落語『睨み返し』は、武力でイランを睨みつけて完全降伏させようとしたものの、ホルムズ海峡を封鎖されて米国内のガソリン暴騰&大恐慌寸前の経済大惨事に直面し、慌ててヴェルサイユ宮殿で大幅譲歩の停戦覚書にサインさせられたトランプ大統領の思惑外れ
落語『睨み返し』
「大晦日、箱提灯は恐くなし」※で、この日だけは箱提灯を持つ侍より、弓張り提灯を持った掛取りの方が怖かった。
長屋の熊五郎。
家にいて責められるのが嫌さに、日がな一日うろついて帰ると、その間、矢面に立たされた女房はカンカン。
「薪屋にも米屋にも、うちの人が帰りましたら夜必ずお届けしますと、言い訳して帰したのに、金策もしないでどうするつもりなんだい」
と、責めたてる。
もめているところへ、その薪屋。
本日三度目のご出張でございます。
熊五郎が、
「払えねえ」
と開き直ると、薪屋も負けじと
「払うまで帰らない」
と、すごむ。
すると熊五郎。
「それなら俺も、払うまではおめえを帰さねえ。ただし、三月待て。飯は出さねえが、葬式は出してやる」
慌てた薪屋。
「今日は勘定をもらったつもりで帰る」
と言ったが最後、借金を払った(つもり)の受取まで書かされ、
「おい、十円札で払ったから、釣りを置いてけ」
と熊五郎。
薪屋はすごすごと退散します。
まだ続々と来る予定の掛取りをどうしようかと思っていたところへ、
「え~、借金の言い訳ぇ~、しましょ~う。え~、借金の言い訳ぇ~、しましょ~う」
と売り声が。
男を呼んで話を聞くと、
「1時間に2円の手間で、掛取りを追い返します」
という。
どうにか小銭をかき集めて払うと言い訳屋、
「すみませんが、ご夫婦で押し入れに入っていていただきましょう。クスリと一声を出されても、こっちの仕事がうまくいきませんから、交渉中は黙っていただくよう」
しばらくすると、米屋。
「えー、熊さんは、親方はお留守で?」
見ると、見慣れない男が煙草を吸いながら、無言でにらみつけるだけ。
何を聞いても返事をしない。
米屋は怖がって帰ってしまう。
次は酒屋。
同じようにすごすご退散。
また次は、高利貸の代理人で、那須という男。
「何ですか、君は。恐ろしい顔だな。ご親戚ですか。おい君、黙っておってはわからん。無礼だね。君……」
何を言っても、ものすごい目でにらむばかり。
さすがの海千山千の取立人も、気味が悪くなって帰ってしまった。
喜んで熊五郎が礼を言うと、ちょうど十二時を打った。
「時間が来ましたようで、これで失礼を」
「弱ったなあ。あと二〜三人来るんだが、もう三十分ばかり」
「いや、せっかくですが、お断りします」
「どうして?」
「そうしたいのですが、これから家へ帰って自分の分をにらみます」
※.「大晦日、箱提灯は恐くなし」
江戸時代の川柳で、普段は権力の象徴として恐れられる武士の「箱提灯」よりも、大晦日ばかりは借金の取り立てに来る町人の「弓張り提灯」のほうがよほど怖い、という意味を表している。
えー、世の中にはメンツだのハッタリだので生きてるお人がたくさんおりますが、どうも「睨み合い」ってのは、相手を間違えるととんでもない大怪我をいたします。
落語の『睨み返し』なんざぁ、大晦日に借金取りが押し寄せて、実力じゃあとても返せないからってんで、睨み合いのプロを雇って玄関先で借金取りを睨み倒そうとする。
最初のうちはハッタリが効いて、借金取りを追い返すんですがね、最後に思わぬ大誤算が待っている……という、おめでたい滑稽噺でございます。
ところが、これが海の向こうのワシントン。
あの、金髪を綺麗に横に流した口の減らない大統領さんの話となると、世界中が笑うに笑えない。
この大統領さん。
大晦日の借金取りならぬ、中東のイランって国を相手に、お得意の「睨み合い」を始めたわけでございます。
「おい、イラン。てめえの持ってる弾道ミサイルも核開発も、俺がジロリとにらみつければ一発で降伏するに決まってる。アメリカの武力ってのは世界一なんだ。どうだ、怖いか!」
ってんで、自慢の軍隊をズラリと並べて、そりゃあ恐ろしい顔で睨みを利かせた。
ところがだ、相手のイランってのも、一筋縄じゃあいきやしません。
「何がアメリカだ、何が大統領だ。そんなに睨むんなら、こっちだってタダじゃあ起きないぞ」
ってんで、世界中の油タンカーが通るホルムズ海峡ってえ細い海の道を、グッと睨み返して蓋をしちまった。
さあ、こうなると慌てたのは睨みつけていた大統領さんの方でございます。
海の道が塞がれた途端、世界中で油が足りなくなって、アメリカ国内のガソリン価格が火がついたように跳ね上がっちまった。
一般庶民からは、
「ガソリンが高くて車に乗れねえ!」
「大恐慌が来るぞ!」
って大ブーイング。
おまけに秋には中間選挙なんて大事な集票レースが控えてるもんだから、ここで株価が暴落したらご自慢の自分の席が危ない。
あれほどノーベル平和賞を欲しがった大統領さんだ。
どうにかして名誉で歴史に名を残したいと躍起になっております。
ところがどっこい、その大統領さんのせいで今や世界は大恐慌寸前。
もしそんなことになっちまったら、歴史に悪名が残ってしまう。
これに慌てた大統領さん。
さっきまで凄んでいた顔が、一瞬でブルブル震える引きつり笑いに早変わりだ。
で、どうしたかっていうと、フランスのヴェルサイユ宮殿って、これまた立派なお屋敷でG7の夕食会があったんですがね。
そこでマクロン大統領なんかに、
「ほら、トランプさん、早くサインしちゃいなさい」
なんて宥めすかされてさ。
あんなに睨みつけていたくせに、イランの言い分をジャブジャブ受け入れた "大譲歩の停戦覚書" に、大慌てでサラサラッと前倒しで署名しちまった。
イランの資産は返してやるわ、ミサイル持つのも「まあ他国も持ってるから不公平だしな」なんて言い訳するわ、もう譲歩に譲歩を重ねたフルコースだ。
それなのに、宮殿を出るときには、記者団に向かって得意のハッタリでこう言い放った。
「ご覧の通りだ! 我々はすべての目標以上を実現した! これこそが歴史上、最も成功したサミットだ!」
なんて、胸を張ってポーズを決めてるんだから、往生際が良いんだか悪いんだか。
イランの方じゃあ裏で、
「武力でやろうとしたことを、交渉だけで何倍もぶんどってやった。アメリカの完全な敗北の記録だ」
って、大笑いしてるってえのにねえ。
思えば、この大統領さん。
イスラエルに頼まれて、渡に舟とばかりにイランに睨みを利かせていたわけでして、それが突然、不完全に終わってしまった。
「時間が来ましたようで、これで失礼を」
急に梯子を外されたイスラエル。
困ったのはメタニエフ首相だ。
「弱ったなあ。もう三十分ばかり」
「いや、せっかくですが、お断りします」
「どうして?」
「そうしたいのですが、これから中間選挙を控えた自国へ帰って有権者を睨みます」
☆今すぐApp Storeでダウンロード⤵︎
![柳家小さん 落語名演集 狸の賽/睨み返し [DVD] 柳家小さん 落語名演集 狸の賽/睨み返し [DVD]](https://m.media-amazon.com/images/I/51B-qxqPJ8L._SL500_.jpg)

