其の四十五
美しき日本語の世界。
マジ?ヤバい?ビビる!
【マジ?ヤバい?ビビる!】は若者言葉?
主として20歳前後の青少年が日常的に用いる俗語などで、それ以外の世代ではあまり用いない若者言葉。
若者言葉には、テレビCMやドラマの台詞などから流行語となって日常化した物が多くみられる。
特徴としては言葉を逆に言ったり、言葉をローマ字化してその頭文字のアルファベットを並べたり(チョーMM、MK5、KYなど)、誇張した表現(「超」の濫用など)といったことが挙げられる。
しかし最近では幅広い年齢で若者言葉は遣われている。
これは新しく出てきた言葉ほど顕著で、「ウザい」「キモい・キショい」「(危ない、という本来の意味からかけ離れた)ヤバい」「ハズい」などは、むしろ遣わない人の方が少ないのではないかと思うほどである。
時代の変化とともに進化を続ける若者言葉の中には、実は古くからあって代々若者に受け継がれている言葉がある。
たとえば【マジ、ヤバい】とか【ビビる】がそれに当たる。
これらは主に若者が遣うイメージのある言葉だから、「最近になって遣われている流行語」の類いだと思っている人も多いのではないだろうか。
だが、これらの言葉には意外と歴史があるのだ。
マジ
「マジすか?」の【マジ】は、元々は「真面目」や「真剣」を意味する言葉の略語である、という説が有力である。
しばらくは「本気」や「真剣」といった意味で遣われていた【マジ】であるが、最近ではたとえば可愛いものを見て「ヤバ〜い」「ヤバすぎ〜」のようにエモーショナルな意味※1でも遣われる。
では、いつ頃から遣われるようになった言葉なのだろう。
遡ると、1810年頃の歌舞伎の台詞に【マジ】とあるので、文化文政の頃。
伊能忠敬や滝沢馬琴が活躍していた頃には、すでに遣われていたことになる。
※1.エモーショナルな意味
エモーショナルな意味で遣われる言葉として、さらに進化したのが「エモい」。
「エモい」の語源は諸説あるが、一般的には「emotional(感情的な)」を略した「エモ」が由来といわれている。
喜怒哀楽すべての感情を包括的に表現できる便利な言葉として、主に若者に広く遣われている。
「エモい」の類似表現として、最近では「メロい」という言葉もある。
ヤバい
【ヤバい】は若者以外にも普通に遣われている言葉だが、文脈によって意味が大きく変わる。
元々は「危険な状態」や「まずい状況」を指す言葉だったが、最近では「すごい」「面白い」「最高」という意味でも遣われている。
では、【ヤバい】はいつ頃遣われ始めた言葉なのだろうか。
語源は「あやうい」が変化して「あやぶい→やばい」が有力な説のようである。
【ヤバい】は十返舎一九の『東海道中膝栗毛』に登場しているので、1800年頃には既に遣われていた言葉のようだ。
ビビる
【ビビる】は「怖がってしり込みする」とか「おじけづく」などの意味で使われる俗語。
「ビクビクする」ことから「ビビる」に転じた言葉である。
では、いつ頃できた言葉なのだろうか?
語源を調べると面白いことがわかる。
確実に言えるのは、江戸時代後期に成立した『柳多留』※2に載っているということ。
『柳多留』の「あいさつに男のびびるよめの礼」という句は広辞苑などでも引用されている。
「ビビる」は平安時代から遣われていたという説もあるが、この説は平成時代に突如広まった嘘なのだそう。
この説はある学者が、「源平合戦の富士川の戦いで、水鳥の羽音に平家軍が今風に言えば "びびって" 逃げた。」と記したことから広まった。
おそらく「今風に言えば」としっかり書かれているのを誤読した人が世に広めたようである。
※2.柳多留
正式名称を『誹風柳多留』といい、江戸時代中期から幕末まで、ほぼ毎年刊行されていた川柳の句集である。
単に「柳多留」と呼ぶこともある。
また「柳樽」とも。
呉陵軒可有編、花屋久次郎版。
明和2年から天保11年にかけて167編が刊行された。
きっとこの先何百年…
時代の象徴となる言葉は、その時代ごとの社会現象や価値観を反映し、人々の間で共有される言葉として流行する。
たとえば、昭和の「チャンネルを回す」はダイヤル式テレビ、平成の「バリ3」はガラケー全盛期を象徴する言葉である。
また令和の若者を中心に遣われる「エモい」「優勝」「それな」といった言葉は、新しい価値観を反映している。
流行語になるような言葉は、その時代の人々の価値観や文化を反映し、社会の変化を如実に表している。
だが、目まぐるしく移り変わる時代の中で、ずっと変わらず遣われ続けている言葉もある。
その意味こそ変わりはしても、永く広く遣われ続けている言葉。
【マジ】【ヤバい】【ビビる】は、きっとこの先何百年と変わらず、ずっと人々に遣われ続けていく言葉なのだろう。
☆今すぐApp Storeでダウンロード⤵︎


