【Ayaseの "要約能力" のすごさ】「勇者」「アイドル」「祝福」……企画書や読書感想文が苦手な人はYOASOBIを聴け!
YOASOBI 「勇者」「アイドル」「祝福」……曲名なぜ短い?
2023年は、YOASOBIにとってまさに大躍進の年だった。
2019年にリリースした「夜に駆ける」のロングヒットで新たな時代のアイコンとなるだけに留まらず、今年はTVアニメ『推しの子』OPテーマ「アイドル」によって、名実共に日本を代表するアーティストとして世界進出を果たした彼ら。
その活躍は、この国のカルチャーを語るうえでのマストセンテンスとして、おそらく今後も語り継がれていくに違いない。
そんなYOASOBIの近年の活動を振り返る時、やはりアニメタイアップ曲への反響の大きさを見過ごすことはできない。
「アイドル」を筆頭に、昨年リリースのアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』OPテーマ「祝福」は、MV投稿から約1年経った現在YouTubeにて約8500万回再生に到達。
直近ではアニメ『葬送のフリーレン』OPテーマの「勇者」も、YouTube動画投稿からわずか2カ月で3000万回を超える再生数を誇る。
少し時期を遡れば、2021年に放送されたアニメ『BEASTARS』のOP主題歌「怪物」のMVも、YouTube動画投稿からまもなく3年を迎える現在の再生数は驚異の3億回超え。
加えて、アニメ化もされた漫画『ブルーピリオド』のインスパイア曲「群青」MVも公開から約3年でYouTube動画再生数1億5千万回突破と、彼らの作品でも群を抜いて熱い支持を集める楽曲だ。
どの曲も従来のYOASOBIリスナーのみならず、関連コンテンツのファンをも巻き込んだ、一大ファンダムを生むナンバーとして、今この瞬間もまだまだ大きく成長し続けているのである。
該当曲の人気の理由に、小説のみならず視覚的に触れやすいアニメ/漫画が曲の下地に存在するのは言わずもがな。
しかし、同時に注目すべきは上記作品に共通する、あまりにもストレートな楽曲タイトルだ。
通常、楽曲の顔ともなる曲名は、言葉のインパクトや響きを重視することも多い。
凡庸でありふれた表現になり得る単語のみをシンプルに冠する曲は、おそらくどちらかと言えば少数派なケースのようにも思える。
しかし、今回焦点を当てた曲群に関して言えば、楽曲を知るとこれ以上ないベストな表現がタイトルに冠されていると感じる人も多いだろう。
タイアップコンテンツと楽曲、そして曲名を併せて知ることで、まるでパズルの最後のピースがぱちん、ときれいに埋まるような痛快さすら覚える。
YOASOBIの全曲を手がけるAyaseのずば抜けたタイトルセンスには、ただただ脱帽するしかない。
では、一体なぜAyaseは、このような群を抜いたセンスを持ち得るのか。
さらに言えば、彼はなぜこれらの楽曲名に極限までシンプルな単語のみを選定するのか。
結論から言えば、それは「主題歌タイトルがコンテンツ自体の濃縮原液だから」なのだと思う。
タイトルはそもそも作品の顔となるものだ。
なるべく端的かつ明瞭に作品の主題を要約する。
曲や小説、マンガなどコンテンツの種を問わず、キャッチーさやインパクトの前に、作品名というラベルが背負ういちばんの役割がそれであることを忘れてはいけない。
普通、多くのミュージシャンはゼロベースのアイデアから制作を行う。
その場合、彼らに必要なのは、一欠片のアイデアからいかに幅広く柔軟な着想を得られるかというイメージを膨らませる能力だ。
一方、YOASOBIは楽曲制作において、ある種その逆の作業を行っていると言ってもいいだろう。
彼らの場合は、楽曲制作のなかで、元となる作品の主題要約作業が絶対的について回る。
元となる作品を解釈/読解し、作品を構成する軸の主題以外を削ぎ落とす。
それはひとえに、彼らが "小説を原作に楽曲制作を行う" ユニットコンセプトを徹底するがゆえの工程でもある。
さらに言えば、各種コンテンツ関連曲の制作にあたり、そういった主題要約作業は複数回発生することも多い。
YOASOBIは、どのような楽曲制作時にも小説を原作とする条件を欠かさない。
加えて、その先にさらなる原作などがあれば、原作全体から限定した内容のみに当てはまるような主題要約作業が追加される場合もあるだろう。
つまり最も手間のかかるケースだと、楽曲がひとつ出来るまでに、原作からアニメ、アニメから小説、小説から楽曲と3段階にもおよぶ主題要約作業が発生する。
不純物がろ過され、不要な要素が削られる過程でどんどん凝縮されるコンテンツの主題。
結果、その最終地点に位置する音楽の顔となる曲名が、要点を最も捉えた簡素な言葉で大元のコンテンツを表現することになるのはさもありなん、といったところか。
AyaseがYOASOBIの楽曲で発揮する稀有な才能
言い換えれば、Ayaseのタイトルセンスとは、つまりコンテンツの最重要点を捉えることに突出して長けた主題要約力になる。
そのすごさを実感するには、日頃の自身の言動を顧みるのがいちばん早い。
大勢に伝わるように物事を要約する。
要点のみを端的に伝える。
いかにそれが難しく、レベルの高い能力であるか。
一度社会経験を積んだ人間ならば、多くの場合それを痛感するシーンにこれまで何度も直面していることだろう。
とはいえ、このAyaseの――ひいてはYOASOBIの制作手法は、言うなれば非常に "二次創作的" な音楽の作り方でもある。
オマージュ、パロディ、インスパイア……さまざまな呼称はあれど、要は0を1にするのではなく、1を10や100にする手法だ。
音楽に限らず創作の世界は、大前提として完全オリジナル/一次創作こそ至上とする考え方が根底にある。
二次創作的なものづくりは極論、虎の威を借る狐でしかない。
そんな価値観を持つ人々も、きっと少なからず居るのではないだろうか。
しかし、AyaseがYOASOBI楽曲でここまで類稀な才能を発揮し、加えてそれがこんなにもワールドワイドな社会現象を巻き起こす様を見ると、創作の次元の差に優劣などないということを強く実感する。
発想のアプローチひとつをとっても、必要とされる能力の質がこれだけ違う。
同じ創作といえど、それらは完全に別物として取り扱うべき事象だということがよくわかるからである。
加えて二次創作的な制作を行うとしても、それが公式作品として作られる以上、独り善がりな自身の趣味嗜好に準拠する解釈はご法度だ。
コンテンツに対し大衆的に理解と共感を呼ぶ普遍的な解釈と独創性ある視点を両立させたうえで、創作を行う。
その難しさを知る人々からすれば、そういった点でもAyaseのずば抜けた才能は充分評価に値するものだろう。
そして、それこそが現代の日本の音楽シーンにおいてYOASOBIというユニットがここまで大きな特異点ともなった理由のひとつなのかもしれない。
YOASOBI・Ayaseの "要約能力" のすごさから学ぶ
「勇者」「アイドル」「祝福」…企画書や読書感想文が苦手な人はYOASOBIを聴け!
他人に文章で伝える難しさ。
企画書や読書感想文など、生きていれば必ず出くわすこの難題に、誰もが一度は頭を抱えたことがあるだろう。
特に義務教育時代の読書感想文に手を焼いた人も多いのではないだろうか。
大人になっても、その苦労は絶えない。
社会に出るため自らの足跡を文章化する就職活動のエントリーシート。
社会に出ても上司に、またはクライアントに提出する企画書だって文章化が要求される。
それも、要点を端的にかつ魅力的に仕上げなければいけないから骨が折れる作業だ。
そこで著者が注目したいのがYOASOBI・Ayaseの "要約能力" の凄さだ。
「勇者」「アイドル」「祝福」。
どれもアニメの主題歌だが、楽曲人気のみならず、アニメ自体も皆すべからく人気を博している。
もちろんアニメ作品自体の素晴らしさもあるが、テーマ曲を担当したYOASOBIの功績も大きい。
なぜならYOASOBIほどアニメの主題歌で、アニメ作品をこれほど上手に引き立てられるアーティストは昨今他にないからだ。
以下に記したYOASOBI楽曲三作品の歌詞の書き方が、YOASOBI・Ayaseの要約能力の凄さを物語る。
『葬送のフリーレン』第1期OPテーマ「勇者」
話題沸騰のアニメ『葬送のフリーレン』。
その第1期OPテーマである「勇者」から学びとるYOASOBI・Ayaseの要約能力の凄さは、 "勇者一行との旅" にだけフィーチャーしたことにある。
『葬送のフリーレン』は、多くの魅力が詰まった名作だ。
他人を理解することの大切さや難しさ。
ひとりで生きていくことの寂しさと、仲間のありがたみ。
様々な魅力がある中で、YOASOBI・Ayaseは "勇者一行との旅" にだけ注目した。
"勇者一行との旅" は物語の根幹にある裏テーマであるから、つかみとしては最適。
おまけに、もしかしたら最終回まで引っ張れる最高のテーマなのである。
他には一切目もくれず、"勇者一行との旅" だけをフィーチャーし、それのみに特化し昇華させた「勇者」。
伝えたいことをひとつに絞って、それをどう表現するかがよく学びとれる名曲である、
『推しの子』第1期OPテーマ「アイドル」
『推しの子』第1期OPテーマ「アイドル」。
2023年、YOASOBIのみならず日本で最大のヒット曲といえばこれだろう。
「アイドル」の凄いところは、(時系列は前後するが)前述した『葬送のフリーレン』第1期OPテーマ「勇者」よりさらに、要点を一極集中したことにある。
『推し子』最強にして最高のアイドル・星野アイ。
「アイドル」は、その魅力のみに特化した、ある意味で物語をガン無視した楽曲なのである。
もし「アイドル」の歌詞と同じ書き方を、例えば読書感想文でしたなら満点は取れないかもしれない。
だがそれは、読んだ者の心を打つ。
「アイドル」ヒットの要因は、そんなところにもあるのではないだろうか。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第1期OPテーマ「祝福」
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第1期OPテーマ「祝福」。
前述した二作品と比べると、少しインパクトに欠けるのかもしれない。
しかし「祝福」の凄さは前述二作品とはまったく違うところにある。
要約範囲を狭めることに特化した前述二作品に反して、「祝福」は要約範囲を目一杯広げているからだ。
しかしそれは「祝福」が使用されていた第1期時点では、まだわからないことだった。
YOASOBI・Ayaseの要約能力の深謀遠慮は、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の最終回タイトルによって回収されることになる。
第24話「目一杯の祝福を君に」。
これは「祝福」の締めのフレーズと見事に合致するのだ。
今までボヤけていた「祝福」の世界観が一気に収束し昇華した瞬間だった。
アニメ作品とは違い、OPテーマは短期決戦が基本である。
長丁場のアニメシリーズのOPテーマでこういう手法は非常に珍しい。
アニメOPテーマとしては答えが出るまで非常にヤキモキさせられた作品であるが、結論を急がない文章ならこういう書き方も驚きがあって面白い。
YOASOBI・Ayaseの "要約能力" のすごさ
前述したように、YOASOBI・Ayaseの要約能力の凄さは要点の見極めの凄さにある。
時には極限まで絞り込み、時には最後のワンフレーズに要点を集約させる。
物語の要点を掴んだ楽曲の数々は、その作品のイメージを結果的に楽曲と重ねる。
楽曲を聴けばその作品が思い浮かぶという、相乗効果が得られる。
これは二次創作的なYOASOBIの楽曲ならではの制作法なのかもしれない。
オリジナルには価値がある。
それは当然のことだ。
しかし、では例えば『ジョジョの奇妙な冒険』を知らない人が『HUNTER×HUNTER』を絶賛するのは間違いなのか。
極論になりはするが、iPhoneに価値はないのかと問われれば答えはNOだろう?
オリジナルを発展させた再発明にも、オリジナル同等もしくは同等以上の価値があるはずだ。
YOASOBIの楽曲の制作法は、いわば再発明。
そして読書感想文や企画書も、YOASOBIの制作法と同じ再発明的作業なのである。
YOASOBI・Ayaseの要約能力を学べば、文章を書くコツを少なからず学ぶことができるだろう。
何より、本稿を読んでもらうことで文章を書く楽しみを知るキッカケになってもらえたら幸いだ。
ついでにYOASOBIも好きになってもらえたらなおさら嬉しい。
☆今すぐApp Storeでダウンロード⤵︎