其の十四
美しき日本語の世界。
あの言葉のルーツは落語にあり!?
するってぇと、なにかい?
酔狂にも、あんた落語に興味でも湧いたのかい?
……落語の粋ないなせな江戸弁は、聴いていてなんとも心地が良い。
その時代のことを何も知らなくても、江戸弁を聴いただけでタイムスリップした気分になる。
流暢に、リズミカルに、着々と話が進むと自然と引き込まれていく。
さらに耳を傾けてみると、実は聴き慣れた言葉も聴こえてきていることにお気づきだろうか。
日常でも度々耳にする言葉。
寄席で披露される噺の中で生まれた言葉が、脈々と現代でも使われているのだ。
落語発祥の言葉にはどんなものがあるのか?
寄席の最後を締めくくるベテラン
トリ
今日のトリ、お前に任せたよ!
……なんて言葉を耳にしたり、口にした経験もあるだろう。
「トリ」は日常生活で頻繁に使われる落語発祥の言葉だが、語源を辿ってみると「寄席の最後の出演者が取り分を決めていた」という落語独自のシステムにあるようだ。
現在はしっかり管理されているが、昔は最後の出番の人が、その日の寄席の収益を全て回収。
その後、他の落語家の取り分を決め、分配していたらしい。
つまり、「ギャラの取り分を決める人」ということから、寄席の最後を締めくくるベテランを「トリ」と呼んでいたのだ。
そう考えれば、昔と今と、トリという言葉に掛かる重みは違うのかもしれない。
若者言葉だと思いきや…
セコい
お前、本当にセコいよな!
……多くの人が若者言葉(もはや死語か?)だと思っているのではないだろうか。
「セコい」も、ルーツを辿れば落語の世界で同じような意味合いで使われていたのだ。
「セコい」は、「粗末なこと、拙劣なこと、陳腐なこと、見所のないこと、値段が安いこと」といった意味を持つ。
今まで軽々しく遣っていたから想像もしなかったが、実は遣い所が難しい、なかなか重みのある言葉かもしれない。
いやらしく上司を持ち上げてない?
ヨイショ
ヨイショしてるねぇ、お前。
…ずいぶん前に、人気お笑い番組で「太鼓持ち芸人」というのが流行ったが、お世辞を言ったり、おだてたり、心にもないことを言って機嫌をよくしたり相手を持ち上げて、上手く乗せるのが「ヨイショ」の意味である。
落語だけでなく、芸人界で広く遣われている隠語だ。
語源は、「重い物を持ち上げるときの掛け声」だろうが、遣われるシーンは物だけではない。
噺の中に登場する人物の気持ちだったり、落語を聞きに来ているお客さんの心だったり、相手の重い気持ちを軽く持ち上げて、その気にさせるという意味合いもある。
日常で使えたら格好良い
ハネる
芝居がはねたら、飯でも食って帰るか。
……こんな粋な言葉を日常でサラリと遣えたら、少しばかり格好良い。
現在ではあまり聞くこともなくなったが、「ハネる」は芝居や寄席が発祥の言葉である。
昔の芝居小屋といえば、"筵(むしろ)" を敷いただけの簡単な造りだった。
演目が終わり、芝居が終了すると、尻に敷いていた筵をハネ上げる。
そうした動作から、芝居や寄席が終わることを「寄席がハネる」と言っていたのだ。
遣い慣れない言葉だが、寄席に通うようになれば、もしかしたら自然と遣えるようになるかもしれない。
ひとつやふたつ持っているのでは?
色物
そもそも、「色物」の本来の意味をご存知だろうか。
「色物」とは、色の付いているもの、業界や物事において主要な位置にないものを指す言葉である。
なかでも落語の世界では、落語以外の漫才や手品、音楽・紙切り芸などの出し物を指す。
日常生活では、特異・特別なものを指すが、その由来は落語にあったのだ。
ちなみに、この言葉を掘り下げると落語の歴史が見えてくる。
もともと、落語は "色物席" と "講談席" の2種類に分かれていた。
講談席とは、落語を披露する席。
色物席とは、先述した落語以外の漫才や手品を披露する席。
そして現在の、「講談席と色物席を合わせた席」= "寄席" となったのである。
噺家・落語の言葉に歴史あり。
そう思うと、落語家が話す言葉はひとつも聴き逃したくないものだ。
落語を聴こう
粋でいなせな江戸弁の中に混じる、聞きなれた言葉。
もしかすると、その語源は寄席にあるかもしれない。
そんなふうに考えながら噺を聴けば、より一層落語を楽しめるはずである。
とはいえ、少々難解な言葉を耳にすることも多い落語。
いわゆる寄席用語という類だが、昔ながらの江戸弁が混じるので、慣れていなければ聴き取りにくい。
もちろんそれを理解しなくても、噺の流れが分かればそれなりに楽しめるとは思うが、より深く親しむなら寄席用語に慣れるのも大切である。
英語を毎日聞いていると耳が慣れてくるように、落語も頻繁に聴いていれば理解しやすくなるものだ。
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