Amazonドラマシリーズ
【推しの子】(#7-8)
※本稿にはネタバレを含みます。ご注意下さい。
赤坂アカ・横槍メンゴ両先生が示した希望…原作者と制作側の間にしっかり共通意識を持つことができるなら原作改悪問題は起こらない
Amazonドラマ『【推しの子】』とは
この芸能界(せかい)において嘘は武器だ
世界中を熱狂させている『【推しの子】』がついにドラマ&映画化!
"推しの子" として転生するファンタジックな設定と、ショッキングな描写もいとわないサスペンス要素、そして "芸能界" という複雑な世界に躊躇なく切り込む他に類を見ない斬新なストーリーで多くの人の心を掴んでいる『【推しの子】』。
そんな原作のすべての魅力を余すことなく表現したいという "原作愛" を持った最旬のキャストと新進気鋭のスタッフが集結し、ビジュアルから内面までキャラクターをしっかりと掘り下げ、『【推しの子】』の "衝撃" を描き切る。
『【推しの子】』とは
『【推しの子】』とは、週刊ヤングジャンプ・少年ジャンプ+で2020年から2024年まで連載していた漫画作品である。
集英社の漫画雑誌「週刊ヤングジャンプ」2020年21号(4月23日)に連載開始。
同年6月11日からは同社の漫画アプリ「少年ジャンプ+」でも連載がスタート。
ヤングジャンプ本誌から1週遅れて連載するという形を取っている。
原作担当は同誌で『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』を連載した赤坂アカ先生(本作の開始当時は2作品同時週刊連載)。
作画担当は『クズの本懐』『レトルトパウチ!』を手掛けた横槍メンゴ先生。
作者著名枠には記していないが、一部カラーイラストの彩色は漫画『アクタージュact-age』の作画を手掛けた宇佐崎しろ先生も携わっていることがメンゴ氏のX(旧Twitter)で明かされている。
主人公の医師が死後に前世の記憶を持ったまま、推していたアイドルの子供に生まれ変わるいわば「転生もの」。
「もし芸能人の子供に生まれていたら」
「容姿やコネクションを生まれながらに持ち合わせていたら」
そんな誰もが羨むような環境に生まれながら、何の因果か前世の記憶を持ち合わせ、それに引きずられた第二の生を歩む二人の視点から芸能界を描く。
ファンタジー設定やアイドルを主軸としている事から、一見明るい作風に思われるが、実際の内容はかなりシリアスで陰惨。
殺人サスペンス要素や現代社会を投影した展開、芸能界の闇などへ切り込むリアルさが本作の特徴である。
【推しの子】 16 SPECIAL EDITION (ヤングジャンプコミックス)
あらすじ
伝説のアイドル・アイが亡くなり、アイが極秘出産した息子・アクアは復讐心に囚われて母の死の真相を追いかけ、アクアの双子の妹・ルビーは母のようなアイドルになることを一途に夢見る。
それぞれの思いを抱えながら芸能界へと突き進む二人。
しかし、彼らを待ち受けていたのは煌びやかな世界に隠された "リアルな裏側" だった。
主役級に若手俳優ばかりを起用した攻めたキャスティング
- アクア - 演:櫻井海音(幼少期:岩川晴)
- アイ - 演:齋藤飛鳥
- ルビー - 演:齊藤なぎさ(幼少期:斉藤柚奈)
- 有馬かな - 演:原菜乃華(幼少期:永瀬ゆずな)
- 黒川あかね - 演:茅島みずき
- MEMちょ - 演:あの
- 雨宮吾郎 - 演:成田凌
- 五反田泰志 - 演:金子ノブアキ
- 斉藤ミヤコ - 演:倉科カナ
- 斉藤壱護 - 演:吉田鋼太郎
- 吉祥寺頼子 - 演:安達祐実
- 鏑木勝也 - 演:要潤
- 鮫島アビ子 - 演:志田未来
- 雷田澄彰 - 演:中村蒼
- GOA - 演:戸塚純貴
- 姫川大輝 - 演:山下幸輝
- 金田一敏郎 - 演:尾美としのり
本作の、配信ドラマならではの攻めたキャスティングにも大注目。
いよいよ本気を出してきたアクア役・櫻井海音氏とルビー役・齊藤なぎささん。
復讐劇の裏で熾烈な正ヒロイン争いを繰り広げる有馬かな役・原菜乃華さんと黒川あかね役・茅島みずきさん。
有馬とあかねの間を取り持つMEMちょ役・あのちゃん。
超人気漫画、初の実写化。
必ず成功しなければいけない超話題作の主役級に、若手俳優ばかりを起用した制作側の攻めたキャスティングには拍手を送りたい。
エピソードごとに変わる主題歌
本作はエピソードごとに違う主題歌が用意されている。
経費も労力もかかるこの特別仕様からも、制作側の並々ならぬ意欲を感じられる。
各エピソードの主役キャラクターをフィーチャーした主題歌は、それだけでも十分に見応えがある。
- エピソード7.「動く点P / 水曜日のカンパネラ」
(Atlantic Japan / Warner Music Japan)
- エピソード8.「REVENGE / 梅田サイファー」
(Sony Music Labels Inc.)
数々の原作名シーンを完全再現!
本作は原作にある数々の名シーンを完全再現している。
とはいえ二次元作品を三次元に、漫画作品を実写化するのだから、何から何まで寸分違わず…といわけにはいかない。
コストや技術、権利や放送尺の都合もある。
いくら忠実に再現したくても、もし原作が長編漫画となれば、なんとかして物語を端折らなければ放送尺には収まらない。
だからいくら完全再現だと評してはいても、本当には完全再現と言い切れないのが現実である。
さらに人によって完全再現の解釈もそれぞれだ。
コアな原作ファンには、実写化すること自体が耐えがたいことなのかもしれない。
しかし当然、それらすべてを制作側も承知の上である。
エピソード5.の劇中、アクアのセリフはそんな制作側の気持ちを切実に表している。
そもそも 漫画的な表現やキャラクターが人気の作品を 生身の人間で実写化すること自体ハードルが高すぎる
人気漫画の実写化で炎上は免れない
すべてわかった上で、限界まで原作の完全再現を目指した制作側。
事実、物語が急展開を迎えるルビーの闇堕ちシーンは、実に細部にまでこだわりをもって再現されていた。
これだけでも十分賞賛に値するのだが、原作ファンをも納得させる完全再現を目指した制作側の熱意は、実に細部にまで行き届いていた。
たしかに制作側の熱意が細部にまで行き届いていたのだが、この辺りになると物語もそろそろ鬱展開にシフトチェンジ。
しっかり原作再現こそされてはいるものの、もう少し掘り下げて欲しかったシーンもいくつかあった。
原作名シーンを完全再現
- ルビーの闇堕ち
若干の陰は描きながらも、これまでそれなりに平穏を保ってきた物語が一気に急展開を迎えるルビーの闇堕ちシーン。
コンプライアンスに引っ掛かりそうな表現もあったが、このシーンも本作は完全再現。
いつも明るく素直で真っ直ぐだったルビーが復讐を決意する重要なシーンは見逃せない。
- 「ルビーのミステリアスでダークな雰囲気を纏ったルビーの姿」
新生B小町の新曲「トワイライト」MV。
ルビーの闇堕ちもしっかり収録されている。
もう少し掘り下げて欲しかった名シーン
- 「元ファンの反転アンチって一番面倒だな」
MV撮影でアイドル全開の衣装に身を包む有馬かなと、それを見た黒川あかね。
有馬のアイドル活動に否定的なあかねだが、痛烈なダメ出しするわけでもなく、せっせと有馬の衣装を直し出す。
ここまでは忠実に再現されている。
だがこのシーン、せっかくだからアクアの「元ファンの反転アンチって一番面倒だな」というセリフまで込みで再現して欲しかった。
仲が悪いようにみえて、なんだかんだでトムとジェリーのような関係性の有馬とあかね。
二人がただのライバル関係ではないことを証明する良いシーンなのだが、あとほんの少しの掘り下げが足りなかったことは残念だ。
- MEMちょの年齢イジリ
もはや『【推しの子】』名物ともいえるMEMちょの年齢イジリ。
どんなに物語が鬱展開に傾いても、このシーンさえあれば心の安定が何とか保てる、まるでオアシスのようなありがたい存在だ。
実際、鬱展開に傾きつつあったこの場面でも安らぎシーンとしてしっかり再現されている。
だがコンプライアンスの関係だろうか。
深夜労働のクダリまでは忠実に再現されていなかった。
いつも年齢イジリされるMEMちょには少し気の毒だが、鬱展開の時だからこそこのイジリは徹底的に再現して欲しかった。
"正ヒロイン争い" に温度差?圧倒的に浅い黒川あかね関連エピソードの掘り下げ
本作物語はアクアの復讐劇がベースで進行する。
だが並行して描かれる熾烈な正ヒロイン争いもまた、本作物語のもうひとつの軸である。
序盤は有馬かなと黒川あかねの正ヒロイン争いに多くのファンが注目。
アクア・あかね・MEMちょが出演した恋愛リアリティーショー「今からガチ恋始めます」で、あかねが一歩先んじる。
かと思えば有馬が猛追。
結果的には終始有馬有利なのかと思われた矢先、あかねが可愛さを全面に押し出す。
さらにはアクアの暗部にすら寄り添う懐の広さと、有馬にはない健気な姿をみせるあかね。
このように『【推しの子】』の熾烈な正ヒロイン争いは、どちらに転ぶかわからない、絶妙なバランスが常に保たれていた。
だが本作の正ヒロイン争いだけに関していえば、少し物足りなさを感じる。
なぜなら圧倒的に黒川あかね関連エピソードの掘り下げ足りず、どうしても自然と有馬かな寄りの印象になってしまっているからである。
もちろ有馬関連エピソードも随分端折られてはいる。
しかし、やはりあかねのそれの比ではない。
これは間違いなく放送尺の都合だろう。
もしドラマシリーズ+劇場版で復讐劇のすべてを描き切ろうとするなら、正ヒロイン争いの描写は、復讐劇に関連する部分だけを残しておけば事は足りてしまう。
そもそも放送尺が足りていない。
それなのにどちらも満点解決を求めれば、どちらも中途半端なものになってしまうのは明らかだ。
アクアの復讐劇が物語の本筋ならば、有馬やあかねの細かい機微などどうしても端折らざるを得ない。
事情も理屈もわかる。
おおいにわかるのだけれども、復讐劇も正ヒロイン争いも、どちらも比べようのない『【推しの子】』の魅力なのだと信じて疑わない人間にとって、片方が淘汰されてしまうことには一抹の寂しさを感じてしまう。
ものすごい不満があるわけではない。
しかしこういうところを改善しない限り、実写化作品が原作を超えることはない。
作画やエフェクトでアニメが原作を超えることはあっても、様々な制約やしがらみに縛られる実写化作品から、今後も不満がなくなることはない。
たとえそれがどんなに小さな不満であっても、実写化作品が原作を超えることは、残念ながらないのである。
赤坂アカ・横槍メンゴ両先生が示した希望…原作者と制作側の間にしっかり共通意識を持つことができるなら原作改悪問題は起こらない
アニメ『【推しの子】』第三話「漫画原作ドラマ」では、原作改変問題に一石が投じられた。
はたして本作は、原作改変問題をどう克服したのだろうか。
漫画原作作品の実写化が引く手数多な昨今。
特に地上波ドラマのほとんどが、漫画原作の実写化といっていいほどである。
しかしその人気の裏では原作改変問題が浮き彫りとなり、社会問題にまでなりつつある。
そんななかで、ではなぜ超人気作である『【推しの子】』が、人気絶頂の中で実写化に踏み切ったのか。
アニメ『【推しの子】』第三話「漫画原作ドラマ」で原作改変問題に一石を投じた作品が、どういう経緯で実写化を許可したのか。
そこには昨今の原作改変問題に対する、赤坂アカ・横槍メンゴ両先生の想いがあったように思う。
原作改変問題とは、原作者と実写制作側とが直接意思疎通できないことに端を発する。
原作者と実写制作側との間に出版社やプロデューサーが何人も噛むせいで、原作者の意図は、まるで伝言ゲームのように捻じ曲げられて制作側に伝わる。
だから当然、実写化作品に原作者の意図は反映されない。
そうこうしているうちに原作者と制作側に軋轢が生じる。
こうして起こるのが原作改変問題、いやさ原作改悪問題である。
たかが…と思われる人もいるかもしれないが、原作者にとっては我が子同然の愛する作品である。
その作品を、生みの親の意向を無視し面白おかしく弄られては、気分が良いはずもない。
そのせいで悲しい出来事も起きている。
では、原作を改変することは作品を駄目にすることなのか。
そもそも『【推しの子】』では、原作改変問題に一石を投じてはいるものの、制作側の様々な事情にも一定の理解を示している。
だからというべきか、もちろん本作でも様々な事情で各所改変はされている。
だがそれら改変を不快に感じたかといえば、不思議とそうではない。
むしろ「よくぞここまで」と拍手を送りたいほど、どのシーンでも原作が尊重されていたように思う。
本作の何をもって成否を決めるかにもよるが、いちファンとして、 『【推しの子】』の実写化は漫画原作実写化作品の数少ない大成功例といえるだろう。
そしてそこに、赤坂アカ・横槍メンゴ両先生の原作者としての正しい姿勢があったことは、本作を観れば想像に易い。
だからといって両先生が制作側に、どれだけの注文を出したかはわからない。
もしかしたら両先生は一切口出しせず、制作側の原作愛を信じただけかもしれない。
いずれにせよ、それがどんな形であれ、原作者と制作側の間に共通意識なくして、本作のクオリティはありえない。
それは赤坂アカ・横槍メンゴ両先生が実写化としっかり向き合った結果である。
そして原作者と制作側の間にしっかり共通意識を持つことができるなら、原作改悪問題は起こらないことを両先生は示してくれた。
それでも少なからず批判が出てしまうのは、漫画原作実写化作品の宿命なのかもしれない。
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