RED / B'z
アメリカから帰って来たサムライ
はじめに
音楽を聴く時、あまり歌詞を重視しない人が多くいるようだ。
しかし何の気無しに聴いている音楽の中に、とんでもない名言や格別、果ては生きる指針にもなりうる人生訓が隠されていたりするものだ。
作詞家・稲葉浩志の考え方にはいつも非常に感銘を覚える。
B'zファンのひとりとして、その中のひとつをご紹介したいと思う。
『RED / B'z』とは
広島ファンの方はよーくご存知の曲だろう。
『RED』はB'zの52作目のシングルとして発売された。
2015年に広島東洋カープに復帰した黒田博樹投手の、マツダスタジアムでの登場曲のために書き下ろされた楽曲である。
B'zとしては『ultra soul』(世界水泳)などスポーツの大会に楽曲を提供しているが、特定のアスリートのために曲を制作したのはこれが初めて。
楽曲制作の経緯は、2015年2月にロサンゼルスで黒田と松本が食事をともにする機会があり、そこで意気投合したことによるものらしい。
その食事の翌々日には黒田からB'zに直々に登場曲制作の依頼があり、これを快諾。
依頼を受けた日から初登板予定の日までは1か月程度という厳しいスケジュールだったが、B'zは全国ツアーの合間を縫って『RED』を完成させている。
松本孝弘氏は「開幕まであまり時間がなかったのですが、このオファーはミュージシャンとして興味深く、良い楽曲ができそうな予感はありました。」とコメントし、稲葉浩志氏は「特定のアスリートのための作品作りは初めてだったので、非常に新鮮な気持ちでやらせてもらいました。」とコメントしている。
楽曲は松本孝弘氏曰く、「黒田投手御自身、延いてはファンの皆様の士気の上がる楽曲を提供しなければという想いがありました」というイメージで制作された。
カントリーミュージックの代名詞的な楽器・バンジョーのリフから始まるアレンジになっており、「アメリカから帰って来たサムライ」をイメージしている。
歌詞について稲葉浩志氏は、「どんな試合でも粘り強く寡黙に投げる」という黒田投手のイメージのもと、その裏での他人には見せない葛藤なども想像しながら言葉を選んだという。
また、単なる黒田投手のテーマソングとしてではなく、それを歌う自分や聞き手も自分を投影できるような楽曲になったと語っている。
広島東洋カープ・黒田投手
元メジャーリーガーで、現役時代にはNPBの広島東洋カープおよび、MLBのロサンゼルス・ドジャースやニューヨーク・ヤンキースで活躍した。
日本人投手として初めて、NPB/MLB通算先発勝利(先発投手勝利)数のみで公式戦200勝を達成。
2018年シーズン終了時点で、NPB/MLBの40球団から勝利を挙げた唯一の日本人投手でもある。
また、広島時代に着用した背番号15は現役を引退した2017年から同球団の永久欠番として扱われている。
アテネオリンピック野球の銅メダリストでもある。
黒田投手が在籍していた名門・ヤンキースから古巣の広島東洋カープへの電撃復帰を発表したのは2014年の出来事だった。
広島東洋カープは特定の親会社を持たない市民球団を源流としている。
基本的に市民球団だから他球団と比べたら資金力に乏しい。
ジャブジャブと金を注ぎ込んで他球団から主力選手をぶっこ抜くなんて芸当は、とてもじゃないができやしない。
2014年12月、黒田投手はこれまでになく悩んでいた。
40歳になるシーズンをどこで過ごすのか。
オファーを出してくれたのは、報道で出ていた通りその年まで在籍していたヤンキースとメジャー複数球団。
そして…古巣、広島東洋カープ。
球団の黒田投手への評価も高い。
資金力もあるヤンキースと契約するのがベストだと、誰もが考えていた。
誰だってそうする。
しかし黒田投手だけは違った。
メジャーの超高額オファーを断り、推定年俸で5分の1程度の広島への復帰を選んだのだ。
ひとりの有能な男が義理と人情で動いた。
この男気に感動しない人などいなかった。
世の中、金・金・金。
その考え方も正義だと思うし、お金が悪いわけではない。
しかし、金のせいで品性まで失いかけてはいないだろうか。
お金のせいで人がどんどん醜くなりつつある昨今で、黒田投手は世の中は金がすべてではないと身をもって示してくれた。
これを綺麗事だと思うのは勝手だが、もし仮に自分だったら同じことができるのかを考えてみて欲しい。
前年までの高額年俸のために、広島の年俸より収める税金の方が高かったという話だ。
そんなことができるのか?
正直、著者には自信がない。
恥ずかしながらやはり高額オファーの方になびくと思う。
誰にでもできる決断ではないのだ。
これほどの男にB'zが敬意を表し贈った曲が『RED』だった。
黒田投手の人柄が滲みでる名フレーズ
『RED』の特徴といえば何といってもサビのフレーズでの言葉遊びに尽きる。
楽(R)はしない
偉(E)ぶらない
誰(D)のせいにもしない
涙も忘れI'm going my way
礼(R)を尽くし
栄華(E)を捨て
泥(D)まみれにもなろう
千切れないこの絆の色
RED
※カッコは著者注
いずれも(R)(E)(D)を用いた折句になっている。
これは二番のサビでも変わらない。
労(R)を惜しまない
遠慮(E)もしない
同情(D)されたらおしまい
笑わば笑えI'm going my way
凛(R)としてfight
永遠(E)にtry
どんな(D)闇にも差すlight
体中暴れる血の色
RED
※カッコは著者注
この言葉遊びを初めて知った人にとっては、凄いことだと感じるかもしれないが、稲葉浩志氏の作詞力を知り尽くしている我々B'zファンにとって、これくらいの仕掛けは当たり前のことだった。
仕掛けには感心したが、本当に凄いのはそこではない。
仕掛けを含みつつ、かつ黒田投手の生き様を端的に描ききった表現力にこそ驚愕するのである。
このフレーズを読んだだけで、黒田投手がサムライと呼ぶに相応しい人物だということがわかる。
自分に与えられた仕事を黙々と完璧にこなしていくプロフェッショナルの姿が思い浮かぶだろう。
当然だが、ここにも難しい単語は一切使われていない。
誰にでもわかる言葉で、上手くまとめ上げられている。
これが著者が語彙力の天才と崇めるB'z・稲葉浩志氏の実力だ。
しかも、この曲がまた格好いいんだ。
テンションがブチ上がるハードロックチューン。
広島ファンじゃなくても、テンションを上げたい時に聴いてみたらいかがだろう。
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