アニメーション映画
宇宙兄弟#0 小山宙哉 Special Edition
『宇宙兄弟』とは
講談社の漫画雑誌「モーニング」にて2008年1号(2007年12月6日発売)から連載されている。
タイトルの通り、宇宙を題材にした漫画作品で主人公である兄・南波六太および弟・日々人が、様々な問題に対して奮闘する様を描いている。
第56回小学館漫画賞一般向け部門、第35回講談社漫画賞一般部門受賞作品。
2012年には実写映画およびテレビアニメ、2014年にはアニメーション映画が制作された。
『宇宙兄弟#0 小山宙哉 Special Edition』
もともとは『宇宙兄弟#0』(うちゅうきょうだいナンバー・ゼロ)のタイトルで2014年8月9日に公開。
2人で一緒に月に立つという幼い頃の夢を追い続ける兄弟の奮闘と絆を描く小山宙哉先生原作の人気TVアニメの劇場版。
原作者自ら脚本を手がけたオリジナルストーリーで、これまで描かれなかった原作第1話の4年前の物語を描く。
監督はTVシリーズに引き続き渡辺歩氏。
原作では描かれていない、本作の前日譚となっている。
入場者プレゼントは本作の脚本の一部を収録した「#0巻」。
キャッチコピーは「あの日、夢が、落ちた。」「勇気を、もう一度、打ち上げろ。」「『さよなら』と『勇気』の物語」「勇気をもって、飛んでいけ。」。
全国210スクリーンで公開され、2014年8月9、10日の初日2日間で興収7,861万5,500円、動員5万8834人になり、映画観客動員ランキング(興行通信社調べ)で初登場第8位を記録。
また、ぴあの調査による初日満足ランキングでは満足度92.0となり第2位となっている。
公開から2年以上ソフト化がされていなかったが、2016年9月23日に原作単行本29巻の限定版特典として小山先生の監修でシーン修正や約5分のシーン追加を行った『宇宙兄弟#0 小山宙哉 Special Edition』のDVDが、セルソフトとして『宇宙兄弟#0劇場公開版 』ブルーレイディスク版が発売となった。
宇宙兄弟#0 劇場公開版(完全生産限定版) [Blu-ray]
あらすじ
兄・南波六太と子どもの時に交わした約束に向かって順調に歩を進めていた弟・南波日々人。
ある日、宇宙飛行士ブライアン・Jから彼が搭乗する月面着陸ロケットCES-43のバックアップクルーに指名される。
「ブライアンはさ、なんで俺を自分の控えに選んだの?」
宇宙飛行士ブライアン・Jが搭乗する月面着陸ロケットCES-43のバックアップクルーに選ばれた南波日々人は、 新人としては異例の大抜擢ながら、自分の実力不足のために悩んでいた。
「辛くて楽しいこのチャンスを、存分に経験しろ」
その言葉を残して月に旅立ったブライアンは、任務を終えたあとの地球着陸時に不慮の事故で命を落とす。
ブライアンと日々人との再会は叶わなかった。
さらに、CES-43の事故をきっかけに、NASAでは宇宙開発の有人ミッションの見直しを検討し始めることとなる。
一方、兄・南波六太は、自動車会社のサラリーマンとして、新車種の開発に携わっていた。
幼いころ宇宙飛行士になる夢を約束し、いまや宇宙飛行士として大成した弟とは対照的に、夢を諦め自動車会社で現実味のない夢物語ばかり語る六太は、会社から愛想を尽かされ片田舎への出向を命じられる。
そんな自分がどん底の弟にかけられる言葉など、あるのだろうか。
「なんもできねーな、俺」
無力感に打ちひしがれる六太の脳裏に、幼いころ日々人と遊んだ記憶とともに、ある言葉が甦る…。
死に対して無自覚になった現代人へ贈る名作前日譚
カリスマ宇宙飛行士ブライアン・Jの死
本作のみならず、『宇宙兄弟』という作品の中で大きな存在感を示すカリスマ宇宙飛行士ブライアン・J(ジェイ)。
多くの宇宙飛行士にとって親父のような、兄貴のような、あるいは友人のような大先輩であり偉大な宇宙飛行士だ。
兄エディと共に兄弟で宇宙飛行士である。
同僚のみならずNASAのスタッフからも尊敬や憧れを抱かれる。
自分大好き人間。
カリスマであり、基本面白いおっちゃんとはヒビトの評。
豪快で自信家で快活、情が深い。観察眼もある。
日本人初の月面着陸要員として、南波日々人を推薦した人物でもある。
だが2023年11月、CES-43の月面での任務を終えて地球に帰還するも、同乗していたマイケル・エアロフ、タック・ラベルと共に、着陸直前の墜落事故にて死亡。
しかし死してなお、多くの宇宙飛行士とその候補生や志願者たちの尊敬を集めており、月で使用されている酸素生成装置には彼の名前が使われている。
多くの宇宙飛行士に慕われ彼らの指針となる偉大な存在である。
本作に登場するのは、原作コミックやアニメでは故人として描かれてきた伝説の宇宙飛行士ブライアン・J。
彼は本編の主人公南波兄弟よりも先に、兄のエディ・Jとともに兄弟で月に立つことを夢見たもう一組の "宇宙兄弟" 。
南波兄弟の弟・日々人に多大な影響を与えたブライアンの死が南波兄弟にも大きな影響を与える。
死に対して無自覚になった現代人
現代は死について無自覚な "死を忘れた文化" が浸透し、共同体の中の絆が失われつつある。
その中で、現代人は死とどのように向き合い、どのように生きればよいのか。
かつては死別の悲しみは、仲間のあいだで癒やしていたものだった。
通夜にはたくさんの人たちが集まり、故人の話をして別れを惜しんだ。
その中に家族が入れば、少しは気が紛れたものだ。
しかし今は葬儀の簡略化が進んで、遺族が自分の心の中に死別の悲しみをため込んでしまうケースが増えてきている。
そうした見送る側の心構えを描いているのが本作である。
それを象徴した非常に印象的なシーンがある。
南波兄弟の弟・日々人が初めて飼ったペット・ハムスターのムス太が死んでしまった時のエピソード。
日々人の両親は死別の礼儀作法ともいえる、非常に大事なことを兄弟に教えている。
まず驚くべきは、ハム太の土葬のために二人ともきっちり喪服を着ていること。
たかが…というと語弊があるが、小動物のペットの土葬に喪服まで着て臨もうとする両親の姿は、生物にとって死がいかに厳かなものかを改めて教えてくれる。
また、そこでの両親の言葉が金言だ。
母:ちゃんとお葬式してあげましょう
父:ちゃんとお別れすることが大事だ
母:そう
"今までありがとう" を伝えて
"あなたといれて楽しかったよ" を伝えて
"さよなら" って伝えんのよ
それでお別れ
日々人はこのことがあって、死について意識するようになったと語る。
昔は子供にも "死" と向き合う機会が必ずあった。
祖父や祖母が亡くなる前には必ず両親が枕元へと連れて行ってくれた。
その経験が漠然とではあっても、"死" という別れがどういうものかを教えてくれた。
それが現代人、特に若年層からすっかり抜け落ちてしまっているような気がする。
親しい人間の "死" から学ぶことは大きく重い。
"死" とはただ生命の終焉というだけでなく、故人が最後に遺してくれる教訓なのだ。
本作は『宇宙兄弟』ではあるけれど、未知なる宇宙へのワクワクやドキドキはほとんど描かれておらず、その代わり現代人が忘れかけている "死" との向き合い方を教えてくれている。
それは多くの人が『宇宙兄弟』という作品に期待するものではないかもしれないけれど、著者にとっては実に『宇宙兄弟』らしいと感じた。
興味がある人は是非。
挿入歌
- ザ・クロマニヨンズ「雷雨決行」
「雷雨決行」は、日本のロックバンド、ザ・クロマニヨンズの10枚目のシングル。
クロマニヨンズのシングルコレクションにも収められている楽曲で、バンドのファンだという小山先生も「聴くだけで熱い気持ちになれる凄い曲」とコメントしている。
先生のコメント通り、劇中でもめちゃくちゃ良いシーンで流れ出す。
THE BLUE HEARTS好きとしては、血湧き肉躍るたまらない瞬間だ。
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