日本映画
N号棟
『N号棟』とは
『N号棟』は、2022年4月29日に公開された日本映画。
監督は後藤庸介氏、主演は萩原みのりさん。
2000年に岐阜県で実際に起きた幽霊団地騒動※をもとに新解釈で映像化した考察型恐怖体験ホラー作品。
幽霊が出るという噂の廃団地「N号棟」を訪れた大学生3人が、怪現象を目撃・体験しながら隠された謎に迫っていく様を描く。
キャッチコピーは「これは夢か、幻か、現実か、それとも…」。
幽霊団地騒動「富加町のポルターガイスト」
富加町のポルターガイストとは、岐阜県富加町の団地で2000年前後にかけて起きた騒動。
「幽霊団地騒動」とも。
現象が起きた場所は1998年建築の4階建ての公営住宅であり、24世帯のうち報告があったのは15世帯。
たとえば次のような現象が起きたという。
- テレビのチャンネルが、住民は何もしていないのに、勝手に変わる
- ドライヤーが、電源コードをコンセントに差し込んでいないのに、勝手に動き出す
- 食器棚から皿が水平方向に数メートル飛び出す
- 水道の蛇口から勝手に水が流れる
2000年10月13日に地元の新聞の中日新聞がこの出来事およびそれにまつわる騒動を記事にして報じた。
それを皮切りに、報道各社がこの公営住宅に押し寄せて取材合戦が起き、いつしか原因はポルターガイストであるとされた。
テレビ朝日の人気番組『ニュースステーション』もこの件を扱い、現場から中継放送(住宅内に取材カメラが入って現場の住宅内や食器棚の撮影や、住民へのインタビューなど)も行われた。
なお中継放送中にはポルターガイスト現象は特には起きなかった。
いくつかの週刊誌なども取材を行いこの件を記事にした。
報道や週刊誌で扱われるうちに全国各地から霊能者や降霊術師、あるいは自称する人物がやってきて、「みて(視て、診て)さしあげる」とか、「除霊してさしあげる」などと申し出があったという。
なかには最初から高額の金額を要求する明らかに金銭目的の詐欺師の類もいたとされる。
2002年に原因は建付けの問題だったと結論された。
なお、この公営住宅には2021年時点では当時の住人はほとんど残っておらず、当時のことを知る人はほとんど残っていない。
当時の自治会長もすでに没している。
2022年の映画『N号棟』(後藤庸介監督)は、この事件・事象をモチーフに製作された作品である。
あらすじ
東京の女子大生である史織は死による消滅を恐れ、死恐怖症(タナトフォビア)による不眠症に苦しんでいる。
唯一の肉親である母親が植物状態で入院し、手の施しようがないことも、彼女のエキセントリックな性格を形成している。
史織は友人で元カレの啓太が友人の真帆と交際しているのを承知で関係を持つなど、刹那的で身勝手な生活を送る。
映像サークルに所属する啓太は卒業制作としてホラー映画を企画し、岐阜にある廃墟の「幽霊団地」を真帆と共にロケハンすることになる。
その二人旅に無理に同行する史織。
だが、到着した団地には大勢の住人が暮らしていた。
その晩は空き室に泊まることになり、団地のリーダーである加奈子に紹介される史織たち。
加奈子は死後の霊の存在を説き、自分たちは家族の霊と共に生活している。
ホラー映画は迷惑だと史織たちを説得する。
死後の世界など信じないと反発する史織。
途端にポルターガイストが起こり、住人の三谷という女性が5階から投身自殺した。
その様子を撮影しろと啓太に命じる史織。
そんな冷徹な史織に反発した真帆は同じ部屋で寝ることを拒否し、加奈子ら住人側につく。
珍しく熟睡し、啓太と共に翌日の正午に目覚める史織。
住人たちは中庭で楽しげにランチ・パーティーを開いている。
昨夜の三谷の投身自殺はトリックだと確信して証拠を探す史織。
だが、三谷の幼い息子までが投身自殺してしまい、史織のせいだと住人側につく啓太。
加奈子の前に引き出される史織。
10年以上も前に恋人を死なせたと告白する加奈子。
だが、恋人が霊として身近にいることを知った加奈子は死後の世界の存在を確信し、他の住人たちも、死んでも団地で暮らし続けるのだという。
啓太や真帆も蘇った死者を見て、霊の存在を信じている。
死後の世界を認めろと迫られて混乱し、啓太や真帆、加奈子をも殺して自殺する史織。
生者の姿で病院に現れ、母親の人工呼吸器を外す史織。
心拍が停止した母親は霊として蘇り、史織を抱きしめた。
団地の住人となった史織は部屋のカーテンを開けて、満足気に景色を見渡した。
登場人物
史織
演 - 萩原みのり
主人公。
大学生。
死恐怖症(タナトフォビア)を抱える。
啓太が制作するホラー映画のロケハンに同行し、廃団地のN号棟に来てしまう。
真帆
演 - 山谷花純
史織の大学の同級生。
啓太の今カノ。
史織、啓太と一緒に廃団地に乗り込む。
啓太
演 - 倉悠貴
史織の大学の同級生。
史織の元彼。
卒業制作のホラー映画のロケハンに廃団地に行く。
加奈子
演 - 筒井真理子
団地の住人。
死恐怖症(タナトフォビア)というアプローチは良かったのに結局何が描きたかったのかわからなかった迷作
予備知識なしで映画を観ることが多い著者にとって、タイトルというのはかなり重要な要素となる。
昔でいうCDのジャケ買いみたいなもので、映画でいうなら、これは "タイトル買い" とでも表現したらいいのだろうか。
タイトルだけの印象だから、もちろん当たり外れが激しい。
それでも産みの苦しみを想像したら、あらゆる創作物には敬意を払いたいと思う。
だからなるべく良いところを見つけて、それをお伝えできたらとは思っているのだが…。
本作の入り口は死恐怖症(タナトフォビア)にフィーチャーしたものだった。
それはメメントモリとも表現できるもので、非常に興味深いテーマだ。
ちなみに本作がホラー作品だというのは作品紹介でインプット済み。
死恐怖症(タナトフォビア)、もしくはメメントモリをホラーとどう絡めていくのか?
本作はその意外性にこそ注力すべきだったように思う。
非常に興味深い入り口とは裏腹に、中盤以降は集団催眠や宗教というような、わけのわからない方向に舵を切ってしまう。
死恐怖症(タナトフォビア)から人を救うにはあるいはその方法しかないのかもしれないし、わけのわからないものへの恐怖がホラーだともいえる。
その点ではこのアプローチ自体に間違いはなかったのかもしれないが、それで納得させるだけの結末ではなかったのが、本作を迷作にしてしまった所以だろう。
結局何が描きたかったのか。
最終的に一番怖いのは人間?
それとも本当は霊的何かが影響しているのか?
それが伝わってこないまま、意味不明でエンディングを迎える。
このこと自体は日本映画によくあることで、あまり問題ではない。
だとしても本作がホラー作品と謳うなら、後を引くような恐怖が圧倒的に足りない。
最終的に一番怖いのは人間という結末はあくまで現実のものでしかなく、想像から湧き上がるような恐怖ではない。
寝る前に思い出して急に怖くなる。
そんな作品を期待していただけに残念。
【映画パンフレット】N号棟 監督 後藤庸介 キャスト 萩原みのり, 山谷花純, 倉悠貴, 岡部たかし, 諏訪太朗,
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