Netflix映画
シティーハンター
実写版冴羽獠役を演じるプレッシャーを跳ね除け期待を大きく上回った鈴木亮平の役者魂は必見!…だからこそ思い知らされるアニメCV.神谷明の偉大さ
『シティーハンター』とは
『シティーハンター』とは北条司先生による漫画、及びそれを原作としたアニメ作品。
前作『キャッツ♡アイ』に続く北条司先生2作目となる週刊少年ジャンプ連載作品。
東京・新宿で殺し・ボディーガード・探偵等を請け負うスイーパー「シティーハンター」冴羽獠の活躍を描くハードボイルドコメディ。
現代劇として描かれたため、連載時の1980年代後半が舞台で、「シティーハンターが美人の依頼人から仕事を受け、その依頼を数話をかけてこなす」というのが基本構成となっている。
全体を通しての伏線などはあるものの、依頼人・仕事の内容はその都度異なり、問題を解決した依頼人は原則として再登場せず(とはいえ何回か再登場するキャラもいる)、各依頼ごとの繋がりもない。
ジャンプの漫画では珍しく時の流れが明確で、キャラクター達も物語が進むごとに年を取っている。
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Netflix映画『シティーハンター』
『シティーハンター』は、2024年4月25日よりNetflixで配信された日本の映画。
北条司先生の同名漫画を原作としており、これまでに香港版や韓国版、フランス版が制作されてきた同作にとって、日本国内では初となる実写映画化作品でもある。
監督は『ストロベリーナイト』や『累-かさね-』などを手掛けた佐藤祐市氏。
舞台は現代の新宿で、基本的には「エンジェルダスト」をめぐる原作序盤の流れに沿った物語だが、舞台背景や設定が若干アップデートされている。
主演を務めるのは、子供の頃からシティハンターの大ファンで、かねてより「いつか冴羽獠を演じてみたい」と公言していた鈴木亮平氏。
持ち前の演技力に加え、冴羽獠としての説得力に満ちたガタイ、神谷明氏を意識した声など、非常に完成度の高い「実写版冴羽獠」を見事に実現している。
あらすじ
新宿東口の伝言板に書かれた「XYZ 妹をさがしてください」というメッセージを受け、相棒の槇村秀幸と共に、有名コスプレイヤーくるみの捜索依頼を請け負った "シティーハンター" こと冴羽獠。
その頃新宿では謎の暴力事件が多発し、警視庁の敏腕刑事 野上冴子は手を焼いていた。
息の合ったコンビネーションでくるみを追う獠と槇村だったが、捜査の最中、槇村が突然の事件に巻き込まれ死んでしまう。
獠が事件現場に駆けつけると、そこにいたのは槇村の妹の槇村香。
兄の死の真相を調べてほしいと香は伝言板で獠に依頼するが、香を巻き込みたくない獠は香を避け続ける。
しかし香がくるみを発見、保護したことで状況は一変。
くるみがコスプレイヤーとして出演するイベントに、獠と香は護衛役として潜入することになった。
ステージに登壇するやいなや、一気に注目の的となるくるみ。
しかしそんな彼女に視線を送るのは、観客やメディアだけではなかったーー。
実写版冴羽獠役を演じるプレッシャー
実写化困難と言われた理由は完璧に確立された冴羽獠像が故か
撮影技術が進歩した今、原作で描かれたアクション(特にガンアクション)を実写再現することは、それほど難しいことではないだろう。
しかし『シティーハンター』の主人公である冴羽獠のキャラクターの再現となると、話はまったく別のものへと変わる。
冴羽獠は、新宿を拠点に活動する超一流のスイーパーである彼の通称は「もっこり男」、または「新宿の種馬」。
獠は非常に体格が良く、しかも高身長でありルックスも良い。
仕事柄、その肉体は鋼の様に鍛え上げられており、強靭かつしなやかであり、しかも持久力もある。
裏世界では「最強のプロ」とされ、恩師の教授からは「獠が本気になれば一人で東京を壊滅させる」と謂われる。
黙っていればハードボイルドな風貌の「いい男」なのだが、性格は超が付くほど無類の女好き。
下着泥棒から女湯覗き等々、依頼者やその関係者に対してスケベな悪事を毎回働いており、それを香に見つかって100tハンマーの制裁を喰らった回数は数え切れないほどである。
彼がよく使う単語「もっこり」は彼及び『シティーハンター』という作品の代名詞にもなっている。
女絡みでは誘惑に滅法弱く、どんなに気をつけていても、女性の下着を用いたトラップや冴子の色仕掛けにいとも簡単に引っ掛かる始末。
こんな調子だから(一般的な「シティーハンター」の知名度にはバラつきがあるものの)世間ではスイーパーとしての実力より、「もっこりスケベ」で、「女好きだが男や子供は大嫌い」な事が有名になっている。
だが、この見た目は二枚目なのに中身は完全に三枚目というギャップこそが彼の魅力であり人気の源なのである。
そんな冴羽獠の魅力が完全に確立されたのはアニメ『シティーハンター』でのこと。
レジェンド声優神谷明氏が演じた冴羽獠像は、原作を読んで想像していた彼そのものであった。
冴羽獠はアニメを経て、その魅力が完成されたと言っても決して過言ではない。
しかし、その完成された魅力が実写化再現における最大の障壁となって立ちはだかる。
見た目は二枚目なのに中身は完全に三枚目。
『シティーハンター』を実写化するためには、主人公である冴羽獠の魅力を完全再現できる演技力を備えた演者が必要になる。
同時に冴羽獠を演じる演者には、リスクが付きまとうことも忘れてはならない。
なぜなら冴羽獠の口癖である「もっこり」はコンプライアンス違反に敏感な今となっては、非常にセンシティブなワードである。
だからといって「もっこり」は作品の代名詞でもあるから、実写化に際し避けて通ることはできない。
「もっこり」を連呼することで、もし仮に視聴者に負のイメージを持たれでもしたら、今後の役者生命にも関わる一大事である。
実写版冴羽獠を演じる演者には、役どころの難しさに加え、演じるリスクまでをも引き受けられる懐の大きさも必要なのである。
さらに原作『シティーハンター』は大人気作品でもある。
原作改悪が問題化する昨今で、作品の成否はその魅力の大半を占める実写版冴羽獠の出来次第だと考えられなくもない。
ファンの期待を裏切る、想像し得る一番の行為は、冴羽獠の "これじゃない" 感なのだろうから。
いろいろな意味で演じるのが難しい冴羽獠役。
だが逆に、もし冴羽獠を見事演じ切ることが出来たなら、それは役者冥利に尽きるこれ以上ない誉れになるだろう。
果たしてそんな適役がいるのだろうか…。
そこで白羽の矢が立ったのが、"もし実写化するなら…" で以前から期待値が高かった鈴木亮平氏である。
鈴木亮平の役者魂
鈴木亮平氏といえば、どんな役にもなりきってみせる演技の幅の広さに定評がある。
役づくりのためには、肉体改造にも努力を惜しまない。
2015年にドラマ『天皇の料理番』で佐藤健氏演じる主人公の兄を演じた際には、結核にかかって徐々にやせ衰えていくさまを表現するため、体重を76キロから段階的に落とし、最終的に56キロまで減量した。
6話ぐらいで、長身の鈴木氏とくらべると小柄な佐藤氏の体重を下回ったときには、「よし!」と思ったという。
さらに『天皇の料理番』を撮り終わったあとにクランクインした主演映画『俺物語!!』では、大柄な高校生を演じるため、今度は87キロまで体重を増やす。
原作『俺物語!!』
実写版『俺物語!!』
前の役との体重差はほぼ30キロ、しかもわずか40日間で増量したとあって話題を呼んだ。
それ以前に主演した映画『HK/変態仮面』(2013年)でも、紆余曲折あってクランクインが遅れるなか、鈴木氏は原作マンガの主人公を忠実に再現すべく、その間ずっと体を鍛えながら待ち続けたというエピソードが残る。
原作『変態仮面』
実写版『HK/変態仮面』
その後、大河ドラマ『西郷どん』(2018年)で西郷隆盛を演じたときも、スマートだった青年時代から恰幅のいい晩年まで、体重を自在に増減させて演じきった。
『俺物語!!』や『変態仮面』を含めマンガ原作の映像作品への出演も多く、その再現度には毎回驚かされるが、鈴木氏に言わせれば、
形から入っているという意識はあまりないんですよ。
むしろ漫画原作のほうが、内面をちゃんと捉えて演じないと危険だなと思っている。
形があるからこそ、内面をおろそかにすると一気に崩れる怖さがあるので。
ということらしい。
そもそも役づくりに関して体の話ばかり注目されるのは、彼としては必ずしも本意ではないようだ。
僕は精神と肉体、その両方が混じり合っての人間であって、そこを分けては考えていないんですよね。
そのどっちをもできるだけ役に近づけるのが俳優の仕事だと思っているので。
というのがその理由だ。
そんな鈴木氏も駆け出し時代、ドラマ『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』(2007年)に "その他大勢" の役で出演した際、何とかして目立とうと、
俺はゴリラだと思い込んでがに股で歩いたり、一話目で「ウンコ」というセリフがあったので、二話以降、言うセリフに全部「ウンコ」と足していったり
と、監督に怒られるギリギリまでやったというエピソードがある。
デビュー当初は監督の言うことも聞かず暴走しがちだった鈴木氏だが、今では
役者の考えてることなんて監督の考えてる深みの三分の一くらいのもんだ――ということに、ある時気付いたんです。
それ以来、「まな板の上の鯉になる」をモットーにしてます!
と強調。
自分を抑え、役になりきることに力を注ぐようになったのも、そのときからなのだろう。
期待を大きく上回った鈴木亮平の役者魂
原作・アニメファンが期待する冴羽獠像に、鈴木亮平氏がどこまで近づけるのか?
そんな心配は、オープニングで即払拭される。
作品の代名詞でもある「もっこり」の連呼で、オープニングから冴羽獠節全開。
鈴木亮平氏のキレキレの演技からは、役者生命の一大事など微塵も感じさせない。
なかでも「もっこり」ダンスのシーンは圧巻だった。
たったワンシーンだが、もしかしたらこの「もっこり」ダンスこそ、本作一番の見所なのかもしれない。
そう思わせるほど、見事なまでに鈴木亮平=冴羽獠だった。
そしてこのワンシーンにこそ、鈴木亮平氏の役者魂が込められているような気がする。
ともすれば変態ダンスとも受け取られかねないこのシーンを観て、鈴木亮平氏のこれまでのイメージが損なわれることはない(少なくとも著者の中では)だろう。
なぜなら、これは格好良いシーンであるからだ。
いわゆるギャップ萌えである。
どんなにダサい男を演じていようと、演者がイケメンなら格好良く見えるという心理には、実は2パターンの捉え方がある。
それは、役者としての格好良さか元の良さか。
本来なら、演者がどんなにイケメンであろうと、役者であるなら演技としてダサい男になり切るべきだ。
しかし演技が下手な役者は、ダサい男を演じる時も中途半端に格好つける。
だから元の良さが無駄に残って格好良いと錯覚させる。
これがひとつ目の捉え方。
しかし演技が上手い役者は違う。
演技が上手い役者は、その演技がダサければダサいほど元の良さが際立つ。
誰もが恥ずかしがる変態シーンを自然に演じることが出来たなら、その時生じるギャップ萌えは通常シーンの比ではない。
そして鈴木亮平氏が全力で演じた「もっこり」シーンは、そんな誰もが恥ずかしがる変態シーンに分類されるのである。
鈴木亮平氏の熱演に賞賛を贈ると共に、実は内心はホッともしている。
原作ファンの著者としては、『シティーハンター』の実写化について少し懐疑的なところがあった。
冴羽獠は実写化不可能なのではないか、と。
さらには鈴木亮平ファンでもある著者。
冴羽獠を演じることでキャリアに傷がつくのではないか?
胸中は複雑である。
実写版冴羽獠をこの目で見るまでハラハラしていたことは否めない。
しかし蓋を開けてみればすべては杞憂だった。
鈴木亮平氏の魂の熱演。
それだけでNetflix映画『シティーハンター』は一見の価値がある。
是非その目でご覧になってみてはいかがだろう。
改めて思い知らされる冴羽獠アニメCV.神谷明の偉大さ
鈴木亮平氏の熱演の素晴らしさが際立てば際立つほど、改めて思い知らせたのがアニメ版の声優を務めた神谷明大先生の偉大さだ。
著者の中の冴羽獠のイメージは原作ベースであるものの、そのほとんどがアニメ版に依るものだ。
ケンシロウ、キン肉マンなど数々の伝説級キャラクターのCVを務めた神谷明氏ではあるが、かねてより著者は冴羽獠こそ神谷氏一番のハマり役だと確信している。
鈴木亮平氏演じる冴羽獠は大変素晴らしいものだった。
実写版の冴羽獠役はもはや彼しかいない。
そう思えるほどの名演技だった。
しかしその演技の精度が高ければ高いほど、僅かな違いですら逆に際立ってしまうものだ。
イメージと大きく離れていたならそんなことすら考えもしないのだが、イメージと近づけば近づくほどその僅かな違いが気になってくる。
そうして改めて思うのだ。
冴羽獠の魅力を完全再現できるのは、やはり神谷明氏をおいて他にない。
Netflix映画『シティーハンター』での冴羽獠の再現度は、間違いなく最高クラスである。
とはいえ、アニメ版冴羽獠の背中がようやく見えたというレベルでの話だ。
二次元作品と三次元作品を同じ土俵で論じるのはナンセンスではあるが、漫画を原作とする作品を実写化するのはやはり難しいことなのだと、改めて思い知るのであった。
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