其の五十一
美しき日本語の世界。
実はよくわからない「かけがえのない」の語源
「かけがえのない」
「かけがえのない」とは、文字通り「代わりになるものがない」という意味を持つ言葉である。
もともと「かけがえ」は予備や代替品を指し、それに否定の「ない」がつくことで「替えがきかない」というニュアンスになる。
この表現の素敵なところは、単に「大切」と言うだけでなく、そのものや人が持つ特別な価値や唯一性までを含んでいる点にある。
例えば家族や親友、思い出、経験など、お金では買えない価値のあるものに対して遣われることが多く、言葉に優しさと深みを与えてくれる。
日常会話から文学作品まで幅広く遣われる、日本語ならではの豊かな表現といえる。
「弽(かけ)は替えがないもの」
我々が当たり前のように遣っている「かけがえのない」という言葉。
実は正確な語源はわかっていない。
「かけがえのない」の語源には諸説あるが、弓道に由来するとする説が最も有力説である。
弓を引く人にとって大切なもの。
もちろんそれは弓に違いない。
しかし弓を引く際に革製の手袋をつける。
この「弽(かけ)」※と呼ばれる手袋こそ、実は非常に重要なもので使う人ごとに形が微妙に異なる。
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「弽(かけ)」は小鹿一頭からわずかひとつしか取れない貴重なもので、射手の手のサイズや癖に合わせて職人が作るため、他人のものでは代用がきかない。
それ故、自分にとって唯一無二の「弽(かけ)」には替えがない。
つまり「弽(かけ)は替えがないもの」が転じて、「かけがえのないもの」の語源になったという。
一方で、弓は弦を張らねば役に立たないので、弓に弦を「掛ける」から、切れた時の替えがないと致命的であることから「かけがえ」ができないという表現につながったという説もある。
いずれにせよ、弓を使うのに弓以上に必要なものが存在し、それを敢えてフィーチャーするところにこの言葉の妙味がある。
このように「かけがえのない」の語源には諸説あるが、個人的には「弽(かけ)」由来説を推したい。
弓射において、「弽(かけ)」の作りの良し悪しは行射の良し悪しに直接関わる極めて重要な要素であるとともに、長年使い込まれて射手の手になじんだゆがけは簡単に新調できるものではない。
良い作りの「弽(かけ)」は、適切な手入れを行っていれば一生涯保つといわれている。
現代人にとってオーダーメイドは、さほど珍しいことではない。
しかし如何に現代人でも、オーダーメイドは贅沢品である。
現代人ですら贅沢品と感じるなら、古の人にとっては如何許りのものだっただろう。
ましてや武士にとって「弽(かけ)」は命にかかわる道具である。
刀は武士の魂というが、「弽(かけ)」も同様だったのではないだろうか。
そんな想像をするだけで言葉にロマンが生まれる。
真相はわからないが、それでいいじゃないか。
何はともあれ、「かけがえのない」は否定形でありながら肯定的な意味を持つ、日本語特有の表現である。
この「否定による肯定」の構造は、日本語の曖昧表現の特徴をよく表していて実に美しい。
※.「ゆがけ(弓懸、韘)」とも呼ばれる。
鹿革製の手袋状のもので、右手にはめ、弦から右手親指を保護するために使う。
ただし、鷹狩で使用されるものは同様に「ゆがけ(鞢・餌掛け)」と呼ぶが、こちらは形状が多少異なり左手にはめる。
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