劇場版アニメ
SPY×FAMILY CODE: White
※本稿にはネタバレを含みます。ご注意下さい。
オリジナルキャストに加えゲスト声優陣の豪華さはさすが!アーニャの可愛さは健在も作風は子供向けへ全振り
劇場版アニメ『SPY×FAMILY CODE: White』とは
『SPY×FAMILY』の劇場版作品。
「少年ジャンプ+」の作品としては初のアニメ映画でもある。
2023年12月22日(金)公開。
スタッフの多くはテレビアニメから続投となるが、監督にテレビアニメのSeason 1で助監督を務めた片桐崇氏、脚本にSeason 2のシリーズ構成を担当した大河内一楼氏、サブキャラクターデザインに石田可奈さんが新規参加し、原作者の遠藤達哉先生監修の元、大河内氏によるオリジナルストーリーが展開される。
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『SPY×FAMILY』とは
遠藤達哉先生による漫画作品。
「少年ジャンプ+」にて2019年3月25日より連載。
スパイアクションとホームドラマの融合によるコメディという異色作で、偽装家族が互いに秘密を抱えながらも絆を深めていく姿を描く。
「次にくるマンガ大賞2019」Webマンガ部門1位、「このマンガがすごい!2020」オトコ編1位、第24回手塚治虫文化賞ノミネートなどの受賞歴を誇り、「ジャンプ+」の看板作品のひとつに数えられる。
本作の連載以降、「ジャンプ+」が大きくリニューアルされ、初回分が無料で読む事が出来るようになったり、レイアウトも大幅な変更が加えられた転換点とも呼べる作品である。
「季刊エスVol.69」のインタビューで遠藤先生から語られた通り、国家の名称や技術レベルからモデルとなっているのは冷戦時代の東西ドイツである。
コミックス6巻の背表紙・カバー折り返し記載の作者コメントによると60~70年代くらいの時代を想定している模様。
コメディ作品であることを前面に押し出されているものの、東西冷戦時代がモデルであることや、社会主義・共産主義圏ならではの未婚差別に貧富の差、秘密警察に代表される国家主導の監視社会と言論弾圧、それに伴う国民間の相互不信、権力闘争や実際の戦争の影響といった当時の暗部もはっきりと描かれる。
マニアックなところでは、ソビエト連邦時代のロシア製家電といった旧共産圏の生活家具なども登場しており、目をこらしてみるとそこかしこに時代を感じさせるガジェットが鏤められていることが分かる。
ちなみにアニメでは「日本トラバントクラブ」※が取材協力を行っている。
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※日本トラバントクラブ
トラバントとは、ドイツ民主共和国(東ドイツ)のザクセンリンク社で1957年から東西統一まで生産され続けた国民車ともいうべき車である。
「トラビ」の愛称で親しまれたTrabantは「仲間」や「衛星」を意味し、その名称は友好国ソ連の衛星スプートニク号にちなんだといわれている。
社会主義経済の性格と東ドイツ政府の方針により、トラバントをはじめとする乗用車の改良はほとんどされることなく冷戦終結まで変わらぬスタイルで生産され続けられた。
その結果、西側の競争に完全に取り残される形となり東西ドイツ統一後は急速に姿を消していった。
近年、映画に代表されるオスタルギーブームにおいて再び注目を浴びたが、依然稼動車は貴重であり、生き残った一部はヨーロッパで観光用、あるいは個人用として利用されている。
日本トラバントクラブでは実車トラバントP601LXを稼動状態で保有しており、その保存と振興事業を展開している。
あらすじ
世界各国が水面下で熾烈な情報戦を繰り広げていた時代
世界各国が水面下で熾烈な情報戦を繰り広げていた時代。
西国ウェスタリスの情報局対東課〈WISEワイズ〉の敏腕諜報員エージェントの〈黄昏たそがれ〉ことロイド・フォージャーがいつものように任務に当たっていたところ、進行中のオペレーション〈梟ストリクス〉の担当を変更する、という指令が。
しかし新たな担当に選ばれたのは、無能な男だった――。
その頃イーデン校では、優勝者に〈星〉(ステラ)が授与されると噂の調理実習が実施されることに。
少しでもオペレーション〈梟〉(ストリクス)の進展を示し〈WISE〉(ワイズ)へ任務継続を交渉する為、ひいては世界平和を守る為、ロイドは審査員長を務める校長の好物である "フリジス地方" の伝統菓子≪メレメレ≫を作ることをアーニャに提案。
本場の味を確かめるため、フォージャー家は家族旅行でフリジスへ向かうことに。
その一方でヨルは、出発前にロイドと謎の女のやりとりの一部始終を目撃してしまい、仮初めの関係に一抹の不安を覚えながらの家族旅行となってしまう……。
そんな家族旅行の途中、列車内でアーニャは怪しげなトランクケースを発見。
その中にはなぜかチョコレートが……。
不思議に思っていると、トランクケースの持ち主が戻って来てしまい、驚いた拍子にアーニャは誤ってそのチョコレートを飲み込んでしまう……。
ところが、そのチョコレートには世界平和を揺るがす重大な秘密が隠されていた――!?
そしてたたみかけるように、旅先で起こるハプニングの連続!!
世界の命運は、またしてもこの仮初めの家族に託されてしまった――。
登場人物
ロイド・フォージャー
CV.江口拓也
西国情報局WISEに所属する敏腕諜報員(エージェント)。
暗号名(コードネーム)は 〈黄昏〉(たそがれ)。
並外れた観察眼と記憶力を持ち、百の顔を使い分ける変装のスペシャリスト。
東西の戦争を回避するため、偽装家族を作り子供を名門校に入学させる任務に挑む。
誠実な仕事ぶりと優しく丁寧な人柄で患者や同僚からの信頼も厚い。
育児に関する本や論文を手に入れて勉強する教育熱心な父であり、料理が苦手な妻のために料理も担当する献身的な夫。
アーニャ・フォージャー
CV.種﨑敦美
とある組織の実験で偶然生み出された他人の心を読める超能力者。
孤児院にいたところ、ロイドに引き取られる。
超能力については周囲に秘密にしているが、ロイドがスパイであることに気づき、陰ながら彼の力になろうと奮闘している。
ヨル・フォージャー
CV.早見沙織
幼少期から殺人術を叩き込まれた、凄腕の殺し屋。
暗号名(コードネーム)は〈いばら姫〉。
大切な弟を安心させたいという思いと、周囲から怪しまれずに殺し屋を続けたいという思いから、妻を探していたロイドと利害が一致し偽装結婚する。
バーリント市役所に勤める事務職員。
物腰が柔らかく温和な性格だが、思い込みが激しい。
酒癖が悪く、飲むと前後不覚に陥る。
家庭では良き妻、優しい母になれるように奮闘中。
料理の腕は壊滅的だが、キレイ好きで掃除は得意。
ボンド・フォージャー
CV:松田健一郎
フォージャー家のペットである白い大型犬。
オス。
たまに白熊に間違えられる。
ワンではなくボフと鳴く。
その正体は動物実験の末に未来予知の力を獲得した超能力犬。
年はあまり若くなく、いわばおっさん犬である。
ドミトリ
CV:中村倫也
東西平和の転覆を目論む軍情報部の特別偵察連隊のメンバー。
占いに頼りがちな小心者。
ルカ
CV:賀来賢人
特別偵察連隊のメンバー。
恰幅が良い。
ドミトリと行動を共にしており、ツッコミ役。
スナイデル
CV:銀河万丈
ドミトリやルカの上司にあたる、東国軍情報部の大佐。
冷酷非道な性格で、目的達成のためには手段を選ばない。
タイプF
CV:武内駿輔
軍情報部の秘密兵器。
うんこの神
CV:千葉繁
アーニャがアレを我慢していた際に突如彼女の頭の中に登場した神様(?)。
アーニャにトイレをすることの気持ち良さを説いていた。
主題歌
主題歌はOfficial髭男dismの「SOULSOUP」、ED主題歌は星野源の「光の跡」。
Season1第1クールの主題歌を担当した両者が、本作の主題歌を再び担当してくれている。
ファンとしては、初の劇場版で粋なこの計らいが嬉しい。
主題歌
- Official髭男dism「SOULSOUP」
ED主題歌
- 星野源「光の跡」
オリジナルキャストに加えゲスト声優陣の豪華さはさすが!
アーニャの可愛さは健在!安定のオリジナルキャスト
本作オリジナルキャストは、相も変わらずの安定ぶり。
まずは本作ロイド・フォージャー役の演技が評価され、第17回声優アワードでは主演賞を受賞した江口拓也氏。
本来無愛想かつ冷徹な合理主義者であるロイドをクソ真面目に演じることで、キャラクターのコミカルな一面を目一杯引き出している。
また落ち着いた味わい深い声で、ナレーションとしても本シリーズに参加する松田健一郎氏。
松田氏の無駄遣いのような気がするボンド役ではあるが、犬の鳴き声だけで感情豊かに表現し、思わず頬の緩むような愛らしいキャラクターに仕上げている。
さらには柔らかく穏やかで透明感ある声で幼女から成人女性、活発な役からミステリアスな人外キャラ、冷酷な悪女まで、演技の幅が相当広い早見沙織さん。
その実力は言うまでもなく、ヨルのかなり浮世離れした天然ボケかつおっとりした性格を美しい声で完璧に演じきっている。
極めつきは本作の実質的な主人公であるアーニャ役を務める種﨑敦美さん。
声の幅がとても広く、女子中高生ヒロインをはじめ、大人びた女性、幼い舌足らずな少女、クールな少年、必殺技を叫ぶ男主人公など、さまざまな声を出せる実力派であり、演じる各キャラクターのその演技力の高さから「憑依型の天才声優」とも評されている種﨑敦美さん。
その実力が遺憾無く発揮されているのがアーニャである。
( 2023年の声優アワードで『ダイの大冒険』のダイ役で主演賞、『SPY×FAMILY』のアーニャ・フォージャー役で助演賞を獲得し、史上初の主演と助演によるダブル受賞している。)
時計を読むのに苦労するなど一般常識に疎く、世間知らずで空回りすることも多いため、どこかチグハグで付け焼き刃感があり、不器用で言葉遣いが変、字が汚い、妄想癖がある等々ぶっちゃけアホの子・アーニャ。
アーニャの声優のキャスティングとして、これ以上の最適解はないと思われるほどビタハマりの種﨑敦美さんは、本シリーズになくてはならない存在である。
当然、テレビシリーズでも話題となったアーニャの可愛さは本作でも健在。
ぶっちゃけアホの子・アーニャももちろん健在。
真のゲスト声優!目玉は銀河万丈氏と千葉繁氏
本作ゲスト声優は中村倫也氏と賀来賢人氏だが、声を聞いて最初に感じたことはプロの声優ではないことくらい。
ゲスト声優に有名俳優をキャスティングするのが近頃の慣習だから、その辺りは想定内である。
もちろん彼らもゲスト声優だが、ゲスト声優の真の目玉は彼らではない。
本来なら、映画『アナと雪の女王』日本語吹き替え版二代目オラフ役を務めている武内駿輔氏こそが真の目玉と言いたいところだが、本作ではさすがに相手が凄すぎた。
真の目玉ゲスト声優、1人目はこの人。
本人は温厚な老年の紳士そのものながら、独特の重厚かつ渋い声色から、『機動戦士ガンダム』のギレン・ザビ、『北斗の拳』のサウザーなど、威厳のある悪役を演じることが多く、初めて本人と対面した人はアニメで演じるギャップに吃驚するという銀河万丈氏。
「ガンダムEXPO」でステージに登壇し、ギレンによるガルマ追悼演説を再演した際には、演説が始まった途端に眼光鋭く、それでもって聴く者を圧倒させるほどのレジェンド声優だ。
ガルマ追悼演説…声も言葉も大好きだ。
本作では、やはり敵役のスナイデルを演じている。
中の人が銀河万丈氏というだけで、スナイデルがラスボスだとわかってしまうのはさすがとしか言い様がない。
そして目玉ゲスト声優、2人目はこの人。
アーニャ・フォージャーがマイクロチップ入りのチョコレートを食べて敵に捕らわれている時に、なぜかアーニャの脳内に君臨したうんこの神。
単発登場の謎キャラクターだが、驚いたのはうんこの神役を務めたその声優だ。
ゲーム作品などではテロップ(字幕)と音声とで台詞が違うなど強烈なアドリブで有名。
そのせいで「台詞お任せ」のひと言のみが記入されていた白紙の台本を渡されたことがあるというトンデモ逸話の持ち主。
ギャグと渋味を使い分ける巧みな演技と非常に独特な音程の高い声質を持つ、あのレジェンド声優・千葉繁氏その人がうんこの神の中の人だったのである。
千葉繁氏の名は知らなくても、伝説のあの世紀末アニメでナレーションとモブキャラを務めた声優といえば、自ずとその声を脳内再生できるだろう。
その声での「あべし」「ひでぶ」はあまりにも有名。
※一部、千葉繁氏以外の声もあります。
まさか千葉氏ほどのレジェンドが、こんなわけのわからないキャラクターを演じてくれるとは…。
銀河万丈氏と千葉繁氏という二大レジェンド声優をキャスティングできる『SPY×FAMILY』。
さすがは人気作品だけある。
ちなみにアーニャの声優である種﨑敦美さんが、本作から約1年前に『うんたろう たびものがたり』(奇しくも劇場アニメ)という作品で、うんたろうを演じているのは何かの運命か。
うんこの神の登場シーンはキャスティングに加え、映像も異常なまでの力作となっているため必見。
もうこのシーンだけで本作には観る価値がある。
オリジナルストーリーの弊害か?作風は子供向けへ全振り
本作は劇場版オリジナルストーリーになっている。
それもあってか冒頭で作品の概要についての説明もあり、原作やアニメを知らなくても問題なく理解できる。
アーニャの奇怪な行動やアクションシーンも健在で、アニメファンも満足の出来ではないだろうか。
だが少し気になったのは、作風が子供向けに全振りされていることだ。
昔観た劇場版の『ドラえもん』のような、少し前の『クレヨンしんちゃん』のような…。
良く言えば劇場版アニメの王道だが、『SPY×FAMILY』本来の作風を鑑みると違和感を感じざるを得ない。
人気作品初の劇場版にもかかわらず、公開後はさほど話題に上らなかったのはこのためだろう。
これは本作が原作にはない、劇場版オリジナルストーリーだということも大きく影響していたと考えられる。
だから本作は、原作ファンには受け入れられない作品なのかもしれない。
ただ、その辺りの補完として二大レジェンド声優がキャスティングされたのなら、本作制作陣のバランス感覚は非常に優秀である。
二大レジェンド声優のキャスティングは、原作ファンは無理でも、アニメファンを納得させるだけの一応の理由にはなる。
結果トータルバランスに優れた作品にはなったが、同時にファンとしては一長一短ある作品にもなった。
決してつまらなくはないが、必ずしも面白いとは言い切れない。
安定しているが、安定しすぎてもいる。
そんな作品。
が、声優陣に注目したり等、各自の楽しみ方を見つければしっかり面白い作品ではあると思う。
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