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完全趣味の世界

ioritorei’s blog

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美しき日本語の世界。[其の六十五]【ハイカラを生み出す、編集の美学 〜外国人が恋する「和製英語」というもう一つの美しき日本語〜】

 

其の六十五

美しき日本語の世界。

 

 

ハイカラを生み出す、編集の美学 〜外国人が恋する「和製英語」というもう一つの美しき日本語〜

 

 

 

 

 

 

 

独自の美意識が生んだクールな「言語進化」

 

 

「パソコン」「スキンシップ」「マイペース」。

これらはすべて、我々が日常的に使っている和製英語である。

学校の英語教育やビジネスの場では、「通じない間違った英語」「恥ずべき誤用」として、しばしばネガティブに語られる。

しかし今、海外の日本ファンや言語学者たちの間で、この「Wasei-Eigo」が静かなブームを呼んでいるのをご存知だろうか。

彼らはそれを単なる誤用とは呼ばない。

むしろ、日本人の圧倒的なクリエイティビティ(創造性)と、独自の美意識が生んだクールな「言語進化」として愛しているのだ。 

 

 

 

漢字伝来から続く、日本人の「編集の美学」

 

 

外から入ってきた文化を、拒絶せず、さりとて丸呑みもせず、自分たちの暮らしに馴染む形へと仕立て直す――。

この和製英語の営みは、実は今に始まったことではない。

かつて古代の日本人は、中国から漢字という外来の文字を受け入れた。

しかし、それをそのまま使うだけでなく、文字の形を崩して平仮名や片仮名を生み出し、さらには日本にしかない概念を表すために「峠」や「働」といった国字(和製漢字)まで創作した。

また、一つの文字に音読みと訓読みを持たせ、一つの言葉に複数のニュアンスを宿らせる高度な仕組みも構築した。

現代の日本人が英語に対して行っていることは、まさにこの地続きにある。

明治時代に西洋の文化を「ハイカラ」と呼び、熱狂的に受け入れながらも日本流に咀嚼したように、現代の和製英語もまた、千年以上前から日本人の血肉に流れる和魂洋才の精神、すなわち編集の美学の結晶なのである。

 

 

 

外国人が絶賛する、和製英語の「3つの美」

 

 

では、具体的に和製英語のどのような点が、海外の人々の心を捉えているのだろうか。

彼らが絶賛する理由は、大きく3つの「美」に集約される。

 

 

① 直感的で詩的な「表現の美」

 

英語本来の表現よりも、和製英語の方がはるかに優しく、情緒的だと評価されるケースは多い。

 

  • スキンシップ(Skin + Ship)

英語では「Physical contact(身体的接触)」と言うが、これではどこか事務的で冷たい。

しかし、肌を意味する「Skin」に、関係性を表す「-ship(友情や仲間意識)」を組み合わせたこの言葉は、親子のぬくもりや愛の通い合いを直感的に、かつ詩的に表現していると海外で大絶賛されている。

 

  • キャッチホン(Catch + Phone)

英語の「Call waiting」が単なる状態の説明であるのに対し、「かかってきた電話をキャッチする」という動的な表現は、非常に躍動感がありウィットに富んでいる。

 

 

② 相手を思いやる「気配りの美」

 

日本人の「おもてなし」や「和の精神」が、そのまま言葉のニュアンスに昇華したものもある。

 

  • マイペース(My + Pace)

英語の「At my own pace」を縮めたものだが、日本語の「マイペース」には、単に速度のことだけでなく、「他人に流されず、自分の心地よい生き方を大切にする人」という、肯定の眼差しが含まれる。

 

  • ペーパードライバー(Paper + Driver)

「免許証(紙)の上だけの運転手」という比喩は、自虐的でありながら誰も傷つけない、実に見事なユーモアである。

状況が瞬時に頭に浮かぶこの表現は、海外の日本オタク層の間で「天才的なネーミング」と称賛されている。

 

 

③ 俳句に通じる「リズム(音数)の美」

 

日本語には、古来より「五・七・五」の定型詩に代表されるように、音の響きや文字数に対する独自のこだわりがある。現代の日本人は、特に「4拍(4文字)」の響きに絶対的な心地よさを感じる。

  • コスパ(Cost + Performance)
  • リモコン(Remote + Control)
  • ワンピ(One-piece)

長い英単語の耳に心地よい部分だけを切り取り、4拍の短いポップな言葉にリサイズする。

このリズミカルな省略文化は、英語圏の人から見ると、極めてスタイリッシュで洗練された「言語のイノベーション」に映るのだ。

 

 

 

懐の深い日本語を、もっと愛するために

 

 

和製英語とは、我々が英語を扱いきれずに生んだ失敗作などではない。

外来の文化を優しく抱きとめ、日本の暮らし、日本のリズム、そして日本人の心に合うように仕立て直した「もう一つの美しき日本語」なのだ。

グローバル化が進み、「正しい英語」ばかりが求められる現代だからこそ、我々はこの「和製英語」という、日本人の持つあまりにも豊かでチャーミングな創造力に、もっと誇りを持っていいのではないだろうか。

 

 

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弥次郎

 

落語『弥次郎』は「有料だから」なんてケチな理由で大ボラを叩き続ける米国の太鼓持ち

 

 

 

 

 

 

 

落語『弥次郎』

 

 

「嘘つき弥次郎」と異名をとるホラ吹き男。

今日も隠居の家にホラを吹きにやってきた。

「しかし、おまえはどうして、そう無闇に嘘がつけるんだ。たまには本当にあったことで面白い話を聞かせてくれよ」

「じゃあご隠居、今日ばかりは本当にあった事を話しましょう。あれはあたしが、武者修行をしていた頃の話です…」

と、前置きして話はじめた。

一年ばかり北海道に行っていたが、あまり寒いので、あちらでは凍ったお茶をかじっている。

雨も凍って降るので、一本二本と数え、雨払いの棒を持って外出する。

「おはよう」の挨拶まで凍って、それを一本いくらで買い、溶かして旅館の目覚まし用に使う……。

と、次から次に言いたい放題。

火事が凍ったのを見て、見世物にしようと買い取り、牛方を雇って牛五、六頭を運ばせ、奥州南部へ。

しかし山中で火事が溶け、牛が丸焼け。

水をかけても消えないから、これが本当の「焼け牛に水」。

牛方が怒って追いかけてくるので、あわてて逃げ出し、気がつくととっぷり日が暮れ、灯が見えたので近づくと山賊の隠れ家。

山賊と大立ち回りになり、三間四方の大岩を小脇に抱え……。

「おいおい、三間四方の岩が小脇に抱えられるわけないだろう?」

「まん中がくびれたひょうたん岩」

「ふざけちゃいけない」

岩をちぎっては投げ。

「岩がちぎれるかい」

「できたてなんで柔らかいんで」

山賊を追っ払って、安心して眠りこけると山鳴りのような音。

目を覚ましてみると大猪。

逃げ出して杉の木にかけ登ると、先客がいて、これが天狗。

上に天狗、下に猪で、進退極まった。

猪が鼻面で木の根を掘りはじめ、グラグラ揺れる。

そこで、ヒラリと猪の背中に飛び下りた。

振り落とそうと跳ね回るので、股ぐらをさぐると、大きな金玉。

押しいただいてギュッと握りつぶすと引っくり返ったんで、止めを刺そうと腹を裂くと、なかから子猪が十六匹、だから「シシの十六」。

「馬鹿馬鹿しいや。おまえ、どこを握って殺したって?」

「金玉で」

「金玉握ったってんならオスだろう?オスの腹から子供が出るかい」

「そこが畜生の浅ましさ」

「冗談言っちゃいけねえ」

すると、松明をかざした四、五十人の男に取り巻かれ、連れていかれたのが庄屋の家。

よくぞ悪猪を退治してくださったと、下にも置かぬ大歓迎。

いい気持ちで寝ていると、庄屋の娘が言い寄ってくる。

面倒くさいので逃げ出して、いつしか南部から紀州の白浜へ一足飛び。

船頭に祝儀をやって渡してもらい、若い娘が来ても渡さないように頼むと、道成寺という荒れ寺に飛び込み、台所の水瓶の中でブルブル震えていた。

娘は、さては別に女がいるかと、嫉妬で後を追いかけ、たちまち日高川の渡し場。

船頭は買収されているからいくら頼んでも渡さない。

娘はザンブと水に飛び込み、二十尋(ひろ)の大蛇といいたいが、不景気だから一尺五寸の蛇に変身。

道成寺に辿り着き、この水瓶が怪しいと、周りをグルグルと七巻き半。

「一尺五寸の蛇が、どうやって大きな水瓶を七巻き半巻いたんだい?」

「それがギューンと気力で伸びた」

「まるで飴細工だね」

「ところが、しばらくたつと、その蛇が溶けちまった」

「どういうわけで?」

「寺男が無精で掃除をしないから、ナメクジが水瓶の底に張りついていた」

「なんだい、それじゃ虫拳※1だね」

「その時、中啓※2を持ってスッと立ったナリは、実にいい男」

「弥次さん、おまえさん、武士だったのかい」

「いえ、安珍という山伏で」

「道理で、ホラを吹きっぱなしだ」

 

 


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※1.虫拳(むしけん)

「虫拳(むしけん)」とは、ヘビ、カエル、ナメクジの三竦みで行う、じゃんけんのルーツとなった古い「拳(けん)遊び」のこと。

  • ヘビ(人差し指)は、カエルを食べるので カエルに勝つ。
  • カエル(親指)は、ナメクジを溶かすので ナメクジに勝つ。
  • ナメクジ(小指)は、ヘビの体に入って溶かすので ヘビに勝つ。

 

※2.中啓(ちゅうけい)

「中啓」とは、山伏(修験道の修行僧).が儀礼や儀式で手にする、先端が少し広がった格式高い扇子のこと。

なぜ「中啓」という言葉が出てくるのかというと、この言葉は弥次郎が「自分はただの男ではない(高貴な山伏である)」という嘘を演出するための小道具として使われているため。

サゲのこの一連の流れは「安珍・清姫(あんちんきよひめ)伝説」という、和歌山県の道成寺に伝わる恋の怨念による悲恋の物語のパロディ。

 

 

落語の世界には、しばしばどうしようもないホラ吹きが登場いたします。

その場しのぎの嘘を上書きしていくもんだから、話してる本人も結局なにがなんだかわからなくなっちゃう。

そんなお馬鹿な野郎でも、落語だから「本当に仕様のねえホラ吹きだねえ」とカラリと笑っていられます。

しかし、一国の首相が大ホラ吹きとなりますと、こりゃもう大変なことでございまして…。

今、永田町で繰り広げられてる山伏たちの集い。

こいつらの言い訳を眺めておりますと、必死すぎる屁理屈がどうもこの弥次郎の姿にみえて仕方ない。

そりゃあもう、これから戦でも起こるのかってくらい法螺の音が鳴り響いております。

なんでも、お上の公設秘書が他候補の中傷動画づくりに関わっていたとされる問題ってえのがあるようでして、その疑いを裏付ける決定的な音声データ。

これが公開されたようですな。

しかしなんでしょうね、あのお上の馬鹿馬鹿しい国会答弁は。

野党から「音声データが公開されているが、本人の声か確認したのか?」と問われたお上。

普通なら「すぐに聴いて確かめます」となりそうなもんですが、そこはさすが永田町の弥次郎です。

口から飛び出したのは、弥次郎も真っ青な、それはそれは見事な大ホラでございました。

「そこの有料オンライン会員になろうとは思わなかった。登録方法も分からず、規約がどうのこうので確認できなかった」

って、おいおい、そりゃあ一里四方の巨大な猪がいるって言い張るなんかより、よっぽど無理のある嘘じゃあないんですかね。

日本国を背負って国家経営をしておられるさぞやお偉い総理大臣様が、週刊誌のわずかな月額をケチって「有料だから聴けませんでした」だなんてえケチな屁理屈でゴネる有り様。

恥ずかげもなく、よくもまあそんな大ホラが吹けたもんだってえ、感心すらしてまいります。

とはいえ、そんな醜態を見せられたら、不祥事の言い訳を考える前に、まずはその「確認したくないから聴かない」という透けて見える卑しい魂胆を考え直したらどうなんだい?ってえ言いたくなりますがね。

しまいには、野党からデータを提供されたらされたで、「音声じゃなく文字起こしで確認した」だの、「自分の声を利用したAIの音声かもしれない」だの、「声が普段より高いから違和感がある」だの……。

突っ込まれるたびに「できたての岩は柔らかい」「気合いで伸びた蛇」と言い訳を重ねた『弥次郎』そのものじゃあないですか。

しかし、するってえとなにかい。

都合の悪いことには「有料だから」ってえ理由で耳を塞いでもいいってことですかい?

そりゃあいいや!

政治家が有料を理由に答弁を拒否できるってんなら、国民だって国益放送を、

「そこの有料会員に私になれということであれば、それはできません。有料会員になるということ自体、私は拒否します。」

ってえ突っぱねられるじゃねえか!!

 

 


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「お上、おまえさん、大学時代は軽音楽部にいたそうだね。専門は法螺かい?」

「いや、ヘヴィメタルバンドでドラムを担当してまして」

「ずいぶん法螺吹きが達者だと思っていたんだがそうかい、ドラムかい。道理で、太鼓持ちが上手いわけだ」

 

 

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美しき日本語の世界。[其の六十四]【言葉の暖簾をくぐる ――店主の呼び方に宿る「粋」と「野暮」】

 

其の六十四

美しき日本語の世界。

 

 

 

 

 

 

 

 

言葉の暖簾をくぐる ――店主の呼び方に宿る「粋」と「野暮」

 

 

夕暮れ時、お気に入りの店の暖簾をくぐる。

あるいは、少し重みのあるオーセンティックバーの扉を押し開ける。

日常から非日常へと足を踏み入れるその瞬間に、我々はその店の主(あるじ)と対峙することになる。

「すみません」

誰にでも通じるその一言で声をかけるのは、現代において最も合理的で、間違いのない方法かもしれない。

しかし、日本の酒場や喫茶店には、その空間の空気を一瞬で変えてしまう不思議な言葉たちが息づいている。
「大将」「マスター」「親方」「女将」「ママ」 ――そこには、枚挙にいとまがないほどの豊かなバリエーションがある。

我々日本人は店主をどう呼ぶかという選択において、単に人を特定する記号を口にしているのではない。

それぞれの店主の呼び方は、その店の歴史や格、そして自分とその店との距離感を測りながら、我々は無意識のうちに言葉を選び取っているのである。

それは画一化されたOwner(オーナー)や Boss(ボス)とはまた別の、日本人ならでは感性。

かつて日本人が大切にしてきた美意識に「粋(いき)」と「野暮(やぼ)」がある。

この店主の呼び方ほど、客側の「粋」と「野暮」が試される舞台はない。

たとえば、使い込まれた一枚板のカウンターが美しい鮨屋で、職人気質の店主に向かって「マネージャー」と呼びかけたらどうだろう。

あるいは、薄暗いジャズが流れるバーで、蝶ネクタイを締めたバーテンダーに「大将、いつものを」と声をかけたらどうだろう。

どちらも言葉の意味としては通じる。

しかし、その場の空気は一瞬にして凍りつき、洗練された空間に無粋なひび割れが入ってしまうだろう。

これこそ「野暮」というものである。

店の格や流儀を解さず、己の都合だけで言葉を放つとき、空間の調和は崩れてしまう。

一方で「粋」な客は、言葉を使ってその空間に見事に溶け込む。

活気ある赤提灯の暖簾をくぐれば、少しお腹から声を出すように「大将、ビールね」と呼びかける。

その響きには、店主の腕前への信頼と、一歩懐に飛び込むような潔い人情味が込められている。

また、琥珀色の液体が揺れる純喫茶では、静かに「マスター」と声をかける。

その言葉は、お互いの私生活には深く踏み込まないという、大人の洗練された距離感を保つための心地よい結界となる。

「私はあなたの店の流儀を理解し、この空間を愛しています」

場の空気を感じ取り、最適な呼び方を選ぶということは、店主に対する極めて上品な敬意の表明なのだ。

店主もまた、その呼び方に応じた主の顔になり、客を迎え入れる。

言葉ひとつで、客と店主の間に阿吽の呼吸が生まれ、ただの飲食店が大人の社交場へと昇華する。

マニュアル通りの無機質な言葉が溢れる現代だからこそ、相手の佇まいを尊び、ふさわしい言葉を添える客側の美学。

客としてのモラルが失われつつある現代だからこそ、忘れたくない日本人の「粋」な心遣い。

次にあなたがどこかのお店の扉を開けるとき、その手に携えるのはどんな美しい日本語だろうか。

他の人はどんな美しい日本語を紡いでいるだろうか。

ためしに観察してみるのも面白い。

なぜならあなたが発する言葉は、他ならぬ自分自身の品格を映し出す鏡なのだから。

 

 

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【日本映画『雪の花 ―ともに在りて―』】志に生きた先人たちの美しさ――「今だけ、自分だけ」の現代に突き刺さる無私無欲の精神。

 

日本映画

雪の花 ―ともに在りて―

※本稿はネタバレを含みます。ご注意下さい。

 

 

志に生きた先人たちの美しさ――「今だけ、自分だけ」の現代に突き刺さる無私無欲の精神

 

 

 

 

 

 

 

日本映画『雪の花 ―ともに在りて―』とは

 

 

魂が震える感動の実話。

日本を代表する豪華キャスト×世界に誇る〈新たな時代劇の傑作〉が誕生!

 

巨匠・黒澤明氏の助監督を務め、自身の監督デビュー作『雨あがる』以来、一貫して人間の美しい在り方を描いてきた小泉堯史監督が、日本映画界のレジェンドと言っても過言ではない熟練スタッフ陣とともに、丹精込めて作り上げた本作。

実在した町医者である主人公・笠原良策役には、映画俳優として数々の賞を受賞し、世代のトップランナーである松坂桃李氏。

使命感に溢れる人物をひたむきに、力強く演じ切り、作品を牽引する。

そして良策の妻・千穂役に 芳根京子さん。

周りを明るく照らす太陽のような、だが意外な一面も持つ人物をチャーミングに演じる。

良策を導く蘭方医・日野鼎哉役に、名実ともに日本を代表する世界的俳優・役所広司氏。

美しい日本の四季、自然豊かな風景、そして魅力的な登場人物たちの存在感が、世代を超えていまを生きる勇気と希望を与えてくれる感動のエンターテイメント作品が全世界に向けて誕生。

 

 

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原作:吉村昭『雪の花』(新潮文庫刊)

 

吉村昭先生による歴史小説『雪の花』(新潮文庫)は、江戸時代末期に猛威を振るった天然痘の撲滅(種痘の普及)に生涯を賭けた福井藩の町医者・笠原良策の奮闘を描いた実話小説。

 

 

雪の花(新潮文庫)

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あらすじ

 

 

多くの命を奪う疫病に立ち向かい、絶対に諦めなかった男。

その真実には、人々の出会いと夫婦の絆があったーーー

 

江戸時代末期。

死に至る病として恐れられていた疱瘡(天然痘)が猛威を振るい、多くの人命を奪っていた。

福井藩の町医者で漢方医の笠原良策(松坂桃李)は、患者を救いたくとも何もすることができない自分に無力感を抱いていた。

自らを責め、落ち込む良策を、妻の千穂(芳根京子)は明るく励まし続ける。

どうにかして人々を救う方法を見つけようとする良策は、京都の蘭方医・日野鼎哉(役所広司)の教えを請うことに。

鼎哉の塾で疱瘡の治療法を探し求めていたある日、異国では種痘(予防接種)という方法があると知るが、そのためには「種痘の苗」を海外から取り寄せる必要があり、幕府の許可も必要。

実現は極めて困難だが、絶対に諦めない良策の志はやがて、藩、そして幕府をも巻き込んでいく─。

 

 


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登場人物

 

 

  • 笠原良策:演 - 松坂桃李
  • 千穂:演 - 芳根京子
  • 半井元冲:演 - 三浦貴大
  • 与平:演 - 宇野祥平
  • 桐山元中:演 - 沖原一生
  • 日野桂州:演 - 坂東龍汰
  • はつ:演 - 三木理紗子
  • お愛:演 - 新井美羽
  • 家老 狛帯刀:演 - 矢島健一
  • 質屋の主人:演 - 渡辺哲
  • 中根雪江:演 - 益岡徹
  • 旅籠の主人:演 - 山本學
  • 大武了玄:演 - 吉岡秀隆
  • 日野鼎哉:演 - 役所広司

 

 

 

名を求めず、利を求めず

 

 

現代を生きる我々は、タイムパフォーマンス(タイパ)や自己実現、承認欲求といった個の利益を求めがちな世界にいる。

だからこそ、本作で描かれる徹底的なまでの無私無欲の精神は、我々の胸に深く、静かに突き刺さる。

物語の舞台は、未知の疫病「疱瘡(天然痘)」が猛威を振るう江戸時代末期。

当時の「疱瘡(天然痘)」は不治の病。

感染すれば隔離する他、手立てはなかった。

松坂桃李氏演じる福井の町医者・笠原良策は「疱瘡(天然痘)」に感染し目の前で命を落としていく患者を前に、己の無力さに打ちひしがれていた。

ちなみに笠原良策は実在した人物。

福井藩の町医であり、後に領内だけでなく北陸の近隣諸藩(府中・鯖江・大野・敦賀・大聖寺・金沢・富山)にまで種痘を広め、多くの命を救った偉人である。

そんな良策が出会ったのが、異国の予防法である「種痘(ワクチン)」だった。

良策の凄みは、その動機に「自分が認められたい」「歴史に名を残したい」という私欲が一切ない点にある。

当時は異国の技術や文化に、激しい偏見や凄まじいデマが飛び交う時代。

良策は周囲から狂人扱いされ、医師としての地位や私財のすべてを失っていく。

それでも良策が歩みを止めなかったのは、「ただ目の前の命を救いたい」という一点のみに突き動かされていたからだ。

そして、良策のこの無私の精神は、良策の命を賭した熱意と共に伝播していく。

それを象徴するのが、良策と共に命懸けで種痘の苗を運んだ徳次郎の姿である。

最初は渋々引き受けた感のあった徳次郎。

決めては生活保障、つまりは謝礼だった。

徳次郎が謝礼に目が眩んだ描写はない。

ただ、断る理由がなくなったというところだろう。

しかしそんな安請け合いが、厳冬の峠越えを前に徳次郎の心を折る。

謝礼はいらない、だからもうやめようーーー。

それでも良策の必死の説得で、決死の峠越えへ。

文字通り、命懸けの峠越えになったがなんとか無事故郷・福井へ辿り着く。

命を救うバトンを繋ぐという大仕事を成し遂げ、良策の熱意と覚悟を直近で感じた徳次郎の心はすでに変わっていた。

徳次郎は差し出された謝礼を「これは銭をもらってする仕事じゃありません」と静かに突き返す。

命の危機さえ伴う過酷な旅の対価を、名誉のためでも、金のためでもなく、「未来の命のため」という志だけで拒む。

こんな割りに合わないことは、綺麗事だけでは絶対にできないことである。

この数秒のシーンに、人間の持つ崇高な志と純粋な美しさが凝縮されており、涙を禁じ得ない。

さらに、夫の志を信じて笑顔で家財を売り払う妻・千穂(芳根京子)の無償の愛や、良策に未来を託す京都の蘭方医・日野鼎哉(役所広司)の大局的な先見の明。

良策を取り巻く人々もまた、それぞれの場所で自分の利益ではなく「次の時代のために」という共通の無私なる志で繋がっていく。

この重厚な人間ドラマを、小泉堯史監督は過度な演出や派手なエンタメに頼ることなく、福井の険しくも美しい日本の四季とともに淡々と、そして誠実に描き出す。

この押し付けがましくない演出自体もまた、作品そのものが持つ無私無欲な佇まいを感じさせる。

我々が今、当たり前のように医療の恩恵を受け、不自由なく暮らせている日常。

それはかつて、自らの名利をすべて捨てて、雪深い峠を越え、未来にバトンを繋ごうとした名もなき先人たちの無私の献身の上に成り立っているのだと気づかされる。

効率や自己主張ばかりが求められる現代社会で、心が疲れた人にこそ観てほしい。

利他を生きる人間の強さと美しさが、静かな感動とともに心を満たしてくれる珠玉の作品である。

興味がある人はぜひ。

 

 


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【日本映画『碁盤斬り』】優等生な時代劇をピリッと引き締める、斎藤工の「悪」とキョンキョンの「裏」。

 

日本映画

碁盤斬り

※本稿はネタバレを含みます。ご注意下さい。

 

 

優等生な時代劇をピリッと引き締める、斎藤工の「悪」とキョンキョンの「裏」

 

 

 

 

 

 

 

日本映画『碁盤斬り』とは

 

 

『ミッドナイトスワン』草彅剛 ×『孤狼の血』白石和彌×豪華キャスト。

武士の誇りを賭けた《復讐》を描く、感動のリベンジ・エンタテイメント!!

 

第44回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した『ミッドナイトスワン』の草彅剛氏が、今度は、冤罪をかけられ復讐に燃える武士に挑み、時代劇を初めて手掛ける『孤狼の血』の白石和彌監督と強力なタッグを実現、新境地を切り開く!

共演は、清原果耶さん、中川大志氏、奥野瑛太氏、音尾琢真氏、市村正親氏、斎藤工氏、小泉今日子さん、國村隼氏と錚々たる豪華絢爛な顔ぶれが集結。

堅物なヒーローが囲碁を武器に死闘を繰り広げる、疑心と陰謀渦巻く愛と感動のリベンジ・エンタテイメントが誕生した。

 

 

碁盤斬り

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碁盤斬り Blu-ray豪華版 [Blu-ray]

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原作:加藤正人『碁盤斬り 柳田格之進異聞』 (文春文庫刊)

 

脚本を手掛けた加藤正人先生による書き下ろし小説『碁盤斬り 柳田格之進異聞』

2024年3月に文春文庫より発売。

 

 

碁盤斬り 柳田格之進異聞 (文春文庫 か 85-1)

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あらすじ

 

 

ある《冤罪事件》に巻き込まれた男の怒りを目撃せよ!

父娘の絆を斬ってもなお、武士には守らねばならない誇りがあった。

 

浪人・柳田格之進は身に覚えのない罪をきせられた上に妻も喪い、故郷の彦根藩を追われ、娘のお絹とふたり、江戸の貧乏長屋で暮らしている。

しかし、かねてから嗜む囲碁にもその実直な人柄が表れ、嘘偽りない勝負を心掛けている。

ある日、旧知の藩士により、悲劇の冤罪事件の真相を知らされた格之進とお絹は、復讐を決意する。

お絹は仇討ち決行のために、自らが犠牲になる道を選び……。

父と娘の、誇りをかけた闘いが始まる!

 

 


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登場人物

 

 

  • 柳田格之進:演 - 草彅剛
  • お絹:演 - 清原果耶
  • 弥吉:演 - 中川大志
  • 梶木左門:演 - 奥野瑛太
  • 徳次郎:演 - 音尾琢真
  • さだ:演 - 飯島順子
  • 長兵衛:演 - 市村正親
  • 八兵衛:演 - 立川談慶
  • 志乃:演 - 中村優子
  • 柴田兵庫:演 - 斎藤工
  • お庚:演 - 小泉今日子
  • 萬屋源兵衛:演 - 國村隼
  • ※.エキストラとして、棋士の井山裕太氏、藤沢里菜さんらが出演している。

 

 

 

手堅い王道時代劇の満足度を支えた異色キャストの存在感

 


白石和彌監督と草彅剛氏のタッグ、そして近年『雪の花』『黒牢城』など本格時代劇にかなり力を入れている印象の木下グループ(キノフィルムズ)制作作品。

時代劇、歴史好きとしては否が応でも期待は高まる。

結論から言うと、全体として「面白かった」といえる仕上がりではあった。

映像の重厚感や古典落語ベースの物語の軸もしっかりしており、最後まで飽きずに観ることができた。

ただ、全体を通して「ここが特別に面白かった!」と言えるような、突出した爆発力や新鮮味には欠ける印象も否めない。

手堅くまとまっている反面、最終的には大団円となるあたり、どこか想定の範囲内を出ない優等生な展開が続く点は少し物足りなさが残る。

そんな中で、個人的に一番の収穫だったのは斎藤工氏の存在である。

斎藤工氏が演じる悪役はかなり珍しいと思われるが、これが意外なほどハマっている。

内に秘めた冷徹さや嫌らしさが上手く表現されており、それでいて言っていることは一本筋が通っている。

また、裏の顔という意味では小泉今日子さんの存在も見逃せない。

良きおっかさんの顔の裏に潜む、遊郭の女将としての冷酷な顔。

基本に忠実な演者の中で、斎藤工氏と小泉今日子さんの存在は、劇中の良いアクセントになっている。

また、囲碁が物語の核になっているのも悪くない。

思い出すのは、かつて夢中になった『ヒカルの碁』。

しばらく観ていないが、久々に碁への興味が湧いてきたのも思わぬ嬉しいポイントだった。

主演の草彅剛氏の演技については、定評がある。

まあ、さすがの演技力というべきだろう。

実直な武士としての苦悩や佇まい、鬼気迫る表情の作り方はたしかに素晴らしかったと思う。

また、傷を負った人間の泥臭さを描くのが上手い白石監督との相性も抜群だった。

これはこれで、完成されていたとは思う。

ただ、個人的には相変わらずの滑舌の悪さが気になり、時代劇の重要なセリフ回しにおいて、時折聞き取りにくく感じてしまったのは残念なところ。

それも想定内といえば、想定内であるわけだけど。

良くも悪くも、手堅く作られた王道の時代劇エンタテイメント。

とはいえ、1本の映画としての満足度は十分に味わえる作品ではないだろうか。

興味がある人は是非。

 

 


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【歴史の闇に葬られた真実】一族を見捨てて逃げた卑怯者か、芸に生きた天才か?織田信長を裏切った「荒木村重」。

 

歴史の闇に葬られた真実

 

 

荒木村重

 

 

 

 

 

 

 

歴史は勝者によってつくられる

 

 

我々がよく知る歴史の記述は、必ずしも客観的な事実の記録ではなく、勝者の視点や都合の良いように解釈・再構成されることが多い。

歴史は、過去の出来事を単に記録するだけでなく、その出来事をどのように解釈し、どのように伝えるかによって、人々の認識や価値観を形成する力を持つ。

そのため、勝者が自らの正当性や優位性を強調するために、歴史を都合よく書き換えることがあるのだ。

たとえば戦争や革命などの歴史的な出来事では、勝者が自らの行為を正当化し、敗者を悪として描くことで、自らの立場を強化しようとすることがある。

また、国家の成立や発展の過程でも、建国の英雄や偉人たちの物語を美化し、都合の悪い事実を隠蔽することがある。

このことから歴史の解釈や記述において、権力や支配者の影響がいかに大きいかがよくわかる。

だが歴史の解釈はひとつではない。

歴史を鵜呑みにしていいのか?

勝者の言い分は、本当に正しいのか?

教科書に書かれたことを疑うことで、初めてみえてくるものがある。

そのためには、敗者や弱者の視点から歴史を再考することが肝要だ。

歴史を多角的に捉え、様々な視点から検証することで、より客観的な歴史認識に近づくことができる。

 

 

 

勝者=善と単純に結びつけてしまう思考の危険性

 

 

特に中学・高校の日本史の教科書は政治史が中心で、必然的に勝者の歴史が描かれ、それが日本史の流れとして理解される。

勝った側が善とされ、敗者は悪とされることで、結果的に「正義は勝つ」と教え込まれる。

勝者が善で、敗者が悪という歴史観の極致が「征伐」という言葉である。

たとえば豊臣秀吉の天下一統の流れを追う時、無意識のうちに四国征伐、九州征伐、小田原征伐、さらに朝鮮征伐という言い方がされてきた。

これは敗者は悪とされ、悪人だったために、正義、すなわち勝者によって滅ぼされたという論理の組み立てで、勧善懲悪という考え方を深くすり込まれてきた。

そのせいで、現代日本人は多角的な考え方が苦手になってしまったように思えてならない。

勝者=善という決めつけは、思考の柔軟性を奪ってしまう。

敗者=悪という決めつけが、同調圧力を生み出す。

敗者にも成したことがあり、言い分だってあるのだ。

固定観念ほど怖いものはない。

歴史の闇に葬られた真実に目を向けることで、固定観念にとらわれない、柔軟な思考を手に入れる。

本稿がその一助になれば幸いだ。

 

 

 

死を拒み、芸術に執着した異端の戦国武将

 

 

いざとなれば自ら死を選ぶ気概を持つのが戦国武将。

そんな印象を覆すのが荒木村重である。

村重は摂津に生まれ、池田城主・池田勝正の家臣となる。

やがて織田信長の家臣となり、摂津一国の支配を任されて活躍した。

村重は、第一級の文化人でもあった。

特に茶の湯については、後に千利休の高弟の一人にあげられるほどで、能でも観世宗拶の弟子として活躍するなど、その教養の高さは人々から一目置かれる存在だった。

そんな村重が思いもよらない行動に出る。

1578(天正6)年10月、主君である織田信長に反旗を翻し、敵対する毛利家と同盟を結んだのだ。

理由については諸説あるが、大坂攻めの司令官の役割を佐久間信盛に取られるなど、信長の家臣としての将来を悲観したのが原因ではないかともいわれる。

また、当時播磨では織田・毛利両家が激しく争い、織田から離れていく領主も多かった。

その動きが摂津にまで及び、村重の謀反を促したとする説もある。

謀反を企てた村重は、信長に派遣された佐久間信盛、明智光秀、羽柴秀吉らに反乱をやめるよう説得されたが、首を縦にふらなかった。

そうこうしているうちに、信長が自ら大軍を率いて摂津に向かってきてしまった。

信長は村重に加担した勢力を次々に撃破すると、村重の居城である有岡城を包囲する。

だが、難攻不落の有岡城はなかなか落城せず、いたずらに月日が流れていった。

それでも、孤立無援となり、兵糧攻めにあった有岡城は、徐々に追い詰められていく。

すると、驚くべきことに、村重は数人のお供と共に城を抜け出し、嫡男のいる尼崎城に逃げ込んでしまった。

主を失った有岡城は、遂に抵抗むなしく落城する。

重臣たちは、村重の降伏と尼崎城などの開城を条件に、村重の妻子や家臣の命を助ける約束を信長と結んだ。

しかし、なんと村重は重臣の説得を拒否して、またも逃亡してしまう。

これによって、村重の妻子をはじめ一族郎党は京都や摂津で磔にされたり、焼き殺されたりして、皆殺しにあったのである。

一方、一人逃げ延びた村重は、毛利家のもとへ身を寄せる。

村重が妻子を犠牲にしてまで生き残ることにこだわった理由はなんだったのか。

諸説あるが、「武に滅んでも文に生きる」という強い信念を持ち、芸術の追求に執着したためだともいわれる。

第一級の文化人であったことが、村重に、武士としては屈辱の選択をさせたのかもしれない。

しかし、村重の行ないは当時の人々の不評を買ったようだ。

これに反省したのだろうか、その後、自ら「道糞」、つまり道端の糞と名乗るようになったと伝えられている。

 

 

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茶の湯

 

落語『茶の湯』はわからないことをわからないと言わないプライドで周囲に胃薬を飲ませ続ける四十も過ぎた単なるガキ

 

 

 

 

 

 

 

落語『茶の湯』

 

 

さる大店の主人が息子に暖簾を譲って隠居する。

そこで根岸に隠居用の屋敷を建て、身の回りの世話にと定吉という小僧を伴って移り住んだ。

さて、これから余生を楽しもうと思ってはみたものも、なにせ若い頃から金を貯めること意外やったことがない。

いくらのどかで過ごしやすくても、隠居生活が退屈で仕方がない。

退屈しのぎに何かやってみるかということで、見よう見まねで茶の湯でもやってみようということに。

定吉は茶菓子が食べられると喜んだが、二人とも茶道には暗く、何をしていいかわからない。

「若旦那が茶会に出入りしていると聞きます。聞いてみたらどうでしょう?」

「いや、息子に聞くなんて沽券にかかわる。とにかく町で必要なものを揃えてきなさい。たしか一番初めに青い粉を入れたな」

と、頼まれた定吉。

茶の湯に使う青い粉ということで青黄粉(あおきなこ)※1を買ってきた。

「そうだこれだ。これを耳かきで茶碗に入れて湯で溶いてかき回す」

だが、いくらかき回してもちっとも泡立たない。

泡立てるならと今度は定吉、乾物屋で椋の皮(むくのかわ)※2を買ってきた。

おかげでちゃんとブクブク泡が立って、見た目だけはそれらしきものができた。

「定吉、おまえが客なんだからおまえから飲みなさい」

「あたしには作法がわかりませんので、ご主人様がお手本を見せてください」

「では、同時に飲むか」

とグイっとやるが、口の中がしびれて仕方がない。

口がしびれたところに羊羹を放り込んで口直し。

「これは風流」

と無理に納得するご隠居。

こうして風流三昧の毎日だったが、定吉はたまったもんじゃない。

自分だけ腹を壊してるのも癪だから、ご隠居の持つ長屋連中を呼んで茶会を開こうと提案する。

流儀が違うとご隠居は渋っていたが結局、大工の棟梁、豆腐屋、手習いの先生を呼ぶ事にした。

驚いたのは長屋の店子たち。

家主から手紙が来たので見てみると、茶の湯への招待。

恥をかくくらいなら転居しちまおうか、などど考える店子たちだったが、何かあってからでも遅くはないからとりあえず行ってみるか、ということで話はまとまった。

もちろん店子たちだって茶の湯などやったことはない。

作法がわからなくて不安そうにしていると、

「細かい作法なんて気にしなくていいからグイっと飲みなさい」

と、ご隠居さん。

前の人の真似をしながらなんとか飲み終えた。

三人はお茶のあまりの不味さにびっくりしたが、口直しに羊羹をほおばると、何とかその場を切り抜けることができた。

これに味を占めたご隠居。

すっかり茶の湯にはまってしまい、毎日のように店子たちに招待状を出すようになる。

が、客はみんな羊羹目当てでやってくる。

すると今度は茶菓子の羊羹代が馬鹿にならなくなってきた。

羊羹の勘定書きを見て驚いたご隠居、とうとう菓子も自分で作るようになってしまう。

ところがこれが不味いこと不味いこと…。

客が不味いお茶を飲んで口直しに饅頭を放り込むと、こちらも酷い味。

ある男が、あまりの不味さに、食べた振りをして饅頭を袂に隠すと、厠へ行き、屋敷の向こうへ放り投げた。

すると投げた先の百姓の顔に饅頭がベチャ。

「ああ、またご隠居さんのところで茶の湯か…」

 

 


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※1.青黄粉(あおきなこ)

落語の中ではひどい扱いを受けているが、実際には和菓子(うぐいす餅やおはぎなど)によく使われる美味しい食材である。

一般的な黄粉(きなこ)が大豆を焙煎して作られるのに対し、青黄粉は青大豆(あおだいず)を原料としている。

特有の鮮やかな緑色と、大豆よりもあっさりとした上品な甘みが特徴。

 

※2.椋の皮(むくのかわ)

本来はムクロジ(無患子)という植物の果皮を指し、水に入れると天然の石鹸成分(サポニン)で泡立つ性質がある。

 

 

無駄なプライドが邪魔して、素直に知らないと言えないご隠居さん。

それでも落語の世界でなら、「風流だねえ」なんてカラリと笑ってやれます。

ですが、いざ現実にこのような人と出会しますとそれはそれは困ったものでして…。

最近、オフィスで見かける一部の人たちの仕事ぶりを眺めていますと、どうもこの『茶の湯』の「おままごと」が重なって見えて仕方がねえ。

段取りはいい加減。

責任を背負う覚悟はもちろんゼロ。

いざトラブルが起これば、すぐに誰かの背後に隠れてしまう。

いわゆるゆとり世代と呼ばれる人たちですな。

しかしご本人にはそういう自覚はまったくないようでして、むしろ上手く立ち回れていると思ってるってんだから始末が悪い。

もちろん、人をそんな名で一括りになんかしたくありません。

優秀な方もたくさんおります。

それでも、そう呼ばざるを得ない彼らの仕事のやり方を一言で表すなら、「マニュアル我流なぞり書き」。

『茶の湯』のご隠居然り、作法もろくに知らないくせに、一端の茶人を気取るようなものでございます。

仕事の本質や、なぜその作業が必要なのか、どうしてそうなったのかかっていう理由を、まあ自分の頭で考えようとはしません。

だから、マニュアルに書いてある表面の文字だけをなぞって、勝手な解釈で青黄粉の毒茶を作り出します。

誰だってそんなもん飲みたくはありませんよねえ。

だから「それは違う、お茶ってえのはそういうもんじゃない」と教えてはやるんですが、言うだけ無駄。

糠に釘、暖簾に腕押し、右から左で聞く耳なんて持ちゃしません。

言ってるこっちが馬鹿らしくなってくる。

おまけにプライドだけは一丁前ですから、もちろん「分かりません」と頭を下げることも「すみません」と謝ることもできやしない。

それどころか、せっかくいただいたありがたいアドバイスも、彼らには説教に聞こえているんでしょうねえ。

だから人の忠告も無視して、勝手に我流で進めていった仕事が結果大炎上。

揉めに揉めてる真っ最中だってぇのに、当の本人ときたら「私はマニュアル通りにやりました」「指示の出し方が悪いんです」と逆ギレして、ふてくされちまう。

その頑なさ、如何ともしがたい。

ご本人はわかっていないようですが、挨拶一つまともにできちゃいないくせに、自分の「繊細な心」だけは傷つけまいと必死な姿は、ご隠居の機嫌を損ねないよう、顔を歪めながら必死に茶をすする長屋の住人なんかより、よっぽど滑稽じゃあありませんか。

これがね、社会人になって間もない若手ってんなら可愛げもあります。

でもね、これが四十を超えたオジやオバだってんだから始末が悪いにも程がある。

少年の心を忘れないってんなら話もわかりますよ。

ですが、四十も超えて単なるガキってのは如何なもんなんでしょう。

まったく、ママがいないとなんにもできないんだから。

そんな調子ですから、いい加減こちらの胃薬も尽きてしまいます……。

これじゃあご隠居さんの不味いお茶を飲んでる方が、いくらかマシってもんです。

「どうも今日はそこら中に胃薬のゴミが落ちているようだが?」

「ああ、どうやらまたゆとり世代が何かやらかしたようですな…」

 

 

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