歴史の闇に葬られた真実
明治新政府軍
歴史は勝者によってつくられる
我々がよく知る歴史の記述は、必ずしも客観的な事実の記録ではなく、勝者の視点や都合の良いように解釈・再構成されることが多い。
歴史は、過去の出来事を単に記録するだけでなく、その出来事をどのように解釈し、どのように伝えるかによって、人々の認識や価値観を形成する力を持つ。
そのため、勝者が自らの正当性や優位性を強調するために、歴史を都合よく書き換えることがあるのだ。
たとえば戦争や革命などの歴史的な出来事では、勝者が自らの行為を正当化し、敗者を悪として描くことで、自らの立場を強化しようとすることがある。
また、国家の成立や発展の過程でも、建国の英雄や偉人たちの物語を美化し、都合の悪い事実を隠蔽することがある。
このことから歴史の解釈や記述において、権力や支配者の影響がいかに大きいかがよくわかる。
だが歴史の解釈はひとつではない。
歴史を鵜呑みにしていいのか？
勝者の言い分は、本当に正しいのか？
教科書に書かれたことを疑うことで、初めてみえてくるものがある。
そのためには、敗者や弱者の視点から歴史を再考することが肝要だ。
歴史を多角的に捉え、様々な視点から検証することで、より客観的な歴史認識に近づくことができる。
勝者＝善と単純に結びつけてしまう思考の危険性
特に中学・高校の日本史の教科書は政治史が中心で、必然的に勝者の歴史が描かれ、それが日本史の流れとして理解される。
勝った側が善とされ、敗者は悪とされることで、結果的に「正義は勝つ」と教え込まれる。
勝者が善で、敗者が悪という歴史観の極致が「征伐」という言葉である。
たとえば豊臣秀吉の天下一統の流れを追う時、無意識のうちに四国征伐、九州征伐、小田原征伐、さらに朝鮮征伐という言い方がされてきた。
これは敗者は悪とされ、悪人だったために、正義、すなわち勝者によって滅ぼされたという論理の組み立てで、勧善懲悪という考え方を深くすり込まれてきた。
そのせいで、現代日本人は多角的な考え方が苦手になってしまったように思えてならない。
勝者＝善という決めつけは、思考の柔軟性を奪ってしまう。
敗者＝悪という決めつけが、同調圧力を生み出す。
敗者にも成したことがあり、言い分だってあるのだ。
固定観念ほど怖いものはない。
歴史の闇に葬られた真実に目を向けることで、固定観念にとらわれない、柔軟な思考を手に入れる。
本稿がその一助になれば幸いだ。
上野戦争で皇室に弓引いた明治新政府軍
戊辰戦争とは、十干十二支を組み合わせた干支でいう「戊辰」の年に起きた戦争ということ。
1868年、慶応4年から9月に明治と改元された年が「戊辰」にあたる。
年明け早々に京都で起きた鳥羽伏見の戦い、彰義隊が圧倒的火力で短時間に壊滅した上野戦争、奥羽越列藩同盟や幕府の脱走兵が主力となった会津などを舞台にした東北戦争や北陸戦争、それに秋になって始まった榎本武揚ら蝦夷共和国勢による箱館戦争。
こうした一連の、幕府軍と新政府軍による内戦を総称したものが戊辰戦争だ。
この戦争にあって、新政府軍は天皇公認の軍の証である「錦の御旗」を前面に押し立てて、幕府軍のモチベーションを奪い、味方の士気を鼓舞した。
もっともこの錦旗、間に合わせで作ったインチキがほとんどで、なかには褌に色をつけただけというとんでもフラッグもあったようだ。
錦旗は天皇の軍隊であることを意味する重要な旗。
つまり、これを掲げているということは「天皇に忠誠を誓っている」「天皇を尊敬している」ということに他ならない。
だから当然、新政府軍は "尊皇" であるはずだ。
しかし実は新政府軍、上野戦争でとんでもない不敬罪を犯してしまっているのだ。
上野の東叡山寛永寺(東叡山とは、近江の比叡山に対する名前で、京都に対する東京と同じ発想。そして3代将軍・家光治世の寛永期に造営されたから寛永寺)に集結した旧幕臣による彰義隊。
彰義隊は前将軍・慶喜の恭順路線に従わない、徹底抗戦を主張するタカ派集団であり、幕府や将軍の意向を再び取り戻そうと意気盛ん。
統制も取れていて、容易に降参する気配はない。
なにせ、ひと山そのまま寺の敷地だったのだ。
適当な起伏もあるし、山頂に行けば周辺も見渡せる。
敷地内には寺院や塔頭といった施設も多いし、本寺がそのまま天守のように大本営として使える。
つまり天然の要害で、守りを固められると、いわば小型の城のように要塞化した。
だから新政府軍が攻撃をしてみても反撃の手は厳しいし、被害ばかりが増える一方。
局地的な小競り合いであっても勝利を収めたら最後、幕府軍はさらにモチベーションを高めて新政府軍への抵抗力を増していく。
1日かけずに、あっという間に戦闘は終わるだろう。
あわよくば新兵器をズラリ揃えた大兵力に恐れをなして、勝手に降伏するかもしれない。
そんな楽観的な予想を基に、北関東から東北方面に進軍する予定だった新政府軍首脳は青ざめた。
そこで登場するのが、軍略の天才・大村益次郎だった。
大村は合理的かつ大胆な戦法を実行に移す。
それは、通常は対艦砲として利用されるはずのアームストロング砲を、東叡山の山頂を狙える場所にズラリと設置。
砲身の角度(仰角)をほぼゼロにする水平射撃でバンバン撃ち込み、圧倒的火力で相手を根こそぎ跡形残らず吹っ飛ばす、というものだった。
命令された部下も、はじめは尻込み。
どんな悲惨な事態を招くかを、薄々は想像できる。
同僚も「いくらなんでも、そりゃやり過ぎだ！」と反対するが、大村は意に介さず。
こうでもしなきゃ、攻略にはいたずらに時間がかかるだけだとわかっていた。
一刻も早く鎮圧することしか頭にないのだ。
さて、こうして寛永寺の寺域を大々的に砲撃しまくった官軍。
あらかた敵の戦力を削いだら、あとは白兵戦で残存兵力を叩きまくる。
もちろん勝利者の権利として宝物の略奪もする。
その最中、大失態を演じてしまうのだ。
あろうことか寛永寺に掲げられていた「勅額」をも、灰にしてしまっていたのだ。
「勅額」とは、天皇直筆の文字が書かれた額のこと。
何とも神々しい寺の宝だ。
現存している勅額はすべて、重要文化財に指定されているほど。
後に、かつて13代将軍・家定の御台所(正妻)として大奥を取り仕切っていた天璋院篤姫が、「官軍こそ朝敵ではないか！」と罵った所以は、ここにある。
「天皇がわざわざ直筆で下された額を、新政府軍だって手にかけたではないか！これが天皇への敵対行為と言わずして何だと言うのか！！」というのが彼女の言い分。
たしかに一理ある。
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