知識の泉
今すぐ誰かに話したくなる知的雑学
宇宙の謎を解くために科学者が最初に行うべきは、計算ではなく鳥の掃除だった?
知識は力なり
かの有名なイギリスの哲学者、フランシス・ベーコンは言った。
「知識は力なり」と。
この言葉には、読んで字の如く「知識は自身の力になる」という意味とは別に、「経験によって得た知識を、いかにして実践的に使用することができるのか」という意味も込められている。
雑学も同様だと思う。
実際には、生きていく上で何の役にも立たないと思われている、どうでもいい情報群。
それが雑学という分野といえるだろう。
しかし雑学で得た知識を、どのように使うのかは人それぞれ。
普段の話のネタに困っている人。
トーク力を上げたい人。
飲み会やデートなどで知識を披露したい人。
知識を吸収したいけどあれこれ調べるのが面倒な人。
そして、物事の本質や奥深さを知りたい人。
純粋に「なるほど!」と思いたい人まで。
当たり前に感じていたことも、角度を変えた視野からみることで、別の面があることに初めて気付かされる。
その知識を他人にひけらかすだけでなく、その知識をもとに、固定観念から解放され、世の中の見え方を変えようではないか。
さすれば、「知識は力なり」の言葉の意味を実感できるはずである。
ハトのフンと宇宙の始まり
我々の住むこの宇宙が、かつて「ビッグバン」という大爆発から始まったことは、今や誰もが知る常識である。
しかし、その決定的な証拠を見つけたのが最新鋭の計算機でも天才の数式でもなく、「ハトのフンと格闘した二人の男」だったことはあまり知られていない。
1964年。
ニュージャージー州にあるベル研究所の巨大なアンテナで、アーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンの二人は頭を抱えていた。
彼らの目的は、人工衛星からの微弱な電波をキャッチすること。
そのためには、アンテナを完全に無音にする必要があった。
しかし、どうしても消えない「ザー……」という謎の低音ノイズが、24時間365日、全方角から鳴り響いていた。
「装置の中に原因があるに違いない」
そう考えた二人がアンテナ内部を覗き込むと、そこには招かれざる客が住み着いていた。
番(つがい)のハトである。
アンテナ内部は、ハトが残した「白い粘着性の誘電体物質」――平たく言えば、大量のハトのフンで埋め尽くされていた。
この光景を目の当たりにした二人の科学者は、エリートとしてのプライドを捨てて立ち上がる。
まずはハトを捕まえ、わざわざ50km先まで運んで解放した。
しかしハトは帰巣本能ですぐ戻ってきてしまう。
苦慮した彼らは最終的にハトを処分する。
ならばと次は、ヘラと雑巾でこびりついたフンを必死に削り落とし始めた。
なぜ彼らがなぜそこまでフンを嫌ったのか?
それは観測していた電波が「絶対零度よりわずか3度高いだけ」という、あまりに微弱なものだったからである。
フンのわずかな温もり(熱ノイズ)すら許せないほど、彼らは真剣だった。
地道で泥臭い作業の末に、アンテナ内部は元の綺麗な姿に。
これでノイズは消えるはずだ。
彼らはそう確信していた。
ところが、アンテナがピカピカになっても、あの「ザー……」という音は消えない。
絶望する彼らのもとに、一本の電話が繋がる。
相手は、すぐ近くの大学で「宇宙誕生の残響」を探していた物理学チームだった。
ハトのフンと格闘する彼らのすぐ近くのプリンストン大学では、ディッケ教授率いるエリートチームが「ビッグバンの証拠」を見つけるために専用の装置を必死に組み立てていたのだった。
「その消えないノイズ……それこそが、138億年前のビッグバンの瞬間に放たれた光の名残ですよ」
受話器を置いたディッケ教授が、仲間たちに放った一言はあまりに有名だ。
「諸君、先を越された(We've been scooped)」
彼らが「フンのせいだ」と忌み嫌い、必死に拭き取ろうとしていたもの。
それは、ハトの落とし物ではなく、宇宙が生まれた瞬間の産声(宇宙マイクロ波背景放射)そのものだったのである。
もし、この二人がハトのフンを無視して観測を諦めていたら?
あるいは、掃除をせずに「故障だ」と片付けていたら?
人類が宇宙の起源を科学的に証明する日は、数十年遅れていたかもしれない。
ヘラでフンを削り落とす。
そんな日常の泥臭い一歩が、人類の知識を「地球」から「宇宙の果て」へと一気に跳躍させる世紀の発見をもたらしたのである。
あなたの目の前にある些細なトラブルも、もしかしたら世界の真理に繋がる蝶の羽ばたきかもしれない。
ちなみにアナログテレビ(今の若い子は知らないかもしれないが、昔のブラウン管テレビなど)でチャンネルをどこにも合わせない時に映る、あの「シャー……」という白黒の砂嵐。
実はあのノイズの約1%〜数%は、ペンジアスとウィルソンがハトのフンを掃除してまで消そうとした、あの「ビッグバンの残響(宇宙マイクロ波背景放射)」そのものなのだ。
ビッグバンの名残である電波は、今も宇宙のあらゆる場所に満ちている。
テレビのアンテナは電波を拾う装置だが、放送局の電波がない場所では、宇宙から降り注いでいるこの「微弱な太古の電波」を拾い上げ、映像(砂嵐)と音(「シャー」という雑音)に変換してしまうのだ。
我々はお茶の間で138億年前の宇宙の産声、つまりビッグバンの名残を、今でもノイズとして目撃し続けているのである。
宇宙の始まりに何が起きたのか ビッグバンの残光「宇宙マイクロ波背景放射」 (ブルーバックス 2140)
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