アニメーション映画
泣きたい私は猫をかぶる
『泣きたい私は猫をかぶる』とは
『泣きたい私は猫をかぶる』は、スタジオコロリド制作による長編アニメーション映画。
2020年6月18日16時よりNetflixにて全世界独占配信された。
略称は「泣き猫」。
本作は当初、東宝映像事業部が2020年6月5日の公開を予定していた。
2020年4月2日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、全国同時での発売が困難と判断して翌日から予定されていた劇場前売券発売を延期することを発表した。
この時点では、公開日については変更しないとしていた。
しかし4月27日になって、新型コロナウイルス感染症の状況により、公開日の延期が発表された。
2020年4月29日、劇場公開はせずに全世界でNetflixが独占配信すると発表された。
その後、2020年9月になって、同年10月より作品の舞台である常滑市※(イオンシネマ常滑)を皮切りに京都市(出町座)、東京都世田谷区(下北沢トリウッド)で公開されることが発表された。
10月31日の時点では青森県・岩手県・宮城県・山形県・福島県・千葉県・栃木県での上映が新たに決定。
監督は佐藤順一氏と柴山智隆氏、脚本は岡田麿里さん、主演は志田未来さんと花江夏樹氏。
第24回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀作品賞受賞作品。
※常滑市内の各所が舞台として使用されている。
季節については、賢人の部屋に7月のカレンダーが架けられている。
舞台となった常滑市では、2020年8月1日と2日に市内の小中学生を対象とした上映会が実施され、10月2日から市内のイオンシネマ常滑で上映された。
この上映は全国の映画館では最初である。
また、市内でスタンプラリーなどの取り組みもおこなわれている。
あらすじ
愛知県常滑市に住む中学2年の笹木美代は、その奔放な行動・言動で周囲から「無限大謎人間」略して「ムゲ」と呼ばれていた。
美代は好意を抱いているクラスメイトの日之出賢人に連日話しかけていたが、素っ気ない反応しかなく、親友の深瀬頼子に心配されるほどだった。
だが、美代には秘密があった。
夏祭りの夜に言葉を話す猫の妖怪(猫店主)からもらった「猫になれる仮面」で、白猫になり、その姿で賢人の元に出向いて、私生活を見聞していたのだ。
その白猫を賢人は「太郎」と名付けてかわいがり、美代はそこで見知った賢人の姿にさらに恋慕を募らせていた。
美代が賢人を慕うのは、その家庭事情が影響していた。
母は美代の小学生時代に離婚して家を離れ、父と暮らす自宅には家事の手伝いとして薫という女性が住むようになっていた。
自宅に居場所がないと感じる美代は、賢人と一緒になって家を出たいと考えていた。
ある日、賢人の噂話をする同級生の坂内に、美代は食ってかかる。
その拍子に弁当を落としてしまい、見かねた賢人から手作りの弁当を分けてもらって一緒に食事をした。
賢人の笑顔をもっと見たいと、美代は放課後に猫になって賢人の家に赴くが、そこでは家業を巡る会話が交わされて賢人は落ち込んでいた。
その場には入れず、帰宅してからもう一度猫の姿で賢人に会う。そのとき賢人は「(美代のように)思っていることをはっきり言えればいいのに」とつぶやいた。
思いも寄らない言葉に美代は、自分に力をくれた賢人の力になりたいと、家に戻って手紙を書く。
翌日、美代が渡そうとした手紙を坂内が奪って勝手に読み上げる。
手紙は賢人が取り返すが、「俺とおまえは違う。それにそういうの押しつけてくる奴は嫌いなんだ」と手紙を握り潰しながら美代に話した。
美代は落ち込んで帰宅する。
そこに薫から同居していることへの感想を聞かれ、美代は「気にしていない」と愛想笑いで返すも、いつもそうした態度を示すことに疑問を呈されて、「大人は勝手すぎる」と両親や薫への憤懣をぶちまけた。
家を飛び出した美代は猫になって賢人のところに行く。
美代はそのまま猫の姿で賢人の家で夜を明かし、翌朝「猫なら学校に行かなくてもいい」と気づいて「もう美代はいいや」と思ったとき、人間の仮面が転がり落ちる。
そこに猫店主が出現して、完全に猫になる前に人間の仮面を付ければ元に戻れると言いながら、人間の仮面を持って消えてしまう。
美代が失踪して、美代の父と薫は学校に相談に行く。
そこに賢人と頼子も呼ばれ、美代が消えたことを知る。
賢人は帰宅後に美代を探しに出かけ、猫の美代もそれに同行した。
その場で賢人は美代のことを何も知らなかった、謝らないととつぶやくが美代にはその声が切れ切れに聞こえた。
完全な猫になりつつあると美代は気づく。
ところが美代が猫になったままの間に、学校に美代が登校する。
行動や言動が以前の美代とは違うと周囲は訝る。
偽物の正体は薫の飼い猫であるきなこだった。
きなこは、薫への恩返しとして長く一緒にいるために仮面を手に入れて人間になったと美代に話し、美代の寿命を猫店主と自分で折半することになっているのだと言う。
ようやく見つけた猫店主から次の夏祭りに美代が完全な猫になると聞かされ、その後を追って空の上にある、猫だけにしか見えない「猫島」に美代は足を進めた。
次の夏祭りの日、きなこは「猫のきなこ」を案じる薫を見る。
きなこは賢人の家に出向いて自分の正体を明かし、本物の美代がどうなっているのかも話した。
きなこは薫が自分を心配する姿を見て猫に戻る気になったと述べ、誰からも愛されていないと感じている美代を助けられるのは賢人だけだと話す。
賢人はきなことともに「猫島」に向かう。
登場人物
笹木美代
声 - 志田未来
本作の主人公。
通称ムゲ。
愛知県常滑市に住む中学2年生。
空気の読めない性格に見えるが、実は周りに気を使っている。
普段から裸足の上に靴を履いている。
上履きやローファーも素足履きである。
興味のない周囲の人間をかかしのように思うことがあり、本編の画面でもこれをそのまま視覚化した描写がある。
日之出賢人
声 - 花江夏樹
美代の同級生。
家は陶芸工房を営む。
父は死亡しており、祖父・母・姉の4人家族で暮らしている。
努力家で母からは進学校に入ることを期待されて学習塾にも通っている。
自身は陶芸家への志望があるものの、言い出せないでいる。
以前は「太郎」という犬を飼っており、自分の前に現れた白いノラ猫(正体は美代)に同じ名前をつけた。
深瀬頼子
声 - 寿美菜子
小学生時代からの美代の親友。
美代から「ヨリちゃん」と呼ばれている。
態度が悪いときもあるが美代のそばにいつもいてとても友達思い。
両親の離婚が原因で美代がいじめられていたときも寄り添った。
笹木洋治
声 - 千葉進歩
美代の父親。
市役所勤務。
美代が小学生の頃に美紀と離婚し、その後美代と同居しながら薫に家事を手伝わせている。
水谷薫
声 - 川澄綾子
きなこの飼い主。
笹木家に同居して家事を手伝っている女性。
きなこがいなくなったときには、ポスターまで貼って探した。
美紀からは、美代のことが理解できると思えないというメールを送られていた。
斎藤美紀
声 - 大原さやか
美代の母親。
美代が小学生の頃に洋治と離婚している(美代は自分を捨てて出て行ったと思っている)が比較的近くに住んでおり、美代とも会う機会がある。
彼女の作る里芋の煮っころがしが美代の大好物だった。
美代の「失踪」のときには笹木家に現れ、薫と取っ組み合いの喧嘩になる。
猫店主
声 - 山寺宏一
美代に猫の仮面を渡した物語のキーパーソン。美代から「お面屋」と呼ばれている。
きなこ
声 - 喜多村英梨
薫の飼い猫。
薫にしか懐かない。
美代の「人間の仮面」を手に入れて美代になりすました。
主題歌
主題歌
- 「花に亡霊」
挿入歌
- 「夜行」
エンドソング
- 「嘘月」
主題歌「花に亡霊」と挿入歌「夜行」とエンドソング「嘘月」は、ヨルシカによる書き下ろし楽曲であり、n-bunaが作詞・作曲・編曲を手掛けている。
どれも作品の邪魔をせずに自然と耳に入ってくる名曲。
秀逸タイトル
『泣きたい私は猫をかぶる』。
最近久しくみなかった秀逸タイトルだ。
【猫をかぶる:もともとの性質を隠して、人の前ではおとなしそうにふるまうこと。】という意味の慣用句。
タイトルだけならヒューマンドラマを想像する。
だがそこに本物の猫とファンタジーを絡ませた。
ダブルミーニングだ。
これが実に見事なダブルミーニングで、本作を観れば唸ること請け合い。
「猫をかぶる」とは、なるほどそういうことか。
納得のタイトルである。
ネーミングセンスが素晴らしい。
ただひとつ惜しむらくは、少し地味だったか。
タイトルだけで惹きつけるためには、少々パンチが弱かったような気がする。
実際に観ないとその良さが伝わらない。
それだけが本作唯一のジレンマだ。
猫をテーマに取り上げたアニメの傑作
猫をテーマに取り上げた作品は数多存在するが、本作はその中でも傑作と呼べる作品だ。
世界観が近いと感じたのはスタジオジブリの名作『猫の恩返し』。
さらには『耳をすませば』にも似た要素を、少なからず含んでいる。
それもそのはずで、本作監督のひとりである佐藤順一氏が刺激を受けたクリエイターは、アニメーション的には大塚康生氏と宮崎駿氏、物語や演出では高畑勲氏と宮崎駿氏。
最初はそれほど熱心に彼らの作品を追いかけていたわけではないが、大学に入ってからいろいろな作品を見て行く内に意識するようになったという。
その甲斐あってか、佐藤順一氏は1989年公開のスタジオジブリの映画『魔女の宅急便』で、最初の監督候補として指名されている。
しかし、ジブリとは原作のアレンジの仕方やライターの選定などのざっくりとした打ち合わせはしていたものの、諸般の事情で企画が決まる前に作品からは外れている。
だから本作の印象が『猫の恩返し』や『耳をすませば』と重なるのは致し方ないことかもしれない。
ただ、そこに脚本の力が加わった。
個人的な意見だが、本作は『猫の恩返し』を超えている。
さらには、あの超名作『耳をすませば』とも甲乙つけ難いほどである。
ただ知名度が低い。
願わくば、もっと多くの人の目に留まってほしい。
脚本は『あの花』『さよ朝』『ここさけ』の岡田麿里
本作の脚本は『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『さよならの朝に約束の花をかざろう』『心が叫びたがってるんだ。』という名作を世に送り出した岡田麿里さん。
さすがと言うべきかやはりと言うべきか、本作も負けず劣らずの傑作である。
何より凄いのは本作が、過去作に引きずられなかったということだ。
成功体験を継承したがるのが人間の性。
だから同一監督や同一脚本の作品は、どれも似たようなものになっていく。
しかし本作は違った。
『あの花』『さよ朝』『ここさけ』という名作に依存することなく、本作の独自性を貫いた。
あるのはほんの少しの残り香だけ。
その潔さが何より素晴らしかった。
本作を観て確信する。
いくら『あの花』『さよ朝』『ここさけ』が名作といえど、アニメファンにしか周知されていないのが現実。
残念ながら一般的な知名度はまだまだ低い。
だが岡田麿里作品は、次世代の日本のアニメーション文化を必ずや担ってくれるだろう。
独自の作品性を追求
スタジオコロリドの今後にも注目
株式会社スタジオコロリド(英: STUDIO COLORIDO CO.,LTD.)はアニメ制作会社である。
社名のコロリドはポルトガル語で「色彩に富む」という意味がある。
若いクリエイターが多く、「アニメに関わる人が安心して働き続けることができる場を作る」を理念にアニメーション制作を行っている。
2018年8月、『ペンギン・ハイウェイ』で初の長編作品を制作。
『SPY×FAMILY』や『うる星やつら』の各話制作協力も。
あの『ペンギン・ハイウェイ』を制作した会社だ。
前途有望に決まっている。
スタジオコロリドが今後世に送り出すであろう作品にも、是非注目してほしい。
彼らが生み出した作品が、次世代の日本アニメーション文化を支えていってくれるだろう。
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