新海誠監督作品
言の葉の庭
『言の葉の庭』とは
2013年5月31日公開。
キャッチコピーは「 “愛” よりも昔、“孤悲” のものがたり」。
『星を追う子ども』から2年ぶりとなる、新海監督の5作目の劇場用アニメーション映画。
新海監督の初めての「恋」の物語と銘打っており、『万葉集』を引用している。
『万葉集』の表現の研究者である倉住薫さん(大妻女子大学・文学部・日本文学科 助教授)が協力している。
背景は雨が重要な要素を担っている。
「雨は3人目のキャラクターといっていいくらいウエイトがある」と新海監督は語っていて、シーンの約8割が雨のシーンで構成されている。
2013年5月31日より日本全国・台湾・香港・中国大陸(LETVのネットワーク放送)で同時公開となり、公開日より劇場限定でBlu-ray Disc・DVDの先行発売が行われている。
一般発売は6月21日。
iTunes Storeでも公開日より配信されている。
当初の予定では劇場公開する予定はなく、配信やDVDのみの小規模な短編作品の予定だったが、最終的には劇場公開という形になった。
「月刊アフタヌーン」(講談社)2013年6月号から12月号まで、本橋翠作画による漫画版が連載された(単行本は全1巻、2013年11月22日発売)。
また、メディアファクトリー刊「ダ・ヴィンチ」2013年8月号から2014年4月号まで小説版が連載された。
同誌は『秒速5センチメートル』の小説版も刊行しており、執筆も同様に新海自身が手がけた。
2013年2月に野村不動産グループ「プラウドボックス感謝祭」にて公開された、新海氏が監督したショートフィルム『だれかのまなざし』が同時上映で公開。
このショートフィルムはDVDやBlu-ray Discには収録されていないが、2013年9月5日から2014年1月12日までYouTubeで公開されていた。
7月6日にはアメリカ・ロサンゼルス開催のアニメ・エキスポで、7月19日にはプチョン国際ファンタスティック映画祭でプレミア上映された。
2014年5月18日には英国映画協会(BFI)が主催のロンドンで開催されるアニメーション映画祭「Anime Weekend」にて上映。
2017年3月4日、『君の名は。』のヒットに伴う「新海誠特集 第一弾」としてテレビ朝日系列で地上波初放送された。
また2018年1月2日深夜(1月3日朝)には、『君の名は。』の地上波初放送を記念して二度目の放送が行われた。
いずれも関東地区のみの放送。
劇中でタカオがユキノのために作った靴は実物も製作されていて、劇場などに展示されている。
商品化の予定は不明。
あらすじ
靴職人を目指す高校生のタカオ(秋月孝雄)は、雨の日の午前には決まって授業をサボり、庭園のベンチで靴のデザインを考えていた。
梅雨入り前のある雨の日、タカオはいつものベンチへ向かうと、チョコレートをつまみにビールを飲む女性ユキノ(雪野百香里)に出会う。
タカオはユキノに見覚えがあるような気がしたためどこかで会ったことはないかと尋ねるも彼女は否定し、『万葉集』の短歌 「雷神の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか きみを留めむ」 を言い残して去っていった。
その後、2人の住む関東は本格的に梅雨入りし、雨の日の午前だけのささやかな交流がはじまる。
タカオは心に秘めていた靴職人になる夢を語り、ある理由から味覚障害を患うユキノはタカオの作る弁当の料理に味を感じるようになる。
ユキノは弁当のお礼にとタカオに「靴作りの本」をプレゼントし、タカオはユキノのために靴を作ることに決め、おそるおそる彼女の足を採寸する。
その後、梅雨が明け、しばらくの間2人は逢わなくなる。
夏休みに入ったタカオは、靴の製作費と、進学を考えている靴の専門学校の学費を稼ぐためバイトに明け暮れていた。
一方ユキノはいつもの庭園で過ごし、晴れの日のここは知らない場所みたいだと思う。
夏休みが終わり、2学期になった夏のある日、タカオは学校でユキノとすれ違い、ユキノが古文の教師だったこと、生徒たちの嫌がらせによって退職に追い込まれたことを知る。
タカオは嫌がらせの首謀者である3年の女生徒、相沢に会いに行くが、彼女は悪びれもせずユキノを中傷する。
かっとなったタカオは相沢の頬を叩くが、彼女の取り巻きの男子生徒に返り討ちにされてしまい顔面に怪我を負う。
後日庭園でタカオはユキノに再会し、万葉集の返し歌 「雷神の 少し響みて 降らずとも 吾は留まらむ 妹し留めば」 を口にする。
タカオから「ユキノ先生」と呼ばれたユキノは、自身に気づくと思ったからあの短歌を読んだのだと語り、怪我の理由を問われたタカオは先日の上級生との諍いを告げず曖昧に濁す。
互いに立場を知り複雑な表情を浮かべていたが、急な土砂降りに遭い、傘を持たない2人はユキノのマンションへ避難する。
濡れた服を乾かしている間にタカオは料理を作り、ユキノがコーヒーを淹れる。
他愛のない会話で笑い、心休まるひと時を過ごす2人は、今が一番幸せだと感じる。
そしてタカオから自身への好意を打ち明けられたユキノは一瞬頬を染め目を逸らすが、地元の四国に帰ることを告げ、高校生の彼に対し一線を引いた大人の対応をとり、部屋を出ていく彼を無言で見送る。
残されたユキノはコーヒーが冷めたあともタカオと今まで過ごした雨の中の日々を回想して涙を流し、去っていった彼を裸足で追いかける。
マンションの階段で立ち止まるタカオを見つけて駆け寄ろうとするが、「さっきの告白は忘れてください、やっぱりあなたのことが嫌いだ」と撥ね付けられてしまう。
強がりから自身の気持ちを否定するタカオは、ずっと立場を隠していたうえ靴職人の夢を無責任に応援していたユキノに対して涙ながらに怒りをぶつける。
真っすぐに自身を見ていてくれたタカオの気持ちと言葉を受け、ユキノも込み上げる思いをぶつけ、互いに涙を流し合う。
季節は変わって冬、2人で過ごした庭園は雪に包まれていた。ユキノと別れてからも1人庭園へ通うタカオの元には、地元の四国で教師に復帰した彼女から手紙が来るようになっていた。
タカオは完成したユキノへの靴を手にとり、あの雨の庭の中、自分たちは歩く練習をしていたのだと追想し、もっと遠くまで歩けるようになったら彼女に会いに行こうと決めた。
主要登場人物
秋月孝雄【タカオ】
声 - 入野自由 / 関根航(子供時代)
主人公。
高校1年生だが将来は靴職人を目指しており、時間さえあれば靴制作に没頭し、手作りのモカシンを履いている。
雨が好きで、雨の日は地下鉄に乗り換えずに歩いて庭園へ向かい、午前の授業をサボって靴のデザインを考えている。
靴の専門学校への進学費用のため、中華料理店でアルバイトをしている。
料理が得意で、学校にも弁当を持参している。
自由奔放な母親と、社会人の兄との3人暮らしだったが、物語中盤で兄が彼女と同棲するため家を出る。
家庭環境のせいもあり、まだ15歳だが年齢よりやや大人びた性格。
雨の日の庭園で出会ったユキノに心を開くとともに惹かれていき、彼女のために靴を作る。
ユキノの授業担当クラスではないため彼女とは面識がなく、学校内の事情も知らなかった。
声優の入野氏は前作『星を追う子ども』に続いて主演を務める。
雪野百香里【ユキノ】
声 - 花澤香菜
ヒロイン。
タカオが雨の庭園で出逢う謎めいた女性。
27歳。
タカオの通う高校で古文の教師をしていたが、生徒からの嫌がらせによって退職に追い込まれる。
一時は味覚障害によって酒とチョコレート以外の味を感じなくなってしまうが、タカオとの出会いで次第に味覚を取り戻していく。
退職後は地元である四国へ帰って再び教職に就いており、タカオとは手紙のやり取りをしている。
当初ユキノ役は彼女の設定年齢に合わせて25歳以上という条件でキャスティングを行ったが、最終的には当時23歳の花澤香菜さんが自ら立候補し演じることとなった。
新海監督曰く、花澤さんの声は「最も印象に幅がありユキノを成り立たせる」ことが起用の理由だという。
なお、漫画版では名前の表記が "由香里 " となっている。
次作『君の名は。』では、飛騨の山奥にある糸守町の学校にて同名の教師が登場する。
音楽
- 「Rain」
主題歌は大江千里氏が作詞・作曲した「Rain」を、秦基博氏がカバー。
新海誠監督作品の根底にあるもの
時間軸のズレと思春期の恋物語
『君の名は。』が大ヒットへ至るまでの新海誠監督作品には、一貫して明確なコンセプトがふたつあった。
それは、
- 主人公たちそれぞれの時間軸のズレ。
- 思春期の恋物語。
である。
逆に言えば『君の名は。』は、この二大コンセプトを基に試行錯誤してきた新海誠監督の集大成ともいえるのである。
関係の変化をテーマに据えた『言の葉』
本作で主人公たちそれぞれの時間軸のズレは見受けられない。
代わりに年齢の差(ズレ)と立場の違い(ズレ)が描かれているのが特徴である。
これは新海誠監督作品で初めての試みだった。
とはいえ、一方的ではあるが恋物語も健在で歴代作品を踏襲していると言えなくもない。
年齢と立場が違えば、考え方や価値観も自ずと違ってくる。
この違いをズレと呼べなくもないが、本作には過去作で時間軸が違うようなファンタジー要素はない。
あくまで普通の人間の、普通の恋物語を描いている。
その辺りを鑑みると、本作はそれまでの新海誠監督作品とは少し毛色が違うようだ。
背景画の美しさは本作に極まれり
本作は過去作と比べても圧倒的にヤマ場がない作品だが、代わりに心にじわじわと沁み渡るような情緒がある。
それは新海誠監督作品の情景描写の美しさに起因している。
本作では特に雨の描写が秀逸で、美しさという点では過去イチかもしれない。
それほどまでに美しい。
おまけにエンディングで流れてくる「Rain」が抜群で、雨=憂鬱という一般的な暗いイメージを見事に覆してくれている。
このことが言い知れぬ情緒を生み出していることは間違いない。
少なくとも、雨の日が少し好きになれる作品である。
本当にこれがアニメなのかと疑いたくなるほど超絶美しい情景描写でも、人物画については相変わらず。
『ほしのこえ』の頃から比べると、少しくらいは上達したか?というレベル。
次作『君の名は。』で人物画が劇的に改善されるだけに、監督独自の人物画風が少し名残惜しくもある。
劇的な物語が好きな人にはおすすめできないが、圧倒的な情景描写は一見の価値がある。
文学好きにはハマるかもしれない。
おすすめ視聴法は、雨の日や静かな夜にしっぽりと視聴すること。
他人とワイワイ観る作品ではない。
新海誠監督最新作
映画『すずめの戸締まり』
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