘病生活を送っていたことが明かされている。
先の舞台挨拶が2023年11月23日であることから、この時すでに何かを予期していたのかもしれない。
だから田中敦子さんはこの言葉を選んだのだろうか。
実は表題名言の出典元であるアニメーション映画『イノセンス』では、その前に別のふたつの名言が添えられている。
田中敦子さんの言葉を、このふたつの名言とその意味を踏まえた上で改めて聞いてみると、非常に感慨深いものになってくる。
添えられたひとつ目の名言。
孤独に歩め 悪を成さず
求めるところは少なく
林の中の象のように
(「法句経」より)
この一節には、前部分がある。
要約すると「もしも思慮深く聡明でまじめな生活をしている人を伴侶として共に歩むことができるならば、あらゆる危険困難に打ち克って、こころ喜び、念いをおちつけて、ともに歩め。
しかし、もしも思慮深く聡明でまじめな生活をしている人を伴侶として共に歩むことができないならば…」。
田中敦子さんにとって、草薙素子は人生の伴侶と呼べるキャラクターである。
そして攻殻機動隊は『最後の人間』で一旦の結末を迎えている。
この前部分には、まるで田中敦子さんと草薙素子の出会いと別れまでが集約されているようである。
人間一人ひとりは非常に弱い存在だ。
ひとりでは生きられないのが、人間なのである。
しかしそうであったとしても、ひとりでなければ到達できない世界がある。
死後の世界も、あるいはそのひとつであると考えられる。
もしかしたら田中敦子さんは最期、求めるところは少なく、林の中の象のように孤独に歩むことを望んだのかもしれない。
しかしその歩みは孤独と呼ぶにはあまりに崇高で、孤高と呼ぶに相応しい。
では孤高であることは、田中敦子さんにとってはたして幸せなことだったのか。
その答えが、添えられたふたつ目の名言に隠されているような気がする。
鳥の血に悲しめど
魚の血に悲しまず
声ある者は幸いなり
〈原文〉
刀を鳥に加へて鳥の血に悲しめど、魚の血に悲しまず。
聲ある者は幸福也、叫ぶ者は幸福也、泣得るものは幸福也、今の所謂詩人は幸福也。
(齋藤緑雨:論評『緑雨警言』より)
声ある者は幸いなり、叫べる者は幸いなり、泣き得る者は幸いなり、今のところ私は幸いなり。
「気持ちを誰かにちゃんと伝えられることは、ただそれだけで幸せなことである」という意だろうが、まるで声優を生業としてきた田中敦子さんを象徴しているような言葉に聞こえる。
そのあまりに早すぎる訃報は残念極まりないが、この言葉のように、ご自身は最期まで幸せを感じていたと信じたい。
田中敦子さんは『呪術廻戦』花御役、『葬送のフリーレン』フランメ役、『ジョジョの奇妙な冒険』リサリサ役、『BAYONETTA』ベヨネッタ役など数々の役を演じられてこられたが、『攻殻機動隊』の主人公・草薙素子役がすべての始まりだった。
表題の名言は、普通に聞けば名言と呼ぶほど大層な言葉ではない。
だがそれを、田中敦子さんとその人生の象徴である草薙素子が最期に残した言葉として聞いたのなら、この上ない名言にまで昇華する。
『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』から始まった『攻殻機動隊』シリーズ。
大好きすぎて何十周観たか、もうわからない。
だからこそ、これから新たな草薙素子…少佐の声が聴けない現実に一層の淋しさが込み上げる。
しかしそれでもまた、これから何百周と『攻殻機動隊』にアクセスし続けるのだろう。
田中敦子さんの少佐の声と共に…。
もちろん少佐だけでなく、フランメや他のキャラにもたくさんアクセスするつもりだ。
ありがとう、田中敦子さん。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。
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