其の十
美しき日本語の世界。
精神的な結びつきを表現する美しい日本語「絆」
東日本大震災が起きた2011年、日本中に「絆」という言葉がに溢れていた。
調べてみると、読売新聞を含む全国4紙で「絆」「きずな」「キズナ」「きづな」「kizuna」という言葉が使われた記事数は前年(2010年)に比べて倍増していたらしい。
また、2011年の世相を一字の漢字で表す "今年の漢字" は「絆」であった。
「絆」という、たった一文字の言葉から発せられるメッセージは明るく前向きな響きがあり、漢字を含む日本語の素晴らしさを改めて感じさせる。
「絆」に隠されたダブルミーニング
言葉にしなくても目には見えなくても、繋がっているはずの人と人との「絆」。
いつも心に留めておきたい美しい日本語のひとつである。
だが「絆」という言葉には、実は別の意味も含まれていることをご存知だろうか。
「絆」は、今でこそ人と人との断つことのできない大切な結びつきの意味で遣われているが、本来は犬・馬・鷹などの家畜を、通りがかりの立木につないでおくための綱のことを指していた。
「絆」という言葉は元来、しがらみ、呪縛、束縛という意味で遣われていた言葉だったのである。
ちなみにこの場合の「絆」の読み方は〈ほだし〉となる。
聞き馴染みのない言葉だと感じた方もいるだろうが、実は現代でも我々はこの言葉を無意識で遣っている。
例えば「情にほだされる(絆される)」という遣い方が最もポピュラー。
「絆〈きずな〉」が、人と人との結びつき、支え合いや助け合いを指すようになったのは、比較的最近の話なのである。
知っておきたい「絆」の本当の意味
言葉とは、時代の移り変わりと共に常に変化していくものである。
だから語源がどうであれ、現在の遣われ方を尊重すれば良いと思うし、するべきであろう。
ただし、本来の意味を知っておくことは大切だ。
本来の意味を知っていると、その言葉の遣い方や捉え方が変わってくる。
言葉の重みが違ってくる。
では、「絆」の本当の意味を考えてみよう。
「絆」を〈きずな〉と読めば、人と人との結びつき、支え合いや助け合いを指す。
しかし「絆」を〈ほだし〉と読めば、しがらみ、呪縛や束縛を指す。
これでは我々が思っている「絆〈きずな〉」と、「絆〈ほだし〉」とでは、ずいぶん意味が異なることがわかる。
異なるどころか正反対の印象ではないか。
そこで著者はこう考える。
「絆〈きずな〉」はたしかに素晴らしい言葉ではあるが、特定の誰かに向けて自ら声に発してしまうと、その瞬間から「絆〈きずな〉」は「絆〈ほだし〉」へと姿を変える。
もちろん第三者への賛辞として遣う場合は問題ないだろうが、個人を特定し自ら言葉で発してしまうと、相手を縛りつける呪いの言葉へと豹変する。
あなたにも身に覚えがあるのではないだろうか?
一方的に「絆〈きずな〉」を押しつけられて、意に沿わないことを容認してしまったような経験が。
「絆〈きずな〉」とは、あくまで感情を表現した感覚的な言葉であって、特定の誰かへむやみやたらに発言していい言葉ではない。
ゆめゆめ忘れぬことだ。
他人にされて嫌なことを、自分がしてはいけない。
心の中にある「絆〈きずな〉」こそが、素晴らしい感情であり、美しい日本語なのである。
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