劇場アニメ
ルックバック
※本稿にはネタバレを含みます。ご注意下さい。
- ルックバック
- アニメに娯楽を求めたい人や世間の高評価を鵜呑みにするような人にはオススメできない傑作短編アニメーション映画
アニメに娯楽を求めたい人や世間の高評価を鵜呑みにするような人にはオススメできない傑作短編アニメーション映画
劇場アニメ『ルックバック』とは
藤本タツキ渾身の青春物語が劇場アニメ化!
漫画へのひたむきな思いが、二人の少女をつないでいく…
2021年に「少年ジャンプ+」にて公開されると、著名なクリエイター陣をはじめとした数多くの漫画ファンの間で話題を呼び、「このマンガがすごい!2022」オトコ編第1位にも輝いた本作。
原作者である藤本タツキ先生は、小学館漫画賞などを受賞し、TVアニメの盛り上がりや、映画化の発表も記憶に新しい『チェンソーマン』や『ファイアパンチ』などの代表作を持ち、世界中から支持を集める作家の一人である。
主人公の藤野役を演じるのは、ドラマ『不適切にもほどがある!』の純子役で人気を博した、河合優実さん。
その演技力や類い稀な存在感が話題を集めている。
もう一人の主人公である京本役は、映画『あつい胸騒ぎ』(2023年)『カムイのうた』(2023年)等では主演を務め、その目覚ましい活躍に拍車がかかる、吉田美月喜さんが担当。
そして、監督・脚本・キャラクターデザインを務めるのは、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009年)『借りぐらしのアリエッティ』(2010年)『風立ちぬ』(2013年)など、数多くの劇場大作に主要スタッフとして携わってきた、押山清高氏。
その才能は、海外でも高く評価され、アヌシー国際アニメーション映画祭2019の日本アニメーション特集で若手クリエイター26人の一人として選出されている。
藤本タツキ先生渾身の青春物語が、豪華スタッフ&キャスト陣によって、みずみずしくも繊細に、スクリーンに映し出される。
原作:藤本タツキ『ルックバック』(集英社ジャンプコミックス刊)
原作となった『ルックバック』は、藤本タツキ先生による日本の漫画作品。
「少年ジャンプ+」(集英社)にて2021年7月19日に公開された、全143ページからなる長編読み切り。
小学4年生の藤野と、同校に在籍する不登校の京本の、漫画を描く女子2人の人生が描かれる。
アニメ化にあたりAmazon.com傘下の映画スタジオであるAmazon MGMスタジオが、日本のアニメ製作委員会に初参加している。
2024年11月8日、同社傘下の定額制動画配信サービスであるAmazon Prime Videoにて世界独占配信が開始された。
あらすじ
学年新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。
クラスメートから絶賛され、自分の画力に絶対の自信を持つ藤野だったが、ある日の学年新聞に初めて掲載された不登校の同級生・京本の4コマ漫画を目にし、その画力の高さに驚愕する。
以来、脇目も振らず、ひたすら漫画を描き続けた藤野だったが、一向に縮まらない京本との画力差に打ちひしがれ、漫画を描くことを諦めてしまう。
しかし、小学校卒業の日、教師に頼まれて京本に卒業証書を届けに行った藤野は、そこで初めて対面した京本から「ずっとファンだった」と告げられる。
漫画を描くことを諦めるきっかけとなった京本と、今度は一緒に漫画を描き始めた藤野。
二人の少女をつないだのは、漫画へのひたむきな思いだった。
しかしある日、すべてを打ち砕く事件が起きる…。
登場人物
藤野
CV:河合優実
学年新聞で四コマ漫画を連載している小学四年生。
クラスメートからも絶賛され、漫画には自信を持っている。
京本
CV:吉田美月喜
藤野と同級生の不登校生。
四コマ漫画を連載する藤野に、秘かに憧れを抱いているが、実は隠れた画力の持ち主。
アニメに娯楽を求めたい人や世間の高評価を鵜呑みにするような人にはオススメできない
世間の高評価を鵜呑みにするな
- アニメ映画『ルックバック』の予告編に飛びつく海外のファン 「もう涙がとまらない」「人生変わりそう」
- 映画『ルックバック』公開10日間で興収6億円突破 口コミ効果で週末動員1位
- 劇場アニメ「ルックバック」、中国で満点レビュー続出=「驚くほど良かった」「素晴らしい作品に感謝」
- 劇場アニメ『ルックバック』が観客動員数60万人突破 監督が反響の大きさ語る
- 日本で大ヒット中!アニメ映画「ルックバック」韓国で公開決定
本作における世間の評価は、驚くほど軒並み高い。
だが本作を傑作だと認めた上であえて言いたいのは、世間の高評価をけっして鵜呑みしてはいけないということ。
おそらく本作は、世間が高評価するほど万人受けするような作品ではない。
ノスタルジックなスクールカーストや思春期に描いた夢と現実のギャップなど見どころが満載ではあるものの、そこには本来アニメに求められているであろう娯楽要素がほとんどない。
ではどうして高評価なのかと問われれば、それはきっとプロモーションの巧さに依るものだろう。
労働搾取が問題となっている日本のアニメーション業界。
日本のアニメが世界で高評価を受ける舞台裏で、アニメーターの低賃金、過度な長期労働、不公正な請負関係、クリエイターの知的財産権が守られない契約など、国連が「搾取されやすい環境がつくり出されている」と結論付けるほど、問題は深刻化する一方だ。
そんな環境下でもアニメが死ぬほど大好きで、どうしてもアニメを作りたいと望むクリエイターたちがおおいに共感できる本作の評価が、他作品より声高になるのは自然なことなのかもしれない。
そういった事情をよく知るアニメファンも、もちろん高評価をつける。
そういう一部の人たちの声が先行し過剰に表面化したことが、本作の高評価に繋がっているのだろう。
ましてや本作は設定の説明がほとんど描かれない、考えることを求められる作品である。
アニメに娯楽を求めるだけの人にとっては、おそらく面白みもなく意味不明な作品だ。
だから、アニメに娯楽を求めたい人や世間の高評価を鵜呑みにするような人に本作はオススメしない。
それでももし本作を視聴するのなら、世間の評価は一度すべて忘れフラットな目で観ることをオススメする。
他人に影響されることなく曇りない眼で観ることで、本作への評価は自ずと明らかになるだろう。
よぎる京都アニメーション放火殺人事件
2019年7月18日、京都市伏見区にある「京都アニメーション」の第1スタジオが放火され、社員36人が死亡、32人が重軽傷を負った京都アニメーション放火殺人事件。
本作の核心に迫る一部描写からは、京都アニメーション放火殺人事件を連想させる。
小説を京アニ側に盗用されたという筋違いの逆恨みからの犯行動機は、本作のそれと非常によく似ている。
クリエイターをテーマに扱う本作としては避け難い事件であるかもしれないが、胸くそ悪い惨劇を追体験させられるようで反吐が出る思いでもあった。
高評価ばかりに目がいくが、本作にはこういう描写もあることを知ってから視聴してほしい。
逆に高評価だけを信じてみるのもアリ?様々な感情が錯綜する傑作短編アニメーション映画
逆に高評価だけを信じてみるのもアリ?
散々、世間の高評価を鵜呑みにするような人にはオススメできないと言っておきながら矛盾した表現ではあるが、高評価だけを信じてみるのも悪いことばかりではない。
事実、著者にとって本作の事前情報は "世間で高評価を得ている" ということしかなかった。
だからどんな作品なのかさっぱりわからない。
だが本作を観ることで、余計な事前情報が時として邪魔な存在になることを思い知る。
様々な感情が錯綜
事前情報をまったく得ないで観始めた本作。
いったいどんな作品なのか、手探りのまま物語は進んでいく。
序盤の印象は青春群像劇。
これはノスタルジックなスクールカーストでの上位者と底辺の友情譚。
単純な子供心にクスッと笑え懐かしさを覚えた。
中盤も序盤の印象を引きずる。
相互依存関係からの脱却で、それぞれの道を模索し出す友情譚の続き。
自立、ひとり立ちへの不安と心細さに、これまた懐かしさと共感を覚える。
しかし終盤に差し掛かったあたりで物語は急変。
途端にその姿を変えていく。
ある事件がきっかけとなり、そこからえも言われぬ喪失感に襲われる。
現実逃避。
過去の自分への悔恨。
様々な感情が湧き上がり、物語はクライマックスを迎える。
これだけ様々な感情が錯綜したのは、事前情報をまったく得なかった恩恵だったと考えられる。
アニメに娯楽だけを求めず別の何かを求めているような人にとっては、世間の高評価だけを信じて本作を視聴してみるのもアリなのかもしれない。
突如訪れる感動…タイトルに込められた意味
タイトル『ルックバック』は英語で「look back」と表記し、「(後ろを)振り返って見る」「(過去の出来事などを)回想する」という意味である。
物語も最終盤。
過去の自分を悔恨する主人公・藤野の姿は、(過去の出来事などを)回想する『ルックバック』そのものだったといえる。
あらゆる作品の中で(過去の出来事などを)回想行為とは、ネガティブな行動としてとかく描写されがちだ。
それは「back」の文字通り、後ろ向きになることや逆もどりを連想するからであろう。
しかし本作の『ルックバック』にはさらにもうひとつ意味が隠されていて、それは劇中で突如あらわれることになる。
その意味を理解した瞬間の驚きと感動、そして伏線の見事さは本作が傑作と呼ばれるに相応しい、秀逸すぎる描写であった。
『ルックバック』に込められた、沈んだ心を奮い立たせるもうひとつの意味。
ここではあえてネタバレしないので、興味を持った人はぜひご自分の目でたしかめていただきたい。
声優陣に河合優実と吉田美月喜の起用はベストキャスティング
河合優実、声優初挑戦『ルックバック』は「全部頑張った」声を絶賛され照れ笑い
河合さんは初となった声優挑戦に「自分に何ができるんだろう」と葛藤があったと明かしながらも「全部頑張りました」とすがすがしい表情で語る。
選ばれたことは「嬉しかった」と語るも「声優の技術がない自分に何ができるんだろう」と葛藤もあったという。
しかし「でもやってみるまで答えは見つからないだろうな」と吹っ切ってアフレコに臨んだというと「これまで自分が培ってきたものや感性を素直にキャラクターに吹き込みました。それが、私ができる精一杯。全部頑張りました」とすがすがしい表情で語っている。
そんな河合さんについて、押山監督が「河合さんは普通にみんなが想像する藤野の定石に一歩踏み込んだニュアンスを含めるのがとても上手でした。錚々たるメンバーがそろったオーディションで色々な声を聞いたのですが、明らかに輝いていた。声が魅力的でした」と絶賛。
河合さんは、自身が演じた藤野というキャラクターについて「最初から藤野に共感しました。自分の子供時代を見ているようだった」と語ると「平たく言うとプライドが高く、人より何かできたとき天狗になりかけて鼻をへし折られるような……生意気な感じ。人としての弱さを愛おしく感じて演じていました」とはにかんでいた。
吉田美月喜『ルックバック』京本を好演 難オーダーこなし監督も「完璧」と絶賛
「押山監督が、わたしの声に引きこもりを感じたと話していたのが衝撃的だったんです」。
吉田さんは押山監督から「引きこもりっぽい感じがした」と言われたことに衝撃を受けたことを明かす。
吉田さんが声を吹き込んだ京本は、引きこもりながら漫画を描いていくなかで、藤野に嫉妬されるほどの才能を発揮する少女。
オーディションでこの役を勝ち取った吉田さんは、本作が声優初挑戦となり「すごく難しかったです」とアフレコの感想を述べると「これまでのお芝居の台本とも違うし、ラフの映像を観るのも初めてでした。最初は学ぶことから入りました」と戸惑いも多かったという。
しかも京本は秋田なまりを持つ少女で、早口で言葉を発するという難易度の高いキャラクター。
押山監督からは「あまり練習をしすぎないように」というオーダーもあった。
吉田さんは「なるべく練習をしないようにしつつ、方言はしっかり訓練しないといけない」という矛盾を抱えつつの準備に難しさを感じたというが、押山監督は「本番で完璧なのでびっくりしました」と吉田の演技のクオリティーに舌を巻いたという。
さらに押山監督は「京本は登場シーンが少ないのですが、そのなかでどうキャラクターの存在感を際立たせるかが課題だった」と語ると「物語で描かれていない京本のバックボーンをとてもうまく表現してくれました」と吉田さんを絶賛する。
エイベックス・ピクチャーズ 劇場アニメ「ルックバック」プログラム A4
☆今すぐApp Storeでダウンロード⤵︎