映画
天地明察
いろいろと豪華なのに全然派手じゃない名作時代劇
洋画の派手さこそないがどうしようもなく心にしみる…
それこそ邦画の最大の魅力
洋画の派手さこそないがどうしようもなく心にしみる…
それが邦画の良さだと思う。
昔は当たり前のように洋画一択だったが、近年の邦画はなかなかバカにできない。
製作費でハリウッドに勝てないならシナリオと演出と演技で勝負といわんばかりに、邦画のクオリティーは年々高くなっている。
たしかにハリウッド映画は華やかで見栄えもするが、どうしても大味になってしまっているように感じる。
演出的にはどうしても地味な邦画ではあるが、シナリオ的に感性が合うのはやはり制作者が同じ日本人だからだろうか。
もちろん作品によるが、邦画には洋画のクライマックス的派手な見せ場がほとんどない。
ドッカンドッカン爆破しないし、ガガガガ派手な銃撃戦もない。
カッコいい戦闘機も、イカツイ戦車も邦画とは無縁に近い。
だが、最近そんな邦画が観ていてとても心地よい。
ガチャガチャとうるさいだけの映画は苦手だ。
時には深く考えさせられ、じわじわ心にしみてくる映画を好むようになってからというもの、邦画が面白くて仕方ない。
日本人ならではの感性で演出し魅せていくのが邦画だ。
ここではまったく派手ではないけれど、どうしようもなく心にしみて今なお強く記憶に残っている邦画をご紹介したいと思う。
『天地明察』とは
『野性時代』(角川書店)にて、2009年1月号から7月号まで連載、2009年11月30日に角川書店より刊行された。
江戸時代前期の囲碁棋士で天文暦学者の安井算哲(渋川春海)の生涯を描く。
第143回直木賞候補作。
映画『天地明察』
冲方丁先生による時代小説『天地明察』を原作に映画化された映画『天地明察』。
監督は滝田洋二郎氏で、2012年9月15日公開。
主演はV6の岡田准一氏。
岡田氏は以前ラジオ番組で冲方先生と対談したことがあり、そのときに原作を読んでいた。
映画の内容は、山崎闇斎が、改暦作業に渋川春海の後見として積極的な役割を果たし、反対派の襲撃を受けて死亡するなど、原作・史実と異なる点があり、このことはエンディングロールのあとで断られている。
余談だが吉岡里帆さんは当時京都市在住の一般の高校生だったが、本作にエキストラで参加したことをきっかけに女優の道を進むこととなった。
あらすじ
まだコペルニクスの地動説が知られていなかった時代の日本に、天体の運行を観察し日本独自の正しい暦を作り出そうと試みた一人の男がいた。
時は江戸。
4代将軍徳川家綱の治世。
一介の棋士(囲碁)ながら会津藩主にして将軍後見役保科正之に目を掛けられる安井算哲(後の渋川春海)は天文・数学にも深い興味を示す好奇心旺盛な男。
上覧碁(将軍の前で碁を打つ)を翌日に控えた算哲は会津江戸藩邸の屋根に登り星を眺めていた。
親しい会津藩士・安藤有益から金王八幡宮に新たな和算の設問が奉納されたと聞いた算哲は居ても立ってもいられず、翌日早朝に参詣する。
そこで早速問題に取りかかろうとするのを掃除をしていたえんという若い女性に見咎められる。
登城の刻限が迫り、算哲は急いで神社を飛び出すが大事な棋譜を忘れてしまう。
算哲が慌てて取りに戻ると棋譜に気づいたえんが持っていた。
ふと設問の書かれた絵馬に目をやると算哲が解こうとした設問には全て答えが記され、新たな設問が奉納されていた。
このとき算哲は、えんの目の前で一瞥しただけで解いた人物、関孝和の事を知る。
遅刻して登城した算哲は対戦相手となる旧知の本因坊道策から真剣碁を持ちかけられる。
かねてから将軍に碁の本当の面白さを伝えたいと考えていた二人はそれぞれの師からあらかじめ指示されていた打ち筋を外れ、算哲は初手天元(碁盤の中央)という奇手を打つ。
このことで立ち会いの幕臣たちは色めき立つが家綱は面白いと承知。
道策と算哲の真剣な対局に家綱は身を乗り出して観戦していたが蝕(日蝕のこと、古来凶兆の前触れとして忌まれた)が発生したとの報告が入り、城中の儀式は全て取りやめとなり、算哲と道策の勝負も水入りとなってしまう。
それぞれの師にこっぴどく叱られる二人だったが、算哲は正之に呼び出される。
正之は初手天元の真意を尋ねた後、「半月後から日本各地で北極星の位置を確認せよ」(北極出地)という命令を与える。
その遂行に当たって刀を下賜される。
つまりは武士として職務に当たれという命令であり、これは幕府の正式な事業であった。
関孝和に会いたいと考えた算哲は手がかりとなる村瀬塾という和算塾を訪ねるが、そこでえんと思いがけぬ再会を果たす。
塾長・村瀬義益の妹だというえん。
義益が関の書いた本を見せると算哲は食事も忘れて夢中になる。
算哲は関に挑戦するため関の難問を解いた上、自身の設問を掲げる。
算哲は関から解答があったら預かって欲しいとえんに頼む。
算哲とえんは互いにほのかな恋心を抱くのだった。
一方、道策は師の制裁で公開の場での対局を禁じられていた。
算哲が公務を果たした暁には封じ手とした上覧碁の続きを対局することを約束する。
北極出地の一行は雪の舞い散る中、江戸を出立する。
気のいい上役の建部伝内、伊藤重孝に気に入られた算哲は小田原での観測において二人が歩測と方角を元にした計算から角度を割り出し競っていることを知らされ、この競争に参加することになる。
熱田での観測において算哲は完璧な解答を出して建部、伊藤を驚かせる。
幼少期から高名な山崎闇斎に師事して北極星を観察してきた算哲はそのことを語り、算術については独学で学んだと語る一方で関の本を二人に差し出す。
すると建部、伊藤共に夢中になり、関に弟子入りしたいと言い出す。
その発想はなかったと算哲は語り、関の設問を解き、自らの設問を置いてきたと語る。
だが、算哲の設問を二人が計算したところ答えが無数に存在する「誤問」だと指摘され、算哲は酷く恥じ入り落ち込み。
そのことをえんに手紙で伝える。
だが、設問を見た関は美しいと賞賛していた。
出地一行が宿泊まりをしていると小者の弥吉が月が欠けている(月食)と知らせる。
だが、あらゆる暦を確認してもその日の月食について予見したものはなかった。
建部と伊藤は日本国内のすべての暦の元となっているのは800年前の唐から伝わった宣明暦であり、年月を経てズレが生じているのだと指摘する。
だが、暦の変更(改暦)については朝廷が拒み続けていたのだった。
北極出地は過酷を極め、行程には大幅な遅れが生じる。
そして旅の最中、年配の建部は健康を害してしまう。
病床にて建部は天の理を解き明かし我が二腕にて抱いて三途の川を渡るという大望を語る。
出地一行と銚子で落ち合う約束していた建部だが身罷ってしまう。
算哲は建部の遺志を継ぐことを誓う。
ようやく北極出地を終え、設問を手に村瀬塾を訪ねた算哲だったがえんは既に嫁いでしまっていた。
藩邸にいた算哲は水戸光圀に呼び出される。
北極出地について語った算哲は暦のズレが2日にもなろうとしていることを報告する。
光圀は朝廷の公家衆が既得利権のために暦を独占していると語る。
だが、公家の中にも算哲の同門で闇斎を師とする土御門泰福のようにそれで良いと思っていない者もいた。
正之に呼び出された算哲は正之の悲願である改暦について光圀、建部、伊藤、安藤そして恩師・闇斎からの推挙により責任者に任じられる。
「天を相手に真剣勝負を見せよ」という正之の言葉に算哲は「御意」と答えるのだった。
こうして幕府の威信をかけた一大事業が始まる。
だが、暦を巡る戦いは熾烈を極め、算哲は幾度となく苦境に立たされるのだった。
これは江戸初期に実在した暦の改革者・安井算哲、和算を完成させた不遇の算術家・関孝和、史上最強の棋士・本因坊道策という「知の巨人」と言うべき男たちと、江戸幕府の黎明期を支えた保科正之、水戸光圀といった偉大な名君たちの物語である。
先人たちの偉業
正確な暦の解析へ
いったい何を取っ掛かりにして、昔の人は正確な暦を知り得たのか?
それにはまさに天文学的なほどの、膨大な観測データが必要だった。
歩測によって距離を測定し、あらゆる地点で星の位置を観測する。
それこそ気の遠くなるような労力を必要とした。
先人たちの偉業には本当に頭が下がる思いだ。
そういうところを知るだけでも、本作は十分楽しめる作品となっている。
世界の中心の日本人
この手の作品を観ると、つくづく昔の人は本当に凄いなと感心するばかりである。
まだ天動説だ、いや地動説だなどと議論している時代に、暦のズレを指摘しあまつさえそれを是正するなんて…
天才って本当に存在するんだよな。
本作主人公の安井算哲(渋川春海)然り、伊能忠敬然り、昔の日本人は自分たちが気づいていないだけで、実は世界の中心にいる人間が何人もいたのだ。
同じ日本人として、これは誇るべきことである。
細かい技術にかけては世界が驚くほどであった。
それは精細な技術を持つスイス人が、日本のカラクリ技術をみて驚くほどだったという。
その頃からの積み重ねのおかげで後に「技術の日本」と呼ばれるようになるのだ。
また本作とは直接関係はないが、江戸のインフラは世界一。
花の都・パリなんか比べものにならないくらい、快適な生活が江戸にはあった。
今、流行りのSDGs(Sustainable Development Goals、日本語では「持続可能な開発目標」)の意識も、実はこの頃の江戸からすでに存在している。
あらゆるものがリサイクルされて、まったく無駄のない生活がすでに営まれていたのだ。
究極のエコ生活は、江戸時代にはもう確立されていた。
日本人が意外と知らない、忘れ去られてしまった日本の本当の実力。
偉大な先人たちが積み重ねてきたもの…
そろそろ思い出さなくてはいけない。
伝統芸能の役者さんが多数出演
長屋で貧乏暮らしをしながら和算の研究に没頭する孤高の算術家、関孝和役に市川猿之助氏。
2代将軍秀忠の庶子で家光の異母弟で、初代会津藩主である保科正之役に松本幸四郎氏。
当時暦家賀茂氏を継承していた幸徳井家の当主で、陰陽頭であった幸徳井友傳をモデルにしていると思われる宮栖川友麿役に市川染五郎氏と、日本を代表する伝統芸能役者さんがズラリ出演している。
伝統芸能を継承している役者さんが演じる時代劇は、やはり何かが違う。
とにかく凄い。
普段から日本伝統芸能を知る役者さんが演じている分だけ、時代考証にリアルと深みが生まれるのだろう。
歌舞伎は敷居が高いという印象があるが、こういう時代劇が増えれば、その普及の手助けにもなるのではないだろうか。
本業に疎かにはできないだろうが、日本の伝統芸能継承者の方々には率先して時代劇に出演してほしいと心底思う。
いろいろと豪華なのに全然派手じゃない名作時代劇
豪華なのは伝統芸能役者さんたちばかりではない。
北極出地隊隊長、建部伝内役に笹野高史氏。
建部の離脱後出地隊を率いる伊藤重孝役に岸部一徳氏。
口が軽くお調子者の小者、弥吉役に徳井優。
四代将軍家綱役に染谷将太氏。
おまけにナレーションには真田広之氏。
音楽は久石譲氏が務めている。
あまりに豪華な布陣すぎて驚きを隠せない。
しかもこんなに豪華な布陣にもかかわらず、扱うテーマが全然派手じゃない天体観測。
まったく邦画ってやつは…
だがそれが良い。
これでこそ名作邦画である。
しかしこれほど豪華布陣で臨んだ作品が、ハリウッド映画並みの大ヒットを記録できないのは少し哀しい気もする。
こういう映画こそ、より多くの人に観て欲しいと切に願う。
いや、作品が作品だけに星にでも願っておこう。
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