スタジオジブリ作品
猫の恩返し
『猫の恩返し』とは
監督は森田宏幸氏。
2002年に『ギブリーズ episode2』と同時上映で公開。
スタジオジブリ作品『耳をすませば』の主人公である月島雫が書いた物語という位置付けのスピンオフ。
猫の男爵バロンとムーンが2作に共通して登場する。
宮崎駿氏のリクエストをうけて柊あおい先生が描き下ろしたコミック『バロン 猫の男爵』を原作とする。
バロンの声を担当する声優は主人公とのバランスを考慮し、『耳をすませば』の露口茂氏から袴田吉彦氏に変更された。
また、『耳をすませば』で月島雫の声を担当した本名陽子さんが、クラスメイトのチカ役を担当している。
『耳をすませば』の直接の続編ではないが「月島雫が書いた物語」という位置づけであるため、実質的には続編に近く「続編は作らない」という方針を採るジブリが試みた唯一の続編相当作品である。
キャッチコピーは「猫になっても、いいんじゃないッ?」(糸井重里氏)。
日本国内の興行収入は64.8億円で2002年の邦画1位、DVDとVHSを合わせたビデオグラム出荷本数は2007年5月時点で72万本。
あらすじ
女子高生の吉岡ハルは、学校に遅刻したある日の放課後、ラクロス部である親友のひろみと家路についていた。
道中、何かをくわえた見かけない黒猫がトラックに轢かれそうになるのを目撃し、咄嗟にひろみのラクロスのスティックを使って助ける。
助けられた後、その猫は日本語で礼を述べ、二足歩行で歩き去る。
実は、彼は猫の国の王子・ルーンだった。
その夜、母親に「猫が話した」と告げたハルは幼いハルが「白猫と話した」と口にしたというエピソードを聞かされる。
その夜中、猫王ら猫の国一行が現れ、ルーンを助けたお礼として目録を貰う。
翌日、猫の国からのお礼が届くが、ひろみへの大量のスティック、家の庭いっぱいの猫じゃらし、マタタビ、ネズミといった、猫しか喜びそうのない代物ばかり。
さらにはハルについてくる大量の猫たち。
放課後、ひろみの掃除当番を代わりごみ捨てに行くと、想い人である町田が彼女と思われる人物と歩いているのを目撃。
その直後に、猫王の家来ナトルがハルの元を訪れる。
「猫じゃないから猫じゃらしもマタタビも嬉しくない」と文句を言うハルに、「猫の国に招待する」と答えた。
さらに、猫王はハルをルーンの妃にしようとしていることも伝える。
ハルはそのことに慌ててナトルを引き止めるが、ナトルは「今夜迎えにあがる」と言い残し、去ってしまう。
「猫のお嫁さんにされる」とパニックになるハルにどこからともなく声が聞こえた。
その声によると「猫の事務所を探して。十字街に居る白い大きな猫が教えてくれるから」とのこと。
学校の帰り道で、ハルは十字街で白い大きな猫のムタに出会い、「付いて来な」と言われ、付いて行く。
着いた場所は不思議な街で、そこにある小さな家の「猫の事務所」で猫の男爵・バロンと、心を持つカラスのガーゴイルのトトに出会う。
ムタ曰く、「猫の国は自分の時間が生きられない者が行く場所で、それを聞いたバロンはハルに自分を見失わないように」と諭す。
猫の事務所にいる時、突然現れたナトル率いる猫の集団に、ハルは連れ去られてしまう。
そして、ハルとムタは、バロンやトトと離れてしまい猫の国に連れ去られる。
そこで、ハルはルーン王子と結婚する事を決められてしまい、猫耳や尻尾が生えて、猫にされてしまう。
泣きながら猫の国の城での祝宴に参加していた時、ハルは仮面の貴公子に扮したバロンに助けられ、白猫ユキの手引きにより建物から脱出、塔の頂上に行けば元の世界に戻れると知り、ムタと共に迷路の堀を攻略する。
迷路を阻む壁のハリボテを倒し、塔を登って行くが、中途で猫王が塔の下半分を爆破し崩壊させたため、追い詰められる。
その時、帰ってきたルーン、そしてハルを猫の事務所に導いた声の主・ユキに助けられる。
そして、ユキは昔ハルに助けられたことを告白、ルーンから求婚され、それを快諾する。
ハルはそのことを心から喜ぶ。
諦めきれない猫王はハルを自分の妃にしようと薦めたが一蹴され、怒って暴れ出し、バロンに勝負を挑む。
結局、猫王が敗北したものの、塔の頂上からはハルの悲鳴が聞こえ、塔が崩壊していたため、出口は人間界の上空のあらぬところにつながっていた。
ハルは、ムタとともに落下していくが、なんとか間に合ったバロンの指示で体勢を立て直し、遂にトト率いるカラス達に助けられながら人間界に帰還する。
学校の屋上で、ハルはバロンに告白する。
バロンは寂しがるハルに、「また、困った事件があったら猫の事務所の扉は開かれる」と言い残して去る。
ハルは感謝の気持ちを叫び、日常に戻った。
登場人物
吉岡ハル(CV:池脇千鶴)
本作の主人公。
短めのポニーテールが特徴の女子高生。
心優しく素直な性格。
実は猫の言葉を理解できる能力をもっている。
朝に弱く、寝坊で学校を遅刻してしまうことも少なくない。
ドジなことも多く、作中では2回ガードにつまづいて転倒している。
母子家庭のため、母が仕事で多忙な時は炊事などを引き受けており、家事は得意。
既に別の女子生徒と交際しているクラスメイトの町田に片想いをしている。
劇中では当初は数々のトラブルから「猫なんて助けなければ良かった」と後悔していたが、バロンらとの触れ合い、猫の国での奮闘などから心境の積極的な変化が見られるようになる。
終盤には自身を助け導いてくれたバロンを男性として意識する程に。
物語のラストでは劇中での様々な経験からきた気持ちの現れからか、佇まいが大人びたものとなり、朝寝坊を治し、町田への想いを吹っ切るなど態度を改めるようになり、肩まで伸ばしていた髪もさっぱりとショートヘアにカットしている。
バロン / フンベルト・フォン・ジッキンゲン(CV:袴田吉彦)
「猫の事務所」(原作では「地球屋」という名前がある)の所長。
「男爵」という設定で、身の丈30センチほどの、二足歩行で歩く猫の人形。
タキシード姿にステッキを持っており、イギリス紳士を連想させる風貌をしているが、名前はどちらかというとドイツ貴族に近い。
性格は如何なる時でも冷静沈着、紳士的でムタ曰く「キザ」。
剣術の腕前は一流で、身体能力にも優れている。
自身が客に振舞う特製スペシャルブレンドの紅茶は、毎回味が変わるとのこと。
原作での毛色は黒に近いこげ茶で衣装も黒を基調としている一方、映画版では黄色がかった茶色の毛皮に白のタキシードを羽織っている。
一人称は基本的に「わたし」であるが、クライマックスの1シーンのみ、ハルに対し「俺を信じろーっ!」と発している。
猫であるが、実像が人工物であるため、「ゆ」の発音が可能。
原作では映画版と比べると少々茶目っ気が強め。
一方で、猫の国を滅ぼしかねない凄まじい能力を秘めているらしい。
ムタ / ルナルド・ムーン(CV:渡辺哲)
バロンの仲間の太った猫。
普段は商店街をウロウロしている。
口が悪く短気で気難しいが、根は善良で、いざという時には頼りになる。
ハルをかなり上の階段に放り投げることができるほどの怪力の持ち主。
自分の生い立ちについてはあまり語りたがらず、過去の経歴は後述する大犯罪猫であることが判っている以外はすべて不明。
猫王の「どうすればそんなに長く生きられるのか」という台詞から、通常の猫の寿命をはるかに超える年月を生きていると推測され、不老不死だと思われる。
猫の国について「ありゃまやかしだ、 俺みたいに自分の時間を生きられない奴の行く所さ」と語っており、これが彼の不老不死と思われる長寿と何らかの関係があると考えられるが、詳細については明かされていない。
通常、猫は「ゆ」という発音ができないことが彼によって説明されているが、彼自身は発音できる。
これも長い年月をかけて生きてきたが故に身に付けた能力であると思われる。
作中で「おれはハッキリした女が好きなんだ」と語っている。
甘い物が大好きで数十個のケーキすら彼にとっては恐るるに足らず、こだわりも持っている模様。
その昔、猫の国で国中の魚を喰い尽くして逃げた伝説の大犯罪猫「ルナルド・ムーン」として知られ、壁画にもなっていた。
「ムタ」という名前は、元々「耳をすませば」にて原田夕子の自宅近くに居住する幼女が独自に名付けた名前である。
当作では「ルナルド・ムーン」が本名という設定であるが、「ムーン」という名前は「耳をすませば」にて天沢聖司が独自に名付けた名前である。
トト(CV:斉藤洋介)
バロンの仲間のカラス(原作ではカササギ)。
普段は石像(ガーゴイル)だが、事務所が動き出すと知性を持つ様になる。
ムタとは喧嘩ばかりしているが、困難にぶつかった時は力を合わせている。
色々とハルやバロンの手助けをする。
たくさんの仲間の群れを呼ぶことができる。
ルーン(CV:山田孝之)
猫の国の王子。
恋人(恋猫)のユキが好きだったお魚型のクッキーを探し人間界に来ていて、車に轢かれそうになったところをハルに救われる。
猫王を反面教師にしてきたため、父親と違って誠実で真面目な性格をしている。
父親と同じ色のオッドアイ。
終盤にユキにプロポーズする。
原作では映画とは違い、マイペースな性格である。
ユキ(CV:前田亜季)
ハルが幼い頃に出逢った白猫。
ハルを助ける為に彼女を「猫の事務所」へと導いた「不思議な声」の張本人。
悲しそうな垂れ目をしている。かつてハルに食べさせてもらったことから、人間界で売っている魚の形をしたクッキーが大好き。
自身の名前が「ユキ」であるためか、「ゆ」と発音できる数少ない存在である。
猫王のお城で給仕をしている。
ルーンとは恋人(恋猫)関係にあり、終盤にプロポーズを受ける。
原作では元々ハルの飼い猫で、物語の7、8年前に交通事故により死亡している。
また、ハルの護衛に失敗したムタに「大したことないのね」というなど、少々気の強い性格となっている。
猫王(CV:丹波哲郎)
本作の悪役。
猫の国の王で、王子・ルーンの父親。
青と赤のオッドアイである。
我侭な暴君だが、最高権力者なので誰も逆らえない。
ルーンを溺愛するが、彼を人間の娘と結婚させようと、彼やハルの意思を全く無視して2人の結婚を強行しようとする。
しかし、ルーンが彼の恋人・ユキとの結婚を猫王の前で発表するとそれを素直に祝福するも、今度は自分がハルの結婚相手に名乗りを挙げるという無茶苦茶な王様。
その際に難癖をつけて強引に迫ったことから、ハルから「このヘンタイネコー!」と怒られた。
原作では行方不明の妃がおり、生存の知らせが入ったため捜しに行く。
終盤で塔を爆破するなどやる事はかなり豪快であった。
この騒動の後引退を決意。
映画では「ねこおう」と呼ばれているが、原作のルビは「みょうおう」で統一されている。
主題歌
- 「風になる」
作詞・作曲・歌 - つじあやの / 編曲 - 根岸孝旨 / 弦・管編曲 - 山本拓夫
シングル - SPEEDSTAR RECORDSサントラ - 徳間ジャパンコミュニケーションズエンディングでは原曲とは異なりAcoustic Versionが使用されている。
名作『耳をすませば』主人公の月島雫が書いた物語
本作はあの名作『耳をすませば』の主人公である月島雫が書いた物語という位置づけにある。
故に正統な続編とは言い切れないまでも、限りなく続編に近いスピンオフ作品といえ、「続編は作らない」という方針を採るジブリが試みた唯一の続編相当作品となっている。
『耳をすませば』好きとしてはマストな作品であるが、『耳をすませば』との共通項といえばバロンとムタ(ムーン)の存在ぐらいで、シナリオ上の繋がりは皆無に近い。
本作視聴の際に『耳をすませば』の作風とクオリティを想定していると、残念ながら違和感が拭えない。
ただ作画は綺麗で色彩も豊かであるから、その点においてのみ『耳をすませば』より優っている。
しかしそれも作風の差にしか過ぎないのかもしれない。
本作はファンタジーであり、色彩が豊かになることは必然ともいえる。
対する『耳をすませば』の舞台といえば、現代社会の中学校がメインである。
唯一のファンタジー要素といえば、本作との繋がりにもなるバロンの空想シーンのみ。
そういう事情を鑑みると、件の二作品を比べること自体がナンセンスだといえる。
数少ない "猫" をフィーチャーしたアニメ作品
本作の人気を支えた理由はふたつ。
まず、ジブリブランドであったこと。
当時のジブリといえば、押しも押されもせぬ唯一無二のアニメ制作スタジオ。
ジブリの名を冠するだけで一定の評価は確実に得られた。
これは大袈裟な話ではなく、ジブリの名にはそれほどの価値があった。
次に、当時はまだ猫をフィーチャーした作品があまりに少なかったことが考えられる。
愛犬家と愛猫家の比率も今とは違い、犬派が圧倒的に大多数であった。
そんな時代にいち早く猫をフィーチャーしたのは、さすがジブリの先見性といえる。
ただし、シナリオの出来としては少し物足りない。
本作のキャッチコピーは「猫になっても、いいんじゃないッ?」だが、肝心の猫になる理由があまりに弱すぎた気がする。
おかげで物語終盤の盛り上がりに差し掛かっても緩さが抜けず、緊迫感もハラハラドキドキ感も薄かった。
切羽詰まった演出にも、どこか冷めて同調しきれなかった。
これがもし宮崎駿監督が直接指揮をとっていたら、また違った結果になっていただろう。
そのことが惜しまれてならない。
だから残念ながら、短いスパンで何周も観直したくなるほどの作品とはいえない。
数年に一度、本当にたまーに観るくらいがちょうどいい。
声優陣のキャスティングにも驚くべき先見性が…
本作は声優陣も豪華であるが、その中にはアニメ作品で見慣れない名がチラホラ見受けられる。
なんとCREATIVE OFFICE CUE(オフィス・キュー)、すなわちTEAM NACS、すなわち『水曜どうでしょう』軍団が参加しているのだ。
猫のシェフ役に、"ミスター" こと鈴井貴之氏が。
国語教師役に、"すず虫" こと大泉洋氏が。
そして町田(ハルのクラスメイトで片想いの相手)役に、"びっくり人間" こと安田顕氏が参加しているのだ。
当時はまだイチローカルタレントに過ぎない彼ら(洋ちゃん出演の『救命病棟24時』は2005年)が、どうやってあのスタジオジブリと繋がったのかはわからない。
ジブリの中に『どうでしょう』ファンでもいたのか?
いずれにせよ、池脇千鶴さん・丹波哲郎氏・斉藤洋介氏・山田孝之氏などが居並ぶ豪華声優陣の中に、一介のローカルタレント(当時)が混ざり込んでいるのは驚きだ。
ただ『どうでしょう』軍団は完全なる脇役出演だから、視聴の際は細心の注意が必要だ。
でなくては完璧見逃してしまうだろう。
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