アニメーション映画
ペンギン・ハイウェイ
『ペンギン・ハイウェイ』とは
『ペンギン・ハイウェイ』は、森見登美彦先生の小説。
2010年5月、角川書店から刊行。
第31回日本SF大賞受賞作。
2018年にアニメ映画化。
アニメ映画『ペンギン・ハイウェイ』とは
2018年3月1日にアニメ映画化の製作発表会見が行われ、同年8月17日に劇場公開された。
短編アニメ『台風のノルダ』『陽なたのアオシグレ』などを手がけたスタジオコロリドの、初の長編作品である。
日本公開に先駆け、カナダ・モントリオールの第22回ファンタジア国際映画祭にて、最優秀アニメーション賞にあたる今敏賞(長編部門)を獲得した。
日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞受賞。
ペンギン・ハイウェイ Blu-ray スタンダードエディション
あらすじ
小学4年生の男子・アオヤマの住む街で、ある日突然、ペンギンの群れが出現する怪事が起こり始めた。
ペンギンの正体と彼らの目指す先について「ペンギン・ハイウェイ研究」を始めたアオヤマは、顔なじみの歯科医院のお姉さんがペンギンを出現させる瞬間を目撃する。
だが、なぜペンギンを出せるのかは、お姉さん自身にも分かっていなかった。
ペンギンの出現法則を解明しようとお姉さんと実験する一方、アオヤマは友人の男子・ウチダ、同じクラスの女子・ハマモトとの3人で、ハマモトが発見した森の奥の草原に浮かぶ謎の球体〈海〉についての共同研究を始める。
やがてアオヤマは、〈海〉とペンギンとお姉さんの奇妙な関連性に気づく。
陽気なタイトルと侮るなかれ
表面上はこましゃくれた少年の物語
本作はこましゃくれた少年の物語である。
妙に大人びた賢しい少年の成長譚のようにみえる。
だがそれはどうやら表面上でのこと。
物語が進むにつれ、成長譚に様々な要素が加わってきて複雑化していく。
『ペンギン・ハイウェイ』なんて陽気なタイトルからは想像もつかない、実に考えさせられる作品なのである。
物語の終着地はどこだ?
とはいえ、本作の理解には非常に苦しむ。
何から何まで意味がわからない。
街中に忽然と現れるペンギンの群れ。
そのペンギンたちは、顔なじみの歯科医院のお姉さんが出現させていたという謎展開。
いったい何を描こうとしているのか?
バラバラになったパズルのピースをひとつずつ集めていくが、なかなかハマるものが見つからないような歯痒い感覚。
パズルがようやくその全容を見せてくれるのは、物語も最終盤になってから。
それでもまだ歯抜け状態で、それは最後まで解消されない。
空白は視聴者自身で埋めなくてはならない。
考え出したら謎は深まるばかりの作品である。
物理と死生観がキーワード?
物語が進むにつれ朧げながら判明してくる、本作が本当に描きたかったこと。
正直よくわからないというのが本音だ。
何故なら確証が持てないから。
「これがテーマだよ」とは明確に示されていない。
ただ物語に引かれたいくつかの伏線と、その回収の仕方から浮かんでくるキーワードがある。
それは "物理" と "死生観" 。
多少の語弊があるかもしれないが、この二つのキーワードこそ本作の要のような気がする。
さり気なく引かれる伏線の妙
まずキーワードのひとつである "物理" についてだが、序盤に主要登場人物のひとりが相対性理論の本を持って現れる描写がある。
おまけにそのキャラが初登場時だ。
今どきなら子供でもわかる相対性理論の本くらいあるのかもしれないから、そのこと自体何ら不思議ではない。
そもそも主人公がこましゃくれているのだ。
大人びた本くらい読むだろう。
しかしまさかそれが終盤への秀逸な伏線となっていようとは…。
森の奥の草原に浮かぶ謎の球体〈海〉の解明に、物理の理論は必要不可欠な要素だった。
謎の球体〈海〉とは、まるでブラックホールのような存在であったからだ。
そういえば相対性理論の件でブラックホール発見の話題が上がっていたが、なるほど、あの何気ない会話ですら伏線だったのか…。
凄いな。
続いては "死生観" について。
これは青天の霹靂ともいえる、まったく想像だにしない急転直下の展開であった。
懇意にしていた歯科医院のお姉さんが3日間何も食べていないというありがちな悩みから、突然死を意識する展開に変わってくる。
思い返せばお姉さんは料理はしても、食事をするシーンが一切なかった。
パスタをクルクルと巻いてはいても、まったく口にしていなかった。
パスタを残したシーンだけが映し出さられたのが謎だったが、なるほど、そういう意味だったことが終盤になってようやく判明する。
さらに記すと、本作では語られないが原作ではお姉さんは教会に通っている設定だという。
教会で祈る理由は何なのか…。
何にせよ、本作には視聴者に与えられた余白が多分に存在する。
"物理" にせよ "死生観" にせよ、どちらも注意していなければ見つかりすらしない伏線である。
賛否は両極端
前述した通り、本作は『ペンギン・ハイウェイ』などという、陽気なタイトル通りの物語ではないらしい。
おまけに視聴者に与えられた余白の多さが、受ける印象を人それぞれに変える。
したがって賛否は両極端。
深掘りすれば非常に興味深い物語だが、ただのファンタジーで片付けることも可能だ。
若干の無理はあるが、思春期にありがちな少年の妄想で解決することもできる。
ひと夏の不思議な思い出と解釈してもいいだろう。
本作にはそれほどの伸び代が残されている。
何度も引き合いに出して申し訳ないが、『もののけ姫』を初見で面白いと感じることができたなら、本作もきっと面白いと感じられるだろう。
だが『もののけ姫』を意味がわからない作品だと感じた人にはおそらく面白くないだろうと思う。
これから視聴しようと考えている人は注意が必要だ。
テーマ曲は宇多田ヒカルの隠れた名曲
宇多田ヒカルさんの7枚目のオリジナルアルバム『初恋』収録曲「Good Night」が本作のテーマ曲だ。
恥ずかしながら本作で初視聴したが、アルバム収録のみというのがもったいないくらい素晴らしい楽曲だった。
本作ラストで描かれた大人の階段を登る切なさや儚さを見事に表現されていた。
オフィシャルでもMV公開されていないほどの隠れた名曲である。
美しい映像美は一見の価値あり
物語は難解であるが映像は非常に美しい。
映像美に定評がある新海誠監督作品にもけっして引けを取らない、非常に情緒豊かな映像美をみせてくれている。
個人的にはこれだけでも一見の価値がある。
美麗な映像と不思議な物語。
小難しく考える必要はない。
面白いことも大切だが、どんな形であれ視聴者の心に残るかどうかも大切だ。
そういう意味では、本作が是非おすすめしたい作品であることに間違いはない。
皆さんが本作を観てどう感じたのか、いつか教えてほしい。
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