アニメ
カウボーイビバップ(Cowboy Bebop)
生粋の傑作ハードボイルド作品の語りすぎない美学
『カウボーイビバップ(Cowboy Bebop)』とは
『カウボーイビバップ(Cowboy Bebop)』はサンライズ制作のSFアニメ作品。
テレビ東京系などで1998年4月から同年6月にかけて全26話中の一部が放送され、その後WOWOWで同年10月から1999年4月にかけて全26話が放送された。
また、2001年9月には劇場作品『カウボーイビバップ 天国の扉』が公開されている。
2071年の火星を中心とした太陽系を舞台に、おんぼろ宇宙船「ビバップ号」に乗って旅する賞金稼ぎのスパイク・スピーゲルら乗組員の活躍を描くスペース・ウェスタンアニメ作品である。
粋な台詞回しやクールな映像、痛快なメカアクションやガンアクションなどが特徴。
本筋はハードボイルドタッチだが、話数によってテイストが異なり、サスペンスやホラー、ドタバタコメディ、サイバーパンクなど振り幅が大きい。
『ビバップ』というタイトルどおりジャズを始め、ブルース、ロック、テクノなど多彩なジャンルの音楽をBGMとして使用し、その独特の世界観と相まって既存のSF作品になかった特異なスタイルを築きあげた。
監督の渡辺信一郎氏いわく「それまでやりたくてもやれなかったことを全部ぶち込んで作った」作品であり、「毎回20分の映画を作っているつもりでした」と語っている。
放送当時は『ルパン三世』に類似するという声が多かったが、渡辺氏によればむしろ(次回予告ナレーションを含めて)松田優作主演のテレビドラマ『探偵物語』に近いという。
また本作の特徴の一つに、その世界設定から登場人物のデザインに人種的特徴がよく表れている点が挙げられる。
キャラクターデザインを担当した川元利浩氏によれば、これは渡辺監督から許可が出たためとのことである。
国際的な評価も高く、北米ではいくつか実写化企画も立ち上がっている。
地上波放送版では自主規制が行われ、暴力表現および性的表現、光の明滅が修正・カットされている。
これは、製作開始時から放送までの間に神戸連続児童殺傷事件や栃木女性教師刺殺事件といった未成年による凶悪事件が起きたことや、「ポケモンショック※」によってテレビ東京の規制が強まったためである。
最終回である総集編「よせあつめブルース」は、これらの規制・カットに対する抗議をメインキャラクター達の独白という形で吐露したもので、通常の総集編とは異なり、物語自体にはほとんど言及していない。
エンディングは「THIS IS NOT THE END. YOU WILL SEE THE REAL "COWBOY BEBOP" SOMEDAY! (これが終わりじゃない。いつか本当の「カウボーイビバップ」を目にするだろう!)」という挑発的なメッセージで締めくくられている。
この回はその後の再放送から除外され、DVDなど映像ソフトへの収録も行われていない。
1998年11月開催の第3回アニメーション神戸で作品賞・テレビ部門を受賞。
※ポケモンショック
ポケモンショックとは、1997年12月16日にテレビ東京および系列局(TXN)で放送されたテレビアニメ『ポケットモンスター』(ポケモン)の一部視聴者が光過敏性発作等を起こし救急搬送された放送事故・事件である。
事件の影響で本番組の放送がおよそ4カ月間休止という措置が取られた。
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あらすじ
時は2071年。
宇宙開拓時代を迎えた人類は太陽系内に生活圏を広げており、悪化する治安への対策として、指名手配犯を捕まえる賞金稼ぎ、いわゆる「カウボーイ」たちが活躍している。
カウボーイ稼業を営むスパイク・スピーゲルと相棒のジェット・ブラックは、古い漁船を改造したオンボロ宇宙船「ビバップ号」に乗り込んで宇宙を駆け巡っている。
大物の賞金首を捕まえることもある一方、その荒っぽいやり方に巻き込んだ一般市民からの損害賠償請求も多い彼らに金銭的余裕はない。
そんなビパップ号に奔放な美女フェイ・ヴァレンタイン、天才ハッカーのエド、犬のアインが転がり込む。
おのおの何かしらの事情を抱えながらも、一同はビパップ号で緩やかな絆を育み、行く先々で様々な騒動に巻き込まれる。
圧倒的存在感
CVは超強力レジェンド声優陣
※CV:キャラクターヴォイス
スパイク・スピーゲル(CV:山寺宏一)
「七色の声を持つ男」と呼ばれるほど、広域の声が特徴である山寺宏一氏。
さらに演技力、そして司会業で見せる巧みな話術も相まって、渋い男性、青年から老人、ヒーローから悪役のボス、シリアスな役からコメディタイプ、二枚目から三枚目、さらには吹き替えや動物まで多数の役柄の声を演じこなすレジェンド声優。
かの押井守監督は「彼は8通りの声を出すし、20役を演じ分けて見せるんだよ。そのあまりの巧さが逆に彼の欠点となる。山寺自身の声が印象的ではないから、山寺の声を記憶できないんだよね」と評している。
たしかにその通りで、山寺宏一氏が演じる代表的な役どころを尋ねられても、すぐには答えられない。
わかりやすい役どころを挙げるなら『エヴァンゲリオン』の加持リョウジ役や、ディズニーアニメにスティッチ。
とにかく凄い声優さん。
ジェット・ブラック(CV:石塚運昇)
声優デビューしてしばらくは洋画の吹き替えやナレーションがメインで、アニメの仕事に対して本気でなかったが、OVA『マクロスプラス』に出演して「アニメも面白いな」と思うようになったという石塚運徳氏。
声を務める『ポケットモンスター』のオーキド博士に自身が扮した姿で、たびたびテレビ番組やイベントなどに顔出し出演していた。
あまり馴染みのない声優さんかもしれないが、代表的な役どころとして『名探偵コナン』で怪盗キッズを追いかける中森警部や、前述した『ポケットモンスター』のオーキド博士。
惜しくも2018年に逝去されている。
フェイ・ヴァレンタイン(CV:林原めぐみ)
林原めぐみは、デビュー以来長年にわたり人気声優として多彩な分野で活躍しており、第3次声優ブームの源流かつ最も代表的な声優。
特に歌手活動においては、声優がレコード会社と専属契約をする先駆けとなり、本格的かつ継続的な活動を初めて行ったことで “声優アーティスト” の礎を築いたレジェンド。
代表的な役どころがあまりに沢山ありすぎて、逆に何が代表作なのかわからなくなるほど。
『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイ。
『スレイヤーズ』のリナ=インバース。
山寺宏一氏と同様、とにかく凄い声優さん。
語りすぎない美学
あらゆる作品で過剰な説明が目立つようになった昨今で、あらゆる説明を徹底的に排除した作品が『カウボーイビバップ』だ。
登場人物から時代設定やSF考証に至るまで、劇中での説明はほとんどといっていいほどはない。
だからこそ、『カウボーイビバップ』が本格的ハードボイルドである証ともいえる。
そもそもハードボイルド作品とは、どういうものだろう。
「ハードボイルド」は元来、ゆで卵などが固くゆでられた状態を指す。
転じて感傷や恐怖などの感情に流されない、冷酷非情、精神的・肉体的に強靭、妥協しないなどの人間の性格を表す。
また文芸用語としては、暴力的・反道徳的な内容を、批判を加えず、客観的で簡潔な描写で記述する手法・文体をいう。
また『カウボーイビバップ』でいうところのカウボーイとは、賞金稼ぎの通称であり蔑称でもある。
一般市民にとってはならず者のイメージが強い。
これらを総合してハードボイルドをひと言で例えるなら、それはcoolである。
ハードボイルドとは、何よりまず、冷静で格好良くなければならない。
いちいち細かい説明なんかしていたら、興醒めも甚だしい。
要するに「真面目かっ⁉︎」ということである。
前述したように、最近の映像作品には無用な説明が多くなっているような気がする。
それもこれも視聴者側の理解力の低下、すなわち、察することができなくなってきているからだろう。
人が誰かを格好良いと思うのは、その所作に憧れを抱いた時だと著者は考える。
こうなりたい。
この人のようでありたい。
それが誰かを格好良いと感じる原点ではないか。
そこに無用な説明なぞ要らない。
日本から着実に失われつつある、ハードボイルドの世界にあなたも触れてみてはいかがだろう。
さて、次回のカウボーイビバップははっきり言って暗い…そして重い。
出てくるのは、いい年こいた汗臭い男ばかり。
言いたかないが地味だ。
子供は見ない方がいいだろう。
女性もよした方がいい。
それに若い男も見ない方が賢明だ。
次回、「ブラック・ドッグ・セレナーデ」。
おい、オヤジだけは……見てくれ。
これは『カウボーイビバップ』第15話「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」の最後に流れた次回予告の言葉だ。
秀逸すぎる次回タイトルもさることながら、こんな次回予告は聞いたことがないだろう?
とんでもなくシビれたよ。
最高に格好良くないか?
『カウボーイビバップ』は、本物のハードボイルドを知るための良い教科書だ。
言わずもがな、老若男女に観てもらいたい傑作だ。
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