知識の泉
今すぐ誰かに話したくなる知的雑学
夏の夜を優しく守る、あの紫煙……蚊取り線香の「渦巻き」に込められた、愛と知恵のカタチ
知識は力なり
かの有名なイギリスの哲学者、フランシス・ベーコンは言った。
「知識は力なり」と。
この言葉には、読んで字の如く「知識は自身の力になる」という意味とは別に、「経験によって得た知識を、いかにして実践的に使用することができるのか」という意味も込められている。
雑学も同様だと思う。
実際には、生きていく上で何の役にも立たないと思われている、どうでもいい情報群。
それが雑学という分野といえるだろう。
しかし雑学で得た知識を、どのように使うのかは人それぞれ。
普段の話のネタに困っている人。
トーク力を上げたい人。
飲み会やデートなどで知識を披露したい人。
知識を吸収したいけどあれこれ調べるのが面倒な人。
そして、物事の本質や奥深さを知りたい人。
純粋に「なるほど!」と思いたい人まで。
当たり前に感じていたことも、角度を変えた視野からみることで、別の面があることに初めて気付かされる。
その知識を他人にひけらかすだけでなく、その知識をもとに、固定観念から解放され、世の中の見え方を変えようではないか。
さすれば、「知識は力なり」の言葉の意味を実感できるはずである。
金鳥の夏、日本の夏
日本の夏を象徴する、どこか懐かしいあの香り。
縁側から漂う一筋の煙と、あの独特な渦巻きのシルエットは、それだけで夕涼みの穏やかな情景を運んできてくれる。
そう、夏の夜の守り神「蚊取り線香」である。
ところで、あの蚊取り線香のカタチ。
なぜ、わざわざあのようにクルクルととぐろを巻いた姿をしているのか、その本当の理由をご存知だろうか。
今でこそ渦巻き型が当たり前になっているが、明治時代に日本で初めて発売された当初の蚊取り線香は、実はまったく違う姿をしていた。
蚊取り線香はじまりの姿とは仏壇に供えるお香と同じ、真っ直ぐな棒状をしていた。
仕組みは今と変わらず効果的だったものの、棒状の蚊取り線香には、ある切実な悩みがあった。
それは燃焼時間である。
真っ直ぐな棒の長さでは、火をつけてからわずか40分ほどで燃え尽きてしまい、人々が安心して眠りにつく前に効果が切れてしまっていた。
さらに、見た目がお線香にそっくりだったため、お盆の時期に仏壇へ供えられてしまうという、当時の人々ならではの微笑ましい勘違いも多発したという。
「一晩中(約7時間)長持ちして、しかも場所を取らずに安全に使えるカタチはないだろうか……」
開発者である金鳥の創業者・上山英一郎氏は、来る日も来る日も頭を悩ませていた。
そんなある日のこと、行き詰まっていた彼の背中を押したのは、妻であるゆきさんの温かい一言だった。
ある夕暮れ時、庭の片隅でとぐろを巻いてじっとしているヘビを見つけた妻が、ふと夫にこう告げたのである。
「あなた、あのヘビのように、お線香をぐるぐると渦巻き状に巻いてみてはいかがでしょうか」
この一言が、歴史を動かす大ひらめきとなった。
真っ直ぐな線を渦巻きにすれば、長さは数倍になり、一晩中燃やし続けることができる。
さらに、中心に向かってコンパクトに収まるため、広いスペースも必要としない。
こうして、妻の優しい観察眼と遊び心から、あの美しい「渦巻き型」のプロトタイプが誕生したのである。
しかし、アイデアは素晴らしかったものの、当時の技術で柔らかい線香を一本一本手作業で渦巻き状に巻くのは、至難の業であった。
乾燥させる過程でひび割れてしまうなど、数え切れないほどの試行錯誤を繰り返しながらも、夫婦は二人三脚でこのカタチを完成させていった。
エアコンや電子蚊取りが普及した現代、利便性だけでいえば、煙の出るあの蚊取り線香はとっくに主役の座を譲っていてもおかしくない。
それでも今なお残り続けているのは、我々日本人が「あの香りと風情」を愛しているから。
そして、ただの虫除け道具としてではなく、愛する家族が朝まで健やかに眠れるようにという、優しい願いと知恵がその曲線に詰まっているからなのかもしれない。
蚊取り線香の灰がゆっくりと落ちていく、あの静かな時間。
あの紫煙を見つめれば、心はたちまちトトロの夏休みの情景へ。
今年の夏は物置きの奥底で眠っている蚊帳を引っ張り出してきて、天然の風と心地よい煙の香りに身を委ねてみてはいかがだろう。
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