アニメーション映画
夏へのトンネル、さよならの出口
『夏へのトンネル、さよならの出口』とは
『夏へのトンネル、さよならの出口』は、八目迷先生による日本のライトノベル。
イラストはくっかが担当している。
略称は「夏トン」。
第13回小学館ライトノベル大賞にて『僕がウラシマトンネルを抜ける時』のタイトルでガガガ賞および審査員特別賞を受賞し、ガガガ文庫(小学館)より2019年7月に刊行された。
劇中に登場するウラシマトンネルは、中に入ることによって、年を取る代わりに欲しいものが手に入るという都市伝説上のトンネルで、映画『インターステラー』に登場する、重力が非常に強く、時間の流れが異常に遅いとされる、架空の惑星である「ミラー博士の星」から着想を得ている。
作者の八目先生は、『時をかける少女』『ほしのこえ』『七回死んだ男』『刻刻』などの影響で、以前から時間にギミックのある話を執筆したいという思いがあり、前述した『インターステラー』を鑑賞し、主人公たちが「ミラー博士の星」に着陸してから任務を急いで終わらせようとする焦燥感や、任務終了後になってから膨大な時間を浪費してしまったことを知る取り返しのつかなさに感銘を受け、本作の執筆に至った。
本作は「前進」をテーマとしており、夏、青春、SFの3つの要素に、ノスタルジックな雰囲気をいくらか加えたボーイ・ミーツ・ガール・ファンタジー。
本作は「前進」をテーマとしており、八目先生は、時間の流れが狂う未知の空間であるウラシマトンネルを舞台に、焦燥感や不安を抱きながらも、人はどれだけ希望を持って前に進めるかを表現することを意識した。
また、ウラシマトンネルを通じて距離が縮まっていく主人公とヒロイン、その2人を取り巻く人間ドラマが見どころの一つだとしている。
劇場アニメ『夏へのトンネル、さよならの出口』の入場者プレゼントで本編のその後を描いた短編小説『さよならのあと、いつもへの入り口』が書き下ろされた。
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アニメーション映画『夏へのトンネル、さよならの出口』
デビュー作が第13回小学館ライトノベル大賞において「ガガガ賞」と「審査員特別賞」をW受賞した八目迷先生による小説『夏へのトンネル、さよならの出口』(小学館「ガガガ文庫」刊)を原作とした劇場アニメーションとして2022年9月9日に公開。
声は鈴鹿央士氏と飯豊まりえさんのダブル主演。
劇場アニメーション『夏へのトンネル、さよならの出口』は、監督を映像表現に定評のあるアニメーション監督・田口智久氏(『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』、『アクダマドライブ』)、キャラクター原案・原作イラストを精緻でドラマティックなイラストレーションで知られるくっか(『D_CIDE TRAUMEREI』キャラクター原案)、制作を『映画大好きポンポさん』などを手がける新進気鋭の制作会社CLAPが担当。
監督の田口氏によると、キャラクターの演技をできるだけリアルにするために、先に収録を行なってから声に合わせて絵を作ったという。
他にもこだわった要素として背景を挙げ、空模様をシーンごとに変更するなどの細かい調整も行なったと述べている。
第32回(2022年度)日本映画批評家大賞 アニメーション作品賞を受賞した。
また、2023年にはアヌシー国際アニメーション映画祭で特別賞であるポール・グリモー賞を受賞した。
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あらすじ
ウラシマトンネル――
そのトンネルに入ったら、欲しいものがなんでも手に入る。
ただし、それと引き換えに……
掴みどころがない性格のように見えて過去の事故を心の傷として抱える塔野カオルと、芯の通った態度の裏で自身の持つ理想像との違いに悩む花城あんず。
ふたりは不思議なトンネルを調査し欲しいものを手に入れるために協力関係を結ぶ。
これは、とある片田舎で起こる郷愁と疾走の、忘れられないひと夏の物語。
登場人物
塔野カオル
声 - 鈴鹿央士
本作の主人公。
不慮の事故により妹を亡くした田舎の高校生。
自身の生い立ちによって芯のない冷めた性格をしており、流されるままに日々を過ごしていた。
八目先生はカオルについて、八目自身の多くのものを背負ってもらうつもりで書いたとしている。
花城あんず
声 - 飯豊まりえ
本作のヒロインでもう一人の主人公。
ある事情で田舎へ転校してきた少女。
カオルのクラスメイト。
クールな外見とは裏腹に情熱と憧れを宿している芯の強い性格で、歯に衣着せぬ物言いや高潔な態度によって周囲と衝突することもある。
八目先生はあんずについて、能力は他者より優れているが、あくまで一般的な10代の少女であり、特に喜怒哀楽を意識して書いたキャラクターだとしている。
川崎小春
声 - 小宮有紗
クラスの女王様ポジションにいる少女。
プライドが高く、良くも悪くも素直な性格であり、それゆえに調子に乗りやすかったり傷つきやすかったりする。
八目先生は川崎について、本作で書いていて一番楽しかったキャラクターとして名前を挙げ、本作で一番成長したキャラクターかもしれないとしている。
加賀翔平
声 - 畠中祐
カオルの友人。
塔野カレン
声 - 小林星蘭
カオルの妹。
浜本先生
声 - 照井春佳
カオルのクラスの担任。
カオルの父
声 - 小山力也
主題歌
主題歌
- eill「フィナーレ。」
歌:eill、作詞:eill、作曲:eill・Ryo'LEFTY'Miyata
挿入歌
- eill「プレロマンス」
歌:eill、作詞:eill、作曲:eill・Ryo'LEFTY'Miyata
シンガーソングライター・eillが、2022年9月7日に発表したデジタルEP「プレロマンス/フィナーレ。」
「フィナーレ。」が主題歌、「プレロマンス」が挿入歌として起用されている。
eillは、シルキーかつソウルフルな歌声が魅力のシンガーソングライター。
2021年にテレビアニメ『東京リベンジャーズ』のエンディング主題歌「ここで息をして」でメジャーデビューを果たし、その後も「hikari」「花のように」などの配信シングルを立て続けにリリースして注目を集めてきた。
主題歌の「フィナーレ。」は "色褪せない愛" を歌った楽曲で、映画の幻想的でエモーショナルな世界観にそっと寄り添うような1曲となっている。
また挿入歌の「プレロマンス」は、エレクトロなサウンドメイクが際立った暑い夏にふさわしい疾走感のあるサマーチューンで、"なにか物語が始まる前のトキメキ" を描いた1曲になっているという。
繊細で緻密な描写を楽しむボーイ・ミーツ・ガール・ファンタジーの名作
細かいことは抜きにして
どんな作品でも大概そうであるが、改めて本作にリアリティを求めてはいけない。
そもそもウラシマトンネルの設定自体がファンタジーだから、その点に関しては言われるまでもないだろう。
しかしそれ以外にも気になる点がいくつかあるが、それはおそらく映像表現を重視したからだと思われる。
なかでも一番ネックになるのは、その後の二人について。
主人公は浦島太郎状態。
経歴は止まったままだし、戸籍がどうなっているのかなんてわかったものではない。
現実的な問題が山積だ。
しかしその点に関して、本作では一切描かれていない。
だが実は、こういうことは原作が中長編だった場合によくあること。
時間的制約を受けるアニメ化においては、どうしても原作をスリムにする必要に迫られる。
当然、端折る部分も多く出てくるだろう。
事実本作も、原作では結末までがしっかりと描かれている。
(ウラシマトンネルから戻った主人公)
あれから13年が経過し、塔野は17歳の体のまま30歳になっていた。
中卒の学歴で、普通の就職もままならないところで、花城がアシスタント兼人生のパートナーにとオファーし、彼はそれを受けることにする。
では、原作を端折られアニメ化された作品は駄作なのかというと、そうではないと著者は思う。
要は、限られた時間の中で "何を観せ、どう魅せるか?" ではないだろうか。
色彩美と映像美
昨今のアニメは作画が本当に綺麗だ。
もちろん本作も御多分に洩れない。
特に情景描写と色彩感覚に優れた作品である。
本作は夏と青春をテーマにした作品でありタイトルにも "夏" を冠しているが、物語のはじまり、主人公たちの出会いをあえて雨のシーンにしたことは特筆に値する。
この出会いのシーンは、もちろんその後の伏線にもなるのだが、おかげで後に描かれる色彩豊かな夏のシーンが実によく映えた。
なるほど、こういう魅せ方もあるのか。
物語の進行に合わせて、より目に映えていく映像美は本作の見所のひとつである。
緻密な描写の数々
本作は原作の現実的な問題を排除した代わりに、主人公たちの緻密な言動や行動に特化した。
ウラシマトンネルを認識させるために、時間を意識させる描写を多く取り入れたのが良い例だ。
電車が30分遅れる。
スピーカーからアナウンスされるこの描写が、なんと3回も登場する。
また、劇中で引かれる伏線もなかなかに細かい。
代表例が、なぜか主人公がガラケーを使っている点。
最初は単純にその時代の話だとばかり思っていたが、結末を観れば納得の秀逸な伏線だった。
さらに、セリフの言い回しも秀逸だ。
なかでも一番印象に残ったのは物語も終盤、「大嫌い」だったセリフが「大好き」に変わっていたことだけで、主人公が過去に "失ったもの" を取り戻したことを表現していたシーンだ。
おまけにこのシーン。
一番気になる、本来 "失ったもの" だと思っていたものは一切映さず、主人公のただ前だけを見ている顔の描写だけで完結させている。
本作の描写には、このような主人公たちの細かい機微に溢れている。
これは観る者に余白を残してくれた結果だろうが、これを物足りないと思う人もいるだろう。
重箱の隅をつつき出せばキリはない。
しかし著者は素晴らしいと感じた。
実に日本人の作品らしい、繊細で緻密な描写だと感じた。
そういった作品を好む人には是非おすすめしたい作品である。
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