庵野秀明監督作品
シン・仮面ライダー
『シン・仮面ライダー』とは
『シン・仮面ライダー』は、2023年3月18日に公開された映画。
シネバザール制作、庵野秀明脚本・監督による「仮面ライダーシリーズ」のリブート作品である。
仮面ライダー生誕50周年企画作品のひとつ。
庵野秀明氏が監督を務める実写作品としては、『シン・ゴジラ』(2016年公開、総監督)以来の作品でもある。
PG12指定。
現代を舞台に1971年に放送されたテレビシリーズ『仮面ライダー』、石ノ森章太郎先生の原作漫画『仮面ライダー』を参照しながら描かれる新たな物語となっている。
あらすじ
本郷猛は謎の組織に改造されるが、緑川ルリ子に促されオートバイで研究施設を脱出する。
その途中、ルリ子は追手のクモオーグと配下の戦闘員たちに捕獲される。
本郷はバッタオーグに変身、戦闘員らを瞬く間に惨殺し、ルリ子を救出してセーフハウスに身を隠す。
そこに現れたルリ子の父・緑川弘は、本郷を生体エネルギー・プラーナの力によって変身する昆虫合成型オーグメンテーションプロジェクトの最高傑作として強大な殺傷能力を持つ身体にアップグレードしたことを明かす。
弘はその力を個人のエゴではなく、人のために使い自分たちが抜けた組織と対抗してほしいと語るが、そこに出現したクモオーグによって殺されてしまう。
再びルリ子を連れ去ったクモオーグを追って、本郷はルリ子からヒーローの象徴として与えられた赤いマフラーを首に巻いて「仮面ライダー」と名乗り、クモオーグを倒す。
予備のセーフハウスに身を隠す本郷とルリ子の前に政府の男と情報機関の男が現れ、警護と情報提供をする代わりに、本郷同様にオーグメントとなった者たちとその所属組織SHOCKER(ショッカー)の排除に協力してほしいと持ちかけられ、アンチSHOCKER同盟を結ぶ。
元々はSHOCKERの一員であったルリ子はSHOCKERが人類を幸福へと導くのではなく、最も深く絶望を抱えた人間を救済するために設立した非合法組織であることを明かす。
ルリ子は自分の持つ力に恐怖し戦いを覚悟できない本郷を残して、SHOCKERの生化学主幹研究者コウモリオーグの元へ単身向かう。
本郷は覚悟を決めてルリ子の後を追い、コウモリオーグを倒す。
一方、ルリ子の兄でSHOCKERの一員・緑川イチローは彼女が本郷を伴って自らの元に現れることを想定し、本郷と同様に昆虫合成型オーグメントとなった男・一文字隼人を用意する。
政府の男と情報機関の男は、猛毒性化学兵器を使用するサソリオーグを本郷たちの力を借りずに排除した上で、ルリ子と親しかったハチオーグを倒すよう依頼する。
ハチオーグは本郷とルリ子に組織に戻るよう促すが、それを断られると街の人々を洗脳して操り、2人を襲う。
本郷はハチオーグの洗脳システムを破壊するため、ルリ子をアジトへと単身向かわせ、上空から降下してサーバーを破壊する。
本郷はハチオーグを倒すものの止めは刺さず、ルリ子とともに投降を勧めるが、サソリオーグのデータを応用した兵器を用いた情報機関の男によってハチオーグは殺されてしまう。
彼女の死を嘆くルリ子を本郷は慰める。
サナギから羽化しチョウオーグとなったイチローはアジトを強襲した政府の実働班を壊滅させる。損傷もなく笑みを浮かべたまま亡くなっていた彼らに政府の男は疑問を抱くが、ルリ子はイチローがプラーナを強奪しハビタット世界に魂を送り込んでいると明かす。
イチローの計画はすべての人間を同じようにハビタット世界に送り込むという人類滅亡計画であり、本郷とルリ子は阻止するべくイチローのアジトへと向かう。
ルリ子とイチローは双方とも互いのデータを読み込むことで目的を達成する予定であったが、ルリ子はイチローの圧倒的な力を受け彼を止められない。
イチローは、一文字こと第2バッタオーグと本郷を対決させる。
一文字は本郷を痛めつけるが、ルリ子によるパリハライズでその洗脳が解かれ、赤いマフラーを首に巻かれ本郷を助けるよう頼まれる。
だが、突然現れたカマキリ・カメレオン(K.K)オーグによって、ルリ子は本郷の目前で命を落とす。
一方、仮面ライダー第2号を名乗り味方に転じた一文字によってK.Kオーグは倒される。
本郷は自分のマスクに残されたルリ子の遺言を聞いて嗚咽したのち、政府の男と情報機関の男に過去の絶望を乗り越えての戦いへの思いを語り、彼女の遺志を継ぐ決意を表明する。
本郷はイチローの元へと向かうが、11体の大量発生型相変異バッタオーグの攻撃によってピンチに陥る。
だが、一文字によって窮地を救われ、ともにバッタオーグたちを倒し、イチローのアジトへとたどり着く。
イチローは完全体仮面ライダー第0号に変身、圧倒的なプラーナの絶対量による戦闘力で反撃する。
追い詰められた本郷と一文字は、イチローのプラーナの供給源である玉座に愛用のサイクロン号を特攻させて破壊する。
持久戦に入るとイチローは次第に弱り、一文字にマスクを破壊され、本郷にルリ子によるパリハライズシステムが入った仮面ライダーのマスクを被せられる。
マスクの中でイチローはルリ子の魂と和解し、計画を諦めたうえで、マスク内に3人が同時に存在できないことを察して、ルリ子を失いたくない思いからそこを離れ、死を受け入れる。
同時に本郷も死闘の影響でプラーナを使い切り、一文字の目前でイチローとともに消滅する。
後日、政府の男と情報機関の男は一文字に、本郷が彼に自分の遺志を継いで仮面ライダーとして戦い続けてほしいと願っていたことを伝える。
仮面ライダー第2+1号となった一文字はマスクにプラーナを固定した本郷と対話しながら、新たな敵・コブラオーグとの闘いに向かう。
登場人物
本郷猛 / 仮面ライダー・第1バッタオーグ
演 - 池松壮亮
主人公の青年。
バイクをこよなく愛していたが、SHOCKERの緑川弘によって身体にバッタとのオーグメンテーション手術を施されて桁外れの跳躍力と腕力を持つ昆虫合成型オーグメント・バッタオーグになるも、ルリ子に救出されて以降は「仮面ライダー」と自らの意思で名乗って彼女と行動を共にする。
感情を表に出すことが苦手な「コミュ障」という設定で、作中でしばしば「優しすぎる」と評され、勝手に改造を受けたことにも怒りをあらわにはせず、常に他人のために尽くそうとする気性の持ち主である。
緑川ルリ子
演 - 浜辺美波
弘の娘で、彼とともにSHOCKERに所属していた。
口癖は「私は常に用意周到なの」で、冷静沈着で頭脳明晰。
ハチオーグからは「ルリルリ」と呼ばれている。
組織の理念に疑問を抱き、組織を抜けて弘とともに本郷を助け出す。
その正体は、SHOCKERの人工子宮によって生体電算機として生み出された存在で、目から脳にデータを直接インストールすることが可能。
当初は特注で作った赤いエナメルのコートの予定であったが、クランクイン当日に現実世界によりあり得る既製品の茶色の皮のコートを着ることとなった。
また、ブーツも仮面ライダーが普段とアクションでの高さが違うことを踏襲して、ヒールの高さを場面によってアクション仕様とシルエット重視で変えている。
一文字隼人 / 仮面ライダー第2号・第2バッタオーグ
演 - 柄本佑
本郷と同様にオーグメンテーションを施された正義感に溢れるジャーナリストで、洗脳化を強い精神力で制御して、元来の性格を保持している。
仮面ライダーの前にSHOCKERの刺客として立ちはだかるが、ルリ子によって洗脳から解放されて「SHOCKERの敵、そして人類の味方」として覚醒し、「仮面ライダー第2号」と後に名乗るようになる。
行動基準を「好きかどうか」に置き、軽妙であるが群れることを嫌い、孤独を楽しむ性格のためバイクを愛好する。
一方で洗脳を解かれる際には過去の悲しみを思い出して涙を流し、本郷の死を受けて孤独であることに寂しさを抱く、アンビバレントな心理を抱える人物でもある。
緑川イチロー / 仮面ライダー第0号・チョウオーグ
演 - 森山未來
ルリ子の兄で、弘の息子。
通り魔に母親を殺されたことで世界に絶望し、自らの理想郷を求めている。
チョウオーグとしては圧倒的なプラーナの絶対量で、2人の仮面ライダーを変身せずに相手する高い戦闘力を持つ。
当初はルリ子の姉という設定で、初期プロットでは蝶女であった。
チョウオーグの一部デザインは森山未來氏の写真を基に作成された。
チョウオーグはオオゴマダラの白い部分を銀色に転換しており、「第0号」であることからシャドームーンや仮面ライダーXのようなライバル感を狙いつつ、ストロー状の口吻が開いた顎の部分から出ているようなギミックにしているが、実現しなかったという。
体とエンブレムはアサギマダラが基になっているが、同じ青いチョウの戦士であるイナズマンがモチーフではないという。
当初はチョウとトカゲの3種合成型オーグメントという設定も一時検討された。
庵野氏は森山氏が出演した舞台『髑髏城の七人』の天魔王をイメージしており、天魔王のように静かで淡々とした口調で演じている。
SHOCKER
世界征服を企む悪の組織で、組織名は「Sustainable Happiness Organization with Computational Knowledge Embedded Remodeling(計算機知識を組み込んだ再造形による持続可能な幸福組織)」の略称。
アイが演算した行動モデルを実行するために設立された非合法組織。
バッタやクモ、コウモリ、ハチなどを人間にオーグメンテーションを施して驚異的な能力を与える。
アイ
SHOCKERの創設者が立案した計画によって生み出された世界最高の人工知能。
誕生以来、常に自己改良を繰り返すことで進化とも言うべき成長を遂げ、人智を遥かに上回る高い知性を持つ。
セキュリティの為か、あらゆるネットワークから完全に遮断されたスタンドアローンであり、外の世界を観測する端末として人工知能ジェイ、1年後にはその発展型であるケイを作り出している。
ケイの誕生から間もなくして、創設者から「人類を幸福に導く」という命令を受け、創設者の自決を見届ける。
その後、ケイを通じて外世界や人類に関する情報を収集し、「人類の目指すべき幸福とは、"最大多数の最大幸福" ではなく、"最も深い絶望を抱えた少数の人間を救済する" ことである」という結論に到達。
こうして「深い絶望を抱えた人間を人外合成型オーグメントへと生まれ変わらせ、各々の幸福(という名の歪んだ欲望)の実現を支援する組織」という現在のSHOCKERの活動方針を定めたのだった。
第2世代外世界観測用自立型人工知能 ケイ
声 - 松坂桃李
アイが作り出した第1世代外世界観測用自立型人工知能 ジェイが1年後にバージョンアップした姿。
本郷とルリ子の動向を監視する。
当初は特殊造形によるマスクでの撮影が行われたが、後に新たなデザインによるCG合成に差し替えられた。
イチローが願う "暴力のない世界作り" を素晴らしいと称賛し、その理想を叶えるための手伝いをしたいと彼の教育係を買って出る。
どうした、庵野秀明!?
"どうした、庵野秀明!?"
そんな言葉が喉元まで出かかる。
庵野作品の魅力であり特徴のひとつに、最新デジタルの中に普遍的なアナログを取り入れることにあると著者は思う。
例えばエヴァで、最新鋭の陽電子砲を使用しながらも、わざわざあえて「撃鉄起こせ」なんて台詞を吐かせるところに庵野ワールドの魅力がある。
庵野作品を象徴する転車台や扇形車庫なんかも、現代社会の中から見出すノスタルジーの表れだ。
それを良い意味で裏切ってくれたのが『シン・ゴジラ』。
テーマの「ゴジラ」自体がノスタルジーの表れなのだから、今度はデジタルが取り入れられた格好だが、それがドンピシャでハマった。
あくまでも特撮というアナログを貫き通しながらも、ゴジラのデジタルど吐く光線の美しさに思わず見惚れてしまった。
しかし『シン・ウルトラマン』を境に様子が変わり、続く本作。
正直、あの『シン・ゴジラ』を初めて観た時のような感動と衝撃は微塵も感じられない。
もちろん、ところどころで庵野監督作品を感じられるシーン(例えば、転車台や扇形車庫)があることはある。
しかし信者としては物足りないと言わざるを得ない。
リアリティを追い求めた『シン・ゴジラ』とは違って、物語はあまりに非現実的でファンタジー。
暴力的な描写がいくつか点在するが、せっかくそこで得られたリアリティも、意味不明のファンタジーで完全に打ち消されてしまった気分だ。
冒頭の暴力的シーンがあまりに衝撃的で、それが故に庵野ワールド全開を期待してしまった。
しかし、中盤からのファンタジーな世界観はリアリティを信条とした『シン・ゴジラ』とは真逆の展開。
創作物が、創作物のまま映像化された。
そんな印象だ。
この展開なら思い切って、ダークヒーロー極振り「仮面ライダー」の方が良かったのではないのか?
そう思えてならない。
おそらく本作唯一の見所はバトルシーンなのだろうけど、それも何だか中途半端。
特撮とVFXが巧みに織り交ぜられてはいるが、最終的にはどっちつかずという印象。
せっかく迫力ある特撮の映像も、ちゃちなVFXが逆に台無しにしているように思う。
著者は「仮面ライダー」リアタイ世代ではないので、どこまでがオリジナルでどこまでが庵野ワールドなのかはわからない。
それでも仮面ライダー1号・2号の共闘には胸が躍った。
これはおそらくオリジナルの物語とは違う展開だっただろう。
それでもワクワクした。
ワクワクできた。
だから庵野監督が「仮面ライダー」に目をつけたこと自体は間違いではないように思う。
しかし、ファンが期待する庵野秀明監督作品とは、残念ながら掛け離れている。
単作としての本作はそんな感想だ。
しかしながら、もし続編ありきの本作というなら話は別である。
本作がもしイントロダクションだとしたなら、次作以降の期待値は累乗で跳ね上がる。
そういう作り方をしているように感じたのだが、真実は如何に。
大御所をいたずらに起用しなかったキャスティングは評価の価値あり
本作公開にあたり放送された、『ドキュメント「シン・仮面ライダー」』にて映し出された壮絶な撮影風景は大きな話題を呼んだ。
そこには主演の池松壮亮氏をはじめとしたキャストたちの苦労がハッキリと映し出され、SNSでは彼らへの労いの言葉も多く見られる。
最近、あらゆる作品を観て「演技とはなんぞや?」と考えるようになっている著者も、俳優陣の演技には非常に注目した。
率直な感想として、本作では皆淡々と演技しているという印象を受ける。
わりとこういう役どころが多い主演の池松壮亮氏は別としても、浜辺美波ちゃん(推しには "ちゃん" づけ)のこういうクールな役は珍しい。
また、特撮庵野作品ではすっかり常連の竹野内豊氏や斎藤工氏も、過去作以上にクールに演じていたように思う。
なかでも極めつけは森山未來氏の名演(快演?怪演?)。
本作のようなスピリチュアルな演技をさせたら彼はピカイチ。
このように本作は総じて、皆が徹底的に無表情(たまに笑顔)な演技を貫き通していたように見受けられたのだが、この点も評価に賛否が分かれた要因のひとつだろう。
ちなみに著者としてはおおいにアリ。
だからこそ、ダークヒーローに極振りしてほしかったのだから…。
皆が無表情を貫く中で異彩を放った演技を魅せてくれたのが長澤まさみさん、西野七瀬ちゃん、柄本佑氏だ。
特に長澤まさみさんの登場シーンは、非常に短いながらもそのインパクトは絶大。
無表情なディレクションの中で、ただひとり根明サディストの役柄を見事に演じきってみせている。。
これぞまさに長澤まさみの無駄遣い(良い意味)。
無駄遣い(もちろん良い意味)といえば、仲村トオル氏と安田顕氏の名も忘れてはならない。
恥ずかしながら、エンディングのクレジットをみるまではこの二人が出演していることすら気付かなかった。
安田顕氏の方はまだしも、仲村トオル氏に至っては観直してみても非常にわかりづらい形で出演されている…が、こういう無駄遣い(しつこいけど良い意味)は嫌いではない。
ここまで挙げたキャストの名前をみてもらえばわかる通り、本作には所謂 "大御所" と呼ばれる役者が出演していない。
最近、あらゆる作品を観て「演技とはなんぞや?」と考える著者にとっては、本作のキャスティングこそ特筆したい点と考える。
所謂 "大御所" と呼ばれる俳優の、押し付けがましい演技にはもうウンザリ。
何も読み取れない行間を、無理矢理作り出してドヤ顔する彼ら演技は本当に巧いのか?
正直、大御所俳優のそんな風潮に辟易していたところに中堅から若手ばかりを揃えた本作のキャスティング。
そして、あえて演技させすぎない演出。
これはおおいに評価すべき点だろうと著者は思う。
演技をさせすぎないことで、逆に記憶に強く残すという手法は一周まわって斬新だ。
庵野秀明監督作品も押井守監督作品同様、映像表現にばかり目が奪われがちになる。
せっかくの名作も、観る側の思考が固まってしまっていれば意味がない。
そういう意味では、もしかしたら本作で一番の庵野ワールドは、俳優陣の演技に投影されていたのかもしれない。
故に本作の総評は、単作としての物語はさほど面白くはないが、俳優陣の演技には観るべきところがあり、結果印象には残った作品。
続編があれば名作へ昇格かも?
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