日本映画
国宝
※本稿はネタバレを含みます。ご注意下さい。
「効率(タイムパフォーマンス)」が息をひそめる175分
日本映画『国宝』とは
「100年に1本の壮大な芸道映画」
日本映画の歴史に刻まれる、
美しく熱い、
圧倒的傑作が誕生。
吉田修一先生自身が3年間歌舞伎の黒衣を纏い、楽屋に入った経験を血肉にし、書き上げた渾身作「国宝」。
任侠の一門に生まれながらも、歌舞伎役者の家に引き取られ、芸の道に人生を捧げた主人公・喜久雄の50年を描いた壮大な一代記。
そんな「国宝」が、世界最高峰のスタッフ&キャストと奇跡のような集結を果たし、堂々の映画化。
本作のメガホンを執るのは、李相日監督。
『フラガール』では日本中を感動の涙で包み、第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞を受賞した、常に最新作が期待される監督。
脚本は奥寺佐渡子さん。
『サマー・ウォーズ』、ドラマ「最愛」など、アニメ・実写に限らず、複雑に絡みあう人間関係や、心のひだの部分にも光を当てる表現で、様々な脚本賞の受賞歴を持つ日本を代表する脚本家。
撮影にはソフィアン・エル・ファニ氏。
『アデル、ブルーは熱い色』で第66回カンヌ国際映画祭パルム・ドールの獲得経験を持ち、今回李監督たっての希望を受けて参加。
世界にも通ずる視点でとらえた撮影にも要注目。
美術監督には『キル・ビル』の種田陽平氏。
歌舞伎という禁断の世界を美しく、鮮やかに演出する。
また、四代目中村鴈治郎氏が本作の歌舞伎指導に入り、本編に俳優としても参加。
緻密で繊細な所作を、女形を演じる俳優陣へ擦り込み、作品を更に高みへと引き上げる。
キャストにも、日本を代表する超豪華俳優陣の顔ぶれ。
主演である稀代の女形・立花喜久雄を演じるのは、その美貌をもちながら、どんな役でも演じ切る圧倒的演技力で、脚光を浴び続ける吉沢亮氏。
喜久雄のライバルとなる歌舞伎名門の御曹司・大垣俊介を演じるのは、第48回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞が記憶に新しく、その他数々の受賞歴を持つ横浜流星氏。
そして歌舞伎名門の当主・花井半二郎に、もはや世界的名俳優と名高い渡辺謙氏。
更には、高畑充希さん、寺島しのぶさん、田中泯氏、永瀬正敏氏、森七菜さん、三浦貴大氏、見上愛さん、黒川想矢氏、越山敬達氏、嶋田久作氏、宮澤エマさんといった、日本映画には欠かせない主演級の俳優たちが一堂に揃い、物語を更に美しく、熱くする。
制作は『キングダム』シリーズ、『ゴールデンカムイ』シリーズのCREDEUS(クレデウス)が担い、観る者を圧倒するエンターテインメント作品へ昇華。
超一流の原作&ストーリー&キャスト&スタッフが圧倒的熱量で贈る『国宝』。
人生で観るべき、魂が震える映画体験を――
原作:「国宝」/ 吉田修一(朝日新聞出版)
「国宝」は、吉田修一先生の小説である。吉田修一作家生活20周年記念作品、および朝日新聞出版10周年記念作品。
歌舞伎役者を描く小説で、吉田先生は中村鴈治郎氏の協力のもと3年間にわたり黒衣として舞台裏を取材した。
朝日新聞に2017年1月1日から2018年5月29日にかけて連載された後、加筆修正され2018年9月7日に「国宝 上 青春篇」「国宝 下 花道篇」の二部構成で朝日新聞出版から同日発売。
第69回芸術選奨文部科学大臣賞、第14回中央公論文芸賞受賞。
あらすじ
後に国の宝となる男は、任侠の一門に生まれた。
この世ならざる美しい顔をもつ喜久雄は、抗争によって父を亡くした後、上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎に引き取られ、歌舞伎の世界へ飛び込む。
そこで、半二郎の実の息子として、生まれながらに将来を約束された御曹司・俊介と出会う。
正反対の血筋を受け継ぎ、生い立ちも才能も異なる二人。
ライバルとして互いに高め合い、芸に青春をささげていくのだが、多くの出会いと別れが、運命の歯車を大きく狂わせてゆく...。
誰も見たことのない禁断の「歌舞伎」の世界。
血筋と才能、歓喜と絶望、信頼と裏切り。
もがき苦しむ壮絶な人生の先にある "感涙" と"熱狂"。
何のために芸の世界にしがみつき、激動の時代を生きながら、世界でただ一人の存在 "国宝" へと駆けあがるのか?
圧巻のクライマックスが、観る者全ての魂を震わせる―― 。
登場人物
立花喜久雄(花井東一郎→三代目花井半二郎)
演 - 吉沢亮 / 少年・喜久雄:演 - 黒川想矢
長崎の任侠の一門に生まれ、父を抗争の末に亡くす。
その後上方歌舞伎の名門の長で看板役者・花井半二郎に芸の才能を買われ、単身で歌舞伎の世界へ。
世襲の歌舞伎界の中で才能を武器に、稀代の女形として脚光を浴びていく。
大垣俊介(花井半弥→五代目 花井白虎)
演 - 横浜流星 / 少年・俊介:演 - 越山敬達
上方歌舞伎の名門の御曹司として生まれ、看板役者・花井半二郎を父に持つ。
生まれながらに将来を約束され、歌舞伎役者になることが運命づけられてきた。
喜久雄の親友・ライバルとして共に切磋琢磨していくが、喜久雄が才能を開花させていくにつれ、徐々に葛藤を抱き始める。
福田春江
演 - 高畑充希 / 少女・春江:演 - 根本真陽
喜久雄の幼馴染。
喜久雄を追って上阪し、ミナミのスナックで働きながら喜久雄を支える。
大垣幸子
演 - 寺島しのぶ
半二郎の後妻・俊介の実の母親で、上方歌舞伎の名門を支える女房。
初めは喜久雄を引き取ることに反発するが、喜久雄の役者としての才能に気づいて育てていく。
彰子
演 - 森七菜
歌舞伎役者・吾妻千五郎の娘。
喜久雄のことを慕う。
竹野
演 - 三浦貴大
歌舞伎の興行を手掛ける三友の社員。
世襲の歌舞伎に対して、冷ややかな態度をとる。
梅木
演 - 嶋田久作
歌舞伎の興行を手掛ける三友の社長。
喜久雄と俊介を若い頃から見込んで、様々な大舞台を用意する。
藤駒
演 - 見上愛
喜久雄が京都の花街で出会う芸妓。
まだ無名の喜久雄の、役者としての才能を予見する。
綾乃
演 - 瀧内公美
立花権五郎
演 - 永瀬正敏
喜久雄の父親で長崎・立花組組長。
組同士の抗争によって命を落とす。
立花マツ
演 - 宮澤エマ
長崎・立花組組長の権五郎の後妻。
血は繋がらないが、若き頃の喜久雄を育てる。
吾妻千五郎
演 - 中村鴈治郎
上方歌舞伎の当主。
本作においては、歌舞伎指導も担当。
小野川万菊
演 - 田中泯
当代一の女形であり、人間国宝の歌舞伎役者。
若い頃の喜久雄と俊介に出会い、2人の役者人生に大きく関わっていく。
二代目花井半二郎→四代目花井白虎
演 - 渡辺謙
上方歌舞伎の名門の当主で看板役者。
逸早く喜久雄の女形としての才能を見出し、抗争で父親を亡くした喜久雄を引き取る。
息子の俊介同様に歌舞伎役者として育てながら、自身も役者としての地位を確立することを志す。
主題歌
- 「Luminance」
作曲・編曲:原摩利彦
作詞:坂本美雨
歌:原摩利彦 feat. 井口 理(King Gnu)
本作は主題歌から劇中曲まで、音楽にもこだわり抜かれている。
流行りのバンドに安易に楽曲提供を依頼しなかったそのこだわりは、本作の持つ格式を彩るに相応しい。
商業主義に走らず、作品の格調を守るために本気で音楽を選んだ姿勢は称賛に値するだろう。
とりわけ主題歌は、印象的なリュートやヴィオラ・ダ・ガンバに加え、チェロを歪ませた音など多彩な音色が用いられており、それらが劇中の他の場面の音楽ともリンクし映画全体に統一感をもたらす名曲だ。
なぜこれほど素晴らしく、かつ唯一無二の楽曲が生まれたのだろうか。
それは作詞に坂本美雨さん、歌にKing Gnuの井口 理氏を迎えたことに起因していると思われる。
ロックバンドKing Gnuでヴォーカルを務める井口 理氏であるが、言わずと知れた東京藝術大学音楽学部声楽科卒の正真正銘、本格派のヴォーカリストである。
そして作曲・編曲を務めた原摩利彦氏は生前の坂本龍一氏と親交があり、映画音楽において坂本氏から多大な影響を受けたという背景を持つ。
坂本美雨さんは、かつて「Sister M」で名を馳せた、言わずもがな坂本龍一氏の娘である。
父を師と仰いだ原氏の曲に、娘の坂本美雨さんが詞をのせる。
これほどエモーショナルな物語が他にあるだろうか。
〈原摩利彦×坂本美雨×井口 理〉
この奇跡的な化学反応こそが「Luminance」を、映画の終幕を飾るにふさわしい唯一無二の楽曲へと押し上げる。
本作自体が「親から子へ受け継がれる血筋や芸の因果」を描いた物語だからこそ、この「Luminance」の背景にある「坂本龍一氏という偉大な存在から繋がる、原氏と美雨さんのコラボレーション」が、映画のテーマそのものと美しく共鳴するのである。
国宝 オリジナル・サウンドトラック - 原摩利彦 (特典なし)
役者の意地、映画配給会社の意地
長い長いと、噂では聞いていた。
恥ずかしながら、歌舞伎の知識も芝居のルールも一切持ち合わせていない身で、倍速もせずにその長さに耐えられるか?
最後まで飽きずにいられるのか?
そんな心配は杞憂に終わった。
たしかに長い。
たしかに長いが、しかし退屈とは無縁である。
食い入るように画面を見つめた175分間。
コンテンツにあふれる現代。
タイムパフォーマンスを考えれば、倍速視聴は個人的にも有効な手段だと考えている。
だが、本作を前にすれば、倍速視聴は小賢しい見方と言わざるを得ない。
作品から溢れ出る演者たちの圧倒的な熱量と、一瞬の間の緊迫感。
それらが引力となり、観る者を強烈に惹きつけ、時間を等倍のまま毟り取っていく。
兎にも角にも演者の演技が素晴らしい。
このひと言に尽きる。
本作を的確に表現する言葉が、渡辺謙氏演じる二代目半次郎のセリフにあった。
お初として生きてへんから、お初として死ねへんねん
そう、これこそまさに本作に出演している演者は全員が実践していたことのように思う。
全員がその役柄として生きていた。
だからその役柄と心中できたのだ。
たとえば森七菜さん。
短いシーンではあったが、彼女の渾身の濡れ場は、ある意味本作と、そしてその役柄との心中ではなかっただろうか。
他、どのシーンも本当に素晴らしい。
歌舞伎シーンは、付け焼き刃で稽古した素人の演技とはとても思えないほどどれも堂に入っていた。
特に圧巻だったのはラストで吉沢亮氏が《鷺娘》を舞うシーン。
歌舞伎のことがまったくわからないこの身ですら、その所作すべてに魅入り、美しいと感じてしまった。
いったいどれほど血の滲むような稽古を重ねたら、あの領域に達するのか。
このシーンだけでも十分に観る価値がある。
脇には渡辺謙氏や田中泯氏といった超実力派の猛者たちが控えるなか、エンドロールで堂々とトップクレジットを飾る吉沢亮氏。
吉沢亮氏の演技は、それに相応しい名演技であった…というのが、個人的な感想である。
では、客観的に見てどうかというと、なかなかに判断が難しい。
原作既読者曰く、本作はいわばダイジェスト版。
ディテールは描かず、話がポンポン進んでいく。
テンポは良いが、その分観る者に委ねられる余白も多い。
たとえば、そもそも主人公・喜久雄の彼女的存在だったはずの春江が、なぜライバルである俊介と共に姿を消したのか?
この時の二人の心情は詳しく描かれておらず、だから観る者が推し量り、補完する必要に迫られる。
これは日本映画特有の余白の美学であるが、直接的な表現に慣れてしまった現代人には不親切な仕様である。
そういう不親切さも含めて作品の魅力であるのだが、そういう表現法に不慣れな人には少し難しい作品なのかもしれない。
また物語で描くのは、想像の中にある梨園そのもの。
世襲、伝統、格式を重んじる隔絶した世界。
浮世離れしているといえばたしかにそうだが、まるで昼ドラのようなドロドロの人間模様は、ある意味人間社会の縮図のようでもある。
小競り合いはあっても特別派手な事件は起きない。
ただただ、美しい歌舞伎シーンと、醜い人間模様が交互に描き出されていく。
起伏はあるが、淡々としているといえば淡々とした物語。
それでも、少しでも興味があるならば長丁場も苦にならない。
だが、万人受けするかというと疑問が残る。
ただ話題作だからという動機だけでは、175分間はあまりに長い時間なのかもしれない。
本来ならば、角界を描いた『サンクチュアリ』(観てないけど)や、女子プロレスの世界を『極悪女王』(観てないけど)のように、映像配信コンテンツのシリーズものとして制作されても良さそうな作品だ。
これらは梨園同様、閉鎖的な社会を描いた作品であり、それでもしかし一定の評価を得ている。
つまり成功へのレールは敷かれていたのだ。
それなのに長い上映時間も顧みず、あえて劇場版として勝負した。
そこには、映像配信時代だからこそ、あえて劇場版で勝負しようとした、映画界の巨人・東宝の映画配給会社としての意地を感じる。
おかげで上映時間は、ほぼ3時間と、非常に長いものになってしまったのだが…。
とはいえ、日本アカデミー賞最優秀作品賞の名に恥じぬ作品ではある。
文句なしの名作といっていい。
梨園や古典芸能に興味がある人は必見。
そうでない人も、若手人気俳優のフィルターを通すことで、堅苦しい印象の歌舞伎を身近に感じることはできるだろう。
せっかく人気俳優の吉沢亮・横浜流星両氏が熱演してくれたのだ。
これを機に、日本の伝統文化に触れてみるのもいいのではないだろうか。
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