アニメ
沈黙の艦隊
※本稿はネタバレを含みます。ご注意下さい。
たとえばそれがアニメであろうと潜水艦映画(映画じゃないけど)にハズレなし
アニメ『沈黙の艦隊』(TVスペシャル版・OVA)とは
『沈黙の艦隊』は、漫画家・かわぐちかいじ先生の作品であり、同作者の代表作のひとつに数えられる。
「モーニング」(講談社)にて、1988年~1996年まで連載された。
単行本は全32巻。
1990年に第14回講談社漫画賞一般部門を受賞している。
発行部数は3200万部であり、大人やティーン世代の間で大人気となり社会現象とまでなった。
それと同時に展開をめぐって外交問題にまで発展したケースさえあったが、あくまで本作はフィクション作品である。
潜水艦戦がメインという作風や核戦争と平和、政治問題などの様々な要素が含まれており、各方面から注目を集め、国会でも話題になるなどの社会現象を起こした。
連載は冷戦の頃で、物語でもそれに即した設定であったが、連載途中でソ連崩壊や冷戦終結となり、色々な変更があったという。
またサンライズ制作でのアニメ化(TVスペシャル版とOVA)もされており、北極海の海戦までのストーリーまでが描かれている。
TVスペシャル版は本来1995年秋の特番シーズンで放送される予定だったが、直前に起きた沖縄の米兵による女子小学生暴行事件の影響で放送見合わせとなったといわれており、結局は翌年関東ローカル深夜にひっそり放送される羽目になったという、いわくつきの作品であった。
1995年12月にビデオが発売され、1997年と1998年にOVAが発売された。
いずれも制作当時の国際情勢に合わせて一部描写や米軍の艦艇が変更されている。
TVスペシャル版
OVA作品
あらすじ
千葉県犬吠埼沖で、海上自衛隊の潜水艦「やまなみ」がソ連原子力潜水艦と衝突し沈没、艦長の海江田四郎二等海佐以下全乗員76名の生存が絶望的という事故の報道は日本に衝撃を与える。
しかし、海江田以下「やまなみ」乗員は生存していた。
彼らは日米共謀により極秘に建造された日本初の原子力潜水艦「シーバット」のクルーに選ばれ、事故は彼らを「シーバット」に乗務させるための偽装工作であった。
アメリカ海軍第7艦隊所属となった「シーバット」は海江田の指揮のもと試験航海に臨むが、その途中、海江田は突如艦内で全乗員と共に反乱を起こし、海江田を国家元首とする独立戦闘国家「やまと」を名乗る。
さらに出港時「シーバット」は核弾頭を積載した可能性が高い事が発覚するがアメリカ合衆国の大統領ベネットは海江田を危険な核テロリストとして抹殺を図る。
海江田は天才的な操艦術と原潜の優れた性能、核兵器(の脅威)を武器に日本やアメリカやロシア(ソ連)、国際連合に対抗していく。
主要登場人物
海江田四郎
声:津嘉山正種
本作の主人公。
海上自衛隊二等海佐・潜水艦「やまなみ」艦長→同海将補(偽装工作で殉職扱いとなり二階級特進)。
海自始まって以来の英才と呼ばれ、卓越した潜水艦戦闘スキルを持つ。
その操艦能力は敵対する海軍に「海の悪魔」「モビーディック(白鯨)」などと呼ばれ恐れられるほど。
また政治や国際情勢にも明るく、自らが宣言した「独立国家:やまと」の国家元首として各国の首脳とも会談や交渉で渡り合うほど。
クラシック鑑賞が趣味でお気に入りはモーツァルト。
「やまなみ」の乗員とともに死んだ事にされ、秘密裏に「シーバット」の艦長として着任し、アメリカ海軍の指揮下に入るが、逃亡。
「シーバット」は潜水艦を領土とする独立戦闘国家「やまと」であると宣言する。
その後迫り来るアメリカ、ソ連海軍の猛攻をその鬼才と「やまと」の性能を駆使することで退け、自らの思想表明とその実現に向けて「やまと」を世界に発信していく。
深町洋
声:大塚明夫
海江田とは防衛大学校時代からの同期で、昇進も一緒だったが「やまなみ」事件で海江田が殉職したことにされたため2階級特進しており、追い抜かされている。
操艦技術は演習で海江田に並ぶ程であり、海自のみならずアメリカ海軍上層部も認める確かなものである。
しかし冷静沈着な海江田とは逆に大胆でぶっきらぼうな性格で、「シーバット」の艦長候補に挙げられていたものの、冷静さを求めたアメリカ海軍によって選択から弾かれてしまった。
海江田とはライバル関係だが、深町自身は海江田のことを友達であるとしている。
ニコラス・J・ベネット
声:上田敏也
アメリカ合衆国第43代大統領。
タカ派で「強いアメリカ」「世界の中心のアメリカ」を信念とする人物。
当初は海江田を捕まえ、「シーバット」を沈める事を第一に考え、アメリカ海軍を動員し対シーバット作戦を執拗に行ったが、そのうちに海江田という人物とその思想に興味を持ち、国連総会で対談する事になる。
(原作者・かわぐちかいじ先生は、この作品の中で一番好きなキャラとしてこのベネットを挙げている。)
竹上登志雄
声:阪脩
日本国内閣総理大臣。
「外交オンチ」「ボケガミ」などと酷評されていた人物だったが、「やまと」事件をきっかけに政治家として成長し、首相としての力を身につけていく事になる。
反対論が強い中で「やまと」との友好条約を結んだ上、「やまと」に浮きドック「サザンクロス」を提供するなどした。
さらには国連決議で「やまと」独立が承認されるまで陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊及び原潜「やまと」の指揮権を国連に委ねるといった外交策を採るなど、大胆さも持っている。
英国風ではあるが、英語が堪能で通訳無しでの会談ができるほど。
(なお、現実の外交においては要人の会談は、たとえ外国語に堪能な人物でも通訳を介するのが普通である。)
独立国家「やまと」
スペック
外殻材:チタン合金 / 無反響タイル
全長:120m 全幅:13m 喫水:10.5m
機関:S8G加圧水型原子炉×1 7翼スキュード・スクリュー×1軸
出力:60000ps/80000ps
速力(水上 / 水中):35kt/55kt
乗員:76名
安全潜行深度:1000m
最大潜行深度:1250m
発射管:533mm魚雷発射管×8門
装填弾種:対艦・対潜攻撃用Mk48魚雷(通常弾頭/核弾頭)、ハープーンUSM
水中排水量:9000t
日本初の攻撃型原子力潜水艦(SSN)として日米の最新技術の粋を集めて建造された世界最強の潜水艦。
建造は日本、所属はアメリカ、乗員は全て日本人という構成になっているが、これは核アレルギー感情が根強い日本ではすぐさまの原潜導入が難しいため、将来的な原潜導入に向けた乗員のノウハウを習得するためである。
形状的には一般に見られる攻撃型原潜の外見だが、外装に用いられたチタン合金無反響タイルのお陰で潜航可能深度1000mという作中ではトップクラスの潜航深度をとることができ、エンジン音は他よりも静かで隠密性に優れ、魚雷の格納数も従来艦より向上されているなど、あらゆる意味でハイスペックな機体になっている。
艦体の性能もさることながら、操艦する海江田の力量もあって一隻のみで敵対する艦隊を撃退・壊滅させる程の驚異的な戦闘能力を誇る。
シーバットとはその通り「海の蝙蝠」という意味であり、イソップ寓話のコウモリにちなんで米軍がつけた蔑称であるが海江田自身は「潜水艦に相応しい」として気にしていない発言している。
しかし、シーバットよりも相応しい艦名として海江田により「やまと」と命名され、独立国家として宣言されることになる。
超高度な心理戦・頭脳戦こそ潜水艦映画の魅力の真髄
『眼下の敵』『Uボート』『レッドオクトーバーを追え』『クリムゾンタイド』などなど、潜水艦映画にはハズレがない。
ただ、映像化する旨みが他テーマと比べて極端に少ないような気がする。
なぜなら、潜水艦映画は絵面が恐ろしく地味だからである。
深海、密室、狭い艦内。
戦闘シーンがあっても、戦場は常に暗い海の底。
下手をすれば、何が起こっているのかすらわからない。
いくら莫大な費用を投じて映像化しても、一部のマニアにしかウケない。
これでは潜水艦映画が敬遠されてもおかしくない。
さらに多くの人を潜水艦映画から遠ざける要因として、セリフのほとんどが聞いたこともない専門用語のオンパレードだということが挙げられる。
メイン・バラスト・タンクにトリム・タンク?
アップトリムにダウントリム?
よくよく考えればなんとなくでも意味はわかるのだが、いかんせん、どの言葉もあまりに聞き慣れなさすぎる。
その結果、潜水艦映画の本当の魅力を知る前に大抵の人の興味は尽きてしまう。
それが潜水艦映画の欠点といえば欠点なのだろう。
だが、潜水艦映画の魅力の真髄も実はそこにこそあるのだ。
暗い海の中。
目視は役に立たない。
音だけが頼りの暗闇の世界で、ソナーだけが周囲の状況を知る唯一の方法。
互いに姿は見えない。
音だけで敵の位置を正確に割り出す。
さらには相手の思考、次に起こすであろう行動を類い稀なる洞察力で読み切って戦術を立てる。
この地味極まりない超高度な心理戦・頭脳戦にこそ、潜水艦映画の魅力の真髄が隠されているのである。
潜水艦映画を観ていると、その戦闘技術の凄さたるや他兵器のそれの比ではないという気になってくる。
加えて、戦争や国際情勢や平和といった高度に政治的な大きなテーマが描かれていることも、潜水艦映画の魅力のひとつ。
そして、そんな潜水艦映画の魅力すべてを余すことなく堪能させてくれるのが『沈黙の艦隊』という作品なのだ。
原作者・かわぐちかいじ先生の圧倒的な知識量と見識の深さには、ただただ敬服するばかりである。
だがしかし、本作も原作の魅力のすべてが描かれているわけではない。
かなり端折られまくっているのもまた事実。
それでもアニメならではの迫力の戦闘シーン。
さらには戦争・政治・国際情勢・核戦争から平和にいたるまで、超高度な政治的駆け引きは、潜水艦映画の魅力を駆け足ながらもひとしきり堪能できるはずである。
ただ、残念ながらアニメ『沈黙の艦隊』の物語は道半ばで止まったまま、完結にまで至っていない。
発表から現在に至るまでの空白期間の長さを考えれば、アニメで完結をみることは、おそらくもう叶わないだろう。
「やまと」がアメリカ海軍による総攻撃をものともせずに、国連総会に出席するためニューヨーク港のど真ん中に浮上してくる、血湧き肉躍る(個人的に)原作屈指の名シーン。
アニメで観ることはついぞ叶わなかった。
だが、あの名シーンをいつか実写版で観てみたいという願いは、もしかしたら叶うかもしれない。
防衛省と海上自衛隊が全面協力してくれている実写版『沈黙の艦隊』でなら、あるいは…。
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