映画
フード・ラック!食運
肉愛だけではなかった!?描かれるのはヒューマンドラマと問題提起
洋画の派手さこそないがどうしようもなく心にしみる…
それこそ邦画の最大の魅力
洋画の派手さこそないがどうしようもなく心にしみる…
それが邦画の良さだと思う。
昔は当たり前のように洋画一択だったが、近年の邦画はなかなかバカにできない。
製作費でハリウッドに勝てないならシナリオと演出と演技で勝負といわんばかりに、邦画のクオリティーは年々高くなっている。
たしかにハリウッド映画は華やかで見栄えもするが、どうしても大味になってしまっているように感じる。
演出的にはどうしても地味な邦画ではあるが、シナリオ的に感性が合うのはやはり制作者が同じ日本人だからだろうか。
もちろん作品によるが、邦画には洋画のクライマックス的派手な見せ場がほとんどない。
ドッカンドッカン爆破しないし、ガガガガ派手な銃撃戦もない。
カッコいい戦闘機も、イカツイ戦車も邦画とは無縁に近い。
だが、最近そんな邦画が観ていてとても心地よい。
ガチャガチャとうるさいだけの映画は苦手だ。
時には深く考えさせられ、じわじわ心にしみてくる映画を好むようになってからというもの、邦画が面白くて仕方ない。
日本人ならではの感性で演出し魅せていくのが邦画だ。
ここではまったく派手ではないけれど、どうしようもなく心にしみて今なお強く記憶に残っている邦画をご紹介したいと思う。
『フード・ラック!食運』とは
『フード・ラック!食運』は、2020年11月20日に公開された映画である。
寺門ジモン氏の初監督作品。
主演はNAOTO氏と土屋太鳳さん。
第33回東京国際映画祭・特別招待作品として11月4日に東京・EX THEATER ROPPONGIでワールドプレミア上映が開催された。
食通であり、特に焼肉に強いこだわりを持つ寺門氏が「焼肉」をテーマに5年かけて練り上げたオリジナル作品で、作品の中には実在する名店の料理が登場している。
松竹の担当者が寺門氏の著書を読んで「映画監督をやらないか」と寺門氏にオファーを出して実現した作品でもあり、当初は寺門氏が世界中の肉を食べ歩くというドキュメンタリー形式の映画を想定していたが、寺門氏がすでに『寺門ジモンの肉専門チャンネル』や『取材拒否の店』などの番組をやっていた事から、「ハードルは上がるが本を書くことはできますか?」と提案し、寺門氏は戸惑いながらも承諾。
そこから推敲を繰り返して原作も執筆された。
キャストに関しても寺門氏が食を通じて交渉しており、特にNAOTO氏は元々寺門氏を「師匠」と慕っており、寺門氏が「師匠が映画撮るなら出る?」と聞くと「当たり前です」と返ってきたという。
また今となっては貴重なダチョウ倶楽部のメンバーもチョイ役で出演している。
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あらすじ
うだつがあがらないフリーライターが、編集者とともに「本物」だけを集めた新しいグルメ情報サイトの立ち上げを任される。
その最初のテーマは焼肉。
しかし彼には焼肉との間にあまりにも深い因縁があった。
人気焼き肉店を一人で切り盛りしていた母のもとで育ったが、ある事件を境に疎遠になってしまったのだった。
そんな複雑な思いを抱えながらも、同僚と一緒に各地の名店を巡り、取材を重ねていく。
脇を固める豪華な俳優陣
主演の二人もさることながら、脇を固める俳優陣が驚くほど豪華だ。
石黒賢氏、松尾諭宇治、寺脇康文氏、白竜氏、東ちづるさん、筧美和子さん、大泉洋氏(特別出演)、大和田伸也氏、雷太氏、りょうさん。
もちろん皆演技が素晴らしいのだろうが、それよりも素敵な人柄の役どころに目が向く。
登場人物は皆が良い人でほっこりする。
ただ特別出演である大泉洋ちゃんに関しては、久しく見ていない実に洋ちゃんらしい役どころで、それはそれでなんだか微笑ましかった。
おそらく本来のその役者さんらしくない役どころが多いので、新しい一面を見るような新鮮な気持ちになれる。
さすが肉王・寺門ジモン?
原作・監督が肉王・寺門ジモン氏だけあって、肉の見せ方や焼き方や食べ方へのこだわりが半端ない。
観れば肉を食べたくなることは必至。
夜中に観ちゃったなら大変なことになるぞ。
視聴する時間もちゃんと考慮した方が身のためだ。
ただ素人目ながら「焼き過ぎでは?」と感じるシーンもしばしば。
思わず正しい肉の焼き方を調べてしまったのは言うまでもない。
物語の根っこにあるのは肉愛だけではなかった
描かれるのはヒューマンドラマと問題提起
もし「自分が書いた記事によって町のパン屋が潰れてしまったら…」?
EXILEのNAOTO氏が演じる主人公・佐藤良人はフリーライターだが、劇中では自分が書いた記事によって町のパン屋が潰れてしまうという苦悩に直面する。
劇中で書かれた記事とは、天然酵母を売りにしたパンの美味しさについて「それ以上でも以下でもない」と、ある意味正直な感想を綴ったものだった。
しかし潰れてしまったパン屋のオーナーである男性は、「謝ってほしくはありません」と主人公へ告げる。
ただひと言「ただ、忘れてほしくもない」と告げるだけ。
これは非常に考えさせられるシーンであった。
まるでライターやブロガーとして情報を発信する側のモラルを問われているようであった。
本作を観れば主人公・佐藤良人が書いた「それ以上でも以下でもない」という意見が、単純な批判ではないことが理解できる。
ただし文脈だけをみるなら、その印象は批判でしかないと受け取られても致し方ないのだ。
そして文脈しかみないのが当たり前なのである。
劇中でも主人公・佐藤良人の「それ以上でも以下でもない」という文言に尾ヒレがつけられて拡散されてしまっている。
主人公・佐藤良人は、この記事がもし批判ではないのなら、文の前後にその旨を匂わせるべきであった。
この一連の流れをみて、昨今蔓延るインタビューの切り抜き問題を思い浮かべた。
ある一言・一文だけを悪意をもってフィーチャーされてしまえば、人心操作など容易いものだ。
言葉や文章を扱う者の端くれとしては、十分気をつけなくてはいけないことである。
いくら後になって説明不足を訴えようと、受け手側からしたら言い訳にしか聞こえないのだから。
心温まるヒューマンドラマ
「よく噛んで おいしいが来たら 飲み込んでよし」
主人公・佐藤良人の母役を務めたりょうさんのセリフ。
りょうさんが母役というのも珍しいが、それが肝っ玉母ちゃん役なのだからなお珍しい。
そしてこの母ちゃんの人柄が繋いでいく人脈で主人公が救われていくのが、本作の趣旨であるかと思われる。
そこには悪者がひとりもいないのも特徴のひとつ。
(※悪者と呼ぶほどではない嫌味な奴くらいはいるが…)
とにかく最終的にはみんな良い人になってしまう。
物語としてはムカつく悪者にぎゃふんと言わせた方が盛り上がるのかもしれないが、これはこれで悪い気分はしない。
寺門ジモン氏の初監督作品ということで、物語の展開やセリフの言い回し等で「ん?」と首を傾げるところも多々あるが、嫌いではない作品である。
最後にはちゃんと泣けたし、最後まで気楽に観ることができた。
評判はあまりよろしくないようだが、気を張らないで観ることができる、楽しい娯楽作品と呼んでもいいのではないだろうか。
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