木村拓哉主演映画
THE LEGEND & BUTTERFLY
『THE LEGEND & BUTTERFLY』とは
『THE LEGEND & BUTTERFLY』(レジェンド・アンド・バタフライ)は、2023年1月27日に公開された日本映画。
監督は大河ドラマ『龍馬伝』でNHK史上最年少でチーフ演出を務めた経験がある大友啓史氏。
脚本は『キサラギ』『コンフィデンスマンJP』などを手掛けた古沢良太氏。
PG12指定。
東映70周年記念作品として総製作費20億円を投じて製作されている。
タイトルの「レジェンド」は織田信長のことであり、「バタフライ」は「帰蝶」という呼び名があったといわれる信長の正室・濃姫を意味している。
織田信長と濃姫、政略結婚で出会った2人が対立しながらも、やがて強い絆で結ばれ、天下統一という夢に向かっていく姿を描く。
あらすじ
政略結婚によって結ばれたのは、格好ばかりの織田信長(木村拓哉)と信長暗殺を目論む濃姫(綾瀬はるか)。
全く気が合わない水と油の関係の二人は、新婚初夜からさっそく大騒動。
ある日、濃姫の祖国で内乱が起こり父・斎藤道三が亡くなってしまう。
帰る国が無くなったことで自身の存在意義を失い自害しようとする濃姫に、生きる意味と場所を与えたのは、他でもない信長だった。
そんな信長も大軍に攻められ窮地に立たされた時、濃姫にだけは弱音を吐く。
自暴自棄になる信長を濃姫は激励し奮い立たせ、二人は桶狭間の激戦を奇跡的に勝ち抜くことに。
これをきっかけに芽生えた絆はさらに強くなり、「どこまでも上へ」と天下統一が二人の夢となる。
しかし、戦さに次ぐ戦さの中で、信長は非情な "魔王" へと変貌してゆく。
本当の信長を知る濃姫は、引き止めようと心を砕くが、運命は容赦無く「本能寺」へと向かっていく。
"魔王" と恐れられた信長と、"蝶" のように自由を求めた濃姫。
激動の30年を共に駆け抜けた二人が見ていた、"本当の夢" とは……。
主要登場人物
織田信長
演 - 木村拓哉
天下から「魔王」と恐れられた武将。
濃姫に対して、最初は権威を振りかざして尊大な態度を取る。
濃姫 / 帰蝶
演 - 綾瀬はるか
信長の正室。
政略結婚で結ばれるが、男勝りの毅然とした物言いで信長に突っかかる。
福富平太郎貞家(ふくずみ へいたろう さだいえ)
演 - 伊藤英明
濃姫の侍従。
濃が信長に嫁いだ際、お供で織田家に来て信長に仕官をしている。
各務野(かがみの)
演 - 中谷美紀
濃姫の筆頭侍女。
濃が幼い頃より見守り支える。
斎藤道三
演 - 北大路欣也
濃姫の父親。
美濃の戦国大名。
下克上の体現者。
「美濃のマムシ」と呼ばれる。
明智光秀
演 - 宮沢氷魚
織田五大将の一人。
本能寺で謀反を起こす。
森蘭丸
演 - 市川染五郎
信長の側近。
信長の小姓。
その上品で堂々としたふるまいで、織田家の家臣団や敵にも認められる。
木下藤吉郎
演 - 音尾琢真
織田五大将の一人。
農民出身でありながら、信長の下で数々の功績をあげた。
徳川家康
演 - 斎藤工
信長から安土城に招かれ饗応を受ける。
後に江戸幕府を開く。
歴ヲタ織田尉のはしくれがガチ分析
本作が大コケと揶揄される3つの理由
理由①「上映時間の長さ」
本作の上映時間は2時間48分と、近年の映画事情では異例のかなりの長尺である。
織田信長の半生を描くのだから、本来ならばこれでもむしろ足りないくらいだが、最近の映画事情を鑑みるとやはり長い。
しかしながら、少しくらい長かろうが面白ければ何も文句はない。
だから長尺映画では見せ所とペース配分が重要になるのだが、本作は脚本と演出に物足りなさを感じてしまった。
これでは、長尺だったことが命取りになったとしても何ら不思議ではない。
理由②「何かと惜し過ぎる脚本」
織田信長の波瀾万丈の半生をたったの3時間弱で描くとしたら、どの出来事にフィーチャーするかが非常に重要になってくる。
その点では、本作が取り上げた出来事は概ね間違えがないと思われる。
しかしいかんせん、掘り下げ方が誤ってしまったように思えてならない。
例えば、織田信長を語る上で欠かすことが出来ない有名な桶狭間の戦い。
しかし桶狭間の戦いを描くにしても、どのエピソードを抽出するかで印象はガラリと変わる。
残念ながら本作では、その抽出点を間違えてしまったような気がしてならない。
要するに、同じ桶狭間でも観たいのはそこじゃない。
アツくなるのはそのシーンじゃないのだ。
そんな間違えが全エピソードで垣間見える。
ただ、間違えてはいるが非常に惜しいニアミスでしかないから余計に残念でならない。
抽出した出来事が間違えていないだけに、描かれる細かいエピソードがドンピシャでハマっていれば、本作は超名作にもなり得ただろうに…。
本作が大コケだと揶揄される理由は、本当に何かと惜し過ぎる脚本にも問題があったように思う。
理由③「メリハリが足りない演出」
本作の歴史の " if " の描写は、非常に上手かったように思う。
明智光秀の謀反の理由などは、わりと本気で感心したほどである。
しかしいかんせん、メリハリが足りなかった。
本能寺の変についての、光秀の動機付けには目を見張るものがある。
だが、それを活かす演出が圧倒的に足りない。
もっといえば、信長の冷酷さや発する恐怖がまったく足りていない。
だからこそ、意外性があったことは否めなくもないのだが…。
しかしそれを差し引いても、これではせっかくの宝も持ち腐れでしかない。
本作のシナリオは振り切った演出があってこそ生きる脚本だったと思うのだが、その振り切りがあまりに中途半端で全然足りない。
ちなみに振り切った演出が必要だと考える理由は、観る者すべてが歴史に明るいわけではないからだ。
歴史好き、もしくは歴史に興味があれば細かい描写にも気づける。
例えば家臣団にいつの間にか柴田勝家がいたら、尾張統一を完了した後なのだと歴史好きなら理解できる。
しかしそうでない人にとっては、細かい描写では気づけない。
意味が伝わらない。
だからこそ振り切った演出が必要だったわけだが、残念ながら著者にはそれが足りなかったように思えてならない。
歴史の空白部こそロマン
感心させられた歴史の " if "
実は不明の濃姫(帰蝶)の生死
濃姫(帰蝶)の史料は極めて乏しく、実証が難しいためその実像には謎が多く、実は確たることはほとんどわかっていない。
信長と濃姫(帰蝶)の間には子ができなかったというのが通説であるが、信長の子供、特に女児の生母は不明の場合が多く、本当に子がいなかったかすら確かではない。
史料価値があると考えられている『信長公記』には入輿について短い記述があるだけでその後は一切登場せず、その他の史書にも記載が少ないため、濃姫(帰蝶)のその後については様々な推測がなされている。
濃姫(帰蝶)の婚儀以後については諸説あるが、いずれも仮説や推論である。
本作の濃姫(帰蝶)は、本能寺の変まで信長と共にいた(一時は離れるが)ことになっているが、そもそも仮説や推論しかないのだからありえない話ではない。
これが歴史の空白部であり、" if " が入り込む唯一の余地である。
本作では、この歴史の " if " に説得力を持たせる描写に抜かりがない。
『勢州軍記』『総見記』には、信長の御台所である斎藤道三の娘が、若君(御子)に恵まれなかったので、側室(妾腹)が生んだ奇妙丸(信忠)を養子とし嫡男としたという記述がある。
この側室(妾腹)というのが生駒吉乃という女性なのだが、信長を取り扱う作品で彼女が登場するのは実は非常に稀なことである。
信長は三英傑の中でも、スキャンダルが非常に少ない人物だった。
特に女性関係についてはほぼ完璧なシークレット状態だったから、一般的には無名である生駒吉乃の存在を無視されても致し方ない。
しかし本作ではわずかではあるが、しっかり登場させている。
こういう細かい拘りには感心せざるを得ない。
明智光秀の謀反の理由
歴史ヲタクで織田尉の著者は、本能寺の変を光秀の単独野望説だと考えている。
現役の刑事は、実際に起こった事件の動機にドラマ性などないという。
我々は、本能寺の変があまりに劇的な事件だったが故に複雑に考えすぎているだけで、本当の動機なんて単純そのものではなかったのか。
信長を屠る時期到来と、光秀が取って代わる野心を抱いただけ…だと、著者は考えている。
また二人の理知的な思考形態から、織田信長と明智光秀は同類の人種だとも考えている。
故に光秀は信長に親近感を抱くとともに、近親憎悪も抱いていた。
その考えが本作のラストと見事に一致した。
そして光秀が謀反に至った理由については、著者の想像を超えてもはや感心すら覚える納得の内容だった。
本作で描かれた光秀謀反の経緯を簡単に要約するとこうだ。
- 光秀は信長の狂気じみたところに惹かれていた。例えば、信長が第六天魔王を自称した際には、ただひとり感銘を受けるほど。
- 従来、光秀謀反のキッカケとされている家康饗応の際の信長のDVは、信長への畏怖を広めるための光秀立案の演出、ヤラセ。
ぐぬぬぬぬぬ。
大変悔しいが、非常にあり得る理由だ。
歴ヲタ織田尉のはしくれである著者も、思わず舌を巻いた。
本作は歴史の " if " を描くことにかけては、非常に優れていた作品だと言わざるを得ない。
本作が描く歴史の " if " は新説というほどでもないが、既存の信長像をぶち壊そうとする気概は感じた。
アイデアの元ネタは…
木内鶴彦氏という方の体験にこんなものがある。
木内氏が難病のため一度は死亡宣告されたものの、再び息を吹き返す。
この時、驚くべき臨死体験をしたというのだ。
まず息を引き取った直後に、母親が病院の公衆電話から親戚に電話をしている所に意識が飛んだ。
次に姉のことを考えると、姉達が病院に向かう車中に意識が飛んだ。
木内氏はこの経験から、意識は時間と空間を超えられるのではと考え、歴史上の不可解な点を自分が目で見て見ようと考えた。
そして、本能寺の変の "その後" を見て来たというのだ。
木内氏の見たビジョンでは、港(おそらく福井港)で織田信長と明智光秀が話をしていたのだという。
信長は光秀に協力してくれたことを感謝している様子だった。
なぜか?
それは、本能寺の変とは、織田信長が望み明智光秀が仕組んだ壮大な策略だったから。
では、なぜ、そんなことをする必要があったのか?
木内氏は第三者として場面を見ることができるだけでなく、その登場人物の中にも入ることができたようである。
そのことから導き出された答えは、信長は日本統一に飽き足らず、世界征服までをも望んでいたということだった。
そのためには、バチカンに行ってローマ法王になる必要があり、織田信長はローマ法王になるために、自らの死を偽装してバチカンへと渡ったというのだ。
そして信長は、ローマ法王にはなれなかったものの、枢機卿にまで登りつめた…。
…本当に信長はバチカンへ向かったのか?
話の真偽は別として、本能寺の変が信長と光秀が仕組んだ壮大な策略だったという仮説は面白い。
そしてこれは、本作での家康饗応の際の信長と光秀のエピソードに酷似している。
もしかしたらこのアイデアは、木内鶴彦氏の体験にインスパイアされたものだったのかもしれない。
世間で囁かれるほどの駄作だったのか?
いきなり結果から入るが、正直、世間で囁かれるほどの駄作ではない。
たしかにラストシーンではやりすぎた場面がありはしたが、アプローチ自体は決して悪いものではなかった。
たしかに傑作とまでは言いがたいが、傑作まであともう少し。
非常に惜しい作品ではある。
木村拓哉氏が主演すると決まって話題に上る演技力についても、本作に限っていえば、新境地を切り開くようなチャレンジャー精神を感じてなかなかに好感触。
脇役も秀逸だが、なかでも圧倒的だったのは間違いなく徳川家康演じる斎藤工氏だろう。
恥ずかしながらクレジットを見るまで、誰が演じているのかわからなかったくらいの名演を魅せている。
本作について面白いか否かを問われたら、著者はおそらく興味深いとだけ答えるだろう。
歴史が好きなら一度くらい観てみても良いかと思う。
悪くはないよ。
興味を持たれた人がいるなら是非。
最後に少しひとり言…
時代劇には不向きであろう木村拓哉氏を、あえてキャスティングした理由を少し考えてみた。
話題性?
パワーバランス?
どちらも妥当な理由ではある。
しかし本作を観終わって思う。
もしかしたら、本作の信長像と彼の本質は被っている?
創り上げられた信長のイメージ。
歴史を学べば学ぶほど、本当の姿とは違うような気がする。
創り上げられたキムタクというブランド…。
歴史も芸能界も、ひょっとしたら似たような世界なのかもしれない。
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