其の三十八
美しき日本語の世界。
『〼』という表記から感じる粋
ごく稀にこんな看板を目にすることがある。
「〜あり〼」。
文脈から推察できはするものの、意外と読めない人も多いのでは?
古い映画、特に昭和初期の街並みが登場するような映画では、このように表記された看板が多く見受けられる。
見慣れないせいもあるのか、著者はこの表記に日本人の粋な言葉遊びを感じてやまない。
『〼』 っていったい何て読む?
『〼』は枡記号と呼ばれる文字で、そのまま「ます」と読む。
由来は江戸時代に使われていた計量器としての枡からだという。
それを上から見ると〼の形をしていたから、「ます」と読むようになった。
『〼』はよく文章の語尾である「~ます」の代わりにも遣われる?
これは江戸時代にかなり多く遣われていた言葉遊びで、お店の看板に「豆腐あり〼」「ありがとうござい〼」などと書かれていることがある。
最近では本当に滅多にみることができなくなったが、もしかしたら今なら逆に新しい表記のような気がしてこないだろうか?
例えばオシャレな古民家カフェで「美味しいカフェ・オ・レあり〼」なんて書かれた看板を見たなら、きっとその店は当たりの予感。
きっと間違いないだろう。
昔ながらの喫茶店で「ナポリタンあり〼」なんて書かれていたら、もう食べずにいられない。
『〼』という表記には、そんな魅力が溢れている。
『〼』には縁起物のイメージも?
実は『〼』には縁起物の概念もある。
枡(〼)にまつわる縁起の良い言葉に、「二升五合」というものがある。
これを読める人は相当な博識の持ち主(もちろん著者は今知った)か、相当な呑兵衛なのかもしれない。
「二升五合」は何て読む?
「二升五合」は「ますますはんじょう」と読む。
二升は升(ます)が2個ということで「ますます(益々)」。
五合は一升(いっしょう)の半分であることから、「はんじょう(繁盛)」。
それ合わせて「ますますはんじょう」すなわち「益々繁盛」という意味があるのだ。
さらにこれに枡記号を当てはめてた「〼〼繁盛」や「〼〼幸せ」と言うこともある。
では「春夏冬二升五合」とは?
ちなみに「二升五合」から一歩進んで、「春夏冬二升五合」という言葉もある。
「二升五合」に「春夏冬」を足したこの言葉。
なんと読むのかご存知だろうか?
「春夏冬」には四季のうち秋がないから「あきない(商い)」と読む。
故に「春夏冬二升五合」は「あきないますますはんじょう」、つまりは「商い益々繁盛」と読みことができるのだ。
さらに「一斗二升五合」とは?
また同じようなもので、「一斗二升五合」と書かれているのを見たことがある人もいるかもしれない。
「一斗」は何と読めばいいのだろう?
実は、一斗は五升(ごしょう)の倍の単位のこと。
だから「一斗」は「ごしょうばい(ご商売)」と読むのだ。
つまり「一斗二升五合」は「ごしょうばいますますはんじょう」。
「ご商売益々繁盛」というわけである。
昔の人は粋の何たるかをよく知る
今の時代、これらを読める人がどれほどいるだろう?
もしかしたら商売人の間でもこれらの言葉は、もはや常識ではなくなっているのかもしれない。
こういう言葉遊びを学ぶたびに、日本語とはなんと美しい言語なのだとつくづく感心する。
そして決して失くしてはいけないと強く思う。
皆さんがもし、こんな表記をするお店を見つけたなら、そこは間違いなく当たりの店。
臆さず入ってみてはいかがだろう。
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