最強失恋ソング決定戦
supercell『君の知らない物語』
『君の知らない物語』はsupercellの1枚目のシングル。
2009年8月12日にSony Recordsから発売された。
クリエイターチーム・supercellのメジャーデビューシングル。
supercellは、コンポーザーのryoを中心にイラストレーターやデザイナーが集ったクリエイター集団(同人音楽サークル)である。
メンバーにはボーカルはおらず、今作品のボーカルには、ニコニコ動画にて2008年3月まで「メルト」をはじめ多くの楽曲をカバーした動画をUPしてきたガゼルことnagi(やなぎなぎ)が参加している。
その他、ギター:西川進氏、ピアノ:渡辺シュンスケ氏、ベース:山口寛雄氏、ドラム:玉田豊夢氏、ミキシング:牧野英司氏が今回レコーディングに参加。
シングルのジャケットイラストは三輪士郎氏の手によるもの。
封入特典の『化物語』ステッカーイラストはredjuice(共にsupercellメンバー)。
初回限定版には『君の知らない物語』ビデオクリップ、『化物語』ワイドキャップステッカー同梱。
ミュージックビデオの主演は福永マリカさん。
『君の知らない物語』の歌詞は心情は『化物語』に登場する羽川翼、星座の件は戦場ヶ原ひたぎを連想させるが、作詞をしたryoは特定の誰かを想定して作詞したわけではないと語っている。
たとえ中二病と呼ばれたって構うもんか
今をときめくYOASOBIやAdoやyamaが流行るずっと前に、ヴォカロという言葉を世に知らしめた名曲である。
個人的にはあの超名曲『千本桜』と双璧をなす。
名作アニメ『化物語』のエンディング曲であったが、そもそも『化物語』を知らない人も意外と多いのではないだろうか。
何故なら、アニメ文化とヴォカロ文化が今ほどまだ花開いていなかった頃の曲だからだ。
なんなら生半可なアニメ好きなんかより、パチスロファンの方がこの曲を知っているかもしれない。
『物語』シリーズはパチスロの名機でもあったから。
それはいい。
『君の知らない物語』を知らなかった人はこれを機に是非覚えてほしい。
本当に超名曲だから。
大失恋の曲というわけではないし、バラードでもない。
なのに何故か泣けるんだなぁ…
コンポーザーのryoが繰り広げる1曲通しての歌詞のストーリー「青春群像」はsupercellの持ち味であり、本作品でもいかんなく発揮されている。
「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」
君は指さす夏の大三角
覚えて空を見る
やっと見つけた織姫様
だけどどこだろう彦星様
これじゃひとりぼっち
歌い出しのこのフレーズだけでも、本作品の持つポテンシャルがわかるというものだ。
そしてこのフレーズだけで、すでに青春時代の淡い恋心が孕む切なさを醸し出しているのも素晴らしい。
おまけにワードセンスが非常にオシャレだ。
アルタイルやベガというワードを違和感なく歌詞に入れられるアーティストは、あのドリカムの他に知らない。
その上ひとつ遣い方を間違うと、かなり浮いてしまう織姫と彦星というパワーワードも、自然な文脈の中の比喩として上手に使用している。
この時点で名曲確定だろう。
冒頭のフレーズと同様に、歌の中盤までは青春時代を感じさせる綺麗な言葉で進行していく。
爽やかなメロディと相まって、なんとも清々しい曲の印象を受ける。
だが突如現れたあまりに場違いで現実的なワードで、これまでの爽やかだった雰囲気は一変する。
どうしたい? 言ってごらん
心の声がする
君の隣がいい
真実は残酷だ
「真実は残酷だ」。
およそ青春群像劇には似つかわしくない、なんというパワーワードだろう。
なかなかこういう爽やかなメロディに、残酷という言葉は遣わない。
だがこのフレーズのおかげで、これまで朧げだったこの物語のすべてを悟る。
言わなかった 言えなかった
二度と戻れない
あの夏の日 きらめく星
今でも思い出せるよ
笑った顔も 怒った顔も
大好きでした
おかしいよね わかってたのに
君の知らない
私だけの秘密
そう。
本作品は片思いを描いた作品である。
しかも、なんと切ない片思いだろうか。
今まで幾度となく片思いをテーマにした曲を聴いてきたが、本作品ほど爽やかで切ない片思いを描いた曲を著者は他に知らない。
泣けるようなバラード調のメロディラインでもないのに、最後の盛り上がりで一気に泣ける曲になるから不思議だ。
論より証拠。
是非聴いてみてほしい。
最後に言葉を畳みかけて盛り上がる演出なんて最高だ。
実は本作品は、内容が中二病っぽいと揶揄されがちなのだが、そんなこと構うもんか。
本当に大好きな曲。
あなたにも気に入ってもらえたら嬉しい。
歌詞付き⤵︎