語られぬ政府の失策
外国人客急増の「貧しさ」を日本人はまだわかってない
日本の貧しさを痛感した2022年
2022年には、日本の国際的な地位が下がった。
1人当たりGDPで、日本は台湾に抜かれた。
日本の貧しさは、身の回りの出来事でも感じられるようになった。
しかし実は大きな変化が、外国人旅行客の急増という形で10年前から生じていた。
ただそれが、日本の貧しさの表われであることに多くの人は気づかなかった。
1人あたりGDPで台湾に抜かれる
2022年は日本が貧しくなったことが、多くの人によって痛感される年になった。
急激に円安が進んだため、さまざまな指標で日本の国際的地位が下がったからだ。
それを端的に示すのが、豊かさの点で日本が台湾に抜かれたことだ。
IMF(国際通貨基金)のデータベースによると、日本・韓国・台湾の1人あたりGDPの推移は以下のとおりだ。
2022年の推計値で、台湾は日本を抜いた。
10年前の2012年をみると、日本の1人あたりGDPは、韓国の1.9倍、台湾の2.3倍だった。
2013年に異次元金融緩和が導入されて円安が進み、日本の地位は顕著に低下した。
それが2019年まで続いたのだが、2020・2021年に韓国・台湾が日本に急迫したのだ。
IMFの予測によると、日本・韓国・台湾の相対的な関係は、今後もしばらくは今のままで続く。
しかし韓国の成長率が日本より大幅に高いので、近い将来に韓国も日本を抜く可能性が高い。
現実的には「賃金では、数年前から、日本は韓国に抜かれていた」との指摘があるかもしれない。
確かにOECDのデータによると、年間平均賃金ではすでに2015年に、日本は韓国に抜かれている。
そして2021年には、日本が3万9711ドルに対して韓国が4万2747ドルになっている。
ただし、このデータを見るには注意が必要だ。
ここでは、市場為替レートでドルに換算しているのではなく購買力平価で換算している。
これは、世界的な一物一価が成立する為替レートだ。
2021年には、1ドル=100.412円と、1ドル=847.457ウォン。
他方、市場レートでは1ドル=109.754円と、1ドル=1143.958ウォン。
したがって、市場レートで見れば日本は上記の値を0.915倍して3万6335ドルであり、韓国は、0.741倍して3万1667ドルだ。
だから、まだ日本のほうが高い。
国際的地位の低下は、低い成長率と円安による
日本の1人あたりGDPが台湾や韓国に追いつかれたのは、2つの理由による。
第1は、円安だ。
2013年から2014年、そして2022年に日本の相対的地位が急速に低下したのは、円安によるものだ。
第2の原因は、自国通貨建てでみた1人あたりGDPで、日本の成長率が低かったことだ。
2010年から2022年までの期間の成長率を見ると次の通りであり、大きな差がある。
日本 1.11倍
韓国 1.60倍
台湾 1.71倍
日本の成長率が低くなる大きな原因は、人口高齢化が進んで労働人口の増加率がマイナスになっていることだ。
ただし、ここでみているのは1人あたり計数なので、これによる影響はかなり緩和されている。
もう1つ注意すべきは、韓国においても出生率低下によって、労働力が減少していることだ。
それにもかかわらず韓国の成長率が高いのは、技術進歩率が高く産業構造が高度化しているからだ。
なお、以上で見た状況は、日本と韓国、台湾との間だけのことではない。
日本と世界の多くの先進国との間で同様のことがいえる。
今の状態が続けば、日本は先進国の地位を失う可能性が高まっている。
日本は島国なので、以上のような統計の数字を示されても、これまではそれを実感できなかった。
しかし2022年に、iPhoneのような国際的商品が大幅に値上がりしたことで、日本が貧しくなっていることを痛感させられた。
また急激な円安によって、外国人労働者が日本離れを始めたことも報道された。
これまで介護等の仕事でフィリピンから来ていた労働者が、所得の高いオーストラリアに行ってしまうといったニュースだ。
しかし実は、日本が貧しい国になったことの結果は、しばらく前から明白に生じていたのだ。
その変化は誰でも知っていることだが、日本が貧しくなったためにそうなったことを、多くの人は理解できなかった。
それは何かというと、外国人旅行者の急増だ。
日本が貧しくなったので、外国人旅行客が急増した
外国人旅行客の急増は、日本の貧しさの結果だという考えは、多くの人の考えとは反するものだ。
そこで、やや詳しく説明しよう。
来日外国人旅行客数は、2013年から急増した。
2007年から2012年までは年間800万人台だったが、2013年に1000万人を超え、2019年には3188万人となった(観光庁の資料による)。
国別では、韓国・中国・台湾が大部分だ。
日本の観光地の価値が高まったために、外国人が高いお金を払ってでも日本に来るようになったのだったら、本当に嬉しいことだった。
しかし実際に起きたのは、そうしたことではない。
日本での旅行や買い物が安くなったために起きたのだ。
かつてユーロが形成される以前の時代、豊かなドイツの労働者はバカンスになると、ドイツ人から見れば物価が安い国であるギリシャを訪れた。
それと同じことが生じたのだ。
日本は、アジアのギリシャになったのである。
だから外国人観光客の急増は、本当は日本にとって恥ずかしいことであり、悲しいことなのだ。
銀座の表通りに外国人を満載した観光バスがわが物顔に駐車(たぶん、違法駐車)しているのを見て、なんと残念なことが起きたのだろうと思った。
無断撮影、敷地内への踏み込み、深夜の騒音、通勤ラッシュの悪化等々。
京都などでの観光公害の報道を見て、悲しい気持ちになった。
しかし多くの人は、外国人旅行客が日本にあふれることを喜ばしいことだと思って歓迎した。
それによって、売り上げが増加するからだ。
今でもそう考えている人が圧倒的に多いだろう。
そうした人たちは、1日も早く渡航制限が完全に解除されることを望んでいるだろう。
思い返せば1980~1990年代には、これとちょうど逆のことが起きていた。
日本が豊かになり、普通の人でも海外に旅行できるようになった。
そして欧米の豪勢なホテルに泊まって、買い物ができるようになった。
また、日本の経済力が強くなったので、日本で勉強し、日本語を勉強して、日本で仕事に就きたいと望んだ外国人が増えた。
彼らは、日本の大学に留学してきた。
あるいは日本経済を研究するために、日本の大学に滞在したいという学者も増えた。
日本の高い生活費を払っても、それが価値あると考えられたのである。
これは、大変誇らしいことだ。
しかし前述した通り、2013年以降の来日外国人旅行客の急増は、日本が貧しくなったことの表れだったのだ。
こんな社会に誰がした?
「安い日本」に対応した人材しかいない
日本が貧しくなるとともに、人材が劣化した。
それを象徴するのが論文数の低下である。
文部科学省の科学技術・学術政策研究所が8月に公表した「科学技術指標2022」によると、研究内容が注目されて数多く引用される論文の数で、日本は3780本。
スペイン3845本、韓国3798本に抜かれて、過去最低の12位に転落した。
なお、1位は中国(4万6352本)、2位はアメリカ(3万6680本)。
日本は中国の12分の1だ。
さまざまな国際比較ランキングでも、日本の人材の質が低下している。
日本の給与が低いのは生産性の低さからだと指摘されるが、こうした状況で賃金が上がるはずはない。
日本には「安い人材」しかいなくなった。
いや、そうではない。
正確にいうと、本当は能力があるのに、今の日本の社会構造のために、それを発揮できないのだ。
多くの有能な人材が、潜在能力を発揮できずに安い賃金に甘んじている。
これは、「安い日本」におけるもっとも深刻な現象だ。
消費税増税は経済を建て直してから
岸田首相が掲げる防衛費の拡大。
憲法第9条改憲の是非は別として、現在の社会情勢を鑑みれば議論する価値はある。
だが反撃能力は武力だ。
そして貧困に喘ぐ国民の感情は攻撃的になっていくだろう。
国民の攻撃性×武力は、戦争への胎動を意味している。
だから何をおいても経済の建て直しを最優先に行わなければならない。
消費税増税も、今後は必ず必要になることだとは思う。
だが今ではない。
日本経済が完全に建て直ってからだ。
税金で悠々自適に暮らしている政治家は、こんな当たり前のことにすら気づけない。
そればかりか、どいつもこいつも己のことしか考えていない。
当然、将来のことなど微塵も考えていない。
早く何とかしないと、本当に取り返しのつかないことになってしまう。
これ以上、奴らに国の舵取りを任せておくわけにはいかないのである。
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