映画
大怪獣のあとしまつ
『大怪獣のあとしまつ』とは
『大怪獣のあとしまつ』は、2022年2月4日に公開された日本映画。
特撮映画では基本的に描かれることのない、怪獣の死骸の処理を引き受けることになった者たちの姿を描く。
主演は山田涼介氏。
松竹と東映による初の共同製作作品※である。
キャッチコピーは、「倒すよりムズくね?」。
※松竹と東映がガッツリ組んだ初の共同プロジェクトとあって、両社の代表取締役社長もコメントを寄せており、松竹の迫本淳一代表取締役社長は、「本来、スポットがあたらない部分を真剣に作るのがこの作品の面白さですから、その点は昨年大ヒットした映画『翔んで埼玉』を作られた東映さんの力をお借りして、勉強させていただきたい」とコメント。
また、東映の多田憲之代表取締役社長も「まさに松竹さんがいなければ成立しなかった企画です。いい映画と面白い映画はイコール。いい結果が出ることによって両社にとっての次のステップもあるはず」と話している。
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あらすじ
日本中を恐怖に陥れた巨大怪獣が死亡する。安堵と喜びに沸く国民。
その死体には様々な可能性があることから「希望」という名が付けられるも、希望の死骸は腐敗によってゆっくりと膨張し、最悪の場合には大爆発を引き起こす恐れがあった。
そんな危険な大怪獣「希望」の後始末を担当することになった政府直轄の特殊部隊・特務隊の青年たちは、国民、そして日本の運命をかけた危険な死体処理に挑む。
オマージュとパロディ
「なぜ最初から必殺技を出さないのか?」という疑問からの、そういう作品へのオマージュとパロディであったと、公開後の舞台挨拶で監督の三木聡氏は次のように語っている。
怪獣を倒すスペシウム光線とか出すじゃないですか。
なんで最初から出さないんだろうって子どものころから思っていた。
なんとかキックで怪人をやっつけたり。
「最初から、それなんじゃないの?」と。
(中略)
それに対するオマージュとパロディということが最後にあった。
「最初から、そうしろよ」って。
政治風刺とコメディ
本作の政治的な風刺が予想以上に伝わらなかったと、企画・プロデュースを務めた須藤泰司氏はオリコンニュースのインタビューで次のように語っている。
ラストの巨大ヒーローが全てを解決するというオチ、これは結局、「神風が吹かないと解決しない」という、ごく単純な政治風刺なのですが、これがほとんど通じておらず驚きました。
本作の風刺的な要素に関しては、新聞世代(昭和世代)には概ね理解されて楽しんでもらえたようなのですが、特に、若い人々に伝わっていない事が発見でした。
また、プロデューサーの中居雄太氏は同インタビューで、製作当初から「風刺的な政治シミュレーション」と「コメディ要素」の2点を本作の肝として、宣伝等においても訴求を図った。
しかし政治風刺の印象をもって見た観客には、コメディ要素も強くからんできて「思っていたものと違う」という印象を持たせた、と語っている。
アイデアは最高!キャスティングは抜群!
普段はしのぎを削る大手映画会社の松竹と東映が史上初のタッグを組んだ作品だけあって、本作には制作者サイドの並々ならぬ意欲を感じる。
まずアイデアだ。
なんといってもタイトルが素晴らしい。
タイトルを聞いただけで観てみたいと思わせる映画というのはなかなかないし、概ね内容も想像できる。
そして想像する内容は、まさに逆転の発想。
大怪獣を倒すプロセスではなく、倒した後を描くという目から鱗的な発想は、最高と言わざるを得ないだろう。
実際視聴してみると、驚くほど豪華なキャスティングに両社の本気度が窺える。
主演のふたりはさておき、脇を固める俳優陣がとんでもなく豪華。
濱田岳、眞島秀和、ふせえり、六角精児、矢柴俊博、有薗芳記、SUMIRE、笠兼三、MEGUMI、岩松了、田中要次、銀粉蝶、嶋田久作、笹野高史、オダギリジョー、西田敏行。
(敬称略)
このキャスティングの素晴らしさは、なんといっても渋い俳優さんを揃えたこと。
おまけにほとんどの役者さんのクセが強い。
まさにイブシ銀のキャスティングといえる。
最高と抜群!それがどうしてこうなった?…
アイデアは最高。
キャスティングは抜群。
しかし本作の評価は著しく低い。
どうしてこうなってしまったのか…。
独立したふたつの作品を観せられている気分
『大怪獣のあとしまつ』。
このタイトルから期待するシナリオは、「大怪獣を退治した後、行政がどんな対応をするのか」の一点のみ。
すなわち、痛烈な政治風刺だ。
このタイトルなら、責任をなすりつけ合う無能な政治家の姿を描くべきだろう。
そういう描写がないわけではない。
しかし圧倒的に足りない。
中途半端だ。
右往左往する人間のおかしみは一応は描かれているものの、まったく掘り下げられていないからリアリティに問題がある。
その代わりに出しゃばってくるのが、東映のお家芸である "特撮" 要素。
ハッキリ言ってこれが無用だった。
おかげで一番欲しかった政治風刺も中途半端にし、得意気にねじ込んだ特撮も中途半端なものにした。
上映時間を折半しているようなものだから、そうなるに決まっている。
これはやはり合作の影響だろう。
松竹と東映。
それぞれの得意分野をただ盛り込んだだけ。
お互いが引くこともせず、融合することなく出来上がってしまった残念な作品。
何もったいないことか…。
どちらか一方に徹底すべきだった残念な作品
前述したように、本作が何をメインで描きたかったのか皆目わからない。
同じ題材を扱った『シン・ゴジラ』のようなバランスの良さは皆無。
もっと言ってしまえば、シリアスなのかコメディなのかすらわからない。
『大怪獣のあとしまつ』というアイデアがあまりに素晴らしかっただけに、心の底から悔やまれてならない。
特撮か政治風刺か、シリアスかコメディか、徹底的に極振りすべきだったのだ。
そうすれば、何かしらの評価は得られていたはずである。
個人的には、政治風刺をコメディ風に極振りしてくれていれば、本作はあの名作『シン・ゴジラ』と対極にありながら、同時に肩を並べられるほどの名作となっていたのではないだろうか。
ただただ残念でならない。
出演者の豪華さは『シン・ゴジラ』に引けを取らないだけに、本当にもったいない作品である。
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