アニメ文化への冒瀆
クールジャパン機構の失敗は「官」の傲慢
カルチャーのことをまるで知らない人たちがカルチャーの分野に投資するから失敗する
日本のマンガ、アニメや農産品、ファッションを海外に売るために政府も出資して設立されたクールジャパン機構が巨額赤字で危機に陥っている。
問題はこんな駄目ファンドが生まれ、今まで続いているかということだ。
税金の無駄遣い
破滅に向かうクールジャパン機構
2022年11月22日付の朝日新聞で『失速したクールジャパン 政府肝入りファンドに「最後通告」』という記事が出た。
要約すると第二次安倍政権の肝いりとして2013年から官民ファンドとして設立されたクールジャパン機構(以下、CJ機構)が21年末の段階で累積309億円という巨額の赤字を垂れ流しており、財務省が23年度中にも機構の統廃合を検討しているようである。
しかしこれは予想された結果である。
CJ機構が東南アジアにおける事業計画の一大拠点として開店させたマレーシア・クアラルンプールの「ISETAN The Japan Store」。
クールジャパンを謳っておきながら、店内には「スターウォーズ」「ディズニー」の商品が氾濫し、「日本産コンテンツ」は無いに等しかった。
食品フロアはむごいものだった。
日本からマレーシアに輸入された農産品が、現地の市場価格を無視した異様な値付けがなされ、当然誰も買わないので放置されている。
ファッションフロアも閑古鳥が鳴く。
世界各地に進出しているユニクロ等のノウハウを無視し、「日本製品は優秀で高いブランド力を持つから工夫しなくとも売れる」という独善的な発想のもとに馬鹿高い値付けを行っているので、まるでフロアは失敗した遊園地のように客が誰もいない。
同年6月、「ISETAN The Japan Store」の株式をCJ機構が手放して事実上撤退した。
しかしなぜCJ機構はこれほどまで徹底的な失敗したのだろうか。
端的にいえば、CJ機構は日本のコンテンツや農産品、ファッションを海外に売り出すと放言しておきながら、自国のことを何も知らず、進出先の商圏における競合企業等について市場調査を何もしなかったからである。
敵を知らず己を知らず...放漫、慢心、傲慢、無思慮、そして無知。
あらゆる冠詞をつけても足りないが、このような堕落をCJ機構は「日本は凄いのだ。ブランド力のある日本製品は無条件に海外に受け入れられるのだ」と糊塗して正当化した。
CJ機構は失敗の総本山であり、完全に市場感覚が欠落した腐敗の集合体である。
例えば日本のアニメ、漫画等に引き寄せて分析を行っていこう。
前述の「ISETAN The Japan Store」のとんでもない体たらくが示すように、CJ機構は日本のアニメ、漫画を売っていくと謳っておきながら、実際に日本国内に於いてどのようなアニメや漫画が人気であり、海外に於いてどのような具体的な作品が受けているのか、という知識を持たない。
「ISETAN The Japan Store」の店舗構成が、CJ機構の無知の全てを物語っている。
これぞ「官」の傲慢
敵を知らず己を知らず
ふつう、セールスマンは他人に商品を勧めるとき、自らが商品を使ってみて商品知識を深め、セールスポイントを探っていく。
コンテンツも同じで、まず観てみて読んでみて感動するから他人に勧めようという熱量が生まれる。
つまりセールスマンは、商売人であると同時にその商品の熱心なユーザーでなければならない。
自分の会社が造った自動車に一度も乗らないのに、どうやって他者にその製品の良さを宣伝できるのか。
商売人として当たり前のイロハをCJ機構は無視している。
表面的には日本のアニメ、漫画は世界中でファンを獲得している、とする。
これは概ね事実だが、CJ機構の構成員は自国のアニメを観ず、漫画も読んでいる形跡がない。
もしこの手のカルチャーに少しでも造詣があるのであれば、80年代から90年代~ゼロ年代前半にかけて日本アニメの国際的評価が飛躍的に高まる切っ掛けになった「ジャパニメーション」と呼ばれる作品群を重点配置するのが自然である。
それは大友克洋氏の『AKIRA』を筆頭として、北米における日本アニメの市場的橋頭保になった押井守氏の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』。
日本アニメとして史上初めてカンヌ国際映画祭で上映された『イノセンス』。
或いは山賀博之氏の『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(この作品の製作の為に設立されたのがGAINAXで、ここからのちのエヴァンゲリオンが誕生する)。
または国際的な評価が高い今敏氏の『東京ゴッドファーザーズ』や筒井康隆氏原作の『パプリカ』など、ないしはその関連作品群である。
大友氏、押井氏、今氏らの偉大な日本アニメ界の巨匠のことを何も知らない。
手塚氏ですら極めて怪しい。
観ている・読んでいる形跡がない。
実はこの問題はCJ機構だけではない。
日本における政治家のほとんどすべてがそうである。
日本のアニメ・漫画は世界中でファンを獲得している、クールジャパンこそが日本における数少ない輸出コンテンツだ、成長戦略の中核である、云々。
猫も杓子も政治家はこのようにいう。
しかし彼らは、自らが称揚するこういった日本のカルチャーにまったく触れている形跡がない。
アニメ、漫画に無知・無関心
日本のアニメ、漫画と言ったコンテンツは日本が有する数少ない輸出コンテンツであると政治家の多くはおしなべて述べるが、では具体的になどういった作品が人気であり、具体的にどのような作品がどういった文化圏で受容されているかの各論になるとまるで答えられない。
大体彼らは『ワンピース』と『鬼滅の刃』、『ドラゴンボール』『ドラえもん』などと答える。
間違いではないが雑な回答である。
ジャンプ作品であれば『NARUTO』『BLEACH』『デスノート』あたりを即答できない時点で、大味のカルチャーにしか触れていない人なんだと一発で分かる。
『幽遊白書』は知っていても『HUNTER×HUNTER』は読んでいない。
「トンパがムカつく」と振っても、ハンター試験編なぞ知るはずもなくまったく会話にならない。
『レベルE』については存在すら知らない。
『進撃の巨人』がジャンプで連載された作品であると思っている場合もあるから手が付けられない。
『ドラえもん』を挙げるのなら挙げるで、同時にF先生の「大長編」で好きな作品を最低でも三つは挙げてほしいものである。
その回答は『魔界大冒険』『鉄人兵団』『宇宙小戦争』が望ましいが、まぁそれ以外でもよい。
しかし「大長編」の意味することろが分からないから会話が進まない。
「SF短編集」に話が及ぶことなど夢のまた夢の話である。
では回答として頻出する『ドラゴンボール』ならば実際に読んでいるのかというと、その形跡もない。
「18号可愛い」と言っても、18号のことを知らない。
知らないので会話が成立しない。
単に国民的な作品だからという理由で『ドラゴンボール』と言っているだけで、実際に読んでいるわけではない。
辛うじてかわぐちかいじ氏の『沈黙の艦隊』や『ジパング』は読んだ、という人もいる。
政治的な作品だから読んでいる政治家は多い。
しかし『太陽の黙示録』は読んでいない。
こっちの方が防災の観点から重要だと思うが読んでいない。
要するに「漫画読み」としての最低限度の作法がなっていない。
文化庁がメディア芸術祭をやって素晴らしい作品を毎年選出しているのに、『プラネテス』も『ヴィンランドサガ』も『ヒストリエ』も『シドニアの騎士』も知らない。
将棋が趣味ですと言っているにもかかわらず『3月のライオン』を知らない。
アフタヌーンが雑誌であること自体知らない。
『未来少年コナン』のことを話しても、青山剛昌氏のコナンの方だと思い込んでいる。
「ジムシー」を欧州で迫害にあってきた人々のことですね、などと平気でとぼける。
ジプシーの話題ではないのに。
何も知らないのであればクールジャパンが~、などと言うべきではないが、とりあえずそれを言うことが時流でありクールだ、と考えている。
ゲームはどうだろう。
『スーパーマリオ』『ストリートファイター』『鉄拳』『ポケモン』あたりを挙げられるのならまだマシな方である。
『ファイナルファンタジー』の7と10の区別がついていないことなどザラである。
FFの文脈の中で「ティーダ」といっても、日産のティーダのことだと思っている。
そもそもRPGをプレイしたことがないのではないか。
著者の世代は例えば『ドラゴンクエスト3』に熱狂したが、そういった原体験を彼らは持たないのだろう。
つまりセールスマンはその商品の熱心なユーザーでなければならない、という基本原則をまるで踏まえていないのである。
アニメ・漫画・ゲームは「子供向けのもの」という蔑視でもあるのだろうか。
しかし子供向けに収まらないからこそこういった作品が海外で受けているのだが、自家撞着的である。
『モンスターハンター』ぐらいはプレイ、ないしはプレイ動画くらい観てから海外に乗り出すべきだが、モンハンとは何かということを知らない。
時間が無いからプレイ動画を見る余裕がない、というのは言い訳にならない。
それこそユーチューブの機能で倍速、三倍速等の機能があるから、早送りで見ればゲームシステムの基本構造は理解できるがそれもしない。
彼らの中でゲームのハードは「ゲームボーイ」、良くて「セガサターン」で止まっている。
知識が更新されておらず、とにかくカルチャーに触れていない。
触れていないのにクールジャパンだ、と無理やりに喧伝して予算を付けるからCJ機構の悲劇が始まったのだ。
他人のカネで投資するから失敗しても平気
当時、自民党クールジャパン戦略推進特命委員会委員長の山本一太氏がアニメの話を持ち出した時のこと。
山本氏は後に群馬県知事になるが、流石に委員長だけあって稲田朋美さんよりは遥にアニメの知識があった。
山本氏は「私はサブカルが好きで、攻殻機動隊とかが特に好き」と語る。
お、なかなか本格派なのかな?と思うだろう。
しかし「攻殻機動隊の何のシリーズが好きですか?」という質問に山本氏は「テレビ版の...」とだけ言って正確に応えられなかった。
劇場アニメとしての攻殻機動隊は95年の押井版『GHOST IN THE SHELL』、2004年の続編『イノセンス』、黄瀬和哉版『攻殻機動隊 ARISE』等からなるが、テレビシリーズは神山健治監督の『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(02年)、『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』(04年)等があり、どれを指してテレビ版と言ったのは曖昧である。
たとえアニヲタでなくとも、アニメファンであるなら攻殻機動隊についての一般的見解としてこのような答え方は普通しない。
山本氏は政治家の中ではアニメに相当明るい方だが、それでもこの程度なのである。
要するに彼らは、日本人であり日本社会で生きながら、漫画やアニメといったコンテンツ自体に触れていない。
「若い人のカルチャーは良く分からない」という理屈も理由になっていない。
そもそも日本におけるアニメ・漫画コンテンツの主力購買層は日本社会全体の高齢化もあって年齢層が上昇している。
クリエイターも長年活躍されている人が大勢いて、70歳、80歳の巨匠も珍しくはない。
要するに彼らはクールジャパン~と言っておきながら、その中核をなすアニメ・漫画を観るのも読むのも億劫だし、ゲームをプレイする意欲もないし、そもそも関心がないのである。
関心がないのならCJ機構など作るべきではないが、「成長戦略が~」という掛け声のもと無理やり予算を付けると事業としては動き出してしまう。
もう止まらない。
破滅に向けて一直線に坂道を転がっていく。
政治家もCJ機構の中の人も全部そうなのである。
カルチャーのことをまるで知らないのに、カルチャーの分野で投資行動をする。
だから失敗する。
悪い意味で最初から失敗が約束されていたのがCJ機構なのだ。
こんなバカげたことがあるだろうか。
株式投資をするにあたって、財務諸表を読めないとか、チャートの読み方を知らない、PBRという単語の意味が分からない、という人は居ないはずだ。
何故かと言えば、そのような無知のまま投資を行えば必ず失敗するし、その失敗は直接的に自分の財布を痛めるからである。
CJ機構は官民ファンドであるが、実際には税金を原資とした政府出資の方が多く、つまりは「他人のカネ」だからこのような感覚がない。
リスクへの抵抗感がなく、失敗しても自分の財布は痛まない、という意識の上に胡坐をかいているので、土台儲からない滅茶苦茶な案件を「有望」と判定して出資してはすべて失敗して巨大な赤字を垂れ流し続けているのである。
興味がないならクールジャパンに関与するな
投資するためには敵(競合)を知り、己の実力を知らなければならないが、そもそもそういった感覚がないので、日本のカルチャーが~、サブカルが~、クールジャパンが~と掛け声を繰り返すだけで、たった1クールのアニメすら観る努力をしていない。
1クールは原則13話からなる。
『太陽の牙ダグラム』よりずっと手軽に観ることができる。
OPとEDをカットすれば正味5時間で終わる。
『風と共に去りぬ』(約4時間弱)を観ることができる体力があるのなら簡単な筈だ。
だが観ない。
興味が無いからだ。
政治家や高級官僚に対して『ポプテピピック』を楽しめるようになれ、とは言わない。
『ソードアート・オンライン』を観なくてもいい。
原作も読まなくていい。
シリカちゃんが何なのかわからなくてもいい。
『カウボーイビバップ』を『天国の扉』に至るまでルドビコ療法的に「渡辺信一郎の傑作だ!」などと叫んで強制したりしない。
古典的なスペースオペラが好きなら『コブラ』を1話だけ観てくれればいい。
ヤマトも『愛の戦士たち』だけを観ればよい。
『2199』まで観る必要な無い。
「ミノフスキー粒子」が何のことなのか知らなくてよい。
ジオンに兵があってもなくてもどっちでもいいだろう。
無理しなくていい。
しかし政治家が文化事業にかかわる、と公言して国策として予算を付けるのであれば、最低でも『四畳半神話大系』くらい観ておけ、と誰かが言うべきではないか。
もちろん投資行動を実際に行うCJ機構の中の人は必須だ。
何故それをしないのだろう。
興味が無いからだ。
まるでカルチャーに対し無関心だからである。
このような堕落・怠惰・傲慢・無知が煮詰まったのがCJ機構であり、つまりCJ機構の失敗の本質とはすべてここにあるのである。
日本の農産品は高付加価値だ、と信じ込んでありえない値付けをして展示し、誰も買わないので産廃処理される。
既に日本のファストファッションが膨大な試行錯誤を行って現地の市場を開拓しているのにそれを無視し、「日本ブランドであれば現地の消費者も関心を持つ」と傲慢に錯覚して誰も買わない服やアクセサリーを展示していく。
『ZARA』や『H&M』は高いデザイン性のわりには廉価な価格帯や企業の宣伝が受けたのであって、その国の政府が予算を付けた結果、世界的なファストブランドになったわけではない。
そもそも、或る特定の文化的コンテンツは完成度が高ければ自然に海外にファンを獲得するものであり、政府が旗を振る必要があるのか。
それよりも、日本のテレビやネットで放映されたアニメがものの数分後には中華圏のネット動画に違法アップロードされる事実の方が、政府として真っ先に取り組むべきことではないのか。
コンテンツは国家がごり押ししなくても強いファンを形成する。
あらゆる世界的コンテンツには政府の支援は無い。
ジョージ・ルーカスの『スターウォーズ』や、ジェームス・キャメロンの『タイタニック』や『アバター』は、アメリカ政府が予算を付けて海外に普及させた結果、歴史的な興行収入を生んだのだろうか。
まったく違っており米政府は1ドルも使っていない。
逆に村上春樹氏の作品が海外で根強いファンを獲得したのは文化庁や文部科学省の努力の結果なのか。
黒澤明監督が世界中でリスペクトされているのは政府の努力の結果なのか。
勿論そんな事実は一切ない。
日本のアニメや漫画もゲームも、あらゆるコンテンツは自由競争の中、その完成度が高いがゆえに世界中のファンを魅了した結果、自然に受容されたものであり、日本政府の力ではない。
後から政府が成長戦略が~と乗っかる形でCJ機構を作っただけで、そんなことをしなくとも日本産コンテンツは十分に強いはずだしこれからも強いだろう。
政治家やCJ機構の中の人は、自分が全く知らない分野に、一切首を突っ込むべきではない。
まして税金を使ってファンドを作り赤字を垂れ流すなど言語道断で、CJ機構など最初から造らなければよかったのである。
放っておけばよい。
無駄に構わなければ、このような悲劇は起こらなかった。
公金の無駄遣いを今後どう総括するというのだろうか。
許されざる失敗だが、もう取り返しがつかない。
海外で日本アニメ、漫画、ゲーム等のファンがこれだけ増えた。
今後もし、政治家や政府がクールジャパンが~、と旗を振るなら、最低でも海外のファンの質問に対して、基礎的な知識を前提に答えられるだけの素養を絶対に必要とする。
「惣流・アスカ・ラングレー」と「式波・アスカ・ラングレー」の違いがその眼帯の有無を以っても鑑別できないのなら、もうそんな政治家や官僚はクールジャパンを語る資格がないので『白蛇伝』からやり直してほしい。
『白蛇伝』を観てもそのアニメ史的意義が分からないのなら、カルチャーについて関与するのをやめ、ひたすら民間の創作活動を邪魔しない方向で放任してほしい。
こんな雑なカルチャーへの認識で「クールジャパン!」「日本スゴイ!」と言うのだからお話にならない。
大衆受けを狙って宮崎駿監督が~、スタジオジブリが~、と言うのなら『シュナの旅』と『On Your Mark』は最低限度押さえて置くべきだ。
が、そもそも漫画版の『ナウシカ』すら通読していないのである。
日本の政治家にもかかわらず、日本のカルチャーについて自身がまるで無知というのは恥ずかしいことだ。
政治家になるのには最低限度のイロハ的な要素があるが、クールジャパンを謳う場合には何故か最低限度の知識も、文化的マナーも必要が無いとされている。
カルチャーを一等低く見て、馬鹿にしているからかもしれない。
非常におかしいことで異常だ。
何も知らないのにカルチャーで儲けようと思うべきではない。
そういった官製ファンドなど無用の長物であり、これを教訓に二度と類似組織を作るべきではなく、アニメも漫画もゲームも、政府は放っておいて二度と介入しないでいただきたい。
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