其の四
美しき日本語の世界。
漢字の持つ美しさ
漢字とは
漢字は、中国古代の黄河文明で発祥した表記文字であり、四大文明で使用された古代文字のうち、現用される唯一の文字体系である。
また最も文字数が多い文字体系であり、その数は約10万字に上る。
古代から周辺諸国家や地域に伝わり漢字文化圏を形成し、言語のみならず文化上に大きな影響を与えた。
現代では中国語、日本語、朝鮮語(韓国語)、広西の東興市にいるジン族が使用するベトナム語の記述に使われる。
現在、朝鮮語ではほとんど使用されなくなっている。
20世紀に入り、漢字文化圏内でも中国語と日本語以外は漢字表記をほとんど廃止したが、なお約15億人が使用し、約50億人が使うラテン文字についで、世界で2番目に使用者数が多い文字体系である。
単独でも熟語でも美しい漢字の世界
本稿を読んでくださる皆さんの日本語への興味を惹くために、次に考えた題材が漢字だ。
我々が日常的に使用する漢字からも、日本語の美しさと奥ゆかしさを存分に感じることができるのだ。
1970年代後半、漢字の成立ちを説教に取り入れることで、一躍人気になった中学教師がいる。
彼は言った。
「親」という字は、「木の上に立って見る」と書きます。
親だったら木の上に立って、子供の事ちゃんと見てなさい。
※正確な漢字の成り立ちとしては、この説明は間違いらしい。「親」という字は、木でできた位牌を見て拝む形。「辛」と「木」と「見」でできた字。
他にもある。
悲しみの「悲」という字は、「心が非(あらず)」と書きます。
心が真っ二つに裂けてしまったような気持ちを表しているんです。
親にとって「息子」とは、「自分の心の子」と書くんだよ。
「優」という字は、「人」の横に「憂い」という字があります。
人は悲しみが多いほど、人には優しくできるのです。
「朝」という字は、人間が生まれるのに「十月十日」かかることからきています。
その誕生の朝の素晴らしさから出来た字です。
件の中学教師のものではないが、こんな言葉もある。
「歩」という字は「少し止まる」と書きます。
少しずつ歩めばいいのです。
「躾」という字は「身が美しい」と書きます。
自分自身を美しくみせる躾(しつけ)は大切です。
正確な由来はどうあれ、どれも含蓄のある説明でただただ感心するばかりである。
また、漢字は熟語でも美しい。
なかでも特に好きなのが、「自分に惚れる」と書く「自惚」(うぬぼれ)。
この「自」という字は、本来なら「汝」や「己」と書くようで侮蔑の意味を持つ二人称にあたる。
「汝惚」、「己惚」が転じて「自惚」となったのだろう。
「自惚」なら自画自賛っぽいが、「汝惚」だと他者からの侮蔑のように感じるあたりも、漢字の妙といえる。
いずれにせよ「自分に惚れる」という、非常に表現しづらい感情を漢字で表現したセンスは素晴らしい。
これだけでも漢字の美しさは十分に伝わるだろう。
だが漢字の美しさを語る上で、どうしても外したくないエピソードが著者にはひとつある。
ここからは俗語、もしくは隠語の話になるが、「ロハ」という言葉がある。
この言葉の意味を皆さんはご存知だろうか?
「ロハ」とは大正時代から昭和初期にかけて流行った若者言葉で、「無料(タダ)」を意味する俗語・隠語である。
では、なぜ「無料(タダ)」を「ロハ」と言うようになったのか。
無料、すなわち「タダ」という言葉を漢字にすると「只」になる。
その「只」を分解すると「ロハ」。
無料→タダ→只→ロハ=無料、というわけだ。
これぞ言葉遊びの極みというべきエピソードではないだろうか。
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