日本映画
THE 有頂天ホテル
※本稿はネタバレを含みます。ご注意下さい。
豪華キャストのわりに脚本が弱く全体的にまとまりもないけれど三谷幸喜監督特有の「長回し」にフィーチャーして観てみれば大変よく出来た群像劇
日本映画『THE 有頂天ホテル』とは
最悪の大みそかは、最高の奇跡の始まりだった。
三谷幸喜×豪華キャストが贈る極上のノンストップ・エンタ―テインメント!
人気脚本家の三谷幸喜氏が『ラヂオの時間』『みんなのいえ』に続き、今度は大晦日の高級ホテルで繰り広げられる従業員と宿泊客それぞれが織りなす多彩なエピソードを描いた監督第3作。
1932年に制作されたグレタ・ガルボ、ジョーン・クロフォード主演の『グランドホテル』で確立された「グランド・ホテル形式※」そのままに、オールスター・キャストで描くエンターテインメント・アンサンブル劇。
※.グランド・ホテル形式
映画や小説、演劇などで、ホテルのようなあるひとつの場所を舞台に、特定の主人公を設けず、そこに集う複数の登場人物の人間ドラマを並行して描く物語の手法である。
グランドホテル形式、グランド・ホテル方式、グランドホテル方式とも表記される。
英語ではグランド・ホテル・テーマ(Grand Hotel theme)と呼ばれる。
グランド・ホテル形式の名前の由来となったのは、1932年にエドマンド・グールディングが監督したアメリカ映画『グランド・ホテル』。
この作品ではベルリンのとあるホテルを舞台に、そこに集う宿泊客たちの1日の人生の縮図を描いている。
落ち目のバレリーナや男爵を自称する宝石泥棒、余命いくばくもない中年の会社員、破産寸前の会社社長、野心家の貧しい女性速記者、ホテル住まいの退役軍人などの人物を交差させて物語を構築しており、グレタ・ガルボ、ジョン・バリモア、ジョーン・クロフォード、ウォーレス・ビアリー、ライオネル・バリモアの5人のスターが共演した。
この作品がアカデミー賞作品賞を受賞して大きな話題を呼んだことで、グランド・ホテル形式という用語が普及し、その後の多くの映画や小説で用いられた。
1932年のアメリカ映画『グランド・ホテル』で用いられたためこの名が付いているが、その原型は小説『ゴリオ爺さん』などに見いだされる。
この手法を用いた主な映画には『大空港』(1970年)や『タワーリング・インフェルノ』(1974年)、『THE 有頂天ホテル』(2006年)、主な小説には『幸福号出帆』(1955年)などがある。
あらすじ
人生は、愛と勇気と素敵な偶然でできている。
「今年のうちに、心の中にある悩みをすっきりさせたい。」
「一年の終わりに、何かひとつくらい、いいことをしたい。」
みんながそんな思いを抱く大みそか。
ホテルの威信がかかったカウントダウンパーティーまであと2時間。
"ホテルアバンティ" で働くホテルマンとそこへやってくる【訳あり】の宿泊者たち。
みんな、その一夜限りの偶然の出来事に遭遇することをまだ知らない―。
刻一刻と新年へのカウントダウンの時が迫る中、"ホテルアバンティ" で大晦日を過ごす人々みんなに、信じられないようなハプニングの数々が降りかかる―。
果たして、彼らに幸せな新年はやってくるのか!?
登場人物
- 申し分のない副支配人・新堂平吉:演 - 役所広司
- 議員の元愛人、今は客室係・竹本ハナ:演 - 松たか子
- 歌を愛するベルボーイ・只野憲二:演 - 香取慎吾
- 能天気な総支配人・二階堂源一:演 - 伊東四朗
- アシスタントマネージャー・矢部登紀子:演 - 戸田恵子
- 怪しい料飲部副支配人・瀬尾高志:演 - 生瀬勝久
- ウェイター・丹下二郎:演 - 川平慈英
- 客室係・野間睦子:演 - 堀内敬子
- ホテル探偵・蔵人:演 - 石井正則
- 筆の達人筆耕係・右近:演 - オダギリジョー
- リネン係・森:演 - 不破万作
- ベルボーイ・尾関:演 - 熊面鯉
- 携帯電話ストラップを配っているベルボーイ・御前崎:演 - 江畑浩規
- バーラウンジのマネージャー:演 - 飯田基祐
- バーラウンジのウェイター:演 - 中村祐樹
- コンシェルジュ:演 - 木村清志
- 駐車場の誘導係:演 - 相島一之
- 館内アナウンス:演 - 清水ミチコ(声のみ)
- 人生崖っぷちの汚職国会議員・武藤田勝利:演 - 佐藤浩市
- 武藤田の秘書・神保保:演 - 浅野和之
- 神出鬼没のコールガール・ヨーコ:演 - 篠原涼子
- 副支配人の別れた妻・堀田由美:演 - 原田美枝子
- 堀田由美の現夫、マン・オブ・ザ・イヤー受賞者・堀田衛:演 - 角野卓造
- 事故に遭った大富豪・坂東健治:演 - 津川雅彦
- 坂東健治の息子、耳の大きな男性・坂東直正:演 - 近藤芳正
- 謎のキャビンアテンダント・小原なおみ:演 - 麻生久美子
- ある業界団体の委員長・荒井:演 - 矢島健一
- ある業界団体の副委員長・伊武:演 - 伊藤正之
- ホテル内のスポーツジムでブラを盗まれた女性・鴨田麗子:演 - 池谷のぶえ
- インテリヤクザ:演 - 今井茂雄
- 飯島直介[映画『みんなのいえ』の登場人物]:演 - 田中直樹(ココリコ)
- 飯島民子[映画『みんなのいえ』の登場人物]:演 - 八木亜希子
- 須藤さん:演 - 大嶋守立
- 須藤さんの妻:演 - 保苅圓子
- 悲鳴を上げる女性:演 - 高島彩(当時フジテレビアナウンサー)
- 死にたがる大物演歌歌手・徳川膳武:演 - 西田敏行
- 徳川の付き人・尾藤:演 - 梶原善
- 一九分けの芸能プロ社長・赤丸寿一:演 - 唐沢寿明
- 不幸せなシンガー・桜チェリー:演 - YOU
- スパニッシュマジシャン・ホセ河内:演 - 寺島進
- アシスタント・ボニータ:演 - 奈良崎まどか
- 腹話術師・坂田万之丞:演 - 榎木兵衛
- ダンサー・オイリー菅原:演 - 池田成志
- アヒルのダブダブ:演 - 山寺宏一(声のみ)
- ミュージシャン:演 - ミルトン富田、美野春樹、伊丹雅博、村田陽一、渕野繁雄、加瀬達、下神竜哉、田中敏雄
- 垂れ幕業者:演 - 阿南健治
- 事故に遭った蒼白顔のタクシー運転手:演 - 佐渡稔
- 記者1:演 - 伊東孝明
- 記者2:演 - 高川裕也
- 記者3:演 - 望月章男
- 大きい警官:演 - 旭道山和泰
- 医師:演 - 井上肇
娯楽映画としてはイマイチ…でも舞台演劇映像作品として観れば秀逸
限定されたひとつの空間(会議室、舞台裏、ホテルなど)で、登場人物たちの小さな嘘や誤解が積み重なり、収拾がつかない大騒動へと発展していく構成が特徴であり、魅力でもある三谷幸喜脚本作品。
その原点は舞台演劇にある。
脚本家としてのキャリアが劇団から始まっているからだ。
ただ、そのため娯楽映画としての評価は分かれるところ。
三谷幸喜脚本は、「好きor嫌い」「面白いorつまらない」がハッキリ分かれてしまう…というのが、個人的な印象である。
では本作はというと、嫌いではないがさして面白くも感じない。
たしかに三谷幸喜脚本作品のもうひとつの特徴でもある豪華キャストの起用は、大晦日のお祭り感を存分に味わえる。
年末の慌ただしさそのものを表現したようなドタバタ群像劇も、年が明けたらすべてが丸く収ってしまうような爽快感がある。
こういう時節が感じられる作品は、その時その季節に観るのに最適ではある。
しかし豪華キャストを惜しみなく起用した割には、脚本が弱い気がしてならない。
端役にまで豪華キャストを起用したところまでは良い。
だが、その豪華キャストをキッチリ使い切れていない感がどうしても否めない。
どんな端役も中途半端に物語に絡ませるものだから、全体的にまとまりがなく、物語がとっ散らかってしまっている。
せっかく端役にまで豪華キャストを揃えたのなら、端役は物語には絡ませず、まったく関係ないところでただただ贅沢に無駄遣いしてもよかったのではないだろうか。
ただ、こうした豪華キャストの無駄遣いに批判的な意見がないわけでもない。
結果、やはりバランスが大切ということか。
そんなわけでつまらないとまではいかないが、けっして面白いともいえない本作だったのだが、見方を変えると印象もガラっと変わる作品だった。
これまでは三谷幸喜脚本の特徴を述べてきた。
だが、三谷幸喜氏自身がメガホンを取る作品には、また別の、もうひとつ最大の特徴がある。
それは、「長回し」。
「長回し」とは、ワンシーンをカットせず、最初から最後まで一度の撮影で撮り続ける技法のことで、作品に時間軸の明確さや途切れない緊張感をもたらし、物語の連続性や登場人物の心理描写を深く表現し、舞台劇のような没入感を生み出すのが特徴である。
37分ワンカットで撮影された冒頭シーンが話題となった上田慎一郎監督作品『カメラを止めるな!』で、「長回し」は一躍脚光を浴びることになった。
だが脚本ばかりに注目が集まる三谷幸喜作品の「長回し」には、真の映画好きならいざ知らず、あまり注目が集まっていないような気がする。
だが三谷幸喜作品の「長回し」は、自身が「できるなら全シーンをワンカットで撮りたい」と語るほど、独自の手法として確立されているのである。
では、その「長回し」にフィーチャーしてさして面白くないと感じる本作を観てみるとどうなるかというと、これが実に興味深く見どころも満載となるのだから面白い。
画角が決まっている映像作品では、当然被写体に注目が集まる。
それを逆手にとってのフレームインとフレームアウトは、まさに秀逸。
どのタイミングで、誰がフレームインし、誰がフレームアウトしていくのか。
映像に映る被写体のとは違う、また別の物語がカメラの外では展開していて、場面転換した時、観る者に驚きを誘う。
それはまるで演劇舞台を観ているような緊張感と臨場感。
まさに劇団出身の三谷幸喜氏ならではの演出である。
「長回し」にフィーチャーすることで得られた副産物は、それだけではない。
三谷幸喜氏ならではのコメディもまた賛否が分かれるところ。
個人的にはさして面白いと感じたことはなかったこのコメディだが、「長回し」にフィーチャーしてみると、それが表面上の直感的な感想でしかなかったことに気づく。
「笑いとは、一生懸命に生きている人間の滑稽さ」 であるという哲学に基づき描かれる、本人が大真面目であればあるほど周囲から見るとおかしいという状況は、場合によっては理解が非常に難しい。
それはきっと大真面目が裏目に出て、観る者が引いてしまうからだろう。
だが三谷幸喜氏のコメディの本質は、爆笑ではなく感心だったとようやく気づく。
計算し尽くされた実にシュールなユーモアセンスこそが三谷幸喜コメディの真髄であり、「長回し」にフィーチャーすることによって、それが鮮明に浮き彫りになった。
極論、本作はやはり娯楽映画ではないのかもしれない。
映画とは、どのようにして出来上がるのか。
カメラ割はこうで、ディレクションはこうやるのだといった、プロの、プロによる、プロのためのチュートリアル。
そうして出来上がったのが本作。
どうりで素人が観ても面白く感じないわけだ。
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