其の四十四
美しき日本語の世界。
今ではすっかり聞くことがなくなった「燻らせる」読める?
「燻らせる」は「くゆらせる」
「くゆらせる」は、「燻らす」または「薫らす」の使役形(~させる)で、煙や香りをゆっくりと立ち上らせる、または、そのような状態にするという意味である。
具体的には、煙草をくゆらせる、お香をくゆらせるといった遣い方をし、文字通り煙を立たせる、くすぶらせることを指す。
たとえば「煙草をくゆらせる」とは、煙草の煙を口の中で楽しむようにゆっくりと立ち上らせる様子を表し、「お香をくゆらせる」とはお香を焚いて、その煙を部屋に広げる様子を表している。
しかしこれが「くゆらす」となると、意味合いが若干違ってくるから面白い。
「燻らす」は煙でいぶす、という意味合いが強い。
また「薫らす」は香りを立たせる、という意味合いが強い。
さらにはワインの文脈に、「ワインをくゆらせる」という表現がある。
これはワイングラスを回してワインを空気に触れさせ、香りを引き立たせる行為(スワリング)を指すことが多い。
香りが立ち上る様子を煙に喩えるとは、なんとも趣きがある言葉ではないだろうか。
待ち焦がれていた言葉 バーカウンターの二人はアシンメトリーな戸惑いを燻らせる
失われつつある美しい言葉
「くゆらせる」は、昔は小説にもよく登場した言葉である。
煙草を吸った後、煙を吐き出し漂わせる行為には、えもいわれぬ哀愁やそこはかとない悲哀が感じられたからだろう。
だが、煙草を吸う人が激減した現在ではすっかり遣われることもなくなり、その言葉はあらゆる文芸からも姿を消しつつある。
もはや「紫煙をくゆらせる」ことは、社会悪なのだろう。
だが、「くゆらせる」という言葉が持つ響きやリズム、言葉から受ける感覚的な印象は、丸く、優しく、おだやかな音を持つ日本語の素晴らしさそのものではないだろうか。
日本語の語感の良さは、言葉の持つ奥深さや美しさを感じさせてくれる。
また、語感の良い言葉を意識することで、より豊かな表現力を身につけることができる。
こういう言葉が失われていくのは、あまりに惜しい。
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