これ考えた人は天才かよ!?
日産リーフのラジオCM『のびると結構変わる』篇
「のびる」だけで世界が変わる "長音" の魔力
はじめに
TVやラジオにおけるCMの存在は、視聴者・聴取者からしたら鬱陶しく感じるものなのかもしれない。
いいところでCMを入れてくる業界お約束の手法は、今も昔も変わらない。
何かと鬱陶しいCMを飛ばせる録画機能が現れた時は、なんて便利な機能なんだと多くのユーザーが喜んだものだ。
だが鬱陶しいと思われるCMの中には、そのセンス良さから思わず見入ってしまうものがある。
映像で魅せるものや、秀逸すぎるキャッチコピーで考えさせられるもの。
CMの、ただ品物を宣伝し売上げを上げる目的を超えた、アーティスティックなCMも数多く存在する。
たかだか30秒ほどのCMだが、ひとつのクリエイティブ作品に昇華させたものがあるのだ。
本稿では、独断と偏見ではあるが、あまりのセンスの良さに思わず唸ったCMをご紹介したいと思う。
日産リーフのラジオCM『のびると結構変わる』篇とは
日産リーフのラジオCM『のびると結構変わる』篇は、日本語の「長音(のばす音)」に着目した傑作広告。
音が伸びるだけで意味が180度反転するコミカルなエピソードを連発。
映像のないラジオの特性を活かしてリスナーの脳内映像を鮮やかに書き換えながら、最終的に新型リーフの進化という製品価値へ見事に着地させる、芸術的な構成が話題を呼んだ。
耳から始まる脳内ハッキング
思わず膝を打ったラジオCMがある。
日産リーフのCM『のびると結構変わる』篇だ。
流れてくるのは、一見すると何の変哲もない、けれどどこか違和感のあるエピソードたち。
そこで繰り広げられるのは、日本語の特性を突き詰めた、極めて精緻でいて、どこかシュールな言葉遊びの極致だった。
親友が私のカレをお持ち帰りした
親友が私のカレーをお持ち帰りした
先輩のカブは見事に落ちた
先輩のカーブは見事に落ちた
あそこのフロは熱すぎた
あそこのフローは熱すぎた
趣味を聞かれてスキだよ、と答えた
趣味を聞かれてスキーだよ、と答えた
その男は私のハトを奪った
その男は私のハートを奪った
結婚しようと言われた、バスで
結婚しようと言われた、バースデー
のびると結構変わる
航続距離がグーンとのびた新型日産リフ
失礼
新型日産リーフ
たとえば、
「親友が私のカレをお持ち帰りした」
「親友が私のカレーをお持ち帰りした」
修羅場かと思いきや、ただの微笑ましいお裾分け。
こんな調子で、小気味よく、音が伸びることで意味が変わる言葉を畳み掛ける。
「カブ(株・バイク)」と「カーブ」。
「ハト」と「ハート」。
「バス」と「バースデー」。
聴いている側は、その音の伸び縮みがもたらすギャップに、いつの間にか脳を心地よく刺激される。
このCMの凄みは、単なる同音異義語(同じ発音で意味が異なる言葉)のダジャレで終わっていない点にある。
通常、同音異義語の面白さは「同じ音なのに違う意味になる」という意外性に宿る。
しかし、このCMが突いているのは長音(のばす音)の有無だけで物語を180度反転させることができてしまうという、日本語特有の構造だ。
「カレ」が「カレー」になれば修羅場が夕食の風景に変わり、「ハト」が「ハート」になれば手品が愛の告白へと昇華される。
わずか一音の「のび」が、絶望を喜劇に変え、日常をドラマに変えてしまう。
この一音の差が、決定的な価値の差を生むという構造こそが、このCMの心臓部だ。
そしてこの仕掛けは、聴覚のみに訴えかけるというラジオの特性があってこそ、初めてその魅力を100%爆発させることができる。
もしこれがテレビCMで、文字のテロップや絵が同時に見えてしまっていたら、これほどの驚きはなかっただろう。
「カレをお持ち帰り」と聴いた瞬間、我々の脳内には、自然とドロドロした人間関係の映像が浮かぶ。
しかし次の瞬間、「カレー」という音によって、その映像が一気に書き換えられる。
視覚情報がないからこそ、聴き手は耳から入る音だけを頼りに、頭の中で必死に情景を想像する。
このリスナーの想像力を強制駆動させるというラジオCMならではの魅力が、言葉遊びのギャップを何倍にも増幅させているのだ。
流れてくる小気味よいリズムで舞台は廻る。
そして、完璧なタイミングでこのフレーズが差し込まれる。
「のびると結構変わる」
この瞬間、それまでの言葉遊びはすべて、「航続距離がのびた」という、最大の売り文句を際立たせるための壮大な伏線へと変わる。
CMとして、これ以上の効果があるだろうか。
さらに、このCMが秀逸なのは、単なる駄洒落で終わっていない点だ。
航続距離が「のびる」。
それはEVにとって、単なる数字の更新ではない。
「ハト」が「ハート」になるように、行けなかった場所へ行けるようになり、見えなかった景色が見えるようになる。
つまり、人生の解像度そのものが変わるということを、この鮮やかな言葉遊びが雄弁に物語っている。
CMのラスト、自虐的なダメ押しで、自社ブランド名すら「のびるか、のびないか」の実験台に供してみせる。
この潔いまでに徹底したプロフェッショナルの遊び心は、製品の進化に対する絶対的な自信の裏返しでもあるだろう。
音声のみで勝負するラジオという戦場で、言葉の音そのものに着目し、機能美へと着地させたこのCM。
まさに、日本語という楽器と、ラジオというメディアを完璧に使いこなした言葉の芸術と呼ぶに相応しい、まさに耳に残る名作といえるだろう。
「のびる」ということは、こんなにもワクワクすることなんだ。
その「のび」ている一音は、電気自動車(EV)のみならず、人の想像力にどれほどの可能性と進化が詰まっているのかを示している。
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