【アニメ『葬送フリーレン』第2クール「一級魔法使い試験編」】新シリーズ突入も不動の人気の理由は "緊張と緩和" の絶妙なバランス感覚
アニメ『葬送フリーレン』第2クール「一級魔法使い試験編」
「一級魔法使い試験編」とは
大陸最北端のエンデにある「魂の眠る地(オレオール)」を目指しているフリーレン一行。
「魂の眠る地」に行くために通る必要がある北部高原は、情勢が悪く人の往来が制限されていて、冒険者であったとしても一級魔法使いが同行していなければ立ち入ることはできない。
魔法を管理している大陸魔法協会という組織があり、協会が認めた魔法使いは能力や試験結果に応じて、一級魔法使いや三級魔法使いのような資格が与えられる。
フリーレンとフェルンは一級魔法使いの資格を取るため、北側諸国最大の魔法都市オイサーストで一級魔法使い選抜試験を受けることになった。
フリーレン達以外に試験を受けるのは、長年にわたり魔王軍の残党と戦ってきたヴィアベル二級魔法使い、権力争いに勝ち抜いて宮廷魔法使いになったデンケン二級魔法使い、2年前の二級試験で一級魔法使いを殺害して失格になったユーベル三級魔法使いなど、くせもの揃いの総勢57名。
これまでの戦いは主に魔族や魔物との戦闘が描かれていたが、一級魔法使い試験編では魔法使い同士の戦いも描かれる。
魔法使いの制度についても言及され、これまで以上に様々な魔法が登場するのも見所のひとつとなっている。
新シリーズ突入も不動の人気の理由は "緊張と緩和" の絶妙なバランス感覚
アニメ『葬送フリーレン』第2クール「一級魔法使い試験編」は、フリーレンとフェルンが一級魔法使いの資格を得るために一級魔法使い選抜試験を受けるストーリーである。
「一級魔法使い試験編」では、デンケン、ユーベル、ゼーリエといった個性豊かな新キャラクターが多数登場し、魔法使い同士の戦闘も描かれている。
戦闘シーンといえば、かつては少年漫画の王道ヒット要素であり、戦闘シーンにおけるハラハラドキドキ感こそが王道シナリオであった。
大ヒット中の『葬送のフリーレン』にも、もちろんその要素は含まれている。
しかしその描写は、かつてのそれとは決定的に違う点がある。
その相違点こそが、"緊張と緩和" の絶妙なバランス感覚なのである。
そのバランス感覚は、アニメに限らずあらゆるジャンルで現代のヒット作の要素となっているから実に興味深い。
例えばドラマならこんな例がある。
西島秀俊主演の日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』地味ドラマなのに『VIVANT』に迫る高視聴率発進
西島秀俊氏主演の日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』(TBS系、毎週日曜夜9時から)が、地味ドラマなのにも関わらずあの『VIVANT』に迫る高視聴率を叩き出し好調だ。
2024年1月14日に放送された第1話は、平均世帯視聴率が11.4%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)と、同枠で昨年7月期に放送された大ヒット作『VIVANT』の初回11.5%に迫る好発進となった。
このドラマは、天才指揮者だったが "ある事件" がきっかけで家族も音楽も失った父・夏目俊平(西島)と、父を拒絶し、音楽を嫌う娘・響(芦田愛菜)が、地方のオーケストラでの活動を通して失った情熱を取り戻し、親子の絆と人生を再生させていくアパッシオナート( "情熱的" )なヒューマンドラマ。
豪華キャストが大量投入された『VIVANT』、同枠常連の鈴木亮平氏主演で実話をベースにした『下剋上球児』と、最近の日曜劇場の話題作に比べると、本作は地味な印象だ。
おまけに『リバーサルオーケストラ』(日本テレビ系、2023年1月期)と設定がそっくりで、さらにはキャラ設定が不自然であるとがっかり感と不評でネットでは散々叩かれている模様。
それでも今期の民放連ドラで視聴率トップの数字を出しているのは、前述したアニメ『葬送フリーレン』第2クール「一級魔法使い試験編」の不動の人気と同じ理由だと著者は考えている。
荒んだ世相に疲弊した視聴者には過剰な緊張など無用の演出
現代の視聴者は過剰な刺激を求めていない。
近年のヒット作の傾向として、著者はこう考える。
昔の作品ならば、ジェットコースターのような展開が当たり前のように繰り広げられていた。
のほほんとした穏やかな展開より、緊張に重きを置いていたのだ。
おかげで「次はどうなる?」といったハラハラドキドキ感を持って次回を待つ。
しかし荒み切った世相の現代では、そのスタイルは通用しないように思う。
なぜか?
理由はシンプルで、人心が疲弊し切っているからなのだろうと著者は思う。
ただでさえ先が見えないこの時代で、ハラハラドキドキ満載の作品なんか疲れて誰も観たくはない。
現代人が求めているのは安らぎや癒し。
だが人間とはワガママな生き物で、安らぎや癒しだけではいささか物足りない。
それだけでは興味が維持できない。
そこで求められるのが "緊張と緩和" のバランス感覚だ。
それも絶妙なバランス感覚が求められる。
そこでは、なんといっても比率が重要だ。
"緊張と緩和" を何対何で振り分けるのか。
その一点において、アニメ『葬送フリーレン』は絶妙でその内訳のほとんどは緩和に重きを置いている。
だからこそ、時折描かれる戦闘シーンが異様に映える。
特に魔法戦の盛り上がりは最高。
フリーレンの戦闘はもちろん、フェルンの戦闘シーンにはワクワクが止まらない。
しかし『葬送フリーレン』のその優れたバランス感覚の真髄はその比率ではなく、引き時をわきまえているところにある。
昔散々観せられてきた記憶からだろうか、激しい戦闘シーンが描かれた後は、この先に待っているであろう張り詰めた厳しい展開をどうしても想像してしまう。
嫌な気分になる、この後ことを予感してしまう。
そのせいで、それまでの物語で培われた世界観や安心感が一気に失われてしまう不安に襲われる。
大抵の作品は本来の持ち味をこれで失う。
結果的に強さのインフラを起こしたり、当初の世界観がまったく違うものに書き換えられたりと、観ている方は酷く疲れる。
そうすることで視聴者が喜んでいた時代もたしかにあった。
だが時代は変わる。
正直今の時代、ハラハラドキドキの緊張感溢れる展開は万人受けしないと思われる。
おそらく一部のファンに喜ばれるだけだろう。
鬱展開もすぐに回収されるならば許容範囲だが、ダラダラと胸糞展開を観続けさせられたのなら最悪だ。
たとえ最後に感動展開が待ち受けていようとも、途中で観るのが嫌になる。
そんな時代の潮流を読み取ってか、『葬送フリーレン』はセオリーを棄てた。
やり過ぎることを避けた。
激しい戦闘が起こっても、いたずらに長引かせたりはしない。
というより、戦闘が始まるまでは長く描いても、戦闘シーン自体は意外なほど呆気なく終わってしまう。
ある意味では興醒めとも言えなくはないが、しかしおかげで視聴者は、『葬送のフリーレン』を安心して心穏やかに作品を楽しむことができる。
そして、そうやって築かれた『葬送のフリーレン』人気はその事実を暗に裏付ける。
これはアニメのみならず如何なる映像作品、例えば映画やドラマにも有効な手法だ。
しかしアニメ作品はこういう時代の流れに敏感に反応するが、映画やドラマといった大衆メディアではどうもそうはいかないようである。
特にテレビマンは古き良き過去の栄光に取り憑かれ、相も変わらずカビ臭いセオリーに固執しているようで、間断なく世に送り出されるドラマは軒並み不調続き。
ヒット作など奇跡に近い存在だ。
大半の人が今欲しいものを読み取ってこそ、ヒットへの近道。
『葬送のフリーレン』の成功がそれを物語っている。
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