「子どもを増やすには商人を儲けさせよ」
泉元明石市長「9年連続人口増」実現した子育て民主主義を全国へ
泉 房穂(いずみ ふさほ)
日本の政治家・弁護士・社会福祉士。
元衆議院議員(1期)。
柔道3段。
手話検定2級。
9年連続で人口増加。
2020年の出生率は1.62と国の1.33を大きく上回る兵庫県明石市。
暴言問題で辞職に追い込まれた泉房穂元市長だが、独自の子ども施策で地域経済を盛り上げ、子育て層から辞職した今なお大きな支持を得ている。
社会の変え方 日本の政治をあきらめていたすべての人へ(明石市長・泉房穂)
今では「東の流山市、西の明石市」と呼ばれるほど子育て世代に人気の街になりましたーー
2011年に市長になった頃はかなりしんどかった。
明石市は人口減少が始まっていて、財政は赤字。
駅前も廃れ始めていた。
就任3年目の2013年から何とか人口が増え始めて、税収もV字回復させたが、それでもダメなんですわ。
いくら人口や税収が増えたって市民にリアリティーがない。
とくに子どもに対する施策に否定的だったのは商売人と高齢者。
「子ども福祉ではなくアーケードを造れ」とね。
やっぱり自分が助からないと、商店街が儲からないとダメ。
人は儲からないと優しくなれないーー
風向きが一気に変わったのは、2016年に駅前ビルの全面リニューアルをしてから。
人が集まって街がにぎわった。
2013年から段階的に、医療費、保育料、おむつ、給食費、遊び場の「5つの無料化」を始め、子育て世帯は明石に住めば金がかからない。
だから、「今日はちょっとええもん食べよう」と若い家族がみんな駅前で飯を食い始め、レストランの新店ラッシュですわ。
子育て層の負担を軽減したら、貯金に回るんじゃなく、地域で子どものために金を落として、経済が回り出す。
商売人も羽振りがよくなって、高齢者も「うちの孫が喜んでいる」となった。
人は儲からないと優しくなれない。
国やほかの市区町村も少子化対策をやっていますが、なかなか数字につながりませんーー
キーワードは「継続的な安心」。
一時的に札束でほっぺたをひっぱたく政策ではないということ。
ほかの自治体がやっている子育て支援や人口流入策でいちばん間違っているのは、一時の現金を給付することだ。
よく誤解されるが、明石は現金給付をほぼやっていない。
「5つの無料化」は医療費や保育料、給食費はいりません、おむつは届けるし、遊び場はタダという現物給付。
市民の皆さんから預かっている税金、保険料でやっている。
せこい所得制限もない。
「大家族としての明石市」ーー
もしものときには、子ども食堂や預かり保育の施設で市が子どもを預かって、おじさん、おばさん代わりをする。
「大家族としての明石市」という安心感があるから、子育て層が引っ越してきて2人目、3人目を産んで出生率が上がる。
継続的な施策には予算が必要です。
主に土木費を削減して財源を捻出しましたーー
市長になる前と比べて、3~4割土木費を減らし、子ども予算を倍増させた。
もちろん今も抵抗はある。
公共事業で生活されている業者や政治家もいる。
これもよく誤解されるが、日本社会もかつては人口増で道路や河川敷のインフラ整備が必要だった。
でも今は大部分が整備されて補修・改修の時代。
明石は時代の状況に合わせた予算を出している。
世界の主要国と比べて、日本はGDP(国内総生産)対比の子ども予算が半分なのに、公共事業には倍もかけている。
道路、橋に金を使って子どもが泣いている異常な状況だ。
ほかの自治体や国でも明石市と同じことはできますか?ーー
当然できる。
去年ぐらいから兵庫県内の周りの自治体が一気に明石のまねをしてくれるようになった。
一例を挙げれば18歳まで親の所得制限なしでの医療費無料化。
「こんな金のかかることはできるわけがない」と言われていたのに、加古川市や播磨町など10を超える自治体が一気に方針転換しはった。
ほんまは国だって「日本がやばい」と思えばできること。
首相が腹をくくったら簡単ですわ。
「防衛費を倍にする」と言うなら、子ども予算でもできるからね。
国と自治体の役割をどう切り分けて考えていますかーー
継続的なセーフティーネットは、本来お金を持っている国がやるべきこと。
今は逆転現象が起きている。
国が一時のばらまき施策をやって、市町村が医療費無料化のような継続施策をやっている状況。
ベーシックサービスとしての医療、保育、給食、教育の費用は国家が責任を持って財政支援すべきで、市町村は本来もっと身近な困っている子どもに対して手を差し伸べるとか、そういう寄り添い型の施策を行うのに向いている。
シルバー民主主義が替わった
国政に戻ろうという考えは?
私は市長だから持ちこたえている。
選挙で直接トップが選ばれるからだ。
3年前に例の「暴言問題」があって全国的にはびっくりされたと思うが、あの直後の選挙で7割の得票率で再選している。
子育て層の30代の得票率に至っては9割だ。
シルバー民主主義が子育て層の民主主義に替わったと思った。
日本が大統領制だったら目指したかもしれないが、議院内閣制の首相に、こんなキャラで派閥をつくって担がれるわけがない。
大統領的な市長であれば、選挙で通って街を大胆に変えられる。
明石でやったことは国の制度の参考にしていただきたい。
国が動けば、明石は浮いた予算でさらに支援策を打ち出せる。
そのために事例をしっかりと示して説明していくつもりだ。
綺麗事ばかりじゃ何も変えられない。
清濁併せ呑んでこそ、真の政治家。
こういう政治家がまだ日本に残っていたことは、わずかではあるが希望の光である。
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