日本映画
新聞記者
第43回日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞作品
※本稿にはネタバレを含みます。ご注意下さい。
政府による情報操作・情報統制の可能性を広く知らしめる問題作
日本映画『新聞記者』とは
韓国映画界の至宝シム・ウンギョン×第43回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞に輝く松坂桃李
権力とメディアの "たった今" を描く、前代未聞のサスペンス・エンタテイメント!
一人の新聞記者の姿を通して報道メディアは権力にどう対峙するのかを問いかける衝撃作。
東京新聞記者・望月衣塑子のベストセラー「新聞記者」を "原案" に、政権がひた隠そうとする権力中枢の闇に迫ろうとする女性記者と、理想に燃え公務員の道を選んだある若手エリート官僚との対峙・葛藤を描いたオリジナルストーリー。
主演は韓国映画界の至宝 シム・ウンギョンと、人気実力ともNo.1俳優 松坂桃李。
出演:シム・ウンギョン 松坂桃李
本田翼 岡山天音 郭智博 長田成哉
宮野陽名 / 高橋努 西田尚美
高橋和也 / 北村有起哉 田中哲司脚本:詩森ろば 高石明彦 藤井道人
音楽:岩代太郎
原案:望月衣塑子「新聞記者」(角川新書刊)
河村光庸
原案: 望月衣塑子著『新聞記者』角川書店〈角川新書〉(2017年10月12日)
菅官房長官に質問をぶつけ続ける著者。
演劇に夢中だった幼少期、 矜持ある先輩記者たち、母との突然の別れ……。
記者としての歩みをひもときながら、 6月8日を境に劇的に変わった日々、記者としての思いを明かす。
あらすじ
ーあなたは、この映画を、信じられるか―?
東都新聞記者・吉岡(シム・ウンギョン)のもとに、大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届いた。
日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、ある思いを秘めて日本の新聞社で働いてい
る彼女は、真相を究明すべく調査をはじめる。
「国民に尽くす」という信念とは裏腹に、与えられた任務は現政権に不都合なニュースのコントロール。
愛する妻の出産が迫ったある日彼は、久々に尊敬する昔の上司・神崎と再会するのだが、その
数日後、神崎はビルの屋上から身を投げてしまう。
真実に迫ろうともがく若き新聞記者。
「闇」の存在に気付き、選択を迫られるエリート官僚。
二人の人生が交差するとき、衝撃の事実が明らかになる!
現在進行形のさまざまな問題をダイレクトに射抜く、これまでの日本映画にない新たな社会派エンタテインメント!
あなたは、この映画を、信じられるか──?
登場人物
- 吉岡エリカ:シム・ウンギョン
- 杉原拓海:松坂桃李
- 杉原奈津美:本田翼
- 倉持大輔:岡山天音
- 関戸保:郭智博
- 河合真人:長田成哉
- 神崎千佳:宮野陽名
- 都築亮一:高橋努
- 神崎伸子:西田尚美
- 神崎俊尚:高橋和也
- 陣野和正:北村有起哉
- 多田智也:田中哲司
- 後藤さゆり:東加奈子
- 瀬戸:中村公隆
- ジム:イアン・ムーア
- 白岩聡:金井良信
日曜劇場『御上先生』の脚本を手掛けた詩森ろばが脚本を担当
演劇界で数多くの話題作を手掛け、日曜劇場『御上先生』でも大きな話題を集めた、詩森ろばさんが脚本家のひとりに名を連ねる本作。
官僚についての知見を深め、官僚について知りたいと思って勉強は続けていた詩森ろばさんは、 理想と現実の狭間で奮闘する官僚の姿も目の当たりに。
「みなさん非常に一生懸命やられているという印象。一生懸命なんだけど、(世間から見て)悪者になってしまう…というような点は、リアルベースで書けてるんじゃないかな」と、官僚を取り巻く描写も丁寧に表現している。
緻密な取材による骨太な物語を編み上げることに定評があり、2008年には水俣病を取り扱った舞台「hg」が話題に。
2010年には、1985年に発生した「日航ジャンボ機墜落事故」を題材にした舞台「葬送の教室」を手がけるなど、社会派の作品を多数手掛ける。
近年では本作のほか、NHKドラマ10「群青領域」(長田育恵さんと共作、2021年放送)、NHKBSプレミアム「この花咲くや」(2022年放送)など、映像面に活躍の幅を広げている。
シム・ウンギョンの圧倒的な存在感
昨今、いわゆる韓流と呼ばれているムーブメントに興味はない。
だからシム・ウンギョンという俳優の存在もも、本作を観るまでは知る由も当然ない。
だが本作を観て、彼女の圧倒的な存在感に目を奪われた。
設定で巧みにフォローはしているものの、彼女の辿々しい日本語に違和感を覚える人もいるかもしれない。
そのせいで内容がまったく入ってこないという批判もある。
日本の実力派俳優を起用すべきだったという声もある。
だが彼女の演技を一目みれば、それはとても些末なことのように思える。
あくまでもフィクションである本作に、まるでノンフィクションであるようなリアリティを持たせた一因に、彼女の圧倒的な演技力が一役買っていることは間違いない。
なお、一部では日本の俳優が出演を断り、彼女はその代理キャスティングだと噂されたが、プロデューサーの河村光庸氏は「まったくの嘘です」と否定している。
「報道の自由」のない日本の現実
報道の自由度ランキングとは、名前のとおり、各国の報道の自由度について評価した国際ランキング。
毎年、国境なき記者団(Reporters Without Borders、RSF)が発表を行っている。
報道機関が事実をそのとおりに伝えられなければ、国民は正しい情報を得ることができない。
そのため、報道機関の独立性や透明性についてスコアで評価し、順位をつけたものが、報道の自由度ランキングである。
その国において、報道や言論の自由がどのくらいあるのか判断することができる。
報道の自由度ランキングを出すうえで、RSFは以下の5つの項目について100点満点で評価している。
・政治的内容
・経済的内容
・法的枠組み
・社会文化
・安全性
ちなみに2024年のランキングでは、180ヶ国・地域のなかで日本は昨年より2ランク下落し70位。
G7のなかでは当然最下位だ。
実際、何らかの圧力がかかっているから報道されないのでは……と感じることが多々ある。
事実、ジャニーズ王国の創設者ジャニー喜多川(本名・喜多川擴=ひろむ、故人)の児童性的虐待について2023年3月、英BBC放送がTVドキュメンタリー「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」を放送するまで、週刊文春や告発本を除き日本の主要メディアはダンマリを決め込んだ。
ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)に睨まれると所属人気タレントに出演してもらえなくなる。
公然の秘密だった児童性的虐待は当人の死後もタブーとして封印された。
これは日本メディアの本質を如実にあらわしている事件だった。
その後も次々と発覚するメディアの隠蔽体質。
報道の不自由極まりない日本で、よく『新聞記者』のような映画をよく作れたな……と正直驚くばかりである。
「報道の自由」や「表現の自由」を示すことができる健全な社会へ
本作の最優秀作品賞発表の後、SNSで「まさかと思ったが、これで日本アカデミー賞を見直した」という書き込みが多く見受けられた。
日本アカデミー賞といえば、かつて「大手映画会社の持ち回りで賞を取らせているのでは?」「日本テレビが放映してるイベント」などという批判もあり、たしかに受賞結果を見ると、映画の質を基準に決められたとは思えない年もあったりして、映画ファンにはあまり信頼されていなかったのも事実である。
そんな日本アカデミー賞が、マスコミの視点から政権を批判する面もあり、公開前はTVでの宣伝も思うようにできず、しかも大手配給でもない『新聞記者』に栄誉を与えたのは、勇気ある決断だと受け止められ、公権力や映画会社への忖度に関係なく賞が決まる、と改めて認識されたようでもある。
事実本作には、明言こそされていないものの、ジャーナリスト・伊藤詩織さんの「性暴力被害」の訴え(本人も、公開後のトークイベントで「登場人物が自分だと思った」と語っている)や、森友学園の問題といった事件の数々が、メタファーとして(確実にそれとわかるように)盛り込まれており、フィクションの形をとりつつも、同時代性が非常に高い。
時の政権に不都合であろう作品に最優秀作品賞が贈られたことは、日本アカデミー賞の存在意義をおおいに示したいえる。
一方でこの結果に対して、「反日の捏造記者をモデルにした作品が受賞」「日本アカデミー賞なのに、なぜ韓国人女優が?」「これでは "赤" デミー賞」などなど、罵詈雑言のツイートも目立つ。
『新聞記者』の主人公は、東京新聞の望月衣塑子記者をモデルにしており、内閣調査室の闇を描いていることから、「反政権のプロパガンダ」などとの批判もあった。
だが、賛否両論の議論を起こしたことこそ本作の存在意義なのである。
本作は問題作だ。
問題作とは、取り上げるべき問題を含んだ作品、または注目や話題を集めた作品のことを指す。
受賞前、本作は前者であった。
有名俳優を起用したフィクションは、制約やしがらみが多い。
取り上げたテーマも、この国の深淵を覗き込むような非常にセンシティブなものである。
本作はそのような状況下で、「伝えたいこと」「描きたいこと」「今できること」の限界を見極めながら、娯楽作品としても崩壊することがないように、神経を張り詰めて制作されている。
その努力が日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞で結実する。
結果、さまざまな論議を呼び注目や話題を集めた問題作となった。
映画としての本作は、「めちゃくちゃ傑作」と絶賛するほど正直素晴らしいものではない。
ただこの映画を作った勇気と、さまざまな論議を呼んだ功績は、讃えるべきものがある。
本作で描かれることが事実か否か。
それは観た人が決めれば良い。
賛否両論おおいに結構。
多事争論があったほうが、無知でいるより断然良い。
いずれにしても『新聞記者』に注目が集まって、政府による情報操作・情報統制の可能性を世に知らしめ、多くの人に考えるキッカケを与えたことは非常に喜ばしいことである。
本作を初めて観る人が増えることでまた新たな論議が起これば、それこそ「報道の自由」や「表現の自由」を示すことができる健全な社会といえる。
この国を健全な社会へ。
それが、この作品に携わったすべての人間の願いのように思えてならない。
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