ドラマ『不適切にもほどがある!』
全表現者を苦しめたコンプライアンス違反は「そういう時代だったんですよ」のテロップひとつで解決できる程度の問題だったことが人気脚本家・宮藤官九郎によって証明される
ドラマ『不適切にもほどがある!』とは
『不適切にもほどがある!』は、2024年1月26日よりTBS系「金曜ドラマ」枠で放送中のテレビドラマ。
意外にも、阿部氏と宮藤氏が主演と脚本でコンビを組む民放ドラマは今作が初となる。
2人と本作のプロデューサー・磯山晶さんが組んだTBSドラマは『池袋ウエストゲートパーク』(2000年)、『木更津キャッツアイ』(2002年)、『タイガー&ドラゴン』(2005年)と、今も愛される作品ばかり。
『タイガー&ドラゴン』から19年の時を経た令和の時代で3人が新たな作品を生み出していく。
令和にタイムスリップした昭和のダメおやじ役の阿部サダヲ氏の共演には、仲里依紗さん × 吉田羊さん × 磯村勇斗氏など最高のキャストでお送りする意識低い系タイムスリップコメディ。
昭和のダメおやじの「不適切」発言が、令和の停滞した空気をかき回す。
ちなみにふたつの時代を行き来する本作は、1986年の風景を30pプログレッシブカメラ、2024年の風景を60iインターレースカメラカメラでの撮影を分ける演出を取っている。
あらすじ
コンプライアンス意識の低い "昭和のおじさん" の市郎からは、令和ではギリギリ "不適切" 発言が飛び出す。
しかしそんな市郎の極論が、コンプラで縛られた令和の人々に考えるキッカケを与えていくことに。
昭和から令和へ、時代は変わっても、親が子を想う気持ち、子が親を疎ましく想う気持ち、誰かを愛する気持ちという変わらないものもある。
妻を亡くした市郎とその一人娘、そしてタイムスリップしたことで出会う人々との絆を描くヒューマンコメディ。
時代とともに変わっていいこと、変えずに守るべきことを見つめ直す…。
登場人物
小川市郎
演 - 阿部サダヲ
ひょんなことから1986年から2024年の現代へタイムスリップしてしまう "昭和のおじさん" 。
犬島渚
演 - 仲里依紗
市郎がタイムスリップした令和で出会うシングルマザー。
時空を超えて出会った市郎と渚がどのような関係性を築いていくのかも大きな見どころのひとつ。
秋津睦実
演 - 磯村勇斗
市郎と同じ1986年に生き、とあるアイドルに心酔するあまり、その身なり言動すべてを完コピする男。
通称 "ムッチ先輩" 。
向坂サカエ
演 - 吉田羊
市郎と逆で、2024年から1986年に息子と共にタイムスリップする社会学者。
小川純子
演 - 河合優実
市郎の一人娘。
向坂キヨシ
演 - 坂元愛登
令和の社会学者・向坂サカエの息子であり、サカエと共に2024年から1986年にタイムスリップする。
『今日から俺は‼︎』のヒットで80年代ブーム到来
緊急事態宣言のほとぼり冷めず、映画館ではまだ席数を制限していた2020年7月17日。
大作の延期も続いていた中で、思い切って公開に踏み切った『今日から俺は!!劇場版』が興行収入50億円を突破した。
『今日から俺は!!』のこの成功は、もはや化石化していた "ツッパリ" という文化と言葉に再びスポットを当てた。
実はこの成功には裏話がある。
『今日から俺は!!』は原作漫画の世界観を忠実に再現していると思われがちだが、ひとつだけ原作から設定を変えた点がある。
それは主に1980年代後半だった舞台を、ツッパリ全盛期の80年代前半にしたことだ。
この変更は18年に放送していたドラマ版からすでに変更されていた。
この変更にはファミリーで楽しめるようにする狙いがあったという。
ドラマ版と劇場版のプロデューサーを務めた、日本テレビの高明希氏は「子供が『お父さんも学ラン着てたの?』と聞いてアルバムを引っ張り出してきたり、『マブいってどういう意味?』と質問したりと、親子3世代で楽しめるようにした」とその意図を説明する。
また作品で描かれる "ツッパリ文化" を現代で描くにあたって、監督を務めた福田氏のこだわりは "世代間ギャップ" だったという。
福田監督の「今の時代に合わせて無理やり整合性を取ろうとするとファンタジー感がなくなってしまう。『なんだこれ!?』って思わせるのがこのドラマの面白さですよ」というコメントからは、コンプライアンス遵守が既定路線となった現代社会に一石を投じているようにも感じられるとともに、ともすればコンプライアンス違反になりかねない "ツッパリ文化" をファンタジーと捉えていたことが窺える。
こうして『今日から俺は!!』は、コンプライアンス違反への線引きという点で、重要な試金石ともいえる作品になったのではないだろうか。
全表現者を苦しめたコンプライアンス違反は「そういう時代だったんですよ」のテロップひとつで解決できる程度の問題だったことが人気脚本家・宮藤官九郎によって証明される
『今日から俺は!!』は80年代の世界観を忠実に再現していたとはいえ、 "ツッパリ文化" 自体は実はそれほど忠実ではなく、かなりソフトに描かれている。
その一番の理由は『今日から俺は!!』がコメディであったことだと思われるが、著者が聞いた80年代、特に "ツッパリ文化" はもっとメチャクチャでもっとぶっ飛んでいた。
それは街を歩くのが少し怖くなるくらい…。
その辺りをかなり抑えた結果が大成功に繋がったと考えられるが、何はともあれこの時一度80年代という非常におおらかな時代に注目が集まる。
しかしミーハーな国民性が故か時代の流れなのか、『今日から俺は!!』以後もコンプライアンス遵守の既定路線は変わらなかった。
しかし時は流れ2024年、いろいろぶっ飛びまくっていた80年代に再びスポットが当てられる。
2024年1月26日よりTBS系「金曜ドラマ」枠でテレビドラマ『不適切にもほどがある!』が放送されたのである。
ハッキリ言って、『不適切にもほどがある!』のぶっ飛び具合は『今日から俺は!!』の比ではない。
セクハラ・パワハラなんかは日常茶飯事。
いたるところでタバコを吸いまくる等『不適切にもほどがある!』主人公の姿は、コンプライアンスでひよりまくった現代では完全にアウト。
普通に考えればコンプライアンス違反も甚だしく、視聴者はもちろんBPO(放送倫理・番組向上機構)あたりからいつクレームが入ってもおかしくはない作品であるにもかかわらず、視聴者はもちろんメディア側からもかなり好意的に受け入れられている。
では "不適切にもほどがある "本作になぜクレームが入らないのだろう?
なぜ許されているのだろう?
それは予め注意喚起の「お断りテロップ」に依るところが大きい。
というか、これがすべてであろう。
クレーム回避に重要な役割を果たしている「お断りテロップ」の内容はこうだ。
この作品には、不適切な台詞や喫煙シーンが含まれていますが、時代による言語表現や文化・風俗の変遷を描く本ドラマの特性に鑑み、1986年当時の表現をあえて使用して放送します
たったこれだけ。
全表現者たちを散々苦しめてきたコンプライアンス問題が、たったこれだけのテロップで簡単に解決されてしまった。
あまりにも簡単でバカバカしいほど単純な方法ではあるが、コンプライアンスに縛られて自由な表現ができなかった表現者にとっては、しかし目から鱗の逆転の発想といえる。
これで宮藤官九郎氏がどんなに攻めた脚本を書こうとも、こういう注意喚起さえしておけばあらゆる表現(内容や加減にもよる)も許されるということが証明されたのである。
コンプライアンスに縛られた表現者たち
コンプライアンス(compliance)とは、「法令遵守」を意味している。
ただし、単に「法令を守れば良い」というわけではない。
現在、企業に求められているコンプライアンスとは、法令遵守だけでなく、倫理観、公序良俗などの社会的な規範に従い、公正・公平に業務をおこなうことを意味している。
ではコンプライアンス問題とは、いったいいつから囁かれるようになったのだろう。
コンプライアンスという言葉が浸透したのは最近でも、テレビ業界、特に問題作といわれたドラマが今でいうところのコンプライアンスに引っかかり、放送自粛に追いやられることは昔からたびたびあった。
その理由の大半が「子供に悪影響を与える」に代表されるような、酷く馬鹿馬鹿しいクレームによるものであった。
仮にテレビが放送しなかったとしても人はいくらでも悪くなれるし、この世から犯罪がなくなるわけでもないのに、つまらない言いがかりで表現者を萎縮させてしまった。
そうしてコンプライアンスという言葉が出来上がった。
本来、問題作というのは「法令遵守だけでなく、倫理観、公序良俗などの社会的な規範」から敢えて背くことで、反面教師の役割を果たすものだ。
そうしなければ問題作は問題作でなくなる。
テレビを観れば、臭いものから目を背け口当たりのいい表現ばかり。
少しでも攻めた表現をしようものなら、即不適切だ不謹慎だと馬鹿のひとつ覚えのクレームが入り、すぐに自粛規制を求められる。
そんなだから日本がつまらなくなった。
生きることがつまらなくなった。
少なくともドラマ『不適切にもほどがある!』で描かれている昭和の人は皆、笑顔で暮らしている。
"昭和のおじさん" こと主人公の小川はいろいろ滅茶苦茶でデリカシーの欠片もないけれど、令和の人間の顔よりは笑顔が多く幸せでいるように感じる。
それは単純にどちらの時代がいいということでなく、いつの世も、もっとはっちゃけて生きていた方が人は幸せなんじゃないの?
ドラマ『不適切にもほどがある!』の脚本を担当した宮藤官九郎氏は、そう問いかけているような気がする。
主題歌『二度寝 / Creepy Nuts』
Creepy Nutsがドラマのために書き下ろした新曲「二度寝」。
この楽曲は、コンプライアンスに縛られ、日々変わり続けていく "正しさ" に怯えながら生きる令和の人々へ2人が贈る1曲。
DJ松永によるエモーショナルで疾走感のあるトラックと、R-指定による昔話のモチーフが随所にちりばめられた遊び心あふれるリリックによって、時間と時空の変化がロマンチックに表現される。
楽曲について、2人は「今の時代だからこそ、より面白さと切実さが増すような作品だと思うので、そういう作品に我々も楽曲で力添えできるというのが光栄です。我々の曲もかなりこの世界観とマッチして、いい感じに仕上がっていますので、ぜひドラマ・楽曲合わせてお楽しみください!」とコメント。
阿部サダヲ氏は「俺よりこのドラマのことわかってるんじゃないかって思える程の『歌詞』いや、昭和のおじさん『リリック』って言っちゃう! 初めて言っちゃう! かっこいい! オトナほろ苦ラップ。最高です!」と楽曲を絶賛している。
なんてイカす選曲なんだ。
担当アーティストにCreepy Nutsをチョイスした時点でセンス良すぎ。
時代錯誤感丸出しのドラマにCreepy Nutsの音楽がこんなにも映えるのはなぜだろう?
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