日中合同アニメーション映画
詩季織々
『詩季織々』とは
『詩季織々』(しきおりおり、中国語: 肆式青春、英語: Flavors of youth)とは、李豪凌(リ・ハオリン)総監督による、日本のアニメ制作会社の「コミックス・ウェーブ・フィルム」と、中国のアニメ制作会社「絵梦(ハオライナーズ)」による日中合同アニメーション映画である。
2018年8月4日に公開された。
キャッチコピーは「あの頃の思いが、そっと背中を押した」。
本作は、中国の3つの都市を舞台とした3つの短編から構成されている、珠玉の青春アンソロジー。
中国の生活の基盤である「衣・食・住・行」に、「青春」や「愛」を重ねるアイデアがベースになっている。
本作の総監督のリ・ハオリン氏は、2006年、新海誠監督作品『秒速5センチメートル』を鑑賞して感銘を受け、2013年、同作の制作会社であるコミックス・ウェーブ・フィルム(CWF)にアニメ制作を依頼するが、スケジュールの都合などの理由でいったんは断られた。
しかし、その後もCWFと交渉を重ね、2015年7月、『君の名は。』完成後に制作ラインが確保できるとの判断からCWFは本作の制作を受諾した。
本作の日本および世界での配信が決まる中、中国の人々にこそ伝わる表現は、他の国では伝わらないのではとのCWFからの提案を受け、中国版と日本版とではセリフ内容や劇伴をそれぞれ少しずつ変えている。
2018年8月より、中国、日本、シンガポールを除く全世界でNetflixが "international version" を独占配信し、日本では非独占配信している。
各話あらすじと登場人物
陽だまりの朝食
テーマは「食と行※」。
北京で働くシャオミンは、漠然と繰り返す日々に心が倦み疲れていた。
そんなシャオミンは、ある雨の朝、ふと故郷での日々と、それぞれの場面でのビーフンの味を思い出す。
優しい祖母との田舎での暮らし、通学路にあるビーフン屋の前を通る憧れの少女と彼女の兄の思い出など。
少年時代の思い出の中には、いつも違った味の温かいビーフンがあった。
しかし、都会の北京に冷たさを感じ馴染めずにいるシャオミンは、大量生産され具も少ないビーフンにも距離を感じていた。
そんな中、シャオミンは祖母の危篤の報せを受ける。
※「行」は「交通」や「移動」などのこと。
登場人物(陽だまりの朝食)
シャオミン
幼い頃、湖南省で両親と離れて祖母と2人で暮らしていた。
現在は北京に在住。
ビーフンに暖かい思い出を抱いている。
シャオミンの祖母
温厚な性格で、いつもシャオミンを優しく見守っていた。
小さなファッションショー
テーマは「衣」。
広州に住むファッションモデルのイリンと妹のルルは仲の良い姉妹で、幼くして両親を亡くしてからは、マンションで共に助け合いながら暮らしていた。
モデルとして人気絶頂のイリンだが、年齢と人気がモデルとしての旬を過ぎようとしていることを自覚し、後輩モデルの人気と輝きを感じていた。
さらに、後輩モデルに付き合っていた彼氏も取られてしまう。
焦るイリンは大事なファッションショーのために無理を重ね、ショーの最中に倒れて入院してしまう。
行き詰まりを感じたイリンは退院後、引退の意向をルルに話す。
しかし、ルルを養うために別の仕事を探すというイリンの言い方に、押しつけがましさを感じて怒るルルと、大喧嘩してしまう。
モデルの仕事がなくなったイリンだが、マネージャーのスティーブからあるショーを紹介される。
そこにはルルが、イリンのために作った服を持って待っていた。
登場人物(小さなファッションショー)
イリン
トップモデル。
両親を亡くしてからは、妹を養うために2人で一緒に暮らしている。
強気で社交的な性格。
後輩モデルの人気に焦りを感じている。
ルル
イリンの妹。
服飾専門学校に通いながら料理などの家事を務めている。
内気な性格だが芯は強い。
働きすぎな姉を気遣っている。
スティーブ
イリンのマネージャーで、公私にわたる相談役でもある。
ゲイで女性には恋愛感情を持たない。
上海恋
テーマは「住と行」。
1990年代、上海の石庫門に住むリモは、幼馴染のシャオユとパンといつも一緒に過ごしていた。
リモとシャオユは互いに淡い思いを抱いており、その気持ちを口に出すことはなかったが、2人は互いの言葉を録音したカセットテープを交換し合って交流を深めていた。
ところが、地元の高校に通うというリモに対し、シャオユは父親から一流校の高校に行くよう言われていた。
その高校は石庫門から遠く離れた町にあり、引っ越さなければならない。
リモはシャオユには内緒で一流校を受験しようと猛勉強を始め、そのためシャオユとのカセットテープの交換が途絶えてしまった。
リモは猛勉強の甲斐があって一流校に合格するが、シャオユは受験に失敗してしまう。
リモは引っ越しの車の中、橋の上から手を振って見送るシャオユに手を振って応え、そうして2人は離れ離れになってしまう。
そして現代、社会人になったリモは仕事に失敗し、状況を変えるために引っ越しをする。
ところがリモは、その引っ越しの荷物の中に、持っているはずのないシャオユとの思い出のカセットテープを見つける。
そこに吹き込まれていたのは、語られることのなかったリモへの思いであった。
しかし、テープを聞いたリモがシャオユの家を訪れると、既に一家は引っ越しており、行方も分からなくなっていた。
登場人物(上海恋)
リモ
建築設計士。
石庫門に住んでいた頃、幼馴染のシャオユに淡い思いを抱いていた。
現在は仕事に行き詰まりを感じている。
シャオユ
リモの幼馴染。
リモへの思いをカセットテープに録音して伝えようとしたが、リモには伝わらなかった。
その後、アメリカに留学する。
リモやパンと異なり上海人ではなく、上海に住んでいるのは父親が出稼ぎに来ているため。
石庫門は上海人の戸籍が無ければ住めないため、寂れた集合住宅で暮らしている。
パン
リモとシャオユの幼馴染。
大人になってもリモとの付き合いは続いている。
主題歌
- WALK (movie ver.)
作詞・作曲:ビッケブランカ
「WALK」はビッケブランカが作品を鑑賞したうえで書きおろしたという背景もあり、映像と共鳴するフレーズが物語により深みを持たせるような仕上がりだ。
主題歌「WALK」について、リ・ハオリン総監督は「雨上がりの風景と合わせて、気持ちも明るくなりました。そのような魅力を持っている歌です。青春への追憶と良くなる未来への憧れ――という作品のテーマとよく合う歌でもあります」と称賛。
イシャオシン監督(「陽だまりの朝食」)からは「歩き続けることこそ生きる証、と感じられる歌です」、竹内良貴監督(「小さなファッションショー」)からは「青春期の迷いがうまく表現され、聞いた後に前向きな気持ちにさせてくれる、そんな曲です」との賛辞も寄せられた。
『君の名は。』以前の新海誠作品を彷彿とさせる作風
それもそのはずで、本作は『秒速5センチメートル』『君の名は。』を手掛けたコミックス・ウェーブ・フィルムが制作している。
本作をわかりやすく表現するなら、『君の名は。』以前の新海誠監督作品のハッピーエンド版。
ハッピーエンドといっても、それまでの過程と観終わった後の余韻は新海誠監督作品のそれと似たものを感じる。
ただし、本作は新海誠監督作品ではない。
しかし、その作風は本作に大きな影響を与えているのはたしかである。
ノスタルジックな想いに耽る3つの秀逸な短編物語
舞台は中国
本作は、中国の3つの都市を舞台とした3つの短編から構成されている。
文化が違う中国が舞台ということで感情移入しにくいかと思われるかもしれないが、実際視聴してみるとそうでもない。
ひとつ目のエピソード「陽だまりの朝食」で、いきなり異文化を痛感させられるが、気になるほどでもなかったというのが個人的な感想である。
ただし、人によってはそれがネックになることもあるようなので視聴の際は注意してほしい。
まるで詩を詠むように…
本作はどのエピソードにも共通して、セリフの選び方が実に詩的である。
特に秀逸だったのが、ひとつ目のエピソード「陽だまりの朝食」。
まるで詩を詠むようなセリフのひとつひとつが、新海誠監督作品の中でも名作の呼び声高い『秒速5センチメートル』を彷彿とさせていた。
ただ、『秒速5センチメートル』よりわかりやすい言葉選びをされていたから、この手の作品に慣れていなくても、楽しんで観ることができるのではないだろうか。
劇中で登場するビーフン(三鮮ビーフン)が異常に美味しそうにみえることも、おまけとして付け加えておこう。
三鮮ビーフン。
食べたことはないが、本当に美味しそう。
本作を観終わった後、三鮮ビーフンが食べられる店をすぐに検索する人が続出したという話もまんざら冗談ではないのだろう。
3つの物語
新海誠監督作品にはないエンディング
3つの短編から構成されている本作は、そのひとつひとつは独立していても、最後にほんの少しだけすべてがひとつに交わる。
それはありがちな描写ではある。
しかし本作を新海誠監督作品へのトリビュートとするなら、その感慨はひとしおだ。
なぜなら新海誠監督作品には、ハッピーエンドという概念があまりない。
唯一のハッピーエンド風作品である『君の名は。』ですら、ほんの少し含みを持たせたエンディングになっている。
そしてハッピーエンドがない新海誠監督作品の最大の特徴こそ、 "すれ違い" なのだ。
"すれ違い" を主とする物語に、交わりなどあるわけもない。
だからこそ、本作のエンディングは感慨深いのだ。
きっと本作総監督である李豪凌(リ・ハオリン)氏自身が、イチファンとして、新海誠監督作品のハッピーエンドを観たかったのだろう。
こういう表現は作品に対して失礼になるかもしれないが、本作は良くも悪くもまるで新海誠監督作品の外伝のような作品である。
しかし外伝のようであるが故に、果たして新海誠監督作品が好きな人におすすめして良いものか…。
それほど作風は酷似している。
何度もいうが、本作は新海誠監督作品のようであって新海誠監督作品ではない。
そのことを忘れて観ると、その人の目には本作がただの偽物にしか映らない恐れがある。
その点さえクリアになれば、本作は非常におすすめの作品である。
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