先の記事でも触れた通り、歴史は勝者によって作られる。
だから勝者にとって都合の悪い真実は闇に葬られるのが常だ。
明治維新も例外ではない。
幕府がだらしないという大義名分の元に戦を仕掛け、御一新を果たした明治政府。
しかし実際はどうだったのか。
本当に幕府がダメだったのかというと、そうでもない。
むしろ開明的な人物を身分を問わず広く登用し、諸外国の進出激しい難局をなんとか乗り切ろうと悪戦苦闘していた。
それでもNOと言える日本人
条約の履行で開国するにあたり、諸外国から開港五港を指定された時の話。
横浜開港が当たり前のように感じるだろうが真実はちょっと違う。
実は諸外国から開港要求されていた港は横浜ではなく神奈川湊という場所だった。
幕府は頭を抱えた。
ここは江戸に通じる東海道の街道筋に位置する大宿場町で交通の要所であった。
そんなところに外国人がドッと押し寄せたらどうなるか。
トラブルの温床になるのは火を見るよりも明らかだし、諸外国につけ込まれる弱みになる。
何より、いざという時容易に江戸まで進軍されてしまう。
幕府としては何としても神奈川湊の開港を阻止したかった。
そこでどうしたか。
条約の文言を巧妙に解釈することで、指定された神奈川湊とは別のもうひとつの神奈川湊を作り出すことを思い立ったのだ。
まず立地だが神奈川じゃないけど神奈川という場所でなくてはいけない。
そこで目をつけたのが横浜だった。
当時の横浜は田舎の漁村に過ぎなかった。
東海道にも程よく遠いし交通の便も悪い。
開発しようと思えば土地はいくらでもあったし、神奈川湊ほど海が浅くないので桟橋などを作れば大型船も寄港できる。
よくよく調べてみると横浜は好立地だった。
そこで幕府は横浜を神奈川として開港地にしてしまう。
これで驚くのはまだ早い。
本当に凄いのはここからだった。
突貫工事で商売の街を作り上げ、優遇策を次々と打ち出しては商人を集め、税金免除などの方策で国内外の船を釣りまくる。
横浜の商行為は活性化して、貿易街で商売の街という既成事実を作り上げてしまった。
これにはイギリス大使・オールコックも驚愕した。
指定したはずの神奈川ではなく、横浜に一大貿易都市が出来上がっているのだから無理もない。
オールコックは条約の批准を求めて幕府に詰め寄った。
いつもなら弱腰外交の幕府もこの時ばかりは強気だった。
『開港を約束した神奈川というのは、神奈川湊や横浜村を含む湾岸である』
完全に屁理屈ではあるが、まさに条約の拡大解釈。
あくまでも神奈川横浜港で押し切ってしまった。
実に巧妙だったのが自分たちの都合を押し付けるばかりではなく、相手方のメリットも確保した上で既成事実化した幕府の主張へと誘導したことだ。
今の政治家に爪の垢でも煎じて飲ませたいほど見事な外交手腕だったといえる。
GDPでは欧米列強に遅れをとるがインフラ技術では世界一
幕末の日本のGDP(国内総生産)は産業革命による工業化社会の欧米列強にはさすがに敵わない。
しかしそんな欧米列強ですら驚愕した日本の技術があった。
それは江戸の街中に行き届いた上下水道だ。
同時代で大規模な水道網を備えていたのは江戸とロンドンだけ。
しかし両都市の上下水道網の実力は比べるべくもないほどかけ離れている。
19世紀のロンドンの上下水道は週3日でしかも1日7〜8時間ほどしか使えない代物だった。
対して江戸の上下水道はそれよりはるか以前から24時間給水可能だった。
さらには総給水量・給水人口・給水面積など、どんな数字で比べても規模や完成度ではるかにロンドンを上回っていた。
花の都・パリですら未だトイレ設備が整っていない時代に、江戸の街はこれほど進んでいたのだ。
劇中でも渋沢栄一が幾度となく新政府を非難しているが、現実でも新政府の人材不足は否めなかった。
その不足分を補って明治政府の屋台骨となったのが優秀な旧幕臣たちである。
本当に明治政府と比べて江戸幕府は遅れていたのかどうかの答えは、このエピソードの紹介だけで十分だろう。
江戸幕府が見直されるせっかくの機会だ。
是非「青天を衝け」で江戸幕府の偉業を学んで欲しい。
幕末〜明治維新期にはまだまだ興味深いエピソードがたくさんあるので、随時記事にしていきたいと思う。
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