アニメーション映画
『聲の形』(英題:A Silent Voice)は、大今良時先生による漫画作品。
最初の作品が「別冊少年マガジン」(講談社)2011年2月号に、リメイクされた作品が「週刊少年マガジン」2013年12号に掲載された。
「週刊少年マガジン」にて2013年36・37合併号から2014年51号まで連載された。
聴覚の障害によっていじめを受けるようになった少女・硝子と、彼女のいじめの中心人物となったのが原因で周囲に切り捨てられ孤独になっていく少年・将也の2人の触れ合いを中心に展開し、人間の持つ孤独や絶望、純愛や友情などが描かれる。
物語は2人の小学校時代における出会いの回想から始まることになる。
舞台となる地名は架空のものが用いられるが、作中に描かれる風景は主に岐阜県大垣市をモデルとしている。
本作は、作者が専門学校時代に投稿した漫画の結果待ちをしている間に描いていた作品でもある。
その着想は、作品の投稿当時から現在に至るまで育っているテーマ「人と人が互いに気持ちを伝えることの難しさ」の答えを作者自身が見つけ出せなかったため、「読者に意見を聞いてみたい」という気持ちで描いたという。
その後、読みきりが掲載されて議論が起こった際には「嬉しかった」と感想を述べている。
また、手話通訳者でもある作者の母親からの協力もあり、劇中では手話の場面が多く描かれる。
なお、題名を「聲」の字にしたのは、調べた際にそれぞれ「声と手と耳」が組み合わさってできているという説があることを知ったためであることと、「気持ちを伝える方法は声だけじゃない」という意味を込めて「聲」にしたという。
2015年版「このマンガがすごい!」オトコ編で第1位、「マンガ大賞2015」で第3位を獲得した。
第19回手塚治虫文化賞新生賞受賞作。
全日本ろうあ連盟監修のもと道徳教材化され2015年に30分の実写DVD化された。
2016年には劇場版アニメーションが制作されている。

聲の形(1) (週刊少年マガジンコミックス)
アニメーション映画『聲の形』とは
監督は山田尚子さん、制作は京都アニメーションが担当し、2016年9月17日に全国公開された。
公開館数は120館と小規模であったが、興収23億円を突破。
第40回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞や、第26回日本映画批評家大賞アニメーション部門作品賞、第20回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞などを受賞。

映画『聲の形』Blu-ray 通常版
「聲」
「聲」はあまり見慣れない漢字だが、これは「声」の旧字体。
画数が多くて一見意味が難しそうだが、古風な趣が感じられる。
「聲」は、「耳」と「殸(けい)」の会意文字で、打楽器「殸」の形を表す文字と、木製の棒を手にしている意味を表す文字で、打楽器「殸」とそれを打ち鳴らして耳に届く音である「こえ」から、そのまま言い表すようになった。
「殸」の読みは「けい、きょう、せい」で、部首は「殳(るまた、ほこづくり)」である。
「殸」は大昔の中国の打楽器で、板状に作った石を吊り下げ、音を打ち鳴らして演奏する。
「磬(けい、うちいし)」は、「石」と「殸」の会意文字と形声文字で、「殸」は元の字になる。
ちなみに会意文字は漢字の六書の中の一つで、2個以上の漢字が合成されて違う意味を持った新しい漢字を指す。
「木」を二つ合わせて木々の生え方を表す「林」、「人」と「皆」で「偕」などである。
また形声文字は、音読みであらわす文字と、意味を示す部首などの文字を合成してできた違う意味を持つ新しい漢字を指す。
「紛」「個」「枯」「鈴」などである。
「聲」は訓読みは「こえ、こわ」で、音読みは「しょう、せい」。
人や動物が発する聲や、自然や物から聞こえる音の響きなどを意味する。
また歌の節や曲の調子、音階、ハーモニーなどを意味する。
さらには他人からの批評をも意味し、「声誉」や「名声」といった遣い方もする。
あらすじ
高校への進学後、自らの報われない人生の末路を思い浮かべた将也は、遂に自殺を決意。
その前に、自分が犯した「罪」の贖罪をしようと、身辺整理等によって補聴器の弁償額と同額の金を集めた将也は、それを母の枕元に置き、硝子がいるという手話サークルの会場へと向かう。
そして将也は硝子と再会した。
自らの後悔や謝罪と共に「友達」になって欲しいことを告げた将也の気持ちに、硝子は手を握る形で応えるのだが…。
時は小学生時代へ遡る。
将也のクラスに転校してきた硝子は聴覚障害者であり、自己紹介でノートの筆談を通じてみんなと仲良くなることを希望する。
しかし、硝子の障害が原因で授業が止まることが多く、同級生たちはストレスを感じる一方になっていた。
やがて将也を初めとするクラスメイトたちは硝子をいじめの標的とするようになり、補聴器を取り上げて紛失させたり、筆談ノートを池に捨てたりするなどエスカレートしていった。
彼女の母親の通報によって校長同伴による学級会が行われるが、担任の竹内はいじめの中心人物であった将也のせいだと、威圧的に追及。
それに賛同する形でクラスメイトたちも次々と将也のせいだと主張し始め、自分たちも硝子に散々な仕打ちを行っていたにもかかわらず、彼らは皆自己保身のためだけに暗黙の団結を結んで、全ての罪を将也一人になすり付けようとしたのだ。
あまりにも信じられない光景に愕然とする将也が、硝子に代わる新たないじめの標的となる日々の始まりだった。
孤立した将也は、硝子よりも激しいいじめを受け続けることになる。
新たないじめグループのリーダーとなった島田によって池に突き落とされたり、上履きを隠されたり、机に落書きされたり…。
あまりにもあっけなく掌を返されてしまった彼を硝子は気にかけるが、結局、将也とは分かり合えず転校していった。
孤独を深めていった将也は誰も信じることができなくなっていた。
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主要登場人物
石田将也
声 - 入野自由(小学生時代 - 松岡茉優)
本作の主人公。
A型。
小学生時代の将也は幼稚で粗暴なガキ大将タイプでコミュニケーションが下手な少年。
耳の聞こえない硝子に、好奇心からいじめを行ってしまう。
元々退屈を極度に嫌い、それに対抗するかのように河川に飛び込んだり自分より体格の大きな者に喧嘩を売ったりするなど度胸試しを好む悪癖があった。
硝子へのいじめもその延長線上に過ぎなかったのだが、それがあまりに度を過ぎたものになって学級裁判にかけられ、クラスから断罪される。
学級裁判以後、スクールカースト下位に転落した将也は、それまで仲が良かったクラスメイトから手のひらを返すようにいじめを受けるようになってしまった。
それとは対照的に、いじめていたり取っ組み合いの喧嘩までしたりしたにもかかわらず最後まで自分を見捨てずに友達になろうとしてくれた硝子の優しさに気付く。
しかし時すでに遅く、硝子は転校により学校を去っていた。
中学生時代でも周囲に孤立させられ完全な人間不信に陥り、名のある高校に進学しても過去の罪から心を閉ざし(一部を除くクラスメイトなど学校関係者の顔にバツ印がついて見えている)、母親が立て替えて払った補聴器の弁償代を返済した後は自殺を考えていた(硝子と友達になったため思い直している)。
硝子への謝罪と感謝の気持ちを伝えようと将也は独学で手話を学びながら硝子を捜していた。
ようやく5年後、高校3年生になった硝子と再会する。
再会後は自分が奪ってしまった硝子の幸せな小学生時代を取り戻すことに使命感を抱き、献身的に硝子に尽くそうとする。
しかし、それは同時に自分が背負っている過去の罪への意識、自己否定、トラウマと向き合う辛い行動でもあった。
硝子と植野の両方から好意を寄せられているがそのことに気付かず、また、自身の中に生まれている硝子への好意にも向き合えていなかった。
小学生時代に硝子をいじめていたことを川井が言いふらしたのではないかと疑心暗鬼に陥り(実際に川井が将也の過去をクラスに暴露したため、当たっていたのだが…)、周囲との関係を悪化させてしまう。
その件を苦に硝子が投身自殺を図ったときは、救出こそ成功するが自らは力尽きて転落し、一時は意識不明の昏睡状態となる。
回復直後に硝子を求め、想いを伝え合い、改めて過去を乗り越えて歩み寄るに至る。
作者曰く「彼は私自身の分身として描いています。私が感じたり考えたりしていないことや、できないことは、石田にもさせられないんです。」とのこと。
西宮硝子
声 - 早見沙織
本作のもうひとりの主人公。
A型。
先天性聴覚障害を持つ少女。
補聴器をつけても会話はほとんど聞き取れないほど障害の程度は重く、発話も不完全で他者には内容が聞き取りづらい。
聴覚障害が発覚したのは3歳のとき、父親は硝子の障害を知ると責任を母親になすりつけ離婚した。
母親の方針もあって、小学校は特別支援学校ではなく普通校でのインクルージョン教育を選択する。
しかし度重なるいじめを受け、将也のいた水門小学校のあとは、同校での担任だった竹内からの強い勧めもあって特別支援学校に移った。
小学校での硝子は、クラスに溶け込み友達を作ろうと努力するが結局うまくいかなかった。
特別支援学校への転校以降、将也と再会するまでは孤独で内向的な生活を送っていた模様。
しかし将也との再会後は、小学校時代の旧友との交流が復活するなどめまぐるしい人間関係に翻弄される。
幼い頃からコミュニケーションでの失敗経験を繰り返したため、他人と意見をぶつけあうことが苦手で、周囲と摩擦が起こったときには愛想笑いでごまかすことが多かった。
結果としてそれが「周りに相談もせずに身勝手なことをする」といった印象となることも少なくなく、クラスメイトから敬遠されていく遠因ともなった。
自分のために手話を覚え、(過去に度の過ぎたいじめを行った罪悪感からとはいえ)献身的な行動をとる再会後の将也に好意を寄せるが、その気持ちは将也にはなかなか伝わらなかった。
将也が周囲との関係が悪化してしまった際には、その件を自分の責任だと思い悩み投身自殺を図ったが将也に助けられる。
代わりに将也が転落し意識不明の昏睡状態に陥らせたが、この一件をきっかけに改めて自身の課題へと向き合っていくことを決意する。
西宮結絃
声 - 悠木碧
硝子の妹(年齢は硝子の約3歳下)で中学生であるが、不登校で学校には通っていない。
AB型。
少年のような外見で自分のことを「オレ」と呼ぶ。
そのため、将也・永束・植野はいずれも初めて会ったときには結絃のことを男性だと思い込み、硝子の妹だとは気付かなかった。
幼い頃から姉のことを慕うがゆえに、その姉に偏見をぶつけたりいじめたりする周りの人間を憎んでいた。
髪を短く切って男性のように振る舞うようになったのも、姉を守るための「強さ」を子どもなりに表現したものでもあった。
硝子の補聴器を何度も壊され、筆談ノートを池に捨てられたあげくに硝子がボロボロになるまで取っ組み合いの喧嘩をした相手として将也の名前を知っている。
また、よりによってその将也が硝子に会いに来て親密になろうとしてきたことに憤り、あらゆる手を使って妨害した。
しかしその後、将也が邪心なく心から硝子のことを思い、また硝子もそんな将也に心を動かされて明るく積極的な性格に変わっていくのを目の当たりにした。
このことから一転して二人の関係を応援するようになる。
そして、自らも将也を兄のように慕うようになる。
趣味は写真撮影で、いつも一眼レフカメラを首から下げているが、撮影するのはもっぱら動物の死骸ばかりである。
その理由は硝子が小学生時代にいじめを苦に自殺を考えていたことに対し、動物の死骸の写真を見せることで自殺を思いとどまらせるためであった。
写真の腕前はたしかで、後に市のコンクールで優秀賞を受賞している。
植野直花
声 - 金子有希
小学校時代の将也のクラスメイトで、黒髪ロングの少女。
O型。
小学校時代、明るくさばさばした姉御肌の性格。
自身も硝子の筆談ノートに悪口を書き込むなどの陰湿ないじめを行う。
しかし将也が高額な補聴器を壊すという直接的ないじめで学級裁判で吊るし上げられたとき、自身に火の粉が降りかかるのを避けるため、結果として将也を売る発言をしてしまった。
植野は実は密かに将也に好意を寄せ続けていたのだが、学級裁判以降いじめられっ子に転落した将也の味方になる勇気を持つことができず、そのまま中学卒業まで将也へのいじめの傍観者だったことを悔やんでいる。
その一方で将也が転落し、関係が壊れてしまった原因は硝子が転校してきたことにあると考え、硝子に対し反感を持っていた。
高校では服飾を専攻。
気が強く、自分の思った言動や行動をすぐ実行にうつす真っ直ぐな性格。
しかし、相手を見下した高圧的な態度を取りがちである。
また、自分の納得出来ない時や追い詰められたりすると、暴力を振るったり、暴言を浴びせたりするなど乱暴でヒステリックな一面がある。
「にゃんにゃん倶楽部」という猫カフェで店員としてアルバイトをしている。
作者曰く「彼女は、小学校時代も、高校生になった今でもそうですが、石田と西宮のふたりと同じ時や場所を共有していますが、彼らとは違う視点で石田と西宮の物語を捉えているキャラです」とのこと。
他人との関わり方に悩むすべての人に観てほしい傑作
賛否両極端
いじめや障害者を扱ったことで有名な人気作『聲の形』。
シナリオの重厚さと、それを見事にアニメーションへと落とし込んだことでも高評価の作品だ。
また京都アニメーションが手掛ける美麗な作画でも、高い評価を受けている。
ところが高評価の裏で、猛批判を受けた作品でもある。
まず、主人公・石田将也の視点で描かれたことで「加害者(いじめ)を美化してる」と感じた人が多かったようだ。
また内容に対しては、「重い」や「ひどい」などと批判の声が上がった。
本作では、聴覚障害者であるヒロイン・西宮硝子に対するいじめの描写が、非常にリアルかつシビアに描かれている。
高価な補聴器を何度も壊されたり、補聴器を奪われる際に耳から血が出てしまう描写はあまりにリアルだ。
耳が聞こえない硝子の行動や失敗も相当リアルに描かれているから、それを「ひどい」「辛くて見ていられない」と感じた人が多いようだ。
硝子へのいじめシーンに、妙に明るいBGMが使用されたことも批判の対象となった。
いじめをこのように表現したことでダイジェストのような軽いノリと捉えられ、内容の酷さが視聴者に上手く伝わらず、そのことも「ひどい」「何故こんな見せ方なのか」と批判された。
また、主人公のひとり・西宮硝子のヴィジュアルの良さから、本作を感動ポルノ※だと批判する声もある。
いじめの加害者と被害者が和解し恋愛感情まで抱くという展開にも、「気持ち悪い」「ありえない」との声まで上がっている。
しかし著者は思う。
ただ観ていて辛いからという理由で本作を否定することは、現実のいじめに対しても目を背けてしまうことと同義なのではないだろうか。
※感動ポルノ
健常者が主に身体障害者を感動コンテンツとしての消費していること。
涙や同情を引くための道具として担ぎあげていることに対する批判的言葉。
「まじめで頑張り屋」など特定のステレオタイプなイメージを押し付けられた障害者や、余命宣告者など同情を誘いやすい立場の人を用いた、視聴者を感動させようとする「お涙頂戴」の明るくないコンテンツ。
感動ポルノという偏見
前述したように、本作を感動ポルノだと批判する声があることはたしかだ。
ただし、それは間違った評価である。
本作を観て感動ポルノと感じてしまう人には、そもそも根底に障害者への偏見があるからだ。
何故なら本作の主題は障害者問題などではない。
もちろん、いじめ問題でもない。
一見主題にも思える「いじめ問題」や「聴覚障害」は実はまったく主題ではなく、大きめの舞台装置と捉えるべきである。
主人公のひとりが聴覚障害者というだけで、そのことで感動を誘うような描写は本作から見て取れない。
本作を視聴するなら、まず感動ポルノという偏見を捨てることだ。
表層的なものばかり見ていたら、本作の本質は見えてこない。
誰の目線に共感できるかで評価は変わる
本作を視聴する上で、将也の目線はもちろん重要である。
いじめ行為が自身の中に何をもたらすのか。
その良い教訓が描かれているから、多くの人に是非観ていただきたいとは思う。
だが本当に観てほしいところは、将也ではなく彼を取り巻く人物たちの心理描写である。
例えば、著者が気にとめたのが脇役の植野直花の存在。
彼女は小学生時代の将也のいじめ行為に、直接加担こそしてはいないものの、同調はしていた。
だが、障害者という理由で硝子を蔑ろにしたわけではなかったように思う。
むしろ障害者だからという引け目を、他ならぬ、硝子自身から感じた苛立ちからだったように思える。
要するに、自分が障害者だという言い訳で卑屈な態度をとる硝子のことが、単純に気に入らなかっただけである。
その証拠に、彼女は健常者が相手でもその振る舞いに変わりはない。
それがいじめを正当化していい理由には、もちろんならない。
ただ本音をみせてこない、特に怒りの感情をあらわにしない硝子に苛立つ彼女の気持ちは、著者にはわからなくもない。
著者にとっての植野直花のように、自分に一番近い考え方のキャラクターをみつけると、本作に対する考え方や評価はガラリと変わるだろう。
人間とは偏見を持つ生き物
散々偉そうなことを記したが、著者にだって偏見はある。
おそらくは、誰にだって偏見はある。
そこに健常者も障害者も関係ない。
例えば、障害者を大切に扱わなければいけないと考えることだって、ある種の偏見ではないだろうか。
逆もまた然りで、健常者なら何でも大丈夫という理由にはならない。
何事もフラットな目で見ることができなければ偏見がなくなることはない。
しかし他者と比べることでしか自我を保てない我々人間は、きっと色眼鏡を外すことが一番難しい生き物なのだろう。
だとしたら我々人間は、いったいどうすればいいのか。
それは自分の中にある偏見を認識し、その偏見と上手く向き合っていくしかないように思う。
いったい自分にはどんな偏見があるのか。
それを知るために本作はおあつらえ向きだ。
自分がどのキャラクターの考え方に一番近いのか、試しに観てみてほしい。
今まで気づかなかった自分というものに、もしかしたら出会えるかもしれない。
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